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喫茶店『水人果(みりか)』

土曜日--


俺(紫乃)は、喫茶店『水人果みりか』にいた。

正面にいるのは、久々野のメイド、瑞恵だ。

瑞恵は、ぎろりとした目で睨み付けると、

「きっちりとした説明を要求します、黒鮫鬼太さん」

と、冷たい声で俺(紫乃)の隣に居る俺(鬼太)に話しかける。

が、怪訝な顔をする瑞枝。

「‥‥‥‥どうしました?、随分調子が悪そうですけど?」

「気にするな、仕事がらみで疲れが出てるんだ」

と俺(鬼太)は答える、

俺は紫乃経由で呼び出されてここにいる(どっちも俺だが)。

周りの目が気になる。

飛び抜けた美人のメイド瑞恵に、

俺(鬼太)の操る、彼女に勝るとも劣らない美人のバイオドール・紫乃、

一体何を話しているのか、みんな興味深々である。

う~む、

聞き耳を立てている他の客がいる前で、どうしようか迷う。

「大丈夫です」

と俺の意図を察した瑞恵が、

テーブルの上に、一枚の紙を置いた。

「結界符です、彼等には、普通の会話をしているようにしか認識していません‥‥‥って、本当に大丈夫ですか?、黒鮫さん」

やっぱり、端から見ても調子は悪そうに見えるらしい。

「大丈夫じゃないが気にするな、こっちは早く帰って爆睡したい所なんだ、さっさと用事を済ませてくれないか?」

まだ数日の段階で、

自分と紫乃の体を二重に動かすのは、ものすごい負担がかかる。

早月に言わせると、本来は不可能らしいが。

出来ちまうのは仕方がない。

しかし頭はぐらぐらするし、だるいし、熱っぽいし、最悪だ。

「わかりました、問題は貴方は一体何人に『42式メイド格闘術』を教えたかという事です」

「一応‥‥‥6人だな、今の所」

「今の所?」

「場合によってはあと5~6人増えるかもしれん、闇鮫家、影鮫家からの依頼によるさ、言っておくが、ルール違反はしてないからな」

「‥‥‥‥綺羅星メイド協会の想定外の出来事ですからね‥‥‥」

それは渋々ながら認めるらしい。

「で、誰です?」

「桑野深夏、パルミラ・ベルナージ、伊藤瀬留奈、春雨紫乃、リューニア・フォルト、千恵美・アルジット‥‥‥以上だ」

「最初二人は違ってますが?」

「なしてだ?」

「熱で惚けたんですか?、深夏先輩はもともと綺羅星所属、パルミラの師匠はうちとも関係の深いアルター・グロウズ派の魔術師ウォーレン、規則対象からは外れています」

「俺が実地で技術交流した人間をかたっぱしから挙げただけさ、そっちの事情は考えてない」

俺は注文したクリームパフェのアイスの部分だけを熱冷ましに口に運ぶ、

‥‥‥余ったな。

もったいないから残りは紫乃で食べよう。

やっぱり頭が熱い、

紫乃の目を通して見る俺は、かなりまいっている様に見える、

おしぼりの冷えた奴で、グラスの氷を包んで額に乗っけて、と。

あ~、冷たくて気持ちがいい。

「‥‥‥‥随分仲がお宜しいことですね」

なぜだか刺のある言葉が瑞恵から発せられる。

「‥‥‥んだよ」

「紫乃さんです、さっきから二人で一つのパフェを食べて、アイスを貴方にあ~んしたり、貴方のためにおしぼりで氷嚢を作ったり」

‥‥‥いかん、ぼうっとして紫乃にやらせてた、

紫乃を操り、澄まし顔で喋る。

「お気になさらずに、親類縁者ですし、一応深夏さんからもちょっとしたお世話の手解きは受けていますから」

「‥‥‥随分と深夏先輩から信頼されていますのね?、主人の世話をまかされるなんて」

いやに刺々しいな、

ただでさえ、実耶子にも睨まれてるってーのに、

これじゃ針のむしろだ。

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

ああ、そういうことか。

「滅多にはやってはもらわんよ、」

ちょっと意地悪心がもたげる。

「‥‥‥それと、いずれ紫乃の実力は深夏と同等になる」

「そんな馬鹿な!?」

ばん、とテーブルを叩いて立ち上がる瑞恵、

「俺が保障するんじゃない、保障してるのは深夏さ」

