宝物のオルゴール
俺は彼女の大切なものを壊してしまった。
テーブルの上に並べていたオルゴールにコーラをかけてしまった。
これは近所に住んでいたおばちゃんが俺たち2人のために作ってくれたものだった。そんな俺たちの宝物を一瞬にして水の泡にしてしまった。
横に座っていた彼女は鳴らなくなったオルゴールを布巾で丁寧に拭いていた。
彼女の名前はしずな。家が近くて昔からよく遊んでいる幼なじみで同級生であり、好きな子である。
そんな彼女は毎週水曜日に俺の家でゲームをしにやってくる。水曜日は部活動がないため早く家に帰れるが、彼女の両親は夜にならないと帰ってこないため、暇だから俺の家に遊びに来たいと言われ、中学生になってからもこうして遊んでいる。
◇◆◇
今日は授業で『あなたの宝物』というテーマで自分の宝物を家から持ってきて発表するということがあった。
俺はしずなとは違うクラスなので、何を持ってきたのかずっと気になっていた。俺はオルゴールを持ってきていたが、しずなも同じものを持ってきていたらいいなと思って、俺の家で出し合うと同じオルゴールがテーブルに並んだ。
それが嬉しくて手元が狂ったのか、ほぼ口をつけていないコーラの入っていたコップが彼女のオルゴールに盛大にかかってしまった。
俺は勢いよく謝った。
「しぃーちゃんごめん!!」
「しょうがないよ」
彼女は自分自身にも言い聞かせるように言った。
幸い俺のオルゴールにはかからなかったので、まだ音が鳴り、動くようだった。
「俺のと交換しよ?」
「しなくていいよ」
「何で?」
「そしたら、ゆうちゃんの宝物が無くなっちゃうでしょ」
「そうだけど……」
「ゆうちゃんは悪くないし、しょうがないよ」
俺は罪悪感でいっぱいになった。彼女は今にも泣き出しそうなうるうるとした目をしているが、口角は上げていた。俺はそんな彼女を見ていられなかった。
「俺、しぃーちゃんのオルゴールもらってもいい?
俺のオルゴールはしぃーちゃんに持っていて欲しい。
動かなくなったけどさ、これはこれで思い出じゃん?
だからさ、俺のと交換して?」
「ゆうちゃんのこれでいいの?」
彼女は俺の目をまっすぐ見つめて聞いた。
「うん。むしろこれがいいんだ」
俺も彼女をまっすぐ見つめ返した。
「わかった。また一緒に並べようね」
「おう」
この約束から10数年の時が経ち、俺たちは夫婦となった。
寝室の棚にはこのオルゴールが2つ。夫婦のように仲良く並び、これからも俺たちの宝物だ。




