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1-1 水鏡

本日2回目の投稿です。

よろしくお願いいたします。

 わたしは岸辺に下りた、今日は風もなく淵の水面は今のわたしの心のように凪いでいる。水鏡に映った自分の姿をわたしは覗き込んだ。10歳(ということになっている)の女の子の顔がこちらを覗き返している。ここでは春にみんなひとつ年を取るのでもうすぐ11歳になる。正確な自分の歳がいくつかは知らないし、ひとつやふたつ違ったからと言って大したことではない。

 その顔は少し目じりがたれ気味ではあるが代わりに口角が少し上がっている、自分で云うのもきずつないが愛嬌のある顔立ちだと思う。

 家に帰っても鏡がないので、ここで毎朝身繕いすることにしている。といっても、顔を洗ったり、髪を整えたりくらいしかできることはない。病的ではないが栄養が足りていないため顔色はいささか青白く見えるのが水鏡を通してもわかる。そばかすは目立つが、なんの手入れもしていないのにお肌はなぜかつやつやと瑞々しい、若さってすばらしいものだなとしみじみ感じる。水仕事で手指はひび割れてあちらこちら血がにじんでいるのだが、この世界には傷パッチや水絆創膏のような文明の利器はなく手当てができないので日々苦痛に悶絶しつつ水仕事をこなしている。腰のあたりまである髪の毛は手入れしていないというかする術がないので枝毛や切れ毛でぼわぼわにふくらんでいる。本来ならぬばたまの夜のごとく漆黒なはずだが、以前試しに髪を濡らしてみたらカラスの濡れ羽色どころか見るも無残なワカメ髪姿となった。天使の輪っかの代わりに、光が乱反射して頭の周りには蚊柱が立ったようなうす灰色の輪郭が煙っている。それをわたしはゆるやかに三つ編みにした。美容院もはさみもないので、髪を切ることがかなわないのだ。長髪は仕事のじゃまになるので、できればベリーショートに、せめてボブくらいにしたいのだが・・・。痩せぎすで体つきは華奢、見てくれは悪いが、健康状態は悪くはない。栄養状態がよければ、もうすこしふっくらとして結構かわいく見えるんじゃないかと自分でも思うこともある。しかしながら、とてつもなく美しい人々をわたしは王都で実際に見たことがある。それがトラウマとなっていて、自分のことはどうしてもみすぼらしく思えてしまう。着ているものはいわゆる()()()()()で生成無地の生地になんの飾りもつけていない実に質素なものだった。

 ここで顔を洗って、申し訳程度に髪を撫でつけて編みなおす。髪の毛は荒れ放題なので、おくれ毛や枝毛でまとまらない。それでもくくっておかないと仕事に差し支えるので、ゆるく編んでおさげにする。身だしなみといってもそれくらいしかすることはなかった。 

 身繕いを終えると淵の中の自分の姿を眺めながら初めてこの世界に来た時のことを思い出した。10歳という歳はその時に言われたことである。わたしの名前はこの世界ではノラと呼ばれている。元は日本人だ。一緒に来た人に教えてもらったのだが、異世界への召喚は日本人にはよくあることだそうだ。魔王の復活が予言されそれを成敗するべくこの王国は異世界である日本から勇者を召喚した。王城で行われた勇者召喚の儀式に巻き込まれてわたしもこの世界に呼び出された。そのとき一緒に呼ばれた召喚者は総勢10名。他の9人は勇者パーティとして今は勇ましく活躍している、はずだ。わたしはすぐに王都を出されてこの辺境の村へ送られた。王都を出てからは彼らとの交渉は途絶したため現在の様子は知るすべもない。

 水瓶にもたれかかってぼんやりと考える。召喚者唯一の落ちこぼれ、戦闘力がゼロの役立たずで味噌っかすのわたしはあっという間に王城から追放され、この世界で生きてゆく術をひとりこの村で身につけなければならなくなった。ここに来てからのこの半年、必死でわたしは生きて来た。そしてこの世界での生き方を今まさに学んでいる。それに比べて魔王とやらに対峙させられる他の勇者たちはこの世界に来て死に方を今は学んでいるのかもしれない。

 日本にいたときのわたしは実を言えば42歳のいわゆるおじさんであった、それがなぜ10歳の美少女(自称)として召喚されたのか、そのメカニズムはわたしにはとんとわからない。召喚されたときにいきなり歳を聞かれて元の自分の歳の42歳と答えてしまったがそれは親の歳と思われ、自分の歳もわからない子供かと、見た目で10歳と認定されたのだ。そのとき改めて自分の手足などを見て、変わり果てた自分の体に驚愕した。この体の本当の年齢はわからないしわかる必要もない。ただ、こちらに来てからの苦労を考えると、元の大人のまま召喚されたならもう少し生活力があって、こんなに苦労しなくても済んだのではないかと思うことがある。あるいは、柔軟な子供だからこの新しい世界に適応できたのだろうか。いずれにしても、帰る手段のないわたしはここにしがみついてなんとしてでも生き残ってゆくしかないとあきらめるしかなかった。

 その時共に召喚された者の一人によると、今回の儀式は、魔王を倒すための勇者を呼び出す☆6確定のスペシャルイベント10連ガチャで、そこになぜか出てきた☆2キャラがわたしなのだそうだ。キャラの性能は☆1相当だが、「ノラ」という固有の名前がついていたのでかろうじて☆2ということにしてもらえたらしい。何を言われたのかそのときも今でもさっぱり意味が分からない。ミシュランガイドなら星一つでも大したものなのだがね。☆6が必ず出るはずということで引いたガチャで☆2キャラが出たので王様はじめ王城の人たちは大層がっかりしたのだそうだ。役立たずとされたわたしは間を置かずに王国でも一番辺境のこの村へ追放され、やさしい養父母にひきとられた。そういうわけで今はこの農村で、農家のもらわれ子としていろいろと生きる力を身につけようとしているところである。

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