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手合わせの2と3

真夜中---

影鮫家屋敷内、

俺(紫乃)の止まっている部屋。


極上のソファで、ニュースを見ながら考え込んでいる俺、

どうでもいいが、このソファ、高そうだな、

そそうとか出来ねえな、

いつもの俺なら、ジュースと菓子でもぱくついているのだが、

全然くつろげねえ。

コン、コン、

ノックをする音が聞こえた、

誰だ?、

ドアを開けると、

ラフな格好で、コンビニの袋に、ジュースと菓子を詰め込んだ早月が立っていた。

「こんばんわ♪」


テーブルの上に、菓子を広げ、ジュースを置いて、

その横に、藤咲学院の資料を広げる。

「しかし、その格好、よく菊花様が許したな」

と、男の口調に戻る俺。

「一応、ここは離れだし、気づかれないようにしてるからね」

「夜中にコンビニに買い出しに行くのもか?」

「警備装置と結界の隙を突くのも結構スリリングで楽しいわよ」

「警備装置も結界も楽に擦り抜けてっちまうのか」

俺はあきれて呟いた。

ここの連中は皆、化物じみてるが、

早月はその最たる者の一人だ。

「ところで早月」

「?」

「あんたの目的は、石版か?、それとも『達鬼』か?」

「‥‥‥‥校長から聞いたの?」

「っていうか、ミイラを復活させる石版が4つ藤咲学園に流れたって事を聞いてな、あれとよく似た物を闇鮫の人形工房で見たことがある」

「‥‥‥‥‥見たの?」

早月の顔色が変わる、

驚いているのか、かなり厳しげな表情だ、

なんだ?、なんかやばい事なのか?

「ああ、小さい頃の記憶でかなり曖昧だがな」

「‥‥‥どんな記憶か話してくれない?」

「‥‥‥‥いいぜ、たしか石版と同じ様な材質のサイコロ状の石が左右と前にあってな‥‥う~んと、石版とよく似た金色の模様が奇麗に光ってた、‥‥‥俺は、何かの水槽ごしにその石を見てるんだ、水槽の向こうには、梅造がこっちを見てる‥‥‥そんな感じの記憶だ」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

暫く俺(紫乃)をじっと見つめる早月、

「どうしたんだ?」

はあ~~っ、

と、何やらため息をついた。

「それは、貴方の記憶じゃないわ」

「なんだって?」

「生まれる前の人形の‥‥‥紫乃の記憶よ」

「んな馬鹿な、そりゃ能力発露のデータと一緒に、人形の脳の『ブラックボックス』の中に入ってるはずだぞ」

「貴方は一度だってそこに行っていない、保障するわ、貴方の記憶の場所は人形工房の一番奥の場所、闇鮫・影鮫の一部の上位の人間以外は入れない、貴方には入ることが許されない場所よ」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

今度は、俺が黙った。

「人形をそのレベルでコントロール出来る人間は、今までの闇鮫・影鮫の歴史の中で一人もいないわ‥‥‥‥何者なのかしらね、貴方は」

「黒鮫昭造の孫で、黒鮫忠明と黒鮫牧穂の息子。それ以上でもそれ以下でもねえよ」

「遺伝子検査はやってるわ、肉体は確かに貴方の言う通りだけど、魂がどうだか解からない」

「どこかの誰かの生まれ変わりとかか?、んなもん俺に聞かれてもわかんねえよ、せめて本体が闇鮫の普通の『お役目』が出来る程度の才能が欲しかったんだがね」

「だからこう言うとき以外は学校に通っていられるんでしょ?」

「‥‥‥‥そりゃそうだが、おかげで子供の時は劣等感の塊だったんだぜ、離れのボロ家に一人追いやられて、黒鮫家の御荷物・才能のでがらし・必要の無い子だの、ずうっと言われ続けりゃ根性だってひん曲がるっての」

がちゃ、

「早月様っ!!」

うげ、実耶子‥‥‥‥

「なんて格好で、なんて所にいるんですか!!、しかもこんなに御行儀を悪くして!!」

「ちょっとくらい良いでしょう?」

「いけません!!、御自分のお立場をお考えになってください!!」

ぎろっ!

