『鉱山に雪が降る日、レイナは』
「冬童話2026」への参加作品です。
1、レイナという子
あかぎれの手のいたさに顔をしかめながらも、レイナはもくもくと洗い物をつづけました。
でも、耳はしっかり廊下で話している村長さんと奥方さまの話を聞いています。
「それでレイナが行くことになりそうなの?」
「そうだ。『鉱山の魔女』がなぜ子どもをさらうのか知る必要がある」
「そんなの、子どもの若いエキスを吸うために決まっているじゃないですか」
「たしかにさらわれた子どもは、みょうに気力がなくなっているからな」
「我が家のミーナがさらわれでもしたらと、生きた心地がしないわ」
「だから、レイナにいかせるんだ」
「でもまだ12さいで子供でしょう?子供に何ができるのですか?」
「『鉱山の魔女』は、子どもの前にしかあらわれないし、レイナは知恵がまわるし、何よりあのくすんだ目だ。普通の子どもとはちがう」
ここまで話して、村長さんたちはレイナに聞こえないように声をひそめました。
「でも、12年前の子だと知られたら……」
「だからこそさ。それであのじけんが帳消しになるかも?だろう?」
レイナは何も感じませんでした。
ふつうの子どもたちが感じるであろう『鉱山の魔女』と言われる子どもをさらう魔女の所へ行かなければならない恐ろしさも自分の頭の良さをほめられたほこらしさも、何一つレイナの心を動かしませんでした。
ただ頭が良いので、自分のとるべき行動は分かりました。
(赤ん坊のころすてられた私を12年間、めしつかいとしておいてくださったごおんを返すために、その役目をはたしにいってまいりますと言えばいいんだわ)
こんな一人の少女の一生を左右する話を廊下ですることじたい、レイナのことをどう思っているか、レイナがどれほどの立場なのか、想像がつきます。
でもレイナはいつも間違えませんでした。
村長さんに呼び出されたレイナは、
「赤ん坊のころ、すてられた私を12年間、めしつかいとしておいてくださったごおんを返すために、その役目をはたしにいってまいります」と言いました。
その目には、何の光もありませんでした。
さらわれた子どもたちの目は、お日様の日に照らされて、きらきらしていました。
蝶を見てはひとみを輝かせ、両親の愛を感じてはとびっきりの笑顔で両親の胸に飛び込んでいくような子どもたちでした。
でも『鉱山の魔女』の元から帰ってくると、綺麗な花や洋服、すごいおもちゃを見ても、ただちからなく笑うだけになったのです。
お父さん、お母さんにだきしめられても、前ほどよろこばなくなったのです。
レイナは
(『鉱山の魔女』は私のことを役に立たないと思うだろう。だって今までの子どもたちとはちがって吸うエキスがないのだもの。もしかしたら殺されるかもしれない)
とまで考えていました。
村長さんが旅立ちの朝にごうかな朝ご飯を用意してくれたのも、お弁当をハチミツパンにしてくれたのも、もう戻ってこないかもしれないと思っていたからでしょう。
げんかんをでたレイナの元へ、ミーナが走りよってきました。
「レイナ、必ず帰ってきてね」
「ミーナおじょうさまはやさしいな」
「ミーナは心がきれいだ」
ミーナはみんなに褒められるのが好きな女の子でした。
レイナにはすべては分かっていましたが、いやな気持ちさえわきあがってきませんでした。
正解だけを口にする自分がいったいミーナに何を言えるのでしょうか?
レイナはミーナに
「ありがとうございます」
と頭を下げました。
大人たちも口々に
「レイナ、がんばれよ」
「レイナ、気を付けて」
と言ってくれますが、レイナにはきちんと本当の意味が分かっていました。
「では、いってまいります」
レイナはそれだけ言って、村をあとにして、鉱山へ向かったのです。
一度も村を振り返らないで。
2、レイナ、ほんとうの気持ちを言う
鉱山へは大人の足で半日あればつきます。
レイナの足でも一日はかからず、夕方には鉱山に入りました。
手入れされていないように見える荒れた雪山に冷たい雪混じりの風がくるくる舞い、村の子どもならすぐ帰りたいと思うでしょう。
でもレイナは「村長さんの奥方さまが持っていたあのきらきらした宝石がこういったところでとれるのね」と思っただけでした。
(さて、『鉱山の魔女』はどこかしら?)
