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「特研」

午後九時、

影鮫家屋敷--

武道場、

ずらりと並ぶ、影鮫、闇鮫の『使い手』達、

その中の上座の中央にいるのは、影鮫、闇鮫の当主、

向かって右、影鮫の現当主・影鮫菊花かげざめ・きっか

影鮫の関係の女は、年を食っていても20代後半~30代前半にしか見えない。

しかし、そのせいか、寿命は60年ぐらいと、普通の人より少し短いらしい、

彼女は、たしか話では40代後半と聞いているが。

「久しぶりです、黒鮫鬼太」

「菊花様もご壮健でなによりです」

こくりと頷く菊花、

末端の俺が、当主と言葉を交わすのは滅多にないことだ。

「学校の方はどうですか?」

「お陰様で、順調に過ごしています」

向かって左の、初老の男性が口を開く、

「鬼太、紫乃の『使い心地』はどうだ」

闇鮫の現当主・闇鮫緑三郎やみざめ・ろくさぶろう

俺の所属のボスだ。

「はい、さすがは梅造の渾身の作、驚くほどに反応が早いです」

うむ、そうか、と彼は頷く

「お前と話をするのは、昭造の葬式の時以来か」

「その節は、お世話になりました、祖父も草葉の陰で喜んでいると思います」

緑三郎は遠い目をした、

昔を思い出しているのか、

「‥‥‥‥あれは、良い使い手だった」

「ありがとうございます」

「‥‥‥今日は、その人形のお披露目だったな‥‥‥」

「はい」

緑三郎は回りを囲む、闇鮫、影鮫の使い手を見回した、

「菊花殿」

こくりと頷く菊花、

「皆、急な招集で申し訳なかった、ただ今より、鮫島梅造の作った生き人形『紫乃』のお披露目を行なう、紫乃は明日にも早月と共に仕事のある故、急きょ今夜行なうことになった‥‥‥誰か紫乃の相手をしてみるものはいるか?」

使い手の中から数人が、手を上げた。

菊花が、ではと言って選ぼうとして‥‥‥‥

「待ってください!!」

実耶子の声がした。

ん?、遅刻か?

俺(紫乃)は振り向いて、

唖然とした。

実耶子は‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

キャビンアテンダントのコスプレをしていた。

しーん‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

道場は、彼女の格好に静まり返ってしまった、

「み、実耶子‥‥‥‥‥その格好は‥‥‥‥」

つぶやいた俺(紫乃)を、

実耶子は、くわっと睨むと、

つかつかつか、とやってきて、

むんず、

俺(紫乃)の襟首を掴んだ、

ぶんぶん!

うわ、ゆ、揺するな、首を絞めるな!、苦しいってばよ!

「あなたがっ!、私の制服をっ!、着ていっちゃうからでしょおっ!」

「えっ?」

俺(紫乃)は、自分の着ている越智苑の制服を見る。

「これ‥‥‥‥あなたの?」

「当たり前よっ!!」

「でも、これ、越智苑の制服じゃあ‥‥‥‥」

「早月様と一緒の交換留学生なのよっ!」

「ははは、どうりで」

どうりで、胸が苦しいと思った。

「どうりで何?、制服の胸が窮屈だとでも?」

ぴくぴくと、ひきつった顔で俺(紫乃)を睨む実耶子。

「いや、そんな‥‥‥‥‥‥‥」

あ、あんた、読心術でも使えるのか?、

「いや~ごめんごめん、それ用意したの、あたし♪」

と、声の方向を向くと、

桐土彩が笑っていた。

「あたしとしてわ~、紫乃にナーススタイルになって欲しかったんだけど、まさか実耶子の服、着てっちゃうとはね~♪」

あ、あのなあ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

「とにかく!、服を返しなさい!」

ひきっ、

自分(紫乃)の顔がひきつるのが解かる。

服を交換したら、俺の姿は‥‥‥‥‥

ち、ちょっちそのコスプレは(汗)