「そんな‥‥‥‥‥‥」

「まだ今は遠く及ばんがね、深夏の得意分野には僅かに及ばん代わり、逆に紫乃の得意分野には深夏が僅かに及ばなくなる、そうなる日も近いそうだ」

瑞恵の顔をじっと見る、

彼女の美しい顔からは悔しさがにじみ出ている。

「なんで綺羅星の後輩の自分じゃなくて紫乃なんだ、って顔だな」

うっ、と動揺する深夏、

「図星か‥‥‥それについては気にするな、俺と深夏が特殊なように、深夏と紫乃も特殊なんだ」

はっ、とする瑞恵、

「闇鮫の血族と関係が?」

「深夏の出処、闇鮫の術、どこまで探れるかは知らんが、殺されない程度に調べてみることだな、ただし俺はあんたの命を保障しない、出来るものならやってみろって意味だ。俺の命のほうが大事だからな」

そう言うと、俺(鬼太)は紫乃を操作して俺(鬼太)を補助させる。

俺(鬼太)がぶっ倒れないよう、杖がわりだ。

一見、仲睦まじく腕を組んだカップルに見えるが、

実は体術の応用で、俺(鬼太)の重心を操作してもらっている、

俺(鬼太)の運動の負担を減らしてもらうためだ。

今、複数に襲われたら俺の身が危ない、

さっさと越智苑の校長室の『棺桶』の中に戻らにゃいかん。

俺(鬼太)と紫乃(俺が動かしている)が腕を組んでいる様子を見て、

男達の中に、あからさまに嫉妬と怒りの視線を投げつけてくる奴も居るが、

そんなんにかまっていられるか。

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

ぴた、と止まって、通り過ぎかけたテーブルを見る。

「‥‥‥実耶子に早月‥‥‥様」

涼しい顔でカレーライスを口に運んでいる早月と、

出されたオレンジジュースを一口も飲んでいない実耶子が座っている。

俺のすぐ後の席に居たわけだ、

さすがは影鮫の次期当主と中クラスの使い手だ。

ぜんっぜん気づかなかった。

俺は、紫乃に手を解かせると、二人に向き直る。

「なるほど、様子を見ていてくれたのですか」

「実耶子がうるさくてね」

「早月様!」

何故か顔を赤くして実耶子が遮る。

何のことだろう?

「瑞恵さん」

俺は越智苑でつかう自分のキャラクターの口調で言う。

「もう一人、僕の親戚が来ていました。影鮫早月さんです」

驚いて席から立ち上がる瑞恵、

彼女ですら気がつかなかった。

影鮫の技量に戦慄しているようだ。

「気がつかないのも無理はありません、なにしろ影鮫の次期当主ですからね、お互い学校では実力を極力隠しているようですね。お話を聞かれるなら今がチャンスですよ」

俺は早月に向き直る、

「早月様の判断と権限で、教えられるだけ教えてやっていただけませんか?」

「‥‥‥そうね、同じ学校にかよっている綺羅星の一級メイド、味方に付けておいて損はないわね」

「では、頼みます」

と出ていこうとした瞬間、

うっ、

ぐらっ、と目の前が揺れて、暗くなる。

たちくらみ、か?‥‥‥‥‥、

テーブルに手をついて、体勢をとどめる、

がしゃ、

何の音だ?、

深呼吸を数回、

なんとか目の前が明るくなると、

そこには、実耶子のオレンジジュースのグラスが倒れていた。

さーーーーっ、

俺の頭から血の気が下がる。

やっちまった‥‥‥‥‥‥‥

殴られるなこりゃ、

がた、と実耶子が立ち上がる、

早月が傍に居るから殺しはしないだろう、

頼むから、なるべく軽めにしてくれ‥‥‥

と思った瞬間、

ひやり、とした感触が俺の額に触れる、

あれ?、

実耶子は、俺の額に手を当てている。

「ひどい熱だわ‥‥‥無茶をしないで、早く帰って‥‥‥」

ぱし、とその手を横から払いのける手‥‥‥‥

‥‥‥紫乃?、

「よけいな心配はご無用です」

何?、どういう事だ?、

勝手に紫乃が動いた?、

そんなはずがない、

俺の無意識の拒絶反応?、

何故だ?、

考えると、頭がぼうっとなる。

考えるのがつらい、

実耶子は、怖い顔で俺‥‥‥じゃない、紫乃のほうを見て、

そして再び俺(鬼太)を見る顔は、

‥‥‥‥‥‥‥

怒っていない?、

なんだ?

