第2話 高圧的な女性調査分析官と男性刑事
車は辰巳のアパートからそう遠くない運動公園の駐車場に止まった。平日ということもあり車は疎らだ。中で昼食をとったり昼寝をしてる人が見受けられる。
「改めて自己紹介しますね? 私はミナミです。いわゆる刑事です。こちらが国防省のソウセイ調査官です」
「あっ、はい」
「ソウセイ調査官、ご挨拶を」
「不要です」
「そうですか。辰巳さん、調査官は疑われてご機嫌斜めらしいですね。すみませんね」
「あっ、こちらこそ」
「自己紹介はこれくらいにしておきましょう。辰巳さん、ご協力感謝します」
「あっ、はい」
「早速で悪いのですが確認して頂きたいことがあります。よろしいですよね?」
「あっ、分かりました」
「ちょっと、お待ち下さいね」
そう言うとミナミは運転席を降り右側側の扉から後部座席に乗り込んできた。彼は2人に挟まれて座ることになる。
「ソウセイ調査官、お願いします」
すると彼女はタブレットを操作し動画の再生ボタンをタップする。すると、広場の映像が再生される。そこには3人の人物が映ってる。
「これを見ろ」
その言葉に辰巳は画面を覗き込む。どこかの公園、広場だろうか、1人が正面で後ろ姿が2人映っている。正面を向いている者は顔に靄がいる感じて不鮮明だ。後ろ姿の1人が横を向く。その顔も不鮮明である。
その二人が物凄い速さで動いている。それは人間の動きとは到底思えない程だ。しばらくすると、その内の1人が倒れる。そして一瞬で消え去った。その直後、もう一人も徐々に消えていく。
残り1人が振り返る。二人ほどではないが不鮮明である。そこでソウセイが一時停止した。そして辰巳の顔を覗き込む。そして、彼女はほくそ笑む。
「これは君だろ?」
「えっ…………」
「君だろって聞いているが?」
「……」
「聞こえないのか?」
「んっ?」
「おちょくっているのか!」
「…………ちっ、違いますよ。何を仰っているのか理解が…………」
「耳の穴かっぽじって聞くといい?」
「この映像に映っているのは君だろ!」
「…………」
「まぁまぁ、ソウセイ調査分析官。そんなに熱くならさずに。辰巳さん、この映像に映っているのは貴方でしょうか?」
「心当たりありません……あっ、ちっ、違いますよ。こんな場所知りませんし」
「これを見るんだ!」
そうソウセイは言うとタブレットの画面を操作し始める。すると画面に映る残り1人の男性の顔に焦点があたる。そうしなら、その顔が四角で囲まれ次第に鮮明になっていく。
その顔に辰巳は驚愕する。その理由は、その顔が自分に瓜二つだからだ。思わず彼は今すぐにでも鏡を使って見比べたくなった程だ。
「これは…………」
「君だろ?」
「……たっ、確かに似てますけど……」
「認める?」
「心当たりが……いや知りませんって!」
「皆、そう言うんだよ。最初はなっ」
「ちっ、違いますって。身に覚えのない場所ですし」
「身に覚えのない? 場所?」
「…………全く知らない場所ですっ!」
「ここは君の生まれ育ったQ県たが?」
「えっ……だっ、だからって知ってるとは限らないじゃないですか! 私が生まれ育った所ですら全てを把握しているわけじゃないのにっ!」
「確かにそうだ」
「ですよね?」
「でも知らない場所に行くことはあるだろ?」
「あっ、そうですよ。私は帰省してませんよ。調べて下さいよ」
「調査済みだ」
「なら、なぜ聞きに来たんです?」
「それでも気になるからだ」
「本当に知りませんからね!」
「本当か?」
そう彼女は言うと顔を鼻先が付きそうなほど辰巳に近付ける。そして彼の瞳の中を覗き込む。しばらくするとゆっくりと彼女は離れていく。
「君?」
「……なっ、何ですか?」
「嘘はついてないようだな」
「そっ、そうですよ」
「じゃぁ、これは誰だろうな?」
「知りませんよ」
「自分だと自覚したら連絡くれ」
「どういう意味です?」
「言葉通りの意味だ」
「はぁ……」
「スマホ貸してくれ」
「えっ! どうしてです?」
「さっき連絡くれって言ったけど? 記憶力に難があるのか?」
「覚えてますけど」
「連絡先知らないと連絡できないと思うが?」
「まぁ……そうですけど」
「貸してくれ」
彼が渋々スマホをポケットから取り出そうとする。スマホが見えた瞬間にソウセイが取り上げる。そして番号を打ち込むと勝手に自分の名前を登録までしてあげてしまう。素っ気なく彼に返す。
「私もいいですかね? 辰巳さん」
「あっ、はい。どうぞ」
そう彼は言うと差し出す。彼女とは違いミナミは丁寧に受け取り番号を打ち込む。しかし、彼女同様に勝手に名前を登録してしまっている。一瞬、辰巳は職業柄そうなのかと思うが有り得ないよなと考えを打ち消す。
「どうも。連絡お待ちしてますね」
「あぁ、はい」
辰巳は受け取ったスマホをポケットにしまう。ふと右側に視線を感じる。すると、ソウセイが疑わしげに彼を見ている。
「なっ、何ですか?」
「見てただけだか? 気分を害したか?」
「……いえっ」
「間があったが」
「きっ、気のせいじゃないですかね?」
「そうか。そう言うことにしておこう」
そう言うと彼女は正面を向く。そして彼女はスーツのポケットからスマホを2台取り出し1台をしまう。すると彼女は無表情で辰巳を見る。
「これはプライベート用のスマホだ。誰からも掛かってこない。君からの連絡待ってるぞ」
そう言うと彼女は微かに口角をあげる。それに気付いた辰巳は言いしれぬ恐怖を覚える。
「返事はもらえないのかな?」
「……あっ、用があれば連絡しますね」
「あぁっ、待ってる」
「お時間取らせて申し訳ありませんでしたね、辰巳さん。ご協力感謝します。お送りしますね」
「あっ、はい」
ミナミはドアを開け運転席へと向かう。乗り込むとエンジンをスタートさせると車が動き出す。
彼らの様子を望遠カメラで撮影している者と更に辰巳たちとカメラの者を監視し撮影している者がいた。