表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/27

2-01 濡れ衣ピンク髪令嬢の逆襲~残念ですがざまぁされるのはそちらです~

「ピンク髪の元平民令嬢といえば、かわいこぶって男性をたぶらかす悪女」


王都の若い娘たちがこぞって夢中になるロマンス小説。

その最近のトレンドのせいで、ピンク色の髪を持つ侯爵家養女のメリディアナは学園で悪女扱いされていた。


どんなに勉強をがんばっても、髪色や生まれや特殊な魔力のせいで小説のキャラクターと同一視される。

女子生徒からは嫌がらせ。逆に男子生徒たちは群がってきて、なぜか王子たちまでもがアプローチしてくる。

おかげで、王子の婚約者や取り巻き令嬢たちからも攻撃され、さらには決闘を申し込まれたり命を狙われたり……!?


「皆さんほっといてくださいよ。私は普通の人間ですけど?」

「普通の人間は魔獣の群れを瞬殺できないんだけど?」


 人よりちょっと(?)魔力の多いピンク髪元平民令嬢が、初恋の人の力を借りながら、王子たちの求愛を突っぱね群がる敵を返り討ちにして平穏な学園生活を目指す物語。

 ────恥知らずなメス猫令嬢様へ。ピンク髪の売春婦は娼館にお帰りになったら?


「……また?」


 登校早々目にしたのは、赤いインクでロッカーの扉に書き殴られた悪意だった。


「あら、お可哀想ね。クスクスクス」

「フフフ……いい気味だわ」


 通りすがりの女子生徒たちが嘲笑っていく。

 私、メリディアナ・オーリウィックは、亡き父がいつも褒めてくれたピンクの髪をかきあげて嘆息した。


 高等部一年生、オーリウィック侯爵の姪であり養女である私は、この貴族の子女が通う学園の中で、嫌がらせの標的になっている。


 ロッカーには『平民は出ていけ』だの『あばずれ髪の淫魔』だの落書きされ。

 教科書や文具も目を離した隙に破かれ壊され。

 泥水をかけられたり、階段から突き落とされそうになったことさえ何度もある。



『ピンク髪の元平民令嬢といえば、他人の婚約者をたぶらかす尻軽悪女』


 それが若い娘に大人気のロマンス小説の最近のトレンドなのだという。

 私の容姿の特徴と、元平民、稀有な魔力持ちというのが条件に合うらしい。共通点を強調して悪評を流す人がいるせいで、すっかり私は『尻軽ピンク髪令嬢』扱いされているのだ。


(それで学校の備品傷つけるとか、意味わかんないんだけど。税金使われてるんですけど)


 そういう部分でも怒りはあるのだけど、へこたれてはいられない。私には夢がある。官僚になってこの国の医療体制を強化するという夢が。

 男性も色恋も不要です。私は仕事に人生を捧げるので。


 教師たちに被害を報告した後、私は教室に入った。

 今日も一日クラスメイトの敵意を感じながら授業を受ける。


「あの子ったら、また……ですって」

「絶対、魅了魔法を使ってるわよね」


 同級生のヒソヒソ話は大抵私の悪口なので、今日も一番前の席で勉強に集中する。

 おかげでこの前の試験も一位です。

 ……みんな、勉強しよ?



 放課後。


(終わった……図書館に寄って帰ろ……ん?)


 学園に隣接する図書館に向かって廊下を歩いていると、十人近い女子生徒の一団が私の前に立ちはだかった。


「メリディアナ・オーリウィック! ふしだらな真似はいいかげんになさい!」


 本日二度目の『また?』を言いたい気持ちをグッと抑える。


「皆様、どういったご用で……」


「白々しいわね、その態度!」

「この前はアギー侯爵家令息や騎士団長ご子息。今度はズール伯爵の令息……婚約者のいる殿方ばかり誘惑して!」

「おまけに王子殿下にまで近寄って……最悪!」

「魅了魔法とその胸で篭絡(ろうらく)しているんでしょう!」

「いやらしい体つき、淫らな髪の色……まるで典型的なロマンス小説の元平民の尻軽女キャラだわ!」


 騒ぎ立てているご令嬢方はオーリウィック家よりも家格が下だけど『あなた本来の身分は平民でしょう?』と言いたげな顔だ。

 そして彼女らを矢面に立たせ、後方から二人の公爵令嬢が私をにらみつけている。

 この国の第二王子と第三王子の婚約者だ。

 面倒だけど、私は言い返す。


「皆様の辞書には、殿方に待ち伏せされて人気のない場所に引きずりこまれそうになった女性も『泥棒猫』だと書かれているのですか? だとしたら今すぐ買い換えをお勧めしますね」


「っ、なっ!?」


「とっさに蹴り……いえ、逃げましたので事なきを得たまでです。先生方には報告し、ズール伯爵家には義父(ちち)より厳重に抗議をしております。髪色は生まれつきですし、女性の胸の大きさは性欲云々ほぼ関係なく遺伝的要因が大きいというのが定説です。それでは失礼いたします」