まあ、多分『紫乃』なら何着ても似合うと思うんだが、

着る度に、本体の男の俺が着ているような錯覚がして、

違和感が出る。

ひょっとして、鏡で見る紫乃の姿は偽物で、

男の俺の女装姿をみんなで見て笑ってるんじゃないかって。

いや、俺にしてみれば確かに、セーラー服のコスプレも、C.Aのコスプレも大差ないのはわかるんだが、

「え、え~と‥‥‥‥お披露目の勝負の結果で決めるってのは、駄目?」

つい、こんな言葉が口に出る、

「‥‥‥なんですって?」

実耶子の目が細まり、俺(紫乃)を睨む、

こ、こええ。

「よろしい、ではやってみなさい」

横から聞こえる影鮫の現当主の声に、驚いて振り返る実耶子、

「き、菊花様‥‥‥‥‥」

「C.A VS女子高校生、面白い見世物になるわ」

「見世物って‥‥‥‥」

「お披露目それ自体が見世物みたいなものだからね」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

ふう、と一息ついて、俺(紫乃)を掴んでいた手を離す。

とん、と後ろへ下がって呼吸を整える実耶子、

「やるわ」

俺(紫乃)も、後ろに下がる。

「ええ」

しばらく無言のにらみ合い、

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

ふと、

これ、横で見てたらさぞかし奇妙な光景なんだろうなあ、と思った瞬間、

実耶子が前に出た、

俺(紫乃)は大きく、更に大きく後ろへ下がる、

びゅっ、という風が俺(紫乃)の顔に吹きつける、

実耶子は、何時の間にか、その右手に細身で短めの刃物を持っていた。

夜叉舌剣と闇世界で呼ばれる、刀身が波形をした刃は、

俺(紫乃)の髪を20本ばかり、切り飛ばした。

こ、こいつ、以前より技が伸びてやがる!

彼女の技は、見た目より遙かに伸びて間合いを狂わす、

そのつもりで、通常の2倍の間合い(当社比)を取ったはずなのに、

避け切れなかったとは!、

続けて、二度、三度、四度、五度、!

ふひゅっ、びゅうっ、きゅっ、ひゅごっ、

うなりを上げて夜叉舌剣が俺を狙う、

暗殺用に、音がしないはずの構造のこの剣が、

風うなりを上げている。

いったいどんなスピードで剣を使っているのか、

いつもの俺なら、あっさりと絶命するところだが、

今回は梅造の傑作の身体だ、

誤差を修正して、全ての攻撃をよけきる、

再び連撃してきた刃を横から回り込んで躱す、

後ろから押さえようとして、

ぞくっ!

背中を走る寒気、

左に避けた俺の首を掠めて、

びうっ!

極細のチェーンで繋がれた、夜叉舌剣が飛んでいく、

二刀流!?、それも、流星錘みたいに!?

うおっ!、今度は右手っ?!、

俺は左手で受ける、

左手の剣!、

右手で受けた!、

何?、

実耶子の左手に剣がない?、

実耶子が笑った、

実耶子の後ろから、銀色の光?、

俺(紫乃)の顔面を襲う!

どしゅっ、

実耶子の笑いが、凍りつく、

俺(紫乃)は、歯で、飛んできた夜叉舌剣を挟み取っていた。

なるほど、夜叉舌剣を、鎖で髪の毛に結んでいたんだな、

だが-----

俺は、剣を口に銜えたまま、首をわずかに振る、

「ぐっ!」

鎖は、実耶子の首に巻き付いた、

俺(紫乃)は、押さえていた実耶子の両腕を折り畳んで、

鎖を掴みつつ、後ろへ回り込む、

両腕を押さえ込まれ、首を鎖で締められた実耶子を見て、

「それまで!」

と、菊花が言った。

俺(紫乃)は、鎖と実耶子の腕を離し、

大きく後ろへ飛び下がる、

油断していると、離すときにでも、攻撃を喰っちまうからだ。


俺(紫乃)は二人の当主に一礼する。

実耶子も仕方なく、といった感じで一礼する、

ちらりとこちらを、すげえ恐い目で見て、

使い手達の並んでいる所に戻っていった。

ほどなく、皆は解散し、

お披露目が終わった。

俺は部屋に戻る、

部屋で、俺はため息をつく。

一応、無事お披露目は終わったのだが、

また、実耶子に恨みを買っちまったみたいだ。

昔は、それほど悪い関係でもなかったと思うんだが、

一旦こじれると、大変だ。

昔みたいにとはいかないが、もう少し関係を良好にしておきたいのだが、

‥‥‥‥‥無理かな?、

寝間着に着替えると、メイドに実耶子の制服を渡し返してくるように言う。

ばふっ、

俺(紫乃)はベッドに倒れ込む。

寝よう、もう、




カチ、カチ、カチ、

と、時計の音がする、

寝ても、起きても、時計の音がする、

枕元の、銀色の、時を示す針、

ひがな一日ただそれを見つめる日々、

父は、こない、

母も、こない、

祖父だけは、時々来てくれる。

祖父だけは、好きだ。

額に置かれた濡れタオル、

けだるい感覚、

痩せた腕を見ている自分、

黒く、点滴の針の跡が無数についた腕、

「---は、私が守るわ」

誰だろう、この女の声は。

部屋の外からだ。

「お前は、いらない」

誰だろう?

