1.始まりはいつもベタ
「あった!!あれだ!!」
『蒼天のドラゴンと孤高の魔法剣士』ぬおおお!!やっとゲットだ〜!!
こんなの、おもしろいのかしら、私には超疑問。
でも、高瀬さんが、この前バイトの休憩中に読んでるのを、発見しちゃったんだよねえ!!
話をするのに、何か共通の話題がないかなって考えてた所だったから、この本を読んで、読書好きアピールをしようと思い立ったってワケ。
でも、なんか、人気あるらしい。やっと学校の図書室に返ってきたみたい。
本棚の1番上だよ、ちびっこの私には、届かないっつーの。
「どらしょっと!!」
私は、思いっきり掛け声とともにジャンぴ〜んぐ!!
掴んだ!
と、思ったら、横から腕がにゅっと伸びて来て、『蒼天のドラゴンと孤高の魔法剣士』は、そいつにひょいっと奪われてしまった。
「ちょっと、私が先なんだけど!!」
むっと、しながら相手を見ると、同級生の谷川聖司だった。谷川とは、1年の時、同じクラスだった。私がバイトするコンビニの、常連客でもある。
「谷川か。」
「おまえ、谷川かって、つばを吐き捨てるみたいに言うことは、ねえだろ。
それに、『どらしょっ』って、その掛け声、高校2年が言う言葉かっての、おっさん。」
「うざっ!!とにかく、私が借りるんだから、返してよ。」
私は、谷川から本を奪い取ってやろうとしたけど、かわされてしまった。
「篠田が、この本をねええ。ふうううううん。」
ぴょんぴょん跳ねて取り返そうとする私に、谷川は、本を高々と上げて、渡さないようにしやがった。
さすが、元、バスケ部。こいつは、去年の秋に故障するまで、1年生エースで、他校生からも、黄色い声が上がる男だった。
「ふううううん!!」
「何よ、何が言いたいのよ。私だって本ぐらい読むってば!」
疲れた。跳ねまくっても届かない、私に渡す気、なし。
「なんか、下心、あるんだろ。
こんなに分厚い本で、しかも、ファンタジーだぞ、これ。
おまえ、ファンタジーって柄じゃねえ。いや、ファンタジーじゃなくても、本なんて、ファッション誌か少女マンガ以外、絶対っ、読まないだろ。
この本は、今、人気があって、俺も返却を待ってたんだ。」
谷川、ずいぶん言ってくれるじゃん!!『絶対っ』て、強調すんな、むかっ腹が立つ!!
「私だってねえええ、時にはファンタジーを読みたくなることもあるんだよ、お年頃なんだからさ。」
「お年頃の意味が不明。」
それから、谷川は、だまりこんでじっと、私を見てきた。口の端を少し上げて、人の顔をそれこそ、じいいいっと、じいいいいっと、見つめて来た。
「谷川、何?新手の攻撃??あんまり見ないでよ。」
谷川、顔だけは、まあまあいい方なんだよね。あんまり見られると、照れるっつーの。視線が痛い。
私は顔の前で腕をばっと交差させて、大きな×をかいて、顔を逸らして視線を避けた。
「いや、ちょっと、黒目が大きくて、かわいいな、とか思って。」
「はっ??」
私は、絶句してしまった。
「ばああか、冗談だよ。引っかかるなよ。
これは、貸してやるよ。でも、貸し出し期間は2週間だからな、守れよ。」
そして、私の手の平にぽんと、本を乗せた。ずっしりと、重い。
「やりい、ありがと。」
私は、意気揚揚と貸し出しカードに名前を書いて、カウンターへ持って行った。そして、羽がはえたように軽いステップを踏み、更に、ららら〜と、自作の鼻歌を口ずさみながら、図書室を出た。
谷川が、呆れ顔で見ていた。
その夜。よおおおし、がんばって、読むぞ。
高瀬さんと、一緒に夕勤に入る、土曜まであと3日。高瀬さんは、ジャニーズ系の超イケメン大学生。すごい目力の持ち主で、見つめられたら、くらくらしてしまう。もっともっと仲良くなりたいよ。
でも、借りた分厚いファンタジーに向かった所、ついつい眠くなってしまって・・。
それも、3日間とも・・。結局10ページも読めず、土曜日を迎えてしまった。
・・・ト、トホホ!!
でも、好きな人のためにがんばろうとしてる私って、なんてなんて、いじらしいのかしらん!!
バイトの日が、やって来た。
高瀬さんは、普段、夜勤だけど、土曜日だけは夕勤から通しで朝まで働いている。時々、急にお休みするので、店長は、あんまり快く思ってないみたい。
さあ、夕方5時から9時45分までの、2人っきりタイム、がつんとスタートだ!!と、思っていたら、
「いらっしゃいませ、こんにちは。
・・・谷川かああ。なあんだ。」
「客に対して、何、その態度。」
ピンポーン、という音と共に入って来たのは、谷川だった。そう、あの嫌味男は、ここの常連客なので、ちょくちょくやって来る。暇人!いつも、雑誌を超長時間立ち読みしてから、コーヒーを、たったの1本買って帰って行く。
今日も、ふてぶてしく、雑誌コーナーへと、まっすぐ向かって行った。
本当に、あいつの態度、むかつくんだよね!
でも、あんなのは、ほっといて、私は、高瀬さんと、カウンターに並び、レジ打ちをしながら、夢中になって話込んでしまいましたのさ!可愛く見えるように笑って、小首をかしげて、ぶりっ子上目使い!!
「あのファンタジー小説、おもしろいだろ?どこまで進んだの??」
「ま、まだ、最初の方なんですけど・・。
でも、『孤高の魔法剣士』ってなんなんだろお〜って思って、続きを読むのが楽しみですう。」
くっ苦しい・・。ちょっと無理があるけど、これから好きになれば、いいもんね。うん、ポジティブシンキング。
「そっか、篠田さんは、ああいうのが好きなんだね。
じゃあ、今度うちにおいでよ。
あの作者の本、他にも沢山あるから。
携帯の番号、教えてよ。」
「はっ、はいいいいい!!!!」
やったね、番号とアドレス、ゲットお。うふふ。大前進。大躍進。大出世(?)。
私は、有頂天になってしまった。
読んで頂き、大変にありがとうございます。
言葉使いが汚い主人公で、すみませんです、はい。
よろしかったら、2話目もお付き合い下さいませ。