3.怪しい雲行き
「ごめん・・・嫌だった??」
「あの・・、すみません、びっくりしちゃって。」
なんとなく、気まずくて、私は下を向いてしまった。
「でも、俺、美来ちゃんのこと、好きだから。それで、つい・・。驚かせちゃって、ごめんね。」
気遣うように、高瀬さんが、私を覗き込んできた。
上目使いのその目がいたずらっこみたいで、私の胸は、きゅん、となってしまった。これから、私は、高瀬さんの、様々な表情を間近で見ることが出来る、いや〜ん、キュンキュンね。
「もう、いいですよ。それより、本を貸してくれるんですよね。」
「そうだった、こっちの部屋に来て。」
すごい、高瀬さん、いろいろ持ってるんだな。通された部屋には、本棚が置いてあって、(私からすると)こ難しそうな本が、ずらっと並んでいた。
「どんなのがいい??」
はああ、これ、読まなきゃなんないよね、ツラッ。出来るだけ薄っぺらいのにしよ。
まだ、あの例の『蒼天の・・・』も、3分の1しか読んでないもの。
「それじゃ、これ、貸して下さい。」
私は、ぺらいのを手に取った。
「どうぞ。他のも貸そうか??」
「また、次の時に貸して下さい・・はは。」
私は、心で冷や汗をかきながら、愛想笑いをするしかない。
それにしても、はああ、緊張で疲れてきた。今日は、ペースが崩れまくりだ。
「美来ちゃん、体調悪い??」
心配そうに、高瀬さんが私に問い掛けた。
「そんなこと、ないですよ。」
高瀬さんは、それから、再び私を見つめて来た。
なななな、なにかしら???
「それにしても、美来ちゃん、さっき抱きしめた時に思ったんだけど、腰がぎゅっと絞ったみたいに、ほっそりしてるんだね・・。」
高瀬さんが、段々妖しげな顔付きになってきたのは、気のせいではないよね、これはもう。
ひええええ。
「・・・すみません。やっぱり、ちょっと調子が悪いみたいで・・。おほほほほ・・。
今日は、帰りますね。」
「そっか、また、ゆっくりおいで。」
「ありがとうございます。おじゃましました!!」
私は、すたこら退出した。
はああああ、どっと疲れた・・・。
でも、でも、やったあ!!憧れの高瀬さんと、付き合えるんだ。大前進。大躍進。大スペクタクル!!!
本当に嬉しい。私は、浮き浮き気分で、家路に着いた。
そして、次の週の木曜日。
学校の廊下を歩いていたら、
「おい。」
と、後ろから、呼び止められた。見なくても、この声で分かる。
「た〜、に〜、が〜、わ〜。」
低い声で言いながら、私は振り返った。
「なな、なんだよ、気持ち悪いな。」
「そっちこそ、なんか、用?」
「なんか、用?じゃねえよ、2週間過ぎたぞ、早く、俺に貸せよ。」
やっぱ、そのことか。せっかちな男。いいじゃん、少しくらい待ってくれたってさ。
「あと、もうちょっと、待ってよ。もう少しで読み終わりそうだから。」
3分の1から、ちっとも進んでないけど、読んでる内に、段々面白くなってきたんだよね。がんばって最後まで読みたいと思ってね。
「あ〜あ、先に貸すんじゃなかった。これじゃ、あと、2年は読めないかな。」
「そんなにかかんないよ、ええっと、週末がんばったら、月曜日には持って来れると思うから。」
「それじゃ、いいよ。俺は、今週読みたかったんだよ。」
「何それ、わがまま言うな。1週間遅くなる位、がまんできないの?」
「出来ねえよ。」
谷川ったら、本っ当〜に、いちいち私につっかかってくる。
なんで、こんなみみっちい奴、他の女子から人気があるんだろう。
見た目に騙されてる。この、歪んだ性格を、みんなわかっちゃいないんだよね、きっと。背がすらっと高い所がいいのかしら??それとも、ぼーっとしてて、何を考えてるのか不明な所がいいのかしら??
「あ、そうだ。」
谷川は、思い出したように、話し始めた。
「篠田のバイト先の、チャラい男、おととい、女と腕を組んで歩いてたぞ。」
「は?」
「うちの近くの駅で、楽しそうに笑いながら、べたべたいちゃいちゃしてたぞ。」
私は、日曜日に、高瀬さんから、好きだって言われたばっかだもん。その2日後に女と歩いている訳ないじゃ〜ん。
「見間違いじゃない??それに、『チャラい』とは、何よ。」
ふっふ〜ん、私は余裕たっぷりに答えた。私の態度から、さすがの谷川も何かを察したのか、
「篠田、もしかして・・。」
と、探るような目を向けて来た。
ぷいっ。谷川にしゃべったら、また因縁をつけられるから、言わないもんね〜だ。私は、廊下から、窓の外に目を向けた。
谷川は、それ以上何にも言わず、立ち去った。
あの、本。貸し出し期限は昨日までだった。なんとかがんばって、今週中に読まなきゃ。
ルールだもんね。待ってる谷川にも悪いし(本人には、バカにされそうだから言わないけどさ。)
読んで下さりありがとうございました!!!
半分まで、来ました。あと、3話、プラス、谷川視点での1話です。
また、来て頂けたら幸いです。