表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

恋心に釘を刺すつもりだったけれど、告白したら……。愛が重いのはどうですか?

作者: 実瑠さくら
掲載日:2026/01/22


「なー、春希って好きな人いんの?」



 半開きのドアに私は近寄る。


 教室の窓際に座っていて、丸聞こえだ。


 放課後、一緒に帰ろうと誘おうとしたところだった。


「あぁ、いる……」



 春希の低くて、柔らかい声。



 嘘………。



 時が止まった錯覚までする。


 今にも膝から崩れそうな思いだ。


 私の長年の片思いは、儚く灰となった。



「特徴は?? クラスでナンバーワンのイケメンって言われてる男の好きな人とか、めっちゃ気になる!」



 きっと、友達はキラキラとした眼差しを向けているのだろう。



「黒髪が長くて、よく笑う人。それと、俺はずっと前から好き……」



 低く、落ち着いた声が静かな教室に響き渡る。


 私では、ないな……。


 この一言で、心臓がナイフで刺されたみたいだった。



「え? そんな可愛い子、おらんくね?」



 友達が、その子の存在を否定する。


 春希、きっと傷つくんだろうな。



「は? お前に良さが分からねーだけだろ? 外見でしか見ていないから」


 少し怒りが混じった声がする。



 ふっ……。そんなにも好き、なんだ……。



 太陽が暗闇へと沈みかける。


 廊下は、夕日色に染まり、光が反射する。


 恋に落ちた、あの時を思い出す。




 明日は大事な試験がある日だった。


 少しでも勉強時間を作るために、早歩きで家へと向かう。



「結衣!」



 歩く足を止めて、彼の方へと振り返る。


 クラスでもモテモテで、性格まで良い人。


 どうしたのだろうか。


 疑問に思い、首を傾げる。



「……明日の試験、頑張れよ!」



 緩んだ口元に、笑うと細目になる目。


 心臓が、飛び跳ねる。



「ありがと……」



 私は固まったまま動けない。


 だが、春希は一言言うと、その場を軽く走りながら、去っていった。



 こんなことを思い出しても、どうしようもないけれど。




 ――ガラッ




 ドアを勢い良く開け、春希が出てくる。


 春希の吸い込まれてしまいそうな瞳と目が合う。



「結衣……? もしかして、話聞いてた?」


 手を口元にやり、少し頬を赤らめる彼。



「好きな人、いるんでしょ?」



 少し泣きそうな目になってしまう。



「いる……。なんで、泣いてんだ……?」



 春希は私の溜まった涙に気づく。


 昔からそう。


 他の周りの人は気づかないような些細なことでも、気づいてくれる。



 でも、今は気づかないでほしかったな……。



 こんなところ、見せたくない。



「ごめんね。見苦しいところを。最後に一つだけ、言っていい?」



 涙を指で拭き取り、春希と目を合わせる。


 この気持ちだけでも伝えたい。


 この恋心に、釘を刺してでも。



「私は、春希のことがずっと好きで」



 言いかけたところで、止められる。



「ちょっと待って。そういうのは、俺から言いたい……」



 春希は口を手元にやったまま、目を横に流す。


 そして、私と目を合わせる。


 気持ちに向き合うように。



「結衣が、俺を好きになる前からずっと好きです。夢にまで出てくるほど。これって、………両思いってこと、だよね?」



 信じられない。


 目の前のことが、儚い夢のよう。



「…………」



 嬉しさのあまり、固まってしまう。



「……俺の気持ち、信じられない? 結衣のことを、授業中でも、部活中でも思っていたのに? 片時も忘れたことなんてなかった……」



 いつもの爽やかな笑顔とは違い、悲しそうな顔。



「私も! だから、両思い、です……」



 少しずつ、声が小さくなってしまう。


 恥ずかしくて、顔が赤くなる。


 私は、視線を下に移した。