「---には、私だけがいれば良い」

誰に言っているんだ?

「私だって!‥‥‥私だって---を、ずっと‥‥‥‥」

ああ、こっちの声は知っている、

彼女だ。

よく知っている声だ、

幼なじみで、よく俺の寝ている所に見舞いに来て、

いろんな話を聞かせてくれて、

名前は、確か、み---、

えっと‥‥‥‥名前が出てこない、確か、み---と言ったか、

「---に、近づくな。あれは私だけの‥‥‥‥」

「誰がそんなことを決めたというの!」

何を、言い争っているのだろう、

「私よ。たとえそれが、昭造と政道の仕組んだことだとしても、私はそれを受け入れた、私は---を‥‥‥‥」

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

目が覚めた。

ベッドから身を起こす、

同時に、メイドが入って来て、

「紫乃様、起床の時間でございます」

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

そうだ、今の俺は、紫乃だったんだ。

しかし、人の気配で目を覚ます訓練をしたせいで、

夢の続きを、身損ねてしまった。

‥‥‥‥あれは、いつの話だったんだろう?、

あれは確かに、昔見た(聞いた)記憶だ。

そうだと分かるんだが、続きが思い出せない、

あの声も、誰の声だったか思い出せない。

二人とも、知った声だと思うのだが‥‥‥‥

夢を見れば、思い出すのだろうが。

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

ぼーっとしていると、

「紫乃様、制服を洗っておきました」

メイドが、今度は本当の俺(紫乃)用の制服を差し出す。

「あー、ありがとう‥‥‥‥」

制服に袖を通す‥‥‥確かに紫乃用だ。

今度はちゃんと胸のサイズが合ってる。

「朝食の準備が出来ております」

ぴくっ、

「‥‥‥まさか、みんなと一緒に食べろって事?」

「はい、紫乃様にはしばらくここで早月様と暮らしていただきますので」

‥‥‥‥‥‥‥‥

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥えっ?

「あ、あの、今なんと?」

「紫乃様は、早月様の仕事が終わるまで、しばらく影鮫家で暮らしていただくことになります」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

「どうなさいました紫乃様?、御気分でもお悪いのでしょうか?」

「‥‥‥‥‥‥ちょっと、目眩が」

「御薬をお持ちしましょうか?」

「いえ、大丈夫です、でも今日の朝食は御遠慮させてください」

「わかりました、そうお伝えします」

お辞儀をして出ていくメイド、

ベッドの端に座り込んで頭を抱えている俺(紫乃)

‥‥‥聞いてないぞ、それ。

しばらく、この家で暮らせってか?、



久我山さんの運転する車で、俺(紫乃)と早月は登校することになった。

使用人全員が、いってらっしゃいませとお辞儀をする中、

車に乗り込む俺と早月と‥‥‥‥‥‥

遅れて走ってきた‥‥‥‥‥‥

‥‥‥‥‥実耶子?、

「当然でしょ、彼女も交換留学生なんだから」

と、早月が笑う。

俺には、その笑いに悪魔が棲んでいる様に見えた。

「でも、昨日は‥‥‥」

「あれは、少し仕事があったの」

「さいですか」

俺の反対側から乗り込む実耶子。

後部座席に、早月を挟んで右に俺、左に実耶子って形だ、

近い距離に実耶子がいるので、緊張する。

こ、この静けさ‥‥‥いやだなあ。

「ところで‥‥‥‥真島さんが特研、特殊研究科って言ってたわね、あれは何」

良かった、早月が話を振ってくれた。

「越智苑の表向きの『裏の顔』トレジャーハンターチームの事です」

「それは耳に入っています、でも落ちモノの女の子を探すのが本当の姿だと言うのは初めて知りました」

「遺跡系の落ちモノを探すためってのと、敵に対応するためでもあるんです。」

「敵?」

「落ちモノの女の子の能力や血筋を目当てに群がる連中がいます、越智苑学園の目的は、少なくとも学園の生徒である間だけは、二人を添い遂げさせてやりたい、というのが校長の願いです」

