新たな進展
卓也と別れた後もまだ心臓の鼓動が激しく、鳴り止んでくれなかった。初めて男の人に抱きしめられた。あの感覚がまだ残っている。恥ずかしいような嬉しいような不思議な気持ちだった。
あれからかなり時間が経ってしまった。急いで戻って来たけど瞳まだいるかな?怒ってないかな?
ファーストフード店に着いた私は急いで店について入ろうとした時店の脇の細い路地の方から瞳の声がした。私は慌てて声のする方へ走って行き
「ごめん瞳お待たせ………!?……」
思わず私は物陰に隠れてしまった。ヤバいところを見てしまったと思いつつもその場から動けなくなってしまった。
「裕也先輩私…先輩の事が好き。どうしようもないくらい。例え先輩が他の誰かを好きでその人の事どうしようもないくらい忘れられなくてもイイ。私は先輩じゃないとダメなの。私こんなんだから、本当に好きなのに軽く見られたりするけど…」
そこまでいうと裕也先輩が口を開いた。
「瞳ちゃん。もういいよ。俺わかってるから。瞳ちゃんがそんな子じゃないってわかってるから。大丈夫。正直最初はちょっと軽い子なんじゃないかって思ったりもしたけど、一緒にいると凄く楽しくてまっすぐ俺をみていてくれてるのもわかったからそんな子じゃないってわかったんだ。俺にとって瞳ちゃんの存在は……」
その時瞳が裕也先輩の胸にしがみついた。
「嫌…。その先は聞きたくない…怖い。先輩の気持ちわかってるから。なんとも思ってない。妹みたいな存在だって。」
瞳の声は震えていた。
「瞳ちゃん?勘違いしてない?」
「え???」
裕也先輩の胸の中から顔を上げると瞳の頬を涙が伝っていた。
「俺。瞳ちゃんの事好きだよ。ごめんね。何度も言おうと思ったんだよ。でも何かタイミングがなくて…。それにすぐ瞳ちゃんはぐらかすし。(笑)」
「本当の本当?夢じゃないよね?!」
「うん。嘘じゃないよ。俺の素直な気持ちだよ。」
「んじゃ…両思いって事?」
「そう。」
「私が裕也先輩の彼女?」
「瞳ちゃんが嫌じゃなければ。」
「嫌なわけないじゃん。裕也先輩のバカ!!でも大好き。」
もう一度裕也先輩に思いっきり抱きつく瞳。裕也先輩はそんな瞳を微笑みながら頭を撫でて抱きしめ返した。良かったね瞳。おめでとうって心の中で唱えた。
「瞳。こっち向いて。プレゼントがあるんだ。」
瞳は顔を素早く上げた。
「何?誕生日はまだだけど?」
すると裕也先輩の顔が瞳の顔に近づいて行く。2人の唇が重なり合う。やがて静かな口づけから激しい口づけに変わっていった。裕也先輩の手が瞳の太ももに乗り、私はこれ以上は見てはいけないと思い物音を立てないようにファーストフード店に入り飲み物を頼み瞳を待った。家に帰ることも出来たがいろんな事がありすぎて瞳とどうしても話したかった。瞳に会いたかった。
それからしばらく経ち携帯が鳴った。
『夢香!今どこにいる?』
『いつもの店で待ってるよ。』
そしてすぐ慌てた様子で走って瞳が店に入ってきた。
「夢香ごめーん。待ってるなら連絡くらいくれても良かったのに!」
「いや…立ち聞きするつもりはなかったんだけど、たまたま瞳の声するなって思って近付いたら瞳と裕也先輩がいたから邪魔しちゃ悪いと思って連絡しなかったの。」
「聞かれてたか。恥ずかしい(笑)ってことは説明する手前が省けた!(笑)私裕也先輩の彼女になった。」
「おめでとう★自分の事みたいに嬉しい!良かったね瞳。」
「ありがとう☆で、夢香の方はどうだったの?」
「なんか…自分でもよくわからないけど卓也先輩と自然に話せるようになって、卓也先輩に抱きしめられたんだけど嫌な感じしなくて…でも好きとかよくわからなくて。」
「それが恋だよ。じゃぁまた同じ質問するね。もし私と卓也先輩が抱き合ってるのをみたらどう思う?」
「それは嫌…かな。」
「ほら!前とは違うじゃん。おめでとう!夢香の初恋があんなイケメンとはねー。今日は赤飯炊かないと!(笑)」
「何それ?やめてよ。おばさん臭い。(笑)」
「で、付き合ったの?」
「いや、そういう話しにはならなかったよ。やっぱり先輩の事私が何とも思ってないっての伝わってたみたいだったから…。」
「えー。せっかくいい感じだったのにもったいない。ちゃんと夢香の気持ち伝えないと誰かに取られちゃうよ!」
「うーん……。」
「も~、夢香は本当に世話が焼けるな!携帯貸して!!」
「えっ!?……うん。はい。」
瞳に携帯を差し出す。
『話したい事があるんですが、明日少し会えますか?』
送信。ピッ!
「これでオッケー☆夢香頑張りなよ!」
「はい!瞳先輩頑張らせて頂きます。ご協力ありがとうございます。(笑)」
「何それ、夢香気持ち悪い。(笑)」
「そういえばさっき敬語でメール打ってたけどタメ口で話し出来るようになったんだ。」
「凄いじゃん、夢香!あっ!だったらさっきのメール不自然だったかなあ?適当に誤魔化しといて!」
その時瞳の携帯が鳴った。
♩♪♬♩♪♬♩♪♬♩♪♬
「誰?裕也先輩?」
「ちがーう。親。めんどくさ。」
ピッ!
『もしもし。何?分かったって。今から帰るから。分かったってば。んじゃ切るね。はいはいはーい。』ピッ!
「ごめーん。親まぢうるさいから帰らなくちゃ。これ以上小遣い減らされたら困る(泣)」
「大変だね。じゃ帰ろうか。」
私達の家は物凄く近かったため、ギリギリまで話し込み申し訳なさそうに瞳バイバイする瞳を見送り、私も家に着いた。いつものように真っ暗だ。ただいまを言っても返事がないことすらわかってる。私の家は母子家庭だ。私が幼い頃に離婚し、父のことはまったく記憶になかった。まだ小さかった頃、母にお父さんはどこにいるの?って聞いたことがあったけれど、お父さんは死んだんだよと涙をこらえるように私の目を見ないで答えた事があった。あれから私は二度と母の前で父の話はしてはいけないと思った。
私はすぐ自分の部屋に入り制服を着たままベットに横になった。そういえば卓也先輩からメール返って来てるかな~と思い携帯をカバンから取り出した。すると卓也先輩からメールが返ってきていた。
『どうしたの?敬語に戻ってるし(笑)部活終わってからなら大丈夫だよ。ってか俺んち来る?』
もうドキドキが止まらなかった。