周りを見ても、雪風が吹くばかり。
このままでは夜になってしまい、外でねることになってしまいます。
それはいやでした。
村長さんの家では、けっして心から大切にしてもらったわけではありませんが、食べ物やベッドは用意してくれました。
(わたし、ころされるかもしれないのに、外でねるのがいやだなんておかしいの)
レイナはかわいた声でわらいました。
「あなた、わらうのね!」
その時、かすかな鈴が鳴るような声がしました。
いつあらわれたのでしょう。
きづくと目の前に黒いワンピースをきて黒いハットをかぶったレイナより背の低いやせっぽちの女の子が立っていました。
その手と足は枯れ枝のようで今にもぽきりと折れそうでした。
レイナはいっしゅん息をのみました。
レイナも細い方ですが、その子は病気でないかというほどか細い子でした。
「あなた、だいじょうぶなの?ちゃんと食べている?」
レイナはよけいなことを考えず、思ったことを生まれてはじめてそのまま口にしました。
やせっぽちの女の子はおどろいて
「あなたにはどんなふうにわたしが見えているの?」
とぎゃくにたずねました。
「すごくやせているわ。この風でおれちゃうんじゃないかと思うくらい」
「ねぇ、ちゃんと食べている?このハチミツパンを食べなさいよ。たくさんもらったから、あまっているの」
「あなた、名前は?」
「レイナよ」
「レイナ。わたしの名前とにているわ。わたしはレオナ」
「レオナ。食べなきゃだめよ。たおれちゃうわよ。食べ物がないのね。かわいそうに」
「ちがうわ、レイナ。私は『鉱山の魔女』。魔法で食べ物でも家でもなんでも出せるわ。それにこの鉱山から宝石が出るから、お金もたんまり持っているわ」
「あなたが『鉱山の魔女』?食べ物も家もお金もあるなら、どうしてそんなに何もたべていないようなすがたになるの?」
レオナは質問にこたえず、空に文字を書いて、雪と共にとばしました。
「やっと見つけた!」
「見つけた?」
レイナは意味が分からず、レオナを見つめるばかり。
「お父さんとお母さん、今ごろ喜んでいるわ」
「レオナ、いったいどういうこと?」
「レイナ。あなたも魔法が使えるのね」
「え?魔法?私は魔法なんて使えないわ」
「わたしがさがしていたのは、あなたなのね」
「さがしていた?レオナがわたしを?なぜ?」
「まず家を出すわ。ゆっくりお茶でも飲みながら話しましょう」
そう言って、レオナは天に向かって人差し指をむけました。
「天をつかさどり、しはいするものたちよ。われにちからを!」
するとほっとするようなオレンジ色の灯りが窓からもれる白いかべの赤い屋根の小さな家が出てきました。
「レオナ、ほんとうにあなたって魔女なのね」
と横を見ると……。
「レオナ!すがたがかわっているわ!」
レオナの手足は先ほどよりふっくらして、けんこうそうに見えました。
そして、くぼんでいて良く見えなかったひとみもラベンダー色できらきらとかがやいています。
「レイナ。やっぱりあなたは魔女よ。さぁ入って。ハチミツパンだけでは栄養が足りないわ。ごちそうを用意するわね」
レオナはレイナの手をとって、中に入っていきました。
レイナはされるがままでした。
3、レイナのしんじつ
チキンやシチュー、色とりどりの野菜のサラダ、大きなケーキなどが目の前にあっても目に入らないかのようにレイナはすぐにたずねました。
「わたしをさがしていたってどういうこと?」
「あなたはわたしのお姉さんってこと」
「え?」
「鏡を見てみて」
レイナが鏡の前に立つと、少しすがたが変わっていました。
死んだようだったトパーズ色の目が生き返り、レオナと同じミルクベージュの髪も心なしかつやつやになっていました。
「それがレイナのこの瞬間のほんとうのすがたよ」
レオナにいたっては、ラベンダー色のひとみはキラキラ輝き、ミルクベージュの波打つ髪はつややかに光り、手も足もふっくらと子どもらしくなっています。
頭の良いレイナはそのいみが良く分かりました。
「私にはあいての心のすがたがかぶさって見えるのね」
レイナは、ミーナがときどききつねのようにずるがしこい顔になるのを思い出して、思わずうなづきました。
「それが魔法よ。レイナ、やっと見つけた!」
そう言ってレオナは、レイナにだきついて、泣きはじめました。
「わたしがお姉さんってどういうこと?」
「あの村の人たちはわたしたちのお父さんやお母さんが管理していたこの鉱山を村のものにしようと、あなたをさらったのよ」
「え?」
「あなたは鉱山で生まれて。生まれた日にあなたは‥‥」