「難しい注文ね」

「ええ、発掘された御宝はそのための技術開発等の研究資金にもなっています」

「基本的にハンターチームの身元は非公開でしょ、どうやって校舎に?」

「秘密の地下道ってのがあるんですよ、例えばどこかのコンビニのトイレと繋がっているとか、それと、普通科と並んでいる校舎だけが特殊研究科の校舎ではないんです、あと他校の生徒が裏でこちらに在籍していたり、普通科の生徒で裏でこっちに在籍していたりするのもいます」

ふと、疑問に思ったことが有る。

「早月様」

普段の俺なら呼び捨てだが、恐い人が横にいるから様付けで呼ぶ。

ちょっと早月は苦笑いをする。

「なに?」

「闇鮫・影鮫ではこちらの事はどう聞いているのですか?」

「トレジャーハンターの関係で、あなたと瀬留奈がバイトしてるって事は聞いていたわ。まあ、基本的にこちらの領域に踏み込んでこなければ黙認することにしています」

「‥‥‥‥そうですか」

「越智苑の秘密のチーム、と言っても、貴方はもう、自己紹介しちゃったから、堂々と正面から入ってもいいんでしょう?」

「まあ‥‥‥そうなりますね、校長公認の表の広報担当になると思いますよ、この身体は」

しばらくして、車は越智苑の校舎前で止まる。

俺(紫乃)、早月、実耶子、

一緒に並んで下りて、校舎に向かって歩く。

朝は、いつも俺は落ちモノ美女と、男のカップルの登校を指をくわえて眺めていた、

いつか今度は俺が眺められる番になりたいと思っていたが、

別な意味で眺められることになるとはな‥‥‥‥

俺は(紫乃)は、二人と別れると、

隣の特研の校舎に向かう、

ここに滅多に出入りする生徒を見た者はいない。

運送の作業員とか、校長とか、

そういう連中しか見た事はないはずだ、

俺は、その入り口で、手を翳して指紋認証を行ない、

目を機械に近づけて、網膜認証を行なう。

入れるように昨日のうちに校長に手配してもらったのだ、

ピピッ、と音がして、ドアが開く。

おおおっ!

と、後で見ていた連中の歓声が揚がる。

驚くのも無理はない。

初めて越智苑の公の場に姿を表わした、特研の生徒だ。

でもいいんだろうか?、

これで、紫乃は正式な越智苑の生徒扱いになる、

闇鮫の『人形』(バイオドール)がだ、

他の『人形』は、大概が闇鮫や影鮫で御役目を果たしている、

この『人形』は超特注のもので、製作に莫大な金がかかっている。

人形の『性能』は、闇鮫・影鮫の高位の『使い手』に匹敵する、

表の世界に堂々露出するのは、非常に好ましくない。

そこの所、闇鮫はどうするんだろう?

