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大陸開闢および二九九七年の情勢について

 今より二九九七年前――

 神々の大戦争によりすべての大地は失われた。これから生まれいずる人々が、営み、育み、死んでいく大地は大海に没してしまったのだ。

 天空に住まう大神は諦観の果て、太陽と月の運行さえ止めてしまい、永遠の夜が訪れようとしたという。

 それを嘆き悲しむ神がいた。

 日の光を愛し、神々から人々へ歴史が託されることを望んでいた大神の娘――後に言う大地母神であった。

 母神が左右の両翼を目一杯広げ大海へ仰向けに横たわると、それは土となり山となり大地となった。大海は四つに隔てられ、波を伝え、やがて天に昇り、雨を降らせた。雨降る大地には川が流れ、木々が芽生え、草花が開き、そして、人々が生まれた。

 これが大陸の開闢であり、人々の歴史の始まりである。

 現在では、大地母神の左翼は大陸東方、右翼は大陸西方、その身は大陸中央回廊と呼ばれている。


 十四年前――開闢暦二九八三年、大陸西方にて大きな宗教運動が勃興した。大神信仰を新たにし、大陸に平安と秩序をもたらそうというものである。

 彼らは三つの大主教座を連合させ、ひとつの強大な教会を作り上げる。そして、その盟主とされたのがヴァイゼーブルヌ総主教であり、教会と諸侯の同盟は「ヴァイゼーブルヌ神聖同盟」と名付けられた。他国ではこれを、単に「西方同盟」とも呼ぶ。

 この西方同盟には三つの大目的がある。

 ひとつは大陸万民の教化。

 世界には今なお、大神とも大地母神とも血の繋がりのない神々を信奉し、あまつさえその力を借りた魔法の横行する地域まである。彼らは大陸の隅々に魔法ならぬ理法を行き渡らせ、大神と母神の築いた秩序を取り戻そうとしているのだ。

 もうひとつは西方の統一。

 大陸東方には東方帝国こと多宗教多民族の巨大国家エフォンマリンド帝国がある一方で、西方同盟はまだまだ近傍の統一を果たしていない。いつの日か東方をも征するには、西方の統一が不可欠とされている。だが、十四年を経ても西方統一戦争は終結していない。

 三つ目は聖地巡礼である。

 開闢神話にあるように、大陸は大地母神そのもの。その中心たる大陸中央回廊――回廊地方の更なる中心には、母神の眠る墓所とされる聖地サントゥアンがある。

 およそ二百年前、回廊諸国は血で血を洗う死闘――紅回廊戦争を繰り広げ聖地を奪い合った。その結果、疲弊した各国は聖地の統治を第三国である東方帝国に移譲。以来、聖地サントゥアンは帝国領である。

 西方同盟はその奪還(とはいえ、西方同盟どころか加盟諸国が聖地を統治したことなど歴史上ない)を目指している。

 西方統一道半ばの開闢暦二九九七年、西方同盟は巡礼軍を健軍。一路、聖地サントゥアン目指して進発した。

 これが後の世に言う、二九九七年巡礼戦争である。


 巡礼戦争は圧倒的戦力を有する西方同盟巡礼軍が優勢であった。

 回廊地方西端にあり、真っ先に攻め込まれたエルヌコンス王国は伝統ある騎士の国とはいえ、そも小国である。年々大国化する西方同盟に対し、彼らは為すすべもなかった。

 確かに、局所的にはエルヌコンスも善戦している。

 巡礼戦争初戦となったヴァンサン平野の会戦。王国の全軍で立ち向かい、敗走するも壊滅を免れている。

 それに続くと思われた王都攻防戦を若き国王セルイス五世は王都放棄という奇策で回避し、戦力を温存させた。

 都から逃げる王の本隊を追撃する巡礼軍精鋭――オージュサブリス聖騎士団と、足止めを図る王国の小勢によるルヴィシー丘陵攻防戦。

 これは丘の上という地の利、小勢を率いたクロンヌヴィル侯女の指揮、王国に雇われた空飛ぶ私掠船の参陣により、エルヌコンス側が撃退に成功。王直率の本隊はマッサブレユ城塞へ逃げ延びることができた。

 しかしながら、いくら軍を温存させようと、国内で最も堅牢な城塞に立て籠もろうと、エルヌコンスは王都コンセーヴを含む所領の半分を失っている。

 他の回廊諸国ないし東方帝国からの支援なくして、エルヌコンスに勝ち目はない。逆に言えば、西方同盟は他国の介入前にエルヌコンスを平定し、回廊地方に橋頭堡を確保せねばならなかった。

 ルヴィシー丘陵攻防戦からおよそひと月。エルヌコンス中央マッサブレユ城塞にて、両軍の睨み合いが続いている。


 時に開闢暦二九九七年衛蟹節、夏も盛りのことである。

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