 丁重にカーテシーをし、私は彼女たちの横をすり抜けようとした。


「ま、待ちなさい!」


 一人が必死で進路をふさいでくる。


「さ、誘ってきたのはあなただと彼は言っていたわ! 自分が誘惑しておきながら被害者ぶって彼を陥れているんでしょう。最低よ!」


「ああ、あの人のご婚約者様ですか? では鎖つきの丈夫な首輪でもつけて、目を離さないでおいていただけますか。放し飼いにされると本当に迷惑なので」


「なっ……何よ……!」


 顔を真っ赤にした令嬢は、私の顔めがけてへたくそなビンタをしようと手を振り上げた。その時。


「────何をしているんだ、おまえたち!」


 男性の声。荒い足音とともに、声の主が駆けつけてくる。

 男子生徒の取り巻きと護衛たちまで引き連れて。


「またメリディアナ嬢をいじめているのか!? 彼女の美貌や、学園一の魔力に対する嫉妬か!? 大勢で卑劣な真似をするなど、言語道断!」


 第二王子、セオドア殿下。

 眼鏡をかけた高等部三年生。

 美形ながら生真面目な雰囲気の彼はなぜかいつも、私が女子に絡まれていると助けようとする。そして毎回事態を悪化させるのだ。


「殿下」


 公爵令嬢のうち一人が、氷のような眼差しで殿下を見据える。

 金髪碧眼、長身で華やかな顔立ちの美人。

 高等部三年生、殿下の婚約者アナスタシア様だ。


「メリディアナ様に注意をしていただけですわ。貴族の女性として目に余りましたので」

「こんな集団でか!?」

「何度お話ししても聞いてくださらないので、こちらも少し力が入ってしまったのです」

「大丈夫かメリディアナ嬢。大勢に詰め寄られて恐かっただろう?」


「……いえ、まったく」


 確かに、彼女たちには中等部の頃から何十度も詰め寄られている。

 私が男子に言い寄られるたび、自分から誘惑したのだろうとか魅了魔法をかけただろうとか決めつけてくるので、毎回話が平行線なのだ。


(たぶんそれ、みなさんが私を『ピンク髪の尻軽』って吹聴しているせいですよ?)


 要は、私はモテているというより、学園の男子生徒たちから『ヤれそうな女』だと思われているのだと思う。

 そして残念ながら、この王子殿下もまたそう思っているらしい。


「そんな風に強がって……本当はつらいのだろう?」

「殿下、近いのですが」

「人がいると話せないことだってあるだろう。い、一度、二人きりで話を聞かせてくれないか。君の本音を」


 いやもう、ほんとやめてください婚約者の前で。

 アナスタシア様が眉を寄せて爆発寸前なんですよ。気づいて。


「……しっ、失礼いたします!」

「あっ、メリディアナ嬢!」


 隙をついて、私は逃げ出した。


「まっ…待ってくれ、メリディアナ嬢!」


 殿下たちが追ってくる。

 制服の長いスカートをたくしあげた私は、階段を三段飛ばしで駆け下りる。


「ごめんなさい勘弁してくださいっ! 私の平穏を願うなら話しかけないでください!」

「やはり嫌がらせを受けているのだな?! 遠慮せず私を頼ってくれ!」

「だから! そうじゃなくて!」


 中庭に駆け込んだ。

 剪定(せんてい)され整えられた植え込みが目に入り、とっさにその陰に隠れる。

 セオドア殿下たちは私を見失ったらしく「あっちか!」「どっちだ!」などと言っている。


 一旦()くことはできた……かな?


(様子を見て、早くここから離れないと)


 そう思った矢先

「みーつけた」

「!?」

 耳元で別の男性の声、後ろから抱きすくめられる。

 私はためらわず、その男性の脇腹に肘鉄を撃ち込んだ。

「ぐふ!?」

 力が緩んだ隙に片腕をとり、ブン!と背負い投げの要領で投げる。

 長身は宙に舞い、背中から地面に叩きつけられた。


「いっだだぁ……ちょ、王子に容赦なく肘打ちして投げるとか不敬すぎでしょ!」

「どうしてここにいらっしゃるんですか、ルーク殿下」


 顔をしかめながら起き上がった彼から距離をとる。

 第三王子ルーク殿下。二年生。

 こちらも美形で女子からの人気は高いらしいが、私には関係ない。


(一人ってことは、またこの人護衛を撒いたのかな……)


 背後からはセオドア殿下たちの声。

 後ずさる私に目の前の王子は迫ってくる。


「テオが騒いでいたのが聴こえたんだよね。というか君の魔力なら学園のどこにいても関知できるよ?」

「授業以外の魔法使用、校則違反で先生に報告しますね」

「今日も薔薇のように麗しいね。その翠の瞳の美しさには、どんな宝石も敵わないよ」

「だからそういう褒め言葉はご婚約者様にどうぞ」

「え、それって嫉妬? 可愛いね」

「人の話聞いてます? 近いんで!」


 こちらが逃げ出せないことを良いことに迫ってくるルーク殿下。

 顎を指で捕らえられ、とっさに私は手で口を覆う。


「ちょっと……ここは乙女的には恥じらいながら唇を奪われる場面じゃないの?」


(絶対に! 嫌ですけど!)


「いじめって最悪だよね。俺のモノになれば守ってあげるよ?」


(嫌ったら嫌!)


 業を煮やしたのかルーク殿下は私の手を口から剥がそうとする。

 逃げられない。でも殴ったら怪我させてしまう。

 校則違反だから避けたかったけど……仕方ない。

 空いた方の手で、怪我させない程度の魔法を発動────


「……!?」

「いだ、いだだだぁっ!!」


 発動しかけの魔法が一瞬で消滅し、ルーク殿下は別の人物に片手で腕を捻り上げられていた。


「すまない。またうちの弟たちが」

「シルヴァ様!」


 私は心底ホッとする。

 艶のある、やや暗めの色合いの銀髪。矢車菊の青コーンフラワー・ブルーの瞳、凛とした強い眼差し。セオドア殿下やルーク殿下より背が高く、鍛え上げられた身体と隠しきれない気品。


 大学部に在籍されているシルヴァ様。

 三年前『魔法が使えない』ことを理由に王室籍を剥奪され婚約破棄された元第一王子……そして、亡き父の教え子だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  ▼▼▼ 第24回書き出し祭り 第2会場の投票はこちらから ▼▼▼ 
投票は5月17日まで!
表紙絵
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