更に言えば、もう一つあるのだが、それは後で判る。


職員室に向かう。

しゃっ、と職員室の自動ドアが開く、

普通科の、ガタが来た木製の戸とはえらい違いである。

中にいた特研の『教師』数人がこっちを向く、

『教師』はトレジャーハンターチームの頭脳労働担当である。

「君は?」

一人の少女が俺(紫乃)に話しかける。

エレノア・ソマーズ、

銀髪ブロンド、碧眼の、まだあどけない顔。、

年はまだ11歳だが‥‥‥‥、

チームの『教師』である。

アメリカの、なんだったか、非常に難しい大学を、

飛び級して、去年わずか10歳で卒業した天才である。

「春雨紫乃です、校長はいらっしゃいますか?」

「ああ、あなたがシノね、マサミチから話は聞いてるわ」

エレノアは内線で校長室に電話をかけて確認をとる、

「はい、はい‥‥‥‥わかりました」

電話を切る、

「今、マサミチが来るって、貴方を今来ているメンバーに紹介しておくそうよ」

ほどなく、校長が入ってきた。

「紫乃さん、会議室に行きましょうか」

俺(紫乃)はエレノアに礼を言うと、校長と下に出る。

「私以外は、鬼太君が紫乃の身体を動かしている事を内緒にしています。」

「ああ、そうしてくれ」

「あなたも、知らないはずのメンバーに、知っているように話しかけないでください」

「分かってる」

会議室に入ると、何人かのメンバーが集まっている。

正面に校長と並び、

黒板に校長は、

チョークで、

『春雨紫乃』

と書き、紹介した。

「え~、転校生の春雨紫乃さんです、今日から同じ学び舎で過ごす事に‥‥‥‥」

「校長よお‥‥‥普通にメンバー紹介すれば良いんじゃねえか?」

と、髭面のおっちゃんが手を上げる。

鏑木健義かぶらぎ・たけよし

元はフリーのトレジャーハンターだったのを校長がスカウトしてきた人材だ、

彼だけじゃなく、大概は他のみんなも校長のスカウト、

自分から志願して来たっていうのは、

俺・黒鮫鬼太ぐらいのものである。

「私はこの学校の校長です、そして貴方達は生徒です、せめてこう言うときぐらいは学校らしくしないと‥‥‥普段が普段ですからねえ」

確かに、ここの連中は制服も着ていない。

というか本当は、この学校は私服OKなんだが、基本的に殆ど普通科の連中は制服(標準服)を選んで着ている。

「変なところで律儀だなあ」

と、鏑木があきれている。

「まあ、仲良くしようや、ここだけでなく、プライベートでもな♪」

にっ、と人懐っこい笑顔を向ける。

「いえ、遠慮させていただきます」

「そんなこと言わんと」

「彼女は闇鮫の『使い手』よ」

全員が言葉を発した主に注視する。

「瀬留奈‥‥‥‥」

そこには、紫乃と同じ位の美しさを持つ女が座っている。

頭をポニーテールに纏め、

格好は、野戦服という色気のカケラもない出で立ちで、

化粧もない、

それでも彼女は美しい。

『命の輝き』とも言えるはつらつさが、

彼女の美しさを際立たせている、

「手を出すのならそれ相応の覚悟はしておいたほうが良いわよ」

げっ、と鏑木が顔を引きつらせる。

「‥‥‥じゃあ、お前と同じって事か‥‥‥知り合いだったのか?」

「会うのは始めてよ‥‥‥データは知っていたけど」

「おお、怖ええな、早めに分かってよかったぜ」

「私の二の舞にならなくってよかった?」

「まあな」

首を竦める鏑木、

「今の会話で大体のことは分かっていただけたかと思います」

と校長が笑う。

「では春雨さん、適当な席に着いてください」

俺(紫乃)は頷いて、会議室の適当な椅子を見繕って座る。

「本題に入りましょう、それぞれの状況の報告をお願いします‥‥‥まずは鏑木君から」

「はいよ」

立ち上がって彼は教卓に向かう、

校長は横の席に腰掛ける。

ういいいいいん、と大きなスクリーンが上から下りてくる。

「プレ・インカ文明の遺跡の更に下の地層に封印されていた『暁の乙女戦士』の眠る墓だが‥‥‥」

石造りの穴がスクリーンに映る。

「ここの右に穴が開いてるだろ」

と、伸縮ペンでその部分を指し示す

「で、実際に掘ってみたんだが、既に盗掘にあってた」

「俺達も人のことは言えないがね」

仲間の一言に、にっ、と笑う鏑木

「そうだな、政府に嘘ついて探してる訳だからな」

「残っていたものは?」

校長の言葉に、鏑木はスクリーンに向き直る、

ぱっ、と映像が変わり、墓の中身が投影される。

「幾つかの土器片、墓の壁に刻まれた文字、ミイラを入れた瓶棺、そして‥‥‥‥‥」

ぱっ、

「中身のミイラだ」

全員の目が真剣味を帯びる。

「回収はできたのか?」

「なんとかな、現在ミイラの頭髪から細胞サンプルを取り出して遺伝子検査をしてる」