すっ、

あれ?

紫乃が俺の腕を組んで、

俺をサポートして、連れていく、

俺は、そんなことを考えたか?

いや、俺が無意識にそうしているのか?

ああ、くそ、頭が半分ぐっちゃぐっちゃになって、ものが考えられねえ、

しかたない、とにかく、棺桶に戻ろう‥‥‥

なんだかドラキュラにでもなった気分だ。



翌日、

俺(紫乃)は、自身の手を握ったり、自分(紫乃)の身体のあちこちを動かしたりして確かめる。

調子は、すこぶる良い。

しかし、昨日のあれはなんだったんだろうか?

あれが、俺の深層意識なのか?

実耶子に『余計なお世話』なんて口のききかたをするのが?

そうなのか?

俺は、いままで色々と闇鮫・影鮫関係で、

彼女に嫌われるようなことをしてきたが、

申し訳ないとは思うが、

怒った彼女を怖いとは思うが、

うざったいと思ったことは一度もない。

なぜ、俺の操るバイオドール・紫乃があんなことをするのだろう?

さっきから、自分で身体を動かして確認をしているのだが、

特に俺の意識と紫乃の脳とのリンクにはバグは感じられていない、

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

といっても、どうやら闇鮫家・影鮫家すらも、

このクラスのバイオドールに関してはコアテクノロジーの全ては知らない、

ただ造ることが出来るだけという噂を聞く。

一定の機材、マニュアルが古くからあって、

それに則って造っているらしいが。

自分が腰を下ろしている棺桶を見る、

中には俺(鬼太)の本体が眠っている、

仮死状態で。

この中に居れば、まあ、安心である、

一応、闇鮫家と影鮫家が人形遣いの安全を最優先に考えて造った防御シェルターだから、

よっぽどの攻撃にも耐えられる様な設計である。

「調子はどうですかな?」

校長の声に振り返る。

「早月さんに聞きましたよ、自分を動かしながら、バイオドールを同時に動かせるのは人形使いの中でも貴方ぐらいだと」

「まだ慣れてない『紫乃』を動かすのはかなりホネだったけどな」

「ずっとこの中で動かないでも、本体は大丈夫なのですかな?」

「ああ、一種の休眠・仮死状態だ、2~3百年は大丈夫だ。そのまま時が止まった形になる‥‥‥頼むからこれを盗まれるのだけは勘弁してくれ。霊封印をかけられたら戻ることが出来なくなる」

「わかっています。ところで‥‥‥もしもそうなったら鬼太君はどうなるのですか?」

「魂がずっと人形の中で、すごさにゃならなくなっちまう」

「年は、年齢はどうなるのですか?」

「止まったまんまだわな」

「不老不死に近い状態ですか?」

「‥‥‥そうなるんだろうな」

「それは‥‥‥人類の追い求めている不老不死を手に入れたと、そう考えて良いのですか?」

「そうでもない、良く言うだろ『やっぱり家が一番ね』って、この身体に居ると、元の身体に戻りたくて仕方がないんだ、気が狂いそうになるほどな、だから人形を使ったミッションは、あまり長期間はできないんだ」

「過去に盗まれた事は?」

「当然ある。そうなった術者は普通、発狂するか、そのまま魂を人形から切り放して自ら命を絶つか‥‥‥その時は人形は生きたままだが、新しい主の器になるまで眠りにつく」

「影鮫早月さんは、大丈夫なのですか?」

俺(紫乃)は驚いて校長を見る。

「‥‥‥‥‥何故わかった?」

「彼女‥‥‥いえ、彼の指に付いている『赤い糸』ですよ、結び目が男の結び目になっているんです」

そうだ、この男の能力、『運命の赤い糸』を見つける能力。

それもただの赤い糸じゃねえ。

どんな有能な女でも、精神力の強い女でも、

どうしようもなく惚れてしまい、離れられなくなる『ダメ男』を見つける、

女にとって破滅を呼ぶ『赤い糸』で結ばれた相手を見つける能力、

俺がここに居る理由、

『落ちもの』の美女に出会うために、俺が必要とする能力を持つ男、

「あいつの身体の入った『棺桶』が盗まれて4年になる、あいつは影鮫の次期当主だ、精神力も並じゃない。耐えられるのはそれ故だ。だが、時々とても辛そうな顔をしていたよ、俺をからかうのは、一種の八つ当たりかな」

