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プロローグ 〰夜明け前、山々はまだ眠り、小鳥は囀りはじめる、やがて村はおだやかに目を覚ます

はじめまして

記念すべき初投稿です。

拙いながら今回から作品を発表させていただきます。

週一回程度投稿したいと考えております。

がんばりますので、よろしくお願いいたします。

 北に望む稜線は濃紺の夜空を背景に黒くシルエットを刻んでいるが、東の空はほんのりと明るくなってゆく、日の出は近いが、山の中腹にある村の共同水汲み場は木々に囲まれてまだ真っ暗であった。そこでは雪明りを頼りにして小さな女の子が一所懸命に今日の分の水をせっせと汲んでいる。年のころは10歳くらいであろうか、ぼさぼさの黒髪をゆるく結ったおさげは腰のあたりまであり、無数の枝毛が飛び跳ねている。着るものはこの寒空に何の飾り気も無い生成の()()()()()である。年の割には小柄な女児は少し痩せぎすでありそのためそれはスモックのように見えなくもなかった。全体的に薄汚れて見えるが目鼻立ちはそう悪くはない、風呂にでも入れて磨き上げれば、だれからも可愛いと言ってもらえるくらいの器量よしではあった。

 冬の早朝、凍てつく空気にあたりはしんと静まり返っていた。早起きの小鳥たちは枝の上でまん丸に膨らんで楽しそうに囀り始める。

 朝も早いためか水汲み場は独りぼっちだ。真冬で利用するものは少ないとはいえ、夜が明けきってすっかり明るくなるころには水を汲みに来る村人もいるだろう。

 「どっこいしょ」

やっと水がたまった大きな水瓶を担ぎ上げ件の女児は自らの頭上にそれを乗せた。

 彼女の家では生活用水は家の前を流れる共同水路の水を使っている。しかし、飲み水や料理に使うものなど口に入る水は村はずれにあるこの共同水場の湧き水を彼女の家では利用している。 

 暗いうちから家を出て小一時間ほどかけて水場まで行き、夜が明けきる前に戻って水くみを済ませるのが彼女の毎朝の日課だ。どこの世界、いつの時代でも水汲みは子供の仕事である。水瓶を頭に乗せて彼女は家路を急ぐ。早く帰えらないと朝の支度に間に合わなくなる。

「かーめ、かーめ、かめを頭に載せて〰」

 鼻歌を機嫌よく唄いながら大事な水瓶を落っことさないようにバランスを取り取り、まっすぐに前をよく見て彼女は歩く。

 なみなみと水をたたえた頭上の水瓶は米俵くらいの大きさはあるだろうか。彼女は意外と力自慢のようである。

 水瓶は焼き物でできている、信楽焼の水瓶を思い浮かべてもらえば大きく間違っていない。空のときでも結構な重さであるが帰りはそれにさらに満々と水を湛えるのである。落っことしたら水瓶は速攻割れるので慎重に歩く、落ちないように、背中を伸ばしてそろりそろりとそれでもなるだけ急いで短い脚を一所懸命に動かして彼女は歩く、歩く。背が低いため頭上の大きな水瓶のバランスをとるのには苦労する、これは一家の大事な財産だ、絶対に落とすわけにはいかない。

 水場を離れてぐるりと回り込み道が下りにさしかかるところで村の全景が一気に眼下に広がる。 夜明け前の薄闇の中に田畑や家々は黒々とまだ眠っていた。村は南の方向以外はぐるりと山に囲まれていて山の陰でまだ夜の帳の中にいる。

 その南方向はずっと開けており、街道が続いている、半日ほど行くと砦がありさらにその向こうは王都まで続いている。

 東の山には谷が開けていて少し小さな街道が続いている。三日程かけて隣の町へたどり着くことができる。

 北から東へかけてゆるやかな斜面に沿って山の中腹まで棚田が連なっている、水が入ると見事な千枚田となる。その間は千枚田に写る田毎の月を眺めながら家路を辿るのが彼女のささやかな毎朝の楽しみとなっていた。

 村の西側は沼地となっておりそれを渡ると魔物が住まうといわれる険しい高山が人跡を許さない威容を誇っていた。

 いつもここでご来光を拝むことになる、東の山の上の濃い紺色の空に浮かぶ雲が赤黒いシルエットを見せていたが山から赤い光に照らされているように見える、それは見る間に鮮やかなオレンジ色に輝き出したかと思うと同時に紺色だった空に赤みが差してゆき東の空は見事な朝焼けとなった。山の端におひさまが顔をのぞかせると、山の影が滑るように動き、村にかかる闇のベールは駆け足ではがされてゆく。村の目覚めののどかな風景である、ここからの眺めは女児の疲れた心をいつもなぐさめてくれる。

 藁ぶきの家々がぽつりぽつりと散らばっている村を見下ろすと、朝の支度だろうか早くも煙の上るのが見える。(いにしえ)の為政者よろしくその風景ひとわたり見渡すと満足して彼女は再び歩みを進める。太陽は稜線に半ば顔を覗かせている、見事な朝焼けを背に彼女は家並みへ向かって下る坂道を急いだ。

「東雲のほがらほがらと明けゆけば・・・」

 ふんふんと鼻歌まじりで山道にきぬぎぬの別れを告げたつもりになって村道へ入る。道はやがて川に出合い、しばらく沢沿いを歩く、さほど大きな川ではない。集落の入り口に差し掛かると川幅は一気に広がり淵になる。そこでは夏に子供たちが元気に飛び込んだり、魚やえびを捕ったりする、格好の避暑場であるが今は冷え冷えとその黒い水を静かに湛えている。

 川から共同用水路が掘られ村に続いている。

 道はやがて川を離れて用水路沿いをさらに進む。

 村に近づくにつれて、畑の香水が香って来た、そして進むにつれてそれはさらに強くなる。

 それでも農閑期である冬の間は普段に比べてかなり薄くなっているのだ。

 村へ入る手前で、道を逸れて淵まで降りると水瓶を一旦下ろしていつもの場所で彼女は一休みした。

この作品はフィクションです。本作品に登場する世界・地域・人物・団体・事物・事象等はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。

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