なんでこっちを睨むんだよ、

「紫乃!、早月様を部屋に引っ張り込んでに変なことを教え込まないで!!」

「いや、別に引っ張ったわけじゃ」

「言い訳をするな!!、あなたみたいなのがこの影鮫の屋敷にいる事が間違いなのよ!!、」

うわ~、聞く耳もたねえってか、

「‥‥‥‥実耶子」

はっ、とする実耶子、

早月の鬼気で、いきなり周りの空気が5度Cほど下がった感じがした。

「紫乃をここに置いたのは私の判断よ」

「も、申し訳‥‥‥‥あり‥‥‥ません」

全身から冷や汗を噴き出しながら、実耶子が謝る、

今のは実耶子のミスだな、

影鮫家次期当主としての判断を『間違い』なんて言っちまったんだから。

だが、これが早月の本性だ。

仮にも、影鮫の『使い手』の中級に属する早月を、

何もしないで震え上がらせる。

次期当主、というのは決して伊達ではないのだ、

「まあいいわ、今日は母屋に戻ります」

「は‥‥‥はい」

「紫乃、明日から藤咲よ、制服はもう用意してある筈だから」

「了解」

俺はおちゃらけて、右手をひらひらさせて答える。

ふ、と少しだけ早月に笑顔が戻って、部屋から出ていく、

実耶子はやっぱり俺(紫乃)を怖い顔で睨んでから出ていく。

「さあ、掃除だ掃除‥‥‥こんな高級なカーペット汚したら、シャレになんねえや」

貧乏性が身に染みついているなあ俺‥‥‥‥




俺(紫乃)とあと数人、

越智苑からの交換留学生として選ばれた学生が、

藤咲学園の校長室の中にいた。

前に座っている校長は、女、

美人の熟女だ。

眼鏡の奥に宿る瞳に、独特の妖しさを感じる。

「ようこそ、聖・藤咲学院に。私は校長の碑瑠野津紀代ひるのつきよです、藤咲はあなた達を歓迎します」

並んでいるメンバーは、

俺の畏友、

真島亨まじまとおる

久々野達也くぐのたつや

桑原道男くわばらみちお

水凪慎二みずなぎしんじ

女性陣は

エルナティス・ゼロイア、

俺・春雨紫乃、

菱摘恵美奈ひしつみえみな

平田悠乃ひらたゆうの


「皆さんは、それぞれ指定したクラスで授業を受けてください、我が校の生徒たちと有意義な交流をしてくれることを願います」

コン、コン、

と、校長室のドアを叩く音がした。

「入ってよろしい」

と、校長が言うと、

がちゃりとドアが開き、4人の藤咲の生徒が入ってきた、

「エスコートを努めてくれる生徒達よ」

解からないこと等は、彼等に聞くようにと校長が言い、

そして、グループとエスコート役の紹介が行なわれた。

「真島亨君、春雨紫乃さんには、A組の倉田緋路実さん」

髪をポニーテールに纏めた、少しきつめの印象の女の子だ。

「よろしくな、まあわかんない事があったら協力するぜ」

男言葉だ、

「桑原道男君、エルナディス・ゼロイアさんはB組の佐倉真名美さん」

ぺこり、とお辞儀をする、

「よろしくお願いいたします」

にっこりと笑う笑顔が人懐っこい。

「水凪慎二君、菱摘恵美奈さんは、C組の加藤てるき君」

「加藤です、よろしくお願いします」

こっちは、生真面目そうだ。

「久々野達也君と、平田悠乃さんは、D組の広川太一君」

「よろしく♪」

こっちはおちゃらけ系か。

「では、それぞれのクラスに案内を」

俺達は、校長室を退室した。


それぞれ、分かれてクラスに入っていく、

藤咲学院は概ね、俺達を好意的に受け入れてくれた、

今回、我等が越智園からの学生の、女のほうはレベルが非っ常~に高く、

男は並みレベルという構成に、

男供は喜び、女性陣はちょっと残念そうだ。

ただし、今回、もう一つのトピックがあった。