「自分の身体を持つ、あなたがうらやましい?」

「かもしれん、しかし魂はバイオドールの持つ脳に影響されるから、あの人形の元々の性格設定かもしれない」

俺は立ち上がると、簡単な準備体操をする、

「やれやれ、明日からまた藤咲学園にいかなきゃならんか」

「何か進展はありましたか?」

「まだだ‥‥‥ところで校長」

「なんですかな?」

「藤咲学園の生徒の、性別と魂にズレが起きている人間の『赤い糸』ってのは見たことがあるのか」

「ええ、以前一度式典に訪問した折に」

「どうだったんだ?‥‥‥糸の先の相手は?」

「わかりませんでした‥‥‥赤い糸が指に結ばれているのは解かるのですが、その先に誰が繋がっているいるのかは視えませんでしたよ」

「興味が有るんだけどな、いったいそいつが男と結ばれるのか、それとも女に惚れられるのか‥‥‥」


その日の晩は、越智苑学園の特研校舎に設置してある仮眠室で眠り、

翌朝、早くに出て藤咲学園に向かう。

影鮫の客室で寝るよりかはよっぽど気が休まる。

電車を乗り継いで、

痴漢を働いてきた相手の指に関節技をかけて脱臼させてっやって、

(早月や実耶子なら手首ごとへし折っちまうところを、この程度で済ませているからよっぽど良心的だ)

近くの駅から歩いて藤咲に向かう、

「お、紫乃ちゃんじゃない」

聞き覚えのある声に振り向く、

「あ‥‥緋路実さん」

彼女は溌らつとしたボーイッシュな笑顔を俺(紫乃)に向ける。

「今日は影鮫さんの車じゃないの?」

「ちょっと、用事があってね‥‥‥緋路実さんは電車通学?」

「うん‥‥‥でもその用事って、もしかしてトレジャーハンター関係?」

「そうよ」

「本当に!?」

彼女は目を輝かせて俺(紫乃)を見る。

「な、な、良かったら内容、聞かせてくれないか?」

「‥‥‥‥そうね、他の人にばらさないんなら、教えてもいいわよ」

「もちろん!!」

本来、女ってのはおしゃべりな生き物だ。

『秘密よ』って話した内容が、一週間後にはクラス全部に広がっていたりする、

だが、今回は、彼女は他人にばらすようなことはしないと判断した。

「やっぱり紫乃ちゃんって、広報担当じゃなくって実行部隊だったんだ」

「じ、実行部隊って‥‥‥‥」

「おかしいと思ったんだ、『影月刀』って言われてる鞍馬実耶子と互角に戦える実力が有って、広報なんて仕事してるなんておかしいもん」

あ‥‥‥‥‥しまった。

考えてみれば、普通に手を抜いても実耶子はかなり強い、

彼女と、みんなが見ている前で試合をして勝ってしまったわけだから、

みんなそう思った事になる、

『あの実力で広報のはずが無い』と‥‥‥‥

「あっちゃーーーーそういえばそうだわ‥‥‥みんなにばれてるかしら」

苦笑して頭を掻く、

「ごまかそうとは考えなかったの?」

「そんな余裕無かったわよ‥‥‥そうね、例えば」

俺(紫乃)は胸ポケットから金属性のペンを取り出して、

ひゅっ、

術を乗せて石垣に向けて投擲した、

キン!

金属音がした。

驚いて緋路実が息を呑む、

「うっそ‥‥‥‥石にペンがささった?」

「抜いてみて」

彼女は石垣に走り寄ってペンを抜こうとするが、

どんなに頑張っても、一向に抜ける様子はない。

「ぐ‥‥‥なんだこれ‥‥‥」

「はい、交代」

俺(紫乃)が軽々とペンを抜いてみせると、再度驚きを隠せない緋路実、

「驚いた?」

「な、なんなんだ‥‥‥あんた‥‥‥‥」

「少なくとも、これ以上の技で実耶子が襲ってきたからね‥‥‥少しでも気を抜いたら『真っ二つ』だったのよ」

「そんな無茶やってたのか?」

「みんなは楽しそうに見学してたけどね‥‥‥‥で大事なのは、これだけ訓練してなお命が危ないのが特研の『お仕事』」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

