2.接近中!!!
「篠田さん、バックに、ドリンク類の在庫の確認に、行ってくるね。混んで来たら呼んでね。」
「はい、お願いします。」
うちの店、遅い時間は忙しいんだけど、夕方頃は、あまりお客さんも来ない。私は、はたきを持って、陳列されている商品を直すことにした。
まず、一番初めに向かったのが、雑誌コーナー。そう、谷川は、まだ、立ち読みを続けている。
私は、谷川の目の前をぱたぱたと、はたきではたいた。もう1時間以上経ってる。早く帰れっつーの。でも、谷川は、私が右側に行っても、左側に移っても、絶対に私に背中を向けてきて、図太く雑誌を読み続けていた。
フェイントにも引っかからない。
ある意味、すごい反射神経だ。まだ、バスケ出来るんじゃないの?やれやれ。私は、谷川との攻防がバカらしくなり、お菓子売り場に移動して、商品をきれいに並べた。
この新商品のチョコおいしそう。今日の帰りに買って帰ろう。あ、谷川にたかろうかな。
それにしても、高瀬さん、在庫の確認に時間がかかってるけど、大丈夫かしら。
「すみませ〜ん。」
「は〜い。」
お客さんに呼ばれた、と思って、レジに行くと、いつものごとく冷えた無糖コーヒーを1本持って、谷川が立っていた。
「なあんだ、谷川か。半音高い声出して、損した。105円になりまっせー。」
谷川は、なぜか、むすっとしていた。
「・・おまえ、あいつのこと、好きなんだろう。」
「え??」
「あいつと、『蒼天のドラゴンと孤高の魔法剣士』の話を、してただろ。
あいつに話を合わせる為に、俺から、奪い取ったんだな。」
「奪う、なんて、人聞きの悪い事、言わないでよ。
私は、純粋に『蒼天のドラゴンと孤高の魔法剣士』が読みたくて借りたんだから。
ほら、早く、105円払ってよ。」
谷川に対しては、いつもついつい減らず口をたたいてしまう。本当はシタゴコロから借りたのだけど・・・。
谷川は、財布からお金を出しながら言った。
「俺も、早く『蒼天のドラゴンと孤高の魔法剣士』読みたいんだから。」
谷川は、ばしっと105円をカウンターに置いた。」
「うっさいな、『蒼天のドラゴンと孤高の魔法剣士』『蒼天のドラゴンと孤高の魔りゅ』ッイチ!舌噛んじゃったじゃない。
返却期限に間に合うようにがんばるから、もうちょっと待ってよ。
はい、105円丁度、お預かりしましたあ。ばいばいキーン!」
私がそう言って、左右にひらひらと手を振ると、谷川は、ばっと右手を私の目の前に差し出して来た。
「・・何?」
「レシート、くれ。」
「・・・。」
私は、レシートをぱしっ、と谷川の手の平に乗せた。
「篠田、貸し出し期間守れよな。」
「しつっこ〜い、なんか今日、機嫌悪いんじゃない?早く帰れえ、しっ、しっ!」
私は、追っ払う仕種をした。幸い、お客さんが誰もいなかったので、言いたい放題言えた。でも、あんまり大きな声を出すと、バックの高瀬さんに、聞こえちゃう。お下品にならないように、大人しくしてなきゃね。
そして、谷川は、
「ば〜か。」
と、捨て台詞を吐いて、店を出て行った。
なんだ、あいつの、今日の態度は。顔はいい方だかなんだか知らないけど、あの性格!!何でもてるのか、全っ然、さああっぱり、まっっったく、わかんない。
今日は、高瀬さんの家に、本を借りに行く日!大前進。大躍進。
昨日から、どきどきして、全然寝らんなかった。
あれから、メールのやり取りをし合って、なんだか、高瀬さんと急接近。次の週のバイトの時に、
「明日、俺、夜勤明けで、夕方くらいからなら大丈夫だから、本を取りにおいでよ。」
と、にっこりとやさしい笑顔で言われた。わーい、わーい、おうちに行ける。やったね。チャンス、到来!!
ふぁんたずいは、がんばろうって気はあるけど、ほっとんど読み進められていないので、(やっと3分の1まできた)出来るだけ、その話題には触れないようにしながらも、『篠田さん』が、今では、『美来』ちゃん、に変わってきているのです。
大前進、大躍進、大出世街道驀進中!!(?)
「ありがとうございます、それじゃ、明日の夕方、うかがいますね。」
高瀬さんは、バイト先のコンビニの近くで、1人暮らしをしている。大学2年生。
きっと、かっこいいから、大学でももてるだろうにゃあ。でも、私にすっごいたくさんメールを送ってくれてるもんね。
店の近くでメールをしたら、住んでるマンションから降りて来てくれた。
「お疲れ〜。うち、ここだよ。」
優しい瞳。やっぱり、見とれてしまうほど、かっこいい。鼓動が早鐘を打つ。
「お疲れ様です。わあ、本当にすぐ近くなんですね。」
マンションは、なんだかとっても素敵だった。外は大通りに面しているから、車の音で、うるさかったけど、マンションの内側は、ぐるっと廻廊式になっていて、芝生の植えられた中庭があり、静かだった。
「高瀬さん、もしかして、お金持ちですか?ここ、結構高そう・・。」
「はは、まさかあ。お金があったら、コンビニで夜勤なんかやってないよ。」
「それもそうですね。」
高瀬さんのお部屋は、3階にあった。
「どうぞ。」
私は、もう、どっきどき。静まれ、心臓。
「お邪魔します。・・・わあ、広い。」
私は、靴を脱ぎ、部屋に上がらせてもらった。高瀬さんの部屋は、きれいに整理整頓されていた。すごくシンプルなインテリアだった。
あまりにも静か過ぎて、心臓のバクバク言っている音が、高瀬さんに聞こえそう。
あちこちキョロキョロしていた私に、
「美来ちゃん、実は・・。」
突然、高瀬さんは、真剣な眼差しで私を見つめてきた。
これは、キター!!かも!!
「一緒の勤務になる前から、かわいい子がいるなって、ずっと気になってたんだ。」
「高瀬さん・・。」
私は、高瀬さんの瞳を見つめた。やさしく私を見つめ返し、揺らめいているようだった。
「好きだ。」
「高瀬さん!!」
夢のようで、信じらんない。
嘘でしょ〜、展開、早っ。信じられませぬ。
でも、私は、本当にうれしくて、うれしくて、たまらなかった。人生で最高に幸せな瞬間を、17歳にして迎えてしまったかも!!
高瀬さんは、それから黙って私を抱きしめ、キスをした。
「・・・!!」
私は、あっという間の事で、まさかそう来るとは思ってなくて、びっくり。眼が点に。まだ、返事もしてないのに。
緊張で、抵抗するのも忘れて、されるがまま、キスされた。
それから、高瀬さんは、私を抱きしめ、更に服の間から、するっと手を入れ、直接背中に触ってきた。
「ちょっ、と、待ってください!!」
私は、高瀬さんを、両腕で押し戻し、離れた。
ここまで読んで下さって、本当にありがとうございます!嬉しいです。感謝!!
谷川とのやり取りを、とても楽しみながら考えています。