俺(紫乃)の周りには、男女を問わず、大勢の人間が集まった、

俺が蟻江音学園都市の中でも、

公然の秘密となっている、越智苑学園の特殊研究科

謎のトレジャーハンター組織、

その中で初の、『表に出てきた生徒』だからだ。

「それがまさか、あの影鮫さんの親戚だったとは、驚いた」

と、俺(紫乃)に話しかけてきた一人が言った。

「早月さんって、こっちじゃそんなに有名なんですか?」

と聞くと、興奮した様子で頷く、

旧家で、現在の政界、財界とも関係が深い影鮫家

(表向きではそうなっている)、

その次期当主、

早月のもつ容姿の端麗さと、

そして早月自身の力量(成績も運動もトップクラスだという事)で、

藤咲学園でも有名人のトップ5人に入る、

当然、その親戚(と言うことになっている)俺(というか紫乃)にも注目は集まり、

更に特研の生徒という事もあいまって、

俺(紫乃)の事は、

この藤咲学園に来る前から

(要するに紫乃が越智苑学園でデビューした次の日から)

早月に負けない有名人になっていたと言う、


「でも‥‥‥少し気をつけたほうがいいかも知れないぜ」

と、緋路実がミニスカート制服なのに足を組んで言う。

見えそうで、男供が目のやり場に困っている。

(俺も、紫乃の身体に入っていなきゃあそうだったろう)

「それって、どういうこと?」

「早月からは何も聞いてないのか?」

こくり、と頷く、

「‥‥‥まあ、あの娘はあんまり意識していないからかもしれないけど、彼女と人気を二分する奴がいて、派閥が発生してるんだ」

「‥‥‥派閥が?」

その派閥の長たる女が、『赤松美冴』って奴らしい。

聞いたことの無い名前だ。

聞くところによると、いろいろと小競り合いになってるとか。

「もっとも、早月のほうは基本的に全然相手にしてない、ただ自分の友達になにがしかの害が有ったときは‥‥‥なんか報復するみたいだな‥‥‥‥」

「報復ねえ‥‥‥‥」

影鮫の次期当主が友達を守るための報復‥‥‥‥‥

多分、よっぽど恐い目に会わされるんだろう、

緋路実は、俺(紫乃)の表情の変化を見て、

「その変は、あんたの方がよく解かってるかもな‥‥当然あんたも早月のシンパって事だろうから気をつけたほうがいいぜ、しかもその容姿だし。」

紫乃と言う人形の容姿もまた、

早月とは違うタイプではあれ、際立った美しさを持つ、

つまり、目立つと言うことだ、

出る杭は打たれる、

「‥‥‥気をつけておくわ」



藤咲学院の授業は、

かなりのハイレベルだった。

真島なんぞ、ちんぷんかんぷんで目を白黒させてやがる、

まあ、交換留学生だから気にしなくてもいいかもしれんが、

越智苑を嘗められてもこまるので、一応俺(紫乃)が真島の分までがんばる事にした。

まあ、紫乃の脳の知識だから、カンニングに等しい。

俺の力量じゃないんだが、

一応、そこそこの秀才ぶりを見せておいた。


次の科目は何か?、と、渡された表を見る。

「‥‥‥武道が科目に入っているんですか?」

「ああ、そーだよ、珍しいかも知れないね」

「ええ、キリスト教系の学校なのに、武道があるなんて」

「相手が罪を犯す前に止めるとか、十字軍の伝統とか、そういうのがあるみたいだよ、詳しいことは知んないけど」

「ふ~ん‥‥‥‥体育用のジャージでいいのかしら?」

「あ、校長から貴方の道着もあずかってるから」

ぞくっ、

「‥‥‥どうした?」

倉田緋路実が、俺(紫乃)の顔をのぞき込む、

「いえ、なんでもないの」

何故だろう、武道の授業を前に、えらい嫌な予感がする。



ぶんっ!