「話すと言うことはあなたがこれに足を突っ込むという事よ、これから下手をすれば貴方の命も危うくなるわ‥‥‥‥それでも聞きたいのなら、話してあげる」

普通の女の子なら、ひきつった顔をして断るだろう、

だが、彼女に浮かんでいるのは、

「聞く!、聞くに決まってるよ!」

まるで冒険を前にした少年のような輝いた目をしていた。



‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

俺(紫乃)はコメカミに青筋が立っている。

「なんでこんなにいるのよ?」

放課後に、喫茶店『水人果』で詳細を話そうと約束を取り付けたのだが‥‥‥‥‥‥

そこにいるのは、緋路実と‥‥‥

菱摘恵美奈、

エルナティス・ゼロイア、

影鮫早月、

鞍馬実耶子、

棚橋瑞恵、

倉田悠乃、

「私が呼んだのよ、お仕事を手伝ってもらおうと思ってね」

「‥‥‥早月様?」

「うわ、『様』付けで呼んでる」(ばい、緋路実)

「やっぱし部下なんだ」(ばい、恵美奈) 

俺(紫乃)は額に手を当てて嘆息する。

「彼女達の能力を使わない手はないわ、今回、特研所属はあなただけなのだから」

ジャンボチョコレートパフェを食べながら早月が言う。

はあ、

溜め息がでる、

しゃーない、気持ちを切り替えよう。

「今回の特研の目的は、古代の石のプレートです」

そういって、スマホの画像を見せる。

「画面がちっこいのは勘弁してね、ちなみに緊急時にデータが瞬間的に丸ごと消せるように細工がしてあるから下手に触らないように」

俺(紫乃)と早月、実耶子以外の人間が、画面にのぞき込む。

「これって、どういう『いわく』が有るの?」

「噂上は、超古代文明が残した特別な力を秘めたオーパーツってことぐらいかしら」

「特別な力って?」

「いわく、神を封印する力、いわく、神を目覚めさせる力、いわく、人に神に等しい能力を与える力、いわく、人を新たに造り出す力‥‥‥」

「‥‥‥なんか、めっちゃアヤシゲな謳い文句だな」

あきれた顔をして緋路実が言う。

「そう?、例えば『裏メイド十戒』にはこれと同じ文様が書かれているとか、古代シュドレアス王国を繁栄させ滅ぼした破壊の女神を封印したのもこの力だと言われているし、『あやかし一族』の神祖の持っていたペンダントも同じ質のものだとも言うし、某国の軍儒産業じゃ密かにそれを現代科学に応用しようと調査に乗り出した、と聞いているわ」

「いや、余計怪しいって、なあ」

と、他のみんなを見回した緋路実が怪訝な顔をする。

「‥‥‥‥どうしたの?」

みんなは一様に黙り込んでいた、

そう、俺は自分の情報網(といってもこいつらのに比べたら雀の涙だが)で掴んだ、彼女達の秘密を一部オブラートに包んで話したのだ。

「あ‥‥‥いや‥‥‥」

「な、なんでもないわ」

と、彼女達は引きつった笑みで誤魔化す。

「まあ、細かいことは気にしない、一応はっきりいっておくけど、私達は正義の側じゃない、当然今回敵側になるだろう存在も正義ではないけど、要するに両方、欲で動いてるわけ」

「なるほどね、で、これだけの人数集めて話すって事は、何か事情があるんだろ?」

緋路実に向けてにっこり笑う。

「はい、その通りです。実はこの石版自体はターゲットを写したものではなくレプリカなんですが、実物がどうやら藤咲学園の敷地内に持ち込まれた様なんです」

「藤咲に?」

驚いた顔で俺(紫乃)を見る緋路実、

「あんたがここに来たのは‥‥‥‥‥」

「そう、調査のためってのが理由の一つ」

「一つってのは、まだ他に理由が?」

「他の理由、というのか、調査のための適正の問題ね‥‥‥どうも石版がある場所はある一定の条件をクリアしないと入れない、見つけることすら出来ない場所みたいなのよ、特研の中でたまたま‥‥‥その条件をクリアしたのが私」

