恋心に釘を刺すつもりだったけれど、告白したら……。愛が重いのはどうですか?
「なー、春希って好きな人いんの?」
半開きのドアに私は近寄る。
教室の窓際に座っていて、丸聞こえだ。
放課後、一緒に帰ろうと誘おうとしたところだった。
「あぁ、いる……」
春希の低くて、柔らかい声。
嘘………。
時が止まった錯覚までする。
今にも膝から崩れそうな思いだ。
私の長年の片思いは、儚く灰となった。
「特徴は?? クラスでナンバーワンのイケメンって言われてる男の好きな人とか、めっちゃ気になる!」
きっと、友達はキラキラとした眼差しを向けているのだろう。
「黒髪が長くて、よく笑う人。それと、俺はずっと前から好き……」
低く、落ち着いた声が静かな教室に響き渡る。
私では、ないな……。
この一言で、心臓がナイフで刺されたみたいだった。
「え? そんな可愛い子、おらんくね?」
友達が、その子の存在を否定する。
春希、きっと傷つくんだろうな。
「は? お前に良さが分からねーだけだろ? 外見でしか見ていないから」
少し怒りが混じった声がする。
ふっ……。そんなにも好き、なんだ……。
太陽が暗闇へと沈みかける。
廊下は、夕日色に染まり、光が反射する。
恋に落ちた、あの時を思い出す。
明日は大事な試験がある日だった。
少しでも勉強時間を作るために、早歩きで家へと向かう。
「結衣!」
歩く足を止めて、彼の方へと振り返る。
クラスでもモテモテで、性格まで良い人。
どうしたのだろうか。
疑問に思い、首を傾げる。
「……明日の試験、頑張れよ!」
緩んだ口元に、笑うと細目になる目。
心臓が、飛び跳ねる。
「ありがと……」
私は固まったまま動けない。
だが、春希は一言言うと、その場を軽く走りながら、去っていった。
こんなことを思い出しても、どうしようもないけれど。
――ガラッ
ドアを勢い良く開け、春希が出てくる。
春希の吸い込まれてしまいそうな瞳と目が合う。
「結衣……? もしかして、話聞いてた?」
手を口元にやり、少し頬を赤らめる彼。
「好きな人、いるんでしょ?」
少し泣きそうな目になってしまう。
「いる……。なんで、泣いてんだ……?」
春希は私の溜まった涙に気づく。
昔からそう。
他の周りの人は気づかないような些細なことでも、気づいてくれる。
でも、今は気づかないでほしかったな……。
こんなところ、見せたくない。
「ごめんね。見苦しいところを。最後に一つだけ、言っていい?」
涙を指で拭き取り、春希と目を合わせる。
この気持ちだけでも伝えたい。
この恋心に、釘を刺してでも。
「私は、春希のことがずっと好きで」
言いかけたところで、止められる。
「ちょっと待って。そういうのは、俺から言いたい……」
春希は口を手元にやったまま、目を横に流す。
そして、私と目を合わせる。
気持ちに向き合うように。
「結衣が、俺を好きになる前からずっと好きです。夢にまで出てくるほど。これって、………両思いってこと、だよね?」
信じられない。
目の前のことが、儚い夢のよう。
「…………」
嬉しさのあまり、固まってしまう。
「……俺の気持ち、信じられない? 結衣のことを、授業中でも、部活中でも思っていたのに? 片時も忘れたことなんてなかった……」
いつもの爽やかな笑顔とは違い、悲しそうな顔。
「私も! だから、両思い、です……」
少しずつ、声が小さくなってしまう。
恥ずかしくて、顔が赤くなる。
私は、視線を下に移した。
私の心は、いつか爆発してしまうのではないだろうか。
「じゃあ、両思いだね!」
春希が、私の顔を覗き込み少しイジワルに微笑む。
■春希の隠し事■
家の薄暗い部屋の中、コーヒーを飲みながら思い出す。
結衣は、最初はただの『クラスの女子』だった。
誰にでも、ニコニコと笑っているのが印象的な。
だが、時間が経つにつれ、内面が見えてくる。
少しドジなところや、感情がわかりやすいところ、笑顔で怒りや悲しみを隠す強がりなところとか。
そして、いつの日かあの笑顔を俺だけに向けてほしい、と思うようになっていた。
檻にでも入れないと、逃げてしまうのではないだろうか、という焦りさえも。
結衣は、こんな俺の気持ち、知らないだろう。
いや、知らなくていい。
重いと思われるに決まっている。
やっと、望んだ関係になれたのだから。
このままでいい、そう心に蓋をした。
■後日談(春希)■
「春希ー! お前の好きなやつって結衣ちゃんだったのか。お前のタイプ、意外ー!」
俺の友達の鈴木が話してくる。
「あぁ」
少しめんどくさく感じたので、短く答える。
「春希サン。どんなところが、好きなんですか? お聞かせください」
手をマイクを持ったような形にして、インタビューをしてくる。
好きなところが多すぎて、どれを答えれば……。
「笑った時に口角がキュッと上がるところとか、俺の名前を呼ぶ声とか、授業中に眠そうにしている時にペンを回しているところとか、早く家に帰りたがるところとか、少し涙目になった時に強がるところとか、教室が暑い時に頬が桃色に染まっているところとか――――――かな!」
なぜか鈴木は引いた顔をしている。
自分から質問したくせに。
「あっ、うん。ステキー」
感情はこもっておらず、棒読みだ。
少ししか、答えてないのに。
そして、鈴木はフラフラとした様子で、自分の席へと戻っていった。
魂が抜けたかのように。
■後日談(結衣)■
「結衣! あの春希くんと付き合ったの!?」
この人は、佐藤涼花。
私の友達だ。
涼花は目が飛び出るくらいの驚きの表情をしている。
「あっ、うん!」
涼花に圧倒されながらも、きっちり答える。
「じゃーあ、禁断の質問! 結衣はー、どんなところが好きなの?」
目を輝かせながら質問してくる。
子犬が、うるうるお目目の攻撃をしてくるように。
「えっとね、優しいところとか、スポーツをしている時の真剣な表情とか、色々と気がきくとことか、少しイジワルな顔をしている時とか、腕を捲った時にけっか――」
涼花の顔は、幽霊でも見たような顔で引いていた。
今までの目はどこにいったのだろうか。
「うん。もういいよ。十分、分かった……」
静かに自分の席へと戻っていく。
「??????」
何か、したのかな?
まぁ、いっか。
■鈴木と佐藤、疲れた二人■
「「はぁー」」
二人のため息が、重なる。
校舎のベンチには、佐藤さんがいた。
「どうしたの? 佐藤さん……」
疲れきった顔で、質問をする。
佐藤さんも顔がやつれるくらい疲れていそうだ。
「結衣が惚気?過ぎてるのよ……」
俺と同じ悩みを持つ人が、ここにもいたのか。
「僕もだよ。春希が、ねぇ」
二人で深く頷く。
「なんか、似たもの同士ってかんじよねー」
佐藤さんが、晴々とした空を見上げる。
「うんうん。これからは、恋バナはやめよ……」
佐藤さんが、呆れたように頷く。
二人は、拳を合わせて、深く決意したのだった。
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