実耶子が思いっきり打ち下ろしてきた棒を、

がきいっ!、

俺(紫乃)が棒で受けとめる、

「ちょっと!、実耶子さん!、軽いスパーなのよ!」

「やかましいっ!、死ねえええええっ!!!」

ぶん!、ぶん!、

実耶子の振り回す棒を、

俺(紫乃)が避ける度、

おおお~~っ、

と、ギャラリーからどよめきが起きる。

き、気楽じゃねえかっ!、

分かってねえ素人はこれだから困る!、

こいつ、『術』を行使してやがるんだぞ!、

影鮫の中級の使い手のこいつが『術』を棒に込めたら、

岩を砕いちまうんだぞ!、

ぶうんっ!、

クワンッ!、

あぶねえっ!、

こちらも術を使ってなんとか受け切る。

『矛盾』の矛と盾じゃなく、通常受けと攻撃は、攻撃のほうが圧倒的に有利だ。

紫乃じゃなく、本体の俺だったら、間違いなく頭蓋骨陥没で逝っちまう。

今回も棒がやばかった、

くわん、という金属音に近い音がするってことは、棒が『斬られ』ちまう寸前なのだ。

そう、へし折られるんじゃなくって、斬られるだ。

中級の人間が、棒を棒で打ち込むと、棒を下手に止めておくと、

奇麗な切断面で真っ二つにされちまう。

だから、影鮫の使い手が棒を持っていると、真剣を相手にするのに等しい。

じゃあ真剣だったら、

そりゃもうエクスカリバーだわな。

「ああっ、もう!」

いい加減にしてくれっ!!

実耶子が棒を振り下ろすタイミングに、

俺(紫乃)が棒を後方に振り上げるタイミングを会わせて受け流す。

新陰流の輪の太刀の応用---、

だが、それくらいじゃこいつの膂力は捌き切れない。

だから---

「なっ!」

実耶子が驚愕の声を漏らす。

俺(紫乃)は、まるで地面を這う蜘蛛の様に、超低空で実耶子の懐に入る、

受け流し切れないはずの実耶子の棒は、床面に当たり、

俺(紫乃)は実耶子の腹に軽く拳を当て、

直後、足を引っかけて、背中を思いっきり平手で叩く、

ぱんっ!、

実耶子はそのまま後ろへ倒れてしまう、

俺(紫乃)は、実耶子の腕の関節と、喉を極めて止める、

「それまで!」

と、審判をしていた武道の師範が止める、

‥‥‥ってか、もっと早よ止めてくれ、

さすがに、汗だくだ。

ギャラリーの方へ戻ると、

「すごい!、すごいわ春雨さん!!」

「あの『影月刀』と言われた鞍馬さんに勝つなんて!!」

と、口々に群がってくる。

影月刀?

「影鮫さん以外で鞍馬さんと互角以上に渡り合えるのって、この学校でも2人しかいないのよ!」

と、みんなが俺(紫乃)の回りに集まって口々に囃し立てる。

「あ、ありがとう‥‥‥‥」

とお礼を言いながら、俺は驚いていた。

影鮫の使い手の、実耶子と互角に渡り合う?

早月は当然として、他に2人もいるだと?、

一体誰だ?

「‥‥‥‥どうしたの、春雨さん?」

「い、いえ、ちょっと疲れたから‥‥‥ところで『影月刀』って?」

「ああ、『影鮫早月の懐刀』、略して『影月刀』よ」

「なるほどね」

「でも、あんたもその一人なのか?」

緋路実が俺を見て言う。

俺(紫乃)は、曖昧な笑みを浮かべる。

役に立っているのは、紫乃という人形、

本当の俺は、ただの役立たずだ‥‥‥‥‥‥‥‥


授業が終わり、着替えた俺達が教室に戻る途中、

武道場で授業を行なう連中が入ってきた。

緋路実が、こん、と俺(紫乃)の腕を肘でつついて囁く

「あれ、取り巻きのまんなかにいる奴」

目を向けた瞬間、キン、という耳鳴りがする、

なんだ?、この冷気は‥‥‥‥

切れ長の瞳が印象的な、美しい女性だが、

どことなく、中性的な雰囲気をしている。

もしか、彼女もこの学校に『呼ばれた』(あるいは引き込まれた)人間なのだろうか?

「あれが、影月刀と互角に戦える一人、赤松美冴」

んじゃあ、本体の俺(鬼太)じゃあ絶対適わない訳か。



昼休み、俺(紫乃)は緋路実が案内してくれた購買で買ったパンを食べている。

ちょっとグレードの高いこの学園では、

弁当持ちや購買行きはあまり多くない、

学食(ちょっとした高級レストラン並みだ)の方に行く連中が多い、

俺(紫乃)は、早々と昼食を済ませて、校内を案内してくれると約束をしていた緋路実に会いに校庭に出る。

しかし、校庭には、誰もいない、

「‥‥‥‥‥‥‥‥」

俺(紫乃)は眉間にしわを寄せる、

校舎のほうを見る、

窓に映る人影すらも、なかった‥‥‥‥‥‥

‥‥‥‥これは、結界か?