「言いたいことはよく解かりましたが‥‥‥」

エルナティスが声をかける、

「私が協力すると思っているのですか?」

俺(紫乃)は首を横に振る、

「いいえ、とりあえず説明だけしておかないと、こんがらがったことになるかも知れないので、貴方や瑞恵さん、恵美奈さん、悠乃さんは自分で自分の身体を守ることは出来るでしょうから、後は自由です、緋路実さんは、足を突っ込むと自ら公言したので、強制になります」

「望む所さ、けど、自分の身は自分で守るつもりだぜ」

「姫左羅祇流武術ですか?」

目を丸くする緋路実

姫左羅祇流武術きさらぎりゅうぶじゅつ

日本の裏の武術会では、

42式メイド格闘術と唯一張り合えると噂される伝説の武術だ。

「‥‥‥知ってるのか?」

「私のペン手裏剣を見て恐怖で引かなかったのは、それでも闘う手段を持つから‥‥‥でも残念ながら特研はその技能だけでは足りませんので、しばらく私と一緒に行動して銃火器の使い方や特研の特殊兵器の使い方を練習してもらいます」

「銃火器?!、特殊兵器?!」

「恵美奈さんには必要有りませんね、特研の武器開発部とつながりを持つメーカーの親会社を経営して、その武器の使用ノウハウを身体にたたき込んであるようですから」

「よくご存じで」

にっこり笑う恵美奈、

「ただ、どう行動するのにも、他の藤咲、越智苑学園の生徒を巻き込まないように‥‥‥水凪君は普通の生徒ですから」

「わかってるわよ!、あたしがそんなヘマをするわけがないでしょ!」

少し顔を赤くして反論する恵美奈

赤い糸か‥‥‥本当に絶大な結果をもたらすものだ。

「大変結構です」

と俺(紫乃)はすました顔で答える。



「とりあえず、私は緋路実さんとこれからの事についての話が有るので、別の所で話すことにします、そちらは各自で、今後どのように関わるかを決めておいてください、また後日皆様の身の振り方を聞かせていただきます。」

俺(紫乃)は緋路実を促して立ち上がり、

自分の分の飲物の代金だけを置いていく。



越智苑学園、特別研究科校舎内---

「すっごい‥‥‥これが『特研』の校舎の中か‥‥‥」

緋路実が廊下を歩きながら回りを見回している。

「レベルによって入れる場所が有るわ、あなたは『ゲスト』だからかなり制限されるってことを了解していてね」

「あ、ああ、わかった」

俺(紫乃)が案内したのは、

女子更衣室---

えっ、と彼女は驚いた顔をする。

「‥‥‥いったい何を?」

「とりあえず訓練用の服に着替えてもらうわ」

がちゃ、

ドアを開けると、ちょうど一人の職員が着替えているところだった。

「こんにちは、松村さん」

「あら、新入りさんと‥‥‥この娘は?」

彼女は緋路実をみて首を傾げる、

「『ゲスト』の娘です、名前は緋路実、こちらは特研の松村知恵さん」

「ど、どうも」

「こんにちは‥‥‥戦闘訓練室への招集はこの娘の為?」

「そうです」

「なるほど、今回のあなたの行動に必要なわけね、先に行って待ってるわ」

「お願いします」

先に出ていく彼女、

俺(紫乃)は、頼んである支給品の置いてあるロッカーを開ける、

中のものを取り出して、緋路実に放る、

「とりあえず、これに着替えてね」

「き、着替える?」

「制服スカートのまんまダンジョンを探検するわけがないでしょ」

そう言ってさっさと着替え出す俺(紫乃)