さすがのレイナもぞっとしました。
「一つ間違えてわたしが先に生まれていれば、私がレイナの立場だった」
レオナの暗いひとみを前にして、このざんこくな話がしんじつなのだとレイナは胸が苦しくなりました。
「さらった人たちはみんな魔女ののろいで死んだ。魔女に悪いことをするとのろわれるのよ。お父さんとお母さんは、今山の向こうの国にいるわ。魔法の国よ」
「お父さんとお母さん?わたしにもいるの?」
「当たり前じゃない」
「お父さんとお母さんに会えるの?」
「すぐ会えるわ。国で大切な役目があって、国をずっとはなれられなかったの。でもきっと明日にでも会えるわよ」
「レオナはどうしてここにいるの?わたしをさがすためだとしても、どうして一人で?」
「見たでしょう?魔法で何でもできるから、たとえ11歳でも魔女はひとりでだいじょうぶなの。それに私は大人の魔法使いと同じくらい、魔法がうまいのよ。子どもをさがすなら、子どもの魔女の方が良いというのも、お父さんとお母さんの意見。だって、子どもがよろこぶことが分かるから」
「こどもたちをさらったのはどうして?」
「決まっているわ。いちかばちかで魔法のかけらを持つ子をさがすため。それを持つのが、私のお姉さんだから。でもぜんぜん見つけられなかったの」
「村の大人たちは、魔女は悪いやつだと言っていたけれど、子供たちは魔女にまた会いたいっていう子ばかりだったわ」
「人間の子って魔法を見せてぜいたくと楽をさせると、それはそれはよろこぶの。何でも好きなものが魔法で手に入るからね。でも、だんだんわがままになって、あれもこれも」
そう言って、レオナはあきれた顔をしました。
「私は村の子どもに一度も笑顔を見せなかったけれど、それでも魔法を一度見せると、くいつくわね」
「すごい!空を飛ばせて!」
「大きなケーキにかぶりつきたい」
「竜が見たいよ!竜を出して!」
レオナは子供たちの目をかがやかせていたすがたを思い出して、力なくわらいました。
レイナは何となくその様子の想像がついて、目をふせました。
「たった3日くらいだったけれど、楽しませても、ぜいたくさせても、さいごには『お父さん、お母さんに会いたくなった』って泣くから、帰すのよ」
レイナは気持ちを落ち着かせるようにため息をつきました。
「お父さんやお母さんに会いたくなっても、魔法が忘れられなかったのね。レオナの魔法を見たら、村にあるものなんかにわくわくしなくなるからね」
「そう、あれだけ会いたがっていたお父さんやお母さんのことさえ、魔法使いだったら良かったのになぁなんて思う」
「だから、生き生きしなくなったのね。村では『鉱山の魔女』が、子どものエキスを吸うからだなんて言われていたわ」
「失礼しちゃう。魔女は自分の若さくらい魔法で何とでもなるわ。ほんと人間ってきらい」
レオナはほおをふくらませて、怒りました。
その姿が言葉と何一つたがわないのを、レイナは不思議な気持ちで見ていました。
4、レイナとレオナ
「本当にわたしはレオナのお姉さんなの?」
「そうよ!レイナは、わたしのお姉さん!魔法のかけらがここまで残っていたのは奇跡よ」
「奇跡?じゃあ、私は修行してもレオナのようになれないの?」
レオナは下くちびるをきゅっとかみました。
「そうよ!あの村人たちのせいで、レイナは魔法は使えない!魔女にはおきてがあるの。人間の子どもとは3日間、大人とは半刻以上交わってはいけない。そのおきてをやぶると、力が使えなくなる。だからレイナは魔法が使えない。魔法のかけらが残っていたのはほんとうに運が良かったの」
「きびしいおきてなのね」
「そうね。にんげん、特に大人は、魔法を利用して悪いことをしようとするから」
「どうしたって魔法はつかえるようにはならないの?」
レイナはふるえる声で聞きました。
レオナもふるえる声で答えます。
「ごめんね、レイナ。わたしはうそはつかない」
レイナは怒りをおぼえ、こんなに怒ったことは今までありませんでした。
「わたしをさらった村人は死んだと言ったけれど、今の村の人たちは何も知らないの?」
「知っていれば死んでいるはずだわ」
「じゃあ、今の村長たちは、何もしていないから生きているの?」
「たしかにさらったりはしていないと思う。でも、あなたが『鉱山の魔女』とかかわりがあることくらい分かっていたと思うわよ。あなたをさらってから、多くの村の大人が死んだのだから」
「そんな子どもをどうしてそだてたのかしら?」
「自分の命がおしくなったんじゃない?レイナをすてて、レイナがそのまま死んだりしたら、村の多くの大人たちのように自分たちも死ぬかもと思ったんだと思うわ」
