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1-9 仲良し五人組

遅くなってしまいました。今週も読んでいただけるとうれしいです。

 ぼちぼち暖かくなってきて、朝晩は凍えるほどだけどお昼間は外で作業していても気持ちがいい。

 今日は野菜作りを教わる日だ。納屋で準備をしているとマンフェがネコ車いっぱいに畑の土を運んできた。3才くらいのつまり深いほうのネコ車と同じくらいの大きさがあった。木でできていたので木牛流馬をイメージしてもらった方がいいかもしれない。マンフェはネコを置くとそのまま納屋の奥へ行ってごそごそしていたかと思うと、平たい木の箱を抱えて来た、あわてて駆け寄り箱を受け取る。

「わたしが運ぶから貸して」

「すまんのぉ」

「腰が悪いんだから重いものを持ったらだめだよ」

「そこの台をここに置いてくれんか」

今度は納屋の端っこにおいてある台を指さした。

「これ全部?」

「ああ、みんな持ってきてここへ並べておくれ」

 台の天板はコンパネくらいの大きさがあり、わたしの胸くらいの高さがあった。

 それを都合3台納屋の入り口のところへ並べた。

「ここに置いたら出入りの邪魔じゃない?」

「そこでいいんじゃよ」

 ということで、指示されたところへ台を据えると、その上にさっき持ってきた木の箱を並べていった。

 背が足らないのでわたしがぴょんぴょん飛び跳ねながら箱を置くのに難儀していると

「そこの箱を踏み台にしたらいいよ」

 と言ってもらえたので、隅っこにあった手ごろな箱を踏み台にして作業を続けた。

 1尺×2尺くらいの大きさの平べったい木箱がひとつの台に丁度3個づつ3列に並んだ。

 マンフェはそこへネコから土を移してゆきそれぞれの箱へ入れた土を平らにならした。そしてたっぷりと水を遣ってから言った。

「さぁ、野菜の種播きじゃ」

 どうもこの木箱へ種を播くらしい、踏み台に上ってマンフェのすることをじっと眺めていると

「この台はまかせるからノラも播きなさい」

 と台をひとつ割り当ててもらって種の入った入れ物を渡された。マンフェがやっていたとおりに箱に10㎝四方の間隔で指で穴を掘りそこへ種を3つぶくらいづつ入れて薄く土をかぶせた。マンフェも節くれだった太い指で小さな種を器用に播いていた。

「その台はノラのだから自分で育ててみなさい」

 と、わたしが播いた台の担当にしてもらった。自分で蒔いた種は自分で面倒見ますとも。

「直接畑に播く方が手間がかからないんじゃないの?」

 疑問になってそう尋ねると、

「まだ寒いから畑に直接まいても育たんよ、温い納屋の中で苗を育てて少し大きくしてから畑へ植え付けるんじゃよ。」

「随分と間を空けるけど、もう少し間隔を縮めたほうがたくさん播けるでしょ」

「あまり間を詰めると隣同士根が絡まるんじゃ、植え替えるときに根が傷んで苗が弱るからこんくらいあけんといかんのじゃよ」

セルトレイやポリポットのような便利な資材がないので少し効率が悪くなってしまうということか。

「さぁて、それから」

 と去年の秋から取り置いてあったもみ殻を今播いた種を覆うように敷き詰めた。

「何をしているの」

 と訊くと

「まだ冷えるからな、お布団を掛けているんだよ」

 見るからにわたしの寝床よりずっとあったかそうだ、

「こっちは?」

 もみ殻がまだ敷かれていない所があった。

「ここはにんじんの種を播いたんじゃ、にんじんはお日さまがあたらないと芽が出ないからね」

「ふ~ん」

 と、理解が及ばなかったので気のない返事をわたしはした。

「さて、これで苗床の完成じゃ。これからは暖かい昼間に外に出して、夕方になったら納屋の中に入れるんじゃよ」

「それはわたしにまかせてね」

「いや、こんな大きな台は無理じゃろう」

 マンフェはわたしの体が小さいのを気にしているようだけど

「こうしたら大丈夫」

 台の下にもぐりこんで重心のあたりを見計らってえぃっと、持ち上げると、右に左に動いてみせた。

「ねっ」

 腰の悪いマンフェに任せられるはずもなく、台の移動はわたしの役目にしてもらった。

「こうやって、手間暇をかけるほど丈夫な苗ができる。苗半作と言って苗つくりがうまくいったら今年の野菜作りは半分成功したようなもんなんじゃ」

 野菜もやっぱり苗つくりが大切らしい。

 それからは野良仕事へ出かける前と帰ってきたときに苗床を出し入れするのがわたしの日課となった。

 ある朝起きると雨が降っていた、

「雨が降ってるよ、マンフェ、苗床出してもいいかしら」

 わたしは雨に当たっては小さな種が流されるかもしれないと思ったのだが

「雨じゃろ、お日さまが出てないから出さないでいいよ」

 マンフェの言うには、お日さまが出てないなら表に出す意味がないということだった。

 という訳で苗床は納屋の中でその日一日過ごすことになった。

 そんなこんなで過ごしていたが、暖かくなるにつれ日々ますます忙しく野良仕事に精を出している。

 今朝も苗床を表へ出していると

「ノラちゃぁ~ん」

 と声を掛けられた。みるとコトちゃんだ、いつもの仲良しメンバーもいる。近所に住んでいる子供たち4人組でいつも一緒に行動している。去年私が村に来て初めて出来た友達がこの4人で以来仲良くしてもらっている。コトちゃんはその中でも一番小さくてわたしと同い年の10歳だ、一番年上はミイムおねえちゃんで16歳、一番背の高いのがサイツおにいちゃんで15歳、それからミイムおねえちゃんの弟のカーツくんが11歳だ。