 私の心は、いつか爆発してしまうのではないだろうか。



「じゃあ、両思いだね!」



 春希が、私の顔を覗き込み少しイジワルに微笑む。







 ■春希の隠し事■


 家の薄暗い部屋の中、コーヒーを飲みながら思い出す。


 結衣は、最初はただの『クラスの女子』だった。


 誰にでも、ニコニコと笑っているのが印象的な。


 だが、時間が経つにつれ、内面が見えてくる。



 少しドジなところや、感情がわかりやすいところ、笑顔で怒りや悲しみを隠す強がりなところとか。



 そして、いつの日かあの笑顔を俺だけに向けてほしい、と思うようになっていた。



 檻にでも入れないと、逃げてしまうのではないだろうか、という焦りさえも。



 結衣は、こんな俺の気持ち、知らないだろう。


 いや、知らなくていい。


 重いと思われるに決まっている。



 やっと、望んだ関係になれたのだから。



 このままでいい、そう心に蓋をした。








 ■後日談(春希)■


「春希ー! お前の好きなやつって結衣ちゃんだったのか。お前のタイプ、意外ー!」


 俺の友達の鈴木が話してくる。



「あぁ」



 少しめんどくさく感じたので、短く答える。



「春希サン。どんなところが、好きなんですか? お聞かせください」


 手をマイクを持ったような形にして、インタビューをしてくる。



 好きなところが多すぎて、どれを答えれば……。



「笑った時に口角がキュッと上がるところとか、俺の名前を呼ぶ声とか、授業中に眠そうにしている時にペンを回しているところとか、早く家に帰りたがるところとか、少し涙目になった時に強がるところとか、教室が暑い時に頬が桃色に染まっているところとか――――――かな!」



 なぜか鈴木は引いた顔をしている。


 自分から質問したくせに。



「あっ、うん。ステキー」



 感情はこもっておらず、棒読みだ。


 少ししか、答えてないのに。


 そして、鈴木はフラフラとした様子で、自分の席へと戻っていった。


 魂が抜けたかのように。








 ■後日談(結衣)■


「結衣! あの春希くんと付き合ったの!?」



 この人は、佐藤涼花。


 私の友達だ。


 涼花は目が飛び出るくらいの驚きの表情をしている。



「あっ、うん!」



 涼花に圧倒されながらも、きっちり答える。



「じゃーあ、禁断の質問! 結衣はー、どんなところが好きなの?」



 目を輝かせながら質問してくる。


 子犬が、うるうるお目目の攻撃をしてくるように。



「えっとね、優しいところとか、スポーツをしている時の真剣な表情とか、色々と気がきくとことか、少しイジワルな顔をしている時とか、腕を捲った時にけっか――」



 涼花の顔は、幽霊でも見たような顔で引いていた。


 今までの目はどこにいったのだろうか。



「うん。もういいよ。十分、分かった……」



 静かに自分の席へと戻っていく。



「??????」


 何か、したのかな?

 まぁ、いっか。







 ■鈴木と佐藤、疲れた二人■


「「はぁー」」



 二人のため息が、重なる。 


 校舎のベンチには、佐藤さんがいた。



「どうしたの? 佐藤さん……」

 


 疲れきった顔で、質問をする。


 佐藤さんも顔がやつれるくらい疲れていそうだ。



「結衣が惚気?過ぎてるのよ……」


 俺と同じ悩みを持つ人が、ここにもいたのか。



「僕もだよ。春希が、ねぇ」


 二人で深く頷く。



「なんか、似たもの同士ってかんじよねー」


 佐藤さんが、晴々とした空を見上げる。



「うんうん。これからは、恋バナはやめよ……」



 佐藤さんが、呆れたように頷く。


 二人は、拳を合わせて、深く決意したのだった。

 


 

お忙しい中、読んでくださりありがとうございます。

少しでも面白いと感じたら、評価や感想をいただけると大変励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