レイナは、わなわなとふるえ、下を向きました。
「なんてじぶんかってなの!」
「ほんとよね」
「そんな人たちのために魔法がつかえなくなったなんて。それに‥‥魔法がつかえないなら、死んだ方がよかったかもしれない」
レオナはまた下くちびるをきゅっとかみしめて、声をしぼりだしました。
「その気持ち、ほんとうによく分かるよ。でも、レイナが。せっかく会えたレイナが死んじゃうのはもっともっと、すごくすごくいやだ……!」
ラベンダー色のひとみにみるみる涙がこみ上げます。
「ごめん、レオナ。そうだよね。わたし、レオナに会えて本当に良かった」
レイナはレオナをだきしめました。
レオナもレイナをしっかりと抱きしめかえして、強く言いました。
「だから、わたし村の子どもたちが生き生きしなくなって、ざまぁみろと思うわ」
きょうれつなこの言葉にレイナは心地よさをおぼえました。
それはまぎれもなくレオナのレイナへの愛だったからです。
5、レイナが見つけた大事な気持ち
レイナはいつものくせで正解を言おうとしましたが、レオナの温かさとまだ涙がこんもりしているひとみを見て、こう言いました。
「レオナ。わたし自分の気持ちが分からない。今のわたし、あなたの目にどううつっている?」
「すごく悲しそうだけれど、びっくりするくらいきれいよ」
「良かった。多分、これがわたしの本当の気持ち。私ね、くやしい。ほんとうにくやしい。でも、心のおくにもっと大きな気持ちがあるの。それは悲しみ。人間ってどうして私たちをうらやましがって傷つけるんだろうって」
レオナは、じっとレイナを見ています。
そのひとみにも光が美しくやどっていました。
「もうこんなことをさせないために何ができるかな?って考えたら、仕返しじゃなかった。あの人たちに自分たちのほんとうのすがたを見させようと思う。それはあの人たちのためでもある」
「ほんとうのすがた?」
「そう。私が見てきたあの人たちのすがたを」
「だいさんせいよ!レイナ!わたしがてつだえば、今すぐにでもその魔法、使えるわ」
「ありがとう。レオナ」
その夜。
一つのほうきにのった二つの影が月夜をすべっていました。
雪はいつの間にかやんでいました。
そして、レオナは高らかに声をはりあげます。
「天をつかさどり、しはいするものたちよ。われにちからを!」
すると月の光が村を包みました。
次の日。
村は大さわぎになったでしょうか?
いいえ思いのほか静かでした。
自分たちのみにくいすがたとふんいきに、すっかりおびえてしまっていたのです。
ミーナだけがキンキンした声で言いました。
「こんなの私じゃない!」
そういうと、よけいに顔はけわしくなり、じぶんでも目をそむけてしまうほどの顔になり、ミーナも他の村人と同じように自分におびえはじめました。
レイナとレオナは、そのころ魔法の国へと旅立っていました。
お父さんとお母さん、たくさんの仲間が待つ国へ。
「お父さんはね、数年前から王様と話ができるくらいえらくなったのよ。お母さんはね、魔法を使わなくても、いろいろなことができるのよ。あっ、あとは会ってからのお楽しみね」
「ふふふ。もう少しだけきかせてよ」
レオナに出会ってから、レイナは思ったことをそのまますぐ口にできるようになりました。
「レイナ。ほんとうにあれでよかったの?村の人たちにほんとうのすがたを見せ合わせることだってできたのに」
「人にみにくいすがたを見られるより、ほんとうに怖いことは美しいと思っていた自分を自分でみにくいとみとめることだもの」
「たしかにね」
「そこからはじまる。あとはあの人たちしだいね」
「魔法はざんねんね、レイナ」
「いいの。村の子どもたちの話を聞いて思ったわ。魔法に左右される弱い心を私も持っていた。だから、魔法が使えないなら、死んだ方がよかったかもなんてレオナを悲しませるようなこと言っちゃったのよね」
「レイナはすごくまじめなのね。それくらい思ってとうぜんよ。だって、自分にもともとあったものをうばわれたのよ」
「そうね。まったくくやしくないといったらうそになるわ。でもね。今は魔法よりもずっと大切なものを見つけたから」
レイナはそう言って、箒の上でレオナを抱きしめ、涼やかな風の中で、きらきらしたトパーズ色のひとみをそっと閉じたのでした。
おわり
最後までお読みくださり、ありがとうございました!
今回は織花らしくないダークな側面があるファンタジー童話となりました。
何か感じることがございましたら、感想などで教えていただけますと嬉しいです。