「今からサイツおにいちゃんの畑へて手伝いにいくんだよ」

 とコトちゃんが教えてくれた。すると背後から突然、

「あんたも手伝いに行ってきな」

 とマテリアが声を掛けてきた。いつの間にかわたしのすぐ後ろで両手を腰に当てて立っている。

「マンフェの手伝いがあるから」

 と言い訳しようとすると、わたしのマイ鍬をもってマンフェが納屋の奥から出て来た。

「今日どうしても手伝ってもらわんといかん仕事はないから、行ってくりゃええ」

 そういってわたしの鍬を持たせて背中を押してくれた。ふたりに逆らうのもいけないので、わたしはそのまま4人と合流してサイツおにいちゃんの畑へ行くことになった。

 他家(よそ)の仕事を見ているととても勉強になる。マンフェに農作業を教わっているが彼は老練なだけに緩急のついた仕事ぶりは見事なのだが、鮮やかすぎて何をしているのかその勘所がわからないことがある、丁寧に教えてくれはするのだが説明が高度すぎてついて行けないところもたまにある。サイツおにいちゃんは一見段取り悪そうに見えるのだがその仕事ぶりは一言で言えば基本に忠実というかひとつひとつ手順を丁寧に踏んで進めている。わたしもそれを見習って丁寧な仕事を心がけた。未熟なうちは遠回りでもそうやって確実に身につけていった方が後々大成するように思える。

 みいむおねえちゃんは昨日運んできて畑の隅に積んであった(こや)しの山からせっせと肥しを撒きそれをサイツおにいちゃんが一心不乱にすき込みながら耕している、みごとなコンビネーションを見せていた。

「あの二人いきぴったりだね」

 とわたしが感心すると

「けっこんするんだもんね」

 とことちゃんが爆弾発言をした。わたしは一瞬ぎょっとしたが

「わたしとカーツもけっこんするんだよ」

 と暴露してきた。ああ、『わたしおおきくなったらカーツくんのお嫁さんになるんだ』ってやつか、とふたりをほほえましくもやさしい目で見た。

「さぁ、わたしもやるぞっ」

 と気合を入れ直し、手伝いを続けることにする、大相撲の照強関よろしく肥しを豪快に撒くとマイ鍬に物を言わせて猛烈に耕した。わたしの撒いた肥しがかかったのかサイツおにいちゃんとみいむおねえちゃんがこちらに振り向きあきれた様子で眺めている。

「それがマンフェのやり方なの」

 みいむおねえちゃんが声をかけてきた

「ふえ?」

 不意を突かれてわたしは間抜けな声を出すと

「そういう訳じゃないけど、なんか変?」

 と聞き返した。

「いえ、なんかがんばってるなと思って」

 そういって二人はそのまま作業に戻った。カーツくんはと見るとぶきっちょながらも一所懸命に耕してる。ことちゃんはふらふらかけまわって何をやっているのかわからない、本人は精いっぱい手伝っているつもりなのだろう。

『10歳なんだから、もう少し役に立とうか』

 と心の中だけでわたしはつぶやいた。

 銘々が一心不乱に働いていると不意に

「さぁ、そろそろ仕舞おうか」

 と声がした、振り返るとサイツおにいちゃんがこちらの方を見ている。カーツくんとことちゃんはとうの昔にへばって畑の隅にへたり込んでいる。

「今日は思いのほか捗ったよ、ありがとうなノラちゃん」

 今日仕上がったのはざっと畑1枚と半分といったところだろうか。まあまあといったところか。

 カーツくんが『ぼくは?』という顔でサイツおにいちゃんを見ている。

『あんたはほとんど戦力にならんかったやろ』

 と思ったけど、できるわたしは口には出しませんでしたよ。

 畑の横を流れている水路で鍬を洗って道具を片付け、帰路についた。みちみちカーツがいかに仕事が大変だったか吹聴する。みんなは『はいはい』となかばあきらめ気味に話を合わせてあげた。一日精いっぱい働いたあとの爽快感にわたしは満足していた。まだ肌寒い時期だが心地よい労働の汗がかえって気分がよかった。

 きゃあきゃあ仲良くおしゃべりしながら歩いていると突然何かが飛んできてわたしのほっぺたを掠めて落ちた。私たちがおどろいてそれを見ると後ろで

「あほがみーる、ぶたのけーつ!」

 とはやし立てる声がする。

「こらっ」

 サイツおにいちゃんが、おこりながら追いかけようとすると、3人組の男の子たちが一目散に逃げて行った。

「あいつら逃げ足だけはいつも速いなぁ」

 あきれたようにサイツおにいちゃんがこぼした。

寝てました、”ケルトアンビエント”という音楽を聴きながら書いていたのですが、気が付くと午後6時過ぎでした。全然寝不足なんかではないのですが、音楽があまりにも気持ち良すぎて寝落ちしたみたいです。とっても良い音楽なのですが、お仕事、お勉強のお供には危険かもしれません。

解説(ネコ車について)

バイトなどで現場経験がある人にはおなじみのネコ車の登場です。多分いつも使ってるやつが3才サイズで他に2才サイズの浅型のがあります。バランスを取るのが結構難しく、ネコダッシュ!とか言って思いっきり走ってすっ転んでひっくり返して監督に怒鳴られたのを懐かしく思い出しながら書きました。危険行動はご法度ですよ。ご安全に。

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