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派閥抗争

挿絵(By みてみん)


 目的を同じくする勢力であっても、その内部には様々な派閥が生まれる。

 何に価値を見いだすか、どのような手段を用いるか、目的そのものに対する意欲などなど。派閥が別れる理由は様々である。

 たとえば、宗教的情熱の溢れる西方同盟も例外ではない。

 ヴァイゼーブルヌ総主教を筆頭に、ヴェーゲ、カーネ・アハインの三大大主教が同盟教会および同盟軍本営を統率。加盟各国は同盟教会の下、互いに同輩だとされている。

 しかしながら、西方最大の軍事大国オージュサブリスが同盟を主導しているのは周知の事実であり、このオージュサブリスを中心とした派閥を俗に「主流派」と呼ぶ。

 それに対し、非主流派もいくつかの派閥に分かれる。

 加盟国がオージュサブリスの属国化することを懸念する経済大国フレンドルツ。王による中央集権化の進むフレンドルツは税制や経済政策により同盟内でも大きな力を持っているため、主流派に次ぐ派閥である。

 また、同盟海軍をほぼ一国で賄う海洋国家クレンヘルゲルはそもそも信仰を異にしている。彼らが元来信仰する海の神や空の神は大神の眷属ではないからだ。彼らが同盟に与するのは、船乗り特有の聡さによるものと言われている。

 周辺各国を事実上併呑し続ける西方同盟にあって、東のドケルサントやアンプロモージ、西のコルグラールやエカチェクといった外縁は謂わば「外様」である。これらは言うなれば「無派閥」または「その他」という派閥であり、数だけならば最大であろう。

 このように、東方帝国に匹敵するほどの一大勢力となった西方同盟にも派閥が存在し、これらは互いに牽制し合い、抗争に発展することもある。

 もちろん、これは西方同盟に限らない。

 東方帝国然り、南方組合然り、回廊諸国然り、である。

 空飛ぶ私掠船「三月のウサギ号」にもまた、いくつかの派閥が存在し、ときとして抗争が勃発するという。


「だぁかぁらぁよぉ! わっかんねぇ野郎だなぁ!」

 帆桁ヤードのフリーゴルが突然立ち上がった。怒りと苛立ちのせいか、彼の小さな背丈からも一同は迫力を覚えた。

 上層甲板メン・デッキの片隅で幾人かの海賊たちが車座になっている。

 霊柩山脈の頂を越えた早朝のことである。

 困難な山登りを終えた彼らだったが、経験豊かな一部は気力も体力も有り余っているらしい。ベリスカージは掌帆長として彼らを見咎めるも、ひと仕事終えた連中であり、とりあえずはそっとしておくことにしていた。

 だが、その一座が急に声を荒げたのだ。

「お前こそなに言ってやがんだッ!」

 フリーゴルに対抗するように、甲板デッキのマルブも立ち上がった。

 血の気の多い海賊たちのこと。

 またいつもの喧嘩だろうかと、ベリスカージは耳を澄ませた。殴り合いが始まったらブン殴って止めればいいと彼は思っている。

「フリーゴルよぉ、お前だって見たろ?」

 両手をわななかせたマルブが続ける。

「あの幼顔! あの黒髪! 赤い瞳! あんなエキゾチックな美しさは東方にだってなかなかねぇよ! 俺は断然、王女エウラちゃん押しだぜ!」

「この裏切り幼女趣味ロリコン野郎がぁ! 俺たちゃプラニエちゃんに命賭けるって誓ったじゃねぇか! ホントは弱虫なのに小さな胸張って戦う姿! どう考えてもプラニエちゃんイチオシだろぉが!」

「マッテヨ! ワタシ、ララチャンガイイヨ! ミタカ、アノコシツキ! アノコハ、ゼッタイニ、ケンコーナアカチャン、イッパイウムヨ!」

 エウロデューデル派のマルブ、プラニエ派のフリーゴルに続き、ララ派の掌砲長ガルダーンまでもが立ち上がった。

「まぁまぁ! 皆さん皆さん! 落ち着くッスよ! エウラちゃんもプラニエちゃんもララちゃんも美少女! みんな違ってみんな可愛い! これでいいじゃないッスか!」

 自称、中立または超党派の司厨長ラッキが割って入った。

「ラッキさん、アンタは見境ねぇだけっしょ!」

「そうだそうだ! アンタ、船長だって口説くくれぇだしよ!」

「スッコンデロ! コノスケコマシ!」

 調停は逆効果だった。

「お前らこそナンだよ! 誰が好き好んで男なんかのメシ作ってっと思ってんだァ! ちったぁ胃袋の心配した方がいいんじゃねぇか? あァん?」

 ラッキの化けの皮が剥がれた。

「なんだとぉ? 俺のエウラちゃんの神秘的で幼い可愛さがわかんねぇってかぁ?」

「お前らどこに目ぇつけて航海してきたんだ、おい? プラニエちゃんの凛々しさと可愛さの同居っぷりがわっかんねぇってかぁ?」

「ダカラー! ララチャンノケンコーテキナカワイサヲワカレッツッテンダ! コノフシアナドモメガー!」

「美幼女美少女美女美熟女美老女に順番つけよぉっててめぇらの姿勢が気にくわねぇ! 堅パンで歯ァ折らせっぞ! こらぁ!」

 これが三月のウサギ号の派閥抗争である。

 海賊船には珍しく、今や四人の女性が乗っているのだ。

 王女――エウロデューデル・クセン・キペットリア・グリシエヴ、西方人女性十歳。

 鷹匠――祝祭村のララ、西方人女性十六歳。

 騎士――プラニエ・ファヌー・ランサミュラン=ブリュシモール、回廊人女性十七歳。

 船長――リツカ・ヒューゲリェン、北方人女性二十三歳。

 若年層が多いものの、とにもかくにも男所帯の海賊たちを夢中にさせるには充分な品揃えであった。

 それがために勃発した抗争だ。

 そろそろ取っ組み合いを始めそうな気配を察知して、そんな抗争に掌帆長ベリスカージが割って入った。

「オイコラ、てめぇら! ひと仕事終わったあとだろ! とっととラム飲んで眠っちまえ! 明日にゃ着水だからな!」

 霊柩山脈を越えて帝国領入りを果たした。あとは、サントゥアン市街に近い、聖水湖へ向かうのみである。

「いつまでも女の話で揉めてんじゃねぇぞッ!」

 おなじみの怒号でビシッとどやしつけたのだが、そもそも軟派なラッキ・ミュー・ロッキペッタが切り返した。

「じゃあ、掌帆長は誰押しなんスか?」

 各派の代表三名もじーっという視線で訊いてきた。

「うっ……お、俺はそりゃあ――」

 ここで下手な回答をしてはならない。掌帆長が誰かに肩入れしてしまっては、船員同士の派閥抗争が激化してしまうからだ。

 そうは言っても、お茶を濁すような回答で彼らを満足させることはできないだろう。

 掌帆長として難しい舵取りを迫られている。

 果たして、なんと答えるべきか。

 悩んだ末に、嘘でも本心でもない答えを導き出した。

「……お、お嬢――船長に決まってんだろォが」

 いつも不機嫌で、彼らを馬鹿にし、無理難題を要求し、できなければ蹴り飛ばし、できても褒めず、常に高いところばかりを見ている先代船長の忘れ形見――リツカ・ヒューゲリェン。

「えー」

「嘘だー」

「ナイワー」

 嵐よりも船長を恐れる船乗りたちに、そんな派閥はないのだった。

「俺はイケるッス!」

 ただし、超党派は除く模様。

※誤字を修正しました。

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