「う‥‥‥‥‥‥‥」

「どうしたの、着替え方がわからないの」

「あ‥‥‥いえ‥‥‥」

顔を赤くして、たじろいだ様子の緋路実、

「じゃ、私と同じように真似ればいいから、とにかく脱いで」

慌てて横を向いて脱ぎ出す緋路実、

ほう、

なかなか良いスタイルだ。

男の鬼太のままだったら、顔がにやけてそのまま覗き続けてぶん殴られてるところだろう。

「‥‥‥なんでそんなにじろじろ見るんだ?」

恥ずかしそうな顔で俺(紫乃)の方を見る緋路実。

「それが姫左羅祇流の『身体』ね?」

はっ、と俺(紫乃)を見る彼女の顔が変わる。

「とりあえず、貴方の技も出来る限り理解しておきたいからね、この時点から情報収集は始まってるってことよ‥‥‥なんなら私の身体も観察しておく?」

俺(紫乃)は、すっぽんぽんのまま彼女に向き直る、

緋路実は顔を真赤にして、

目を白黒させながら、俺(紫乃)の身体を見て‥‥‥

しばらく見た後で、

「背中の筋肉を見せてくれないか?」

と言った。

言われた通りに、斜め後ろを向く、

「その身体で、あのペン投げをやれるっていうのが、信じられない」

と言った。

そりゃそうだ、

バイオドールは身体の『質』そのものが違っている。

「特異体質って部分もあるわ‥‥‥そうね、強いて言えば一族が代々、子々孫々、長年かかって生まれてくる子供の身体を品種改良してきた、というべきかしら」

と、ごまかしておく。

まあ、本家の連中はそうなのだから、いいのだろう。

「鬼太ってやつもそうなのか?」

ぎく!、

「な、なんで、俺‥‥‥じゃない、彼の事を?」

「昔、影鮫の姫様が、生徒手帳に入れてた男の写真を見たことがある、一人は姫様の思い人『龍鬼』で、もう一人はその親戚の黒鮫鬼太だって聞いた」

くそ、早月め、余計な事を‥‥‥‥

「彼は‥‥‥そうね、一族じゃ『出来損い』って呼ばれてるわ」

「‥‥‥出来損い?」

「一族中最低の能力でね‥‥‥おかげで普通人と大して変わらない暮らしをしてるわ」

「‥‥‥好きなのか?」

「‥‥‥どうして?」

「今のあんたの顔‥‥‥とても悲しそうな、悔しそうな顔だ」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

本当は、俺(鬼太)自身の事だからな、

俺(紫乃)の表情で勘違いするのは仕方がない。

俺(紫乃)は、自分の顔を撫でる。

「一応‥‥‥‥親戚だしね、仲が悪くない、と言えば嘘になるわね」

と、ごまかしておく。

彼女は、それ以上は聞かなかった。

闇鮫の一族の仲で、何の役にも立たなかった俺、

そして、俺がイレギュラーで手に入れた『人形遣い』の能力、

闇鮫の一族の人形使いの中でも更に特異な力、

これがなかったら、俺はずっと役立たずのままだった。

そして、その能力は、俺が奇妙な学園生活を送ることを可能にした。

神様は、なんでこんなわけの分からない運命を俺に与えたのだろうか?

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

話を戻そう。

俺(紫乃)は戦闘服の着方を緋路実にレクチャーして、

二人で訓練室に向かう。

エレベーターで地下深くに降りる、

ピンポーン、と普通の音がしてドアが開くと、

「‥‥‥洞窟?」

緋路実が驚く、

そこには村松知恵と、五人の男が戦闘服姿で待っていた。

「はい、これを付ける」

俺(紫乃)は、緋路実に暗視ゴーグルを渡す。

そして、銃と、ナイフ、

「これはペイント弾、ナイフはゴム製に電気装置を付けて戦闘服に触った所でデータとして記録される様になってるわ」

「こ、これでどうしろと?」

「習うより、慣れろよ、今日はこのシチュエーション、明日は違うものになる、ちなみに松村さん達は敵をやってくれるわ、こちらには私と貴女と、後一人サポート役が付いてくれる。貴方が姫左羅祇流を使えるのは皆既にデータとして知っているわ。私達は彼女を倒してダンジョンの御宝を手に入れるのが目的」

「いきなりダンジョンか‥‥‥‥」

「そう?、ちょっとした修業なら姫左羅祇流ですでにやってるでしょ?」

うー、と緋路実がうなる。

「問題は、相手が銃火器や、特殊兵器を持っている場合、貴方がやることはこの状況で、姫左羅祇流がどう応用できるか、研究しながらやってね」

俺(紫乃)は松村知恵に向かって頷く。

「お願いします」

「了解、私達が散らばってから20分後にシミュレート開始よ」

「緋路実さん、当て身は寸止め、投げも手加減してね、ちゃんと『入った入らない』は解かる連中だから。殺さないように、一応みんなある程度の体術は心得てるけど。負けたら終了の放送がかかるまで死んだふり」

「放送?」

「外からモニターしてるわ、後から研究する様に」




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