次の瞬間、

ぞくり、と背中に駆け抜ける悪寒、

サイドに飛ぶ!、

その俺(紫乃)の僅か数ミリ横を駆け抜ける、つま先‥‥‥‥

反射的に振り返った俺の目に飛び込んできたのは、

美しい脚線と、純白の下着、

今の俺が男だったら、見とれて次の攻撃を避けられなかっただろう、

しかし、今の俺は『紫乃』という女性の人形の中にいる。

二つ目の足を避ることが出来た!

今回だけは梅造に感謝だ。

三つ目の拳を、俺は『術』を乗せた腕で受ける、

そのまま受け流しつつ術を攻撃に切り替えて打ち出す、

相手の藤咲の制服の上着が翻る、

後ろにのけぞった次に来るのは‥‥‥‥

下からの会陰の急所を狙ったつま先蹴り

膝を回して、『術』を造り出す!

ばんっ!、

「ぐっ!」

「むっ!」

ちいっ!

膝が痺れた!

なんて重たい蹴りだ!

だが、向こうもダメージを受けたはずだ。

飛んで、下がって、距離をとる。

相手が俺(紫乃)を睨んで言った。

「何者だ‥‥‥42式を何故使える?」

「‥‥‥瑞恵さん?」

棚橋瑞恵は、更に鋭い顔をして俺(紫乃)を睨む、

「私を知っているなら、42式が綺羅星メイド協会の関係者にのみ伝えることを許された武術だと知っている筈ね‥‥‥私は貴方を知らないし、協会にも照会したが該当者はいなかったわ」

あ~、そうだ、そうだった。

「答えてくれるかしら?」

ううむ、どうしよう?、

「黒鮫鬼太の親戚だと言ったら信じる?」

あっ、と瑞恵は驚いた顔をする。

「鬼太から一通り基本と応用の型は教えてもらったわ、一応、これでも闇鮫関係の人間だからね、体術は並よりかは使えると思うけど」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

額に手を当てて嘆息する瑞恵。

「決まりは破ってないはずよ、彼は桑野深夏と繋がっているから42式は教えられなくても勝手に使える、その間に彼から習って私が使えるようになったわけだから‥‥‥でも『技盗』みってどこの派でもけっこうやられてると思うけど?」

「さっきの鞍馬実耶子との試合を見てね、あれは42式の上級技よ、簡単に盗まれて、簡単に使われたらこっちが困るわ」

そうなのか?、知らんかったぞ。

「鬼太が聞いたら驚くわよ、メイドのあなたが藤咲学園に通ってるなんて、普通は御主人様と同じ学校に入らない?」

「入ろうとしたわよ、編入試験が合格できなかっただけ」

‥‥‥こいつが?、何でだ?

普通は落ちもの美女ってのは、同じ学校にかよえるはずだが。

「‥‥‥それより貴女、どこまで知っているの?」

「鬼太からある程度、そして闇鮫が知っている程度ならね」

『紫乃』の中身が俺だと知ったら、どんな顔をするんだろうか?

「‥‥‥‥‥他に42式を使える人間は?」

「さあ?、そっちは感知してないから‥‥‥‥緋路実さんとの約束があるんで、結界を解除してくれると助かるんだけど」

「わかったわ、けど一度黒鮫さんを捕まえて尋問しなきゃいけないわね」

「危害を加えたら桑野深夏が出てくるのを覚悟しといたほうが良いわよ」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

「納得してないの?、鬼太に彼女が仕えるているのを」

ぷいっ、と横を向く。

まあ、そりゃそうだろう。

もしも彼女が『本当のこと』を知ったら、もっとショックだろうがな。

彼女が踵を返し、校内に消えていく、

次の瞬間、結界が消えていく気配がした。

まるで、空間に張った見えないガラスの壁が、

割れて、弾けて、消えていく、そんな感じだ。

「あ、いたいた、紫乃ちゃ~ん!」

緋路実が、校内から走って出てくる。

「ごめんごめん!、ちょっとした用事でおそくなっちゃった!」

息を切らしている緋路実に、笑いかけながら、俺(紫乃)は、

「いいのよ、気にしないで」

と言った。

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