「細胞の保存状態は?」

「ああ、その髪の毛をリンゲル液で戻してみたんだけどな」

ぱしゃ、

細胞の顕微鏡写真が映る、

「細胞が活動を始めた」

「‥‥‥‥‥生きてるって訳か」

「全身をリンゲル液につけたら復活するのかしら?」

「カップラーメンじゃねえんだ、そんな簡単にはいかねえよ」

「復活の方法は見当が着くか?」

ああ、と頷いて、さっきのミイラに映像を戻す。

「ほら、何かを持っているような手の格好だろ」

「ああ、持っていたものは盗掘されたのか?」

「おそらく」

「確か‥‥‥インカの神官巫女・テスカトリポカというのがいたと聞いたことがある、あれの墓は手付かずだったと思うが」

「ああ、墓の形状等は、今回の墓と酷似しているそうだ、1943年に、農家の少年によって発見された時、ミイラから美しい乙女に復活したわけだが‥‥‥」

ぱっ、

白黒フィルムの映像に切り替わる、

南米の古代民族風の衣装を着た美しい女がいた、

「これは、当時米軍に没収されてたフィルムなんだが、校長に掛け合ってもらって、コピーを取らせてもらった」

彼女を遠巻きに取り囲む軍人、

手に手に銃を構えている。

「相手は‥‥‥ドイツ軍か?」

「ナチスが、軍事転用可能なオーパーツを探し求めていたのは有名な話しですな」

彼女の周りの空気が、ざわ、と蠢いた感じがした。

ぶおっ、と突風が起きると、

周りを囲んでいたドイツ兵達が、すべて吹き飛ばされていき‥‥‥‥

映っていた映像がぐるっと回転して、

暗転した。

「暁の乙女戦士も、彼女に近い存在だと考えられるな」

「つまり、テスカトリポカが復活した時のプロセスが分かればいいのか」

ぱしゃ、

丸い図形を描いた絵が映し出される。

「当時の少年の話では、直系10~15センチ程の丸く黒い石版、金色の何かの象形文字が象眼で描かれていたものをミイラが抱いていた、テスカトリポカとして復活するとき、持っていたこれが光っていたらしい」

「暁の乙女戦士が抱いていたのもこれだと?」

「ではその石版の行方はわからないのか?、金や銀なら鋳溶かせば分からなくなるが、石なら美術品として探せば‥‥‥‥」

「ああ、表・裏のオークションや美術ルートを当たってみた」



ぱしゃ、

12の石版の写真が浮かぶ。

「‥‥‥12個もあるのか?」

「って事は、同じ『落ちもの美女』があと11人いるわけ?」

「男用、って可能性もあるさ」

「‥‥‥ってことは、ここの管轄じゃなくなるわけだな」

「ええ、その場合は応寺学院おうじがくいんの管轄になるでしょう」

「応寺学院?」

俺(紫乃)はその名前を初めて聞いた。

ええ、と校長は頷いて説明してくれた。

「こことは姉妹学園にあたる場所です。あの学校だけは違う地域に建設されているので名前を耳にすることはあまりないかもしれません」

「落ちモノ学園の男性版さ、ちなみに白馬町にあるから『白馬の王子様学園』なんて裏のアダ名がついてる」

鏑木が補足してくれた。

「こちらで見つけたのが男系の落ちモノだった場合は連絡して向こうに引き取ってもらいます、逆の場合もありますが。」

「さて、そこで問題だ、この12つの石版の流れたルートを調査してたんだが、なんと4つまでが、同じ場所に集められてる、しかも場所は日本だ」

「日本?、どこだ?」

「蟻江音学園都市、聖・藤咲学院----」

一瞬、会議室内が、驚きの空気に包まれた。

「‥‥‥つまり、俺らのフィールドにそれが持ち込まれてるってわけかい」

「そういうことだな」

「で、どうするんだ?、校長」

「蟻江音の中の学校は、互いのやる事に『不可侵』ですからね、逆に私達がおいそれと手を出すことが出来ない訳ですが、唯一、交換留学と言う手段があります、お互いの領域に跨がる出来事に関しては、この交換留学を使って解決するように定められています」

「なるほどな、で、誰がエージェントに成るんだ?」

「春雨紫乃さんです」

全員の目が俺(紫乃)に注がれる。

「そのために闇鮫の使い手をスカウトしたのか‥‥‥‥」

「ええ、黒瀬川学園からの短期転校生、という手もあるのですが」

「黒瀬川?、なんだそりゃ?」

鏑木が怪訝な顔をする。

「通信教育過程の高校名ですよ、サーカスとか旅芸人とか、仕事で場所を点々とする人間のための教育課程です、蟻江音と提携している各学校になら一時転入が非常に簡単に出来るんです」

「ふ~ん、なんで今回はそっちを使わねえんだ?」

「黒瀬川学園の転校生は、実際は蟻江音の暗部、始末屋ですからね、下手に使うと学校同士への諍いに発展する恐れがあるんです」


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