7.外道、人間を卒業する
「天使さまぁぁー!!怖かったですゥゥ!!」
いきなり抱きついてきた金色の髪が綺麗なシスターは泣きじゃくって離れそうにない。かれこれ5分は抱きついたままだ。
状況を考えれば泣きじゃくるのは無理はない…だって僕でも一緒の状況だったら泣いてるもん…。
でもそろそろ離れて欲しいかなぁーっと…色々当たってて…。
ていうか天使って何ですか!?
「あの…そろそろぉ…」
「…あ!ごめんなさい!」
少し後退りして距離をとった。ちょっと力が強かったのは口には出さない。
「命の恩人様にこのようなことを…申し訳ございませんっ!」
「い、いや大丈夫だよ…その…色々当たってたし(小声)」
「?」
首を傾げる聖女様。うひゃー聞こえなくてよかった。
それにしても凄く綺麗な人だ。綺麗という言葉はこの人のためにあるように思える。
この人が聖女なのだろうか。
「私の名前はセリナ・アルカナム…この教会のシスターをしております!」
「…っと言っても…ただこの教会を綺麗にしてお祈りに来るだけなんですけどね…」
「ここは私のお母さんがいたって…言われた場所なんです。」
「毎日ワンティアからここまでお祈りしに来てるんです。お母さんとの繋がりが感じられるから…。
ワンティアから1人でこんな森の奥まで来るなんて…すごいお姉さんだ…。
マップが表示されないから、この場所がどこに位置しているのか今のところわからないけど…。
「いつものようにお祈りしてたんですけれど…外に出ようとしたら、いつの間にか魔物に囲まれていて…。」
「そこに天使さまが現れて、あのおっきなモンスターを倒してくださったんです!!」
満面の笑み!ウッ!眩しいッ!
そしてセリナさんはまたまた抱きつこうと腕を広げて迫ってくるが、ヒョイとかわした。ぷくっと頬を膨らませて少し不服そうだ。
「…経緯はわかったんだけれど…その、天使ってドユコトなのかな?」
「そのことですね!この教会に伝わるお話なのですが…この場所はモンスターが入れない結界のようなもので守られてるんです。」
「もし結界がなくなり…この場所がモンスターで溢れた時に、翼を持たない天使が降臨して助けてくれるだろう…という言い伝えがあるのです!」
「そして天使さまはこの教会で力を取り戻すだろう…と。」
「ふーむ…って僕が天使!?人間だと思うけどっ!?」
「もうっ!何度も言ってるじゃないですかっ!それに言い伝えでしたらこの教会で力を取り戻すんですよ!」
そう言って小綺麗な教会を指差すセリナさん。
天使…なわけがないと思うが…、これも多分イベントの一種…。進めるしか方法はない。
「…わかりました。行きますぅ…。」
「!本当ですかっ!それではこちらです!天使さま!」
「あ…僕には天使じゃなくて、ナイトリーパって名前が…。」
「ナイトリーパ…それではナイトさんって呼ばせていただきます!」
「わかった。それじゃあ僕もセリナさんって呼ぶよ。」
「…!そ、それでは行きましょ!」
名前を読んだ瞬間、すんごい速さで前を向いたセリナさん…ちょっと失礼だったかな?
ともあれEXクエスト関連なのは間違いなさそうだ!セリナさんに続いて教会にレッツゴー!
「こ、ここがお守りいただいた教会の中です!掃除を心掛けているので中は綺麗だと思うのですが…。」
教会の中は…深い森の中にあるとは思えないほど綺麗だった。きっとセリナさんの掃除が隅々までいき届いているのだろう。
「凄く…綺麗ですよ!」
周りを見渡してからセリナさんに向き合って伝えると、彼女の顔が少しずつ赤くなっていくような…。
「こ、ここがですよね!はい!そうだと思いますっ!!」
セリナさんは慌てて顔を隠しながらブンブン動く。だ、大丈夫だろうか…?
1分ほど経って彼女は落ち着いたようだ。
「お見苦しいところをお見せしました…。」
「や、大丈夫です…。そ、それより!言い伝えの場所ってここなんです?」
「そうですね…奥に『祈りの間』、というところがあります。言い伝えで『祈りの間』の名前が出てきますので…」
「なるほど…」
セリナさんに連れられて奥に進んでゆく。進んでゆくと光が眩しい神聖な場所に出た。
『神聖なる祈りの間』
神聖なる…?
相変わらずマップにはNo dataと表示され、ここがどこに位置しているのかわからない…。
「ここが言い伝えの場所…『祈りの間』です」
「ほぇ…ここが…」
先ほどの教会の中とは思えない…あたたかい光が差し込む部屋だ…。祈りの間、不思議な空間である。
ここで何か起こるのだろうか。
「ワンティアにある教会にも『祈りの間』はあるんです。でもここの『祈りの間』はどこか違う世界にいるような感覚になるんです…」
「確かに浮世離れしt…うわっ!?」
突如として僕の体の周りを光の粒が包み出した!?何か起こるかもとは思ったけど…ってちょ…くすぐったい!何この粒!
『PN:ナイトリーパの種族の変化を開始します』
種族の変化!?こんな要素聞いてないぞ!!もしもモンスターみたいだったら許さないからな!FET社ぁぁ!!
ていうか…なんだか視界が光で…ぼやけて…。
「ナイトさん!?どうしたんですかっ!?」
「…イト…さ…」
「ん…んう…」
…えーっと寝ちゃってたのか…?システムの強制ログアウトはしていないから1時間は経っていないとして…。
確か…絶王の小鬼をなんとか倒してから…金髪のシスターさんと出会って…それから……。
そうだ種族変化!どうなったんだ!?
パッと目を開ける。そこにはこちらを覗き込むシスターのセリナさんの顔が見えた。
気づけば横になっている?…この距離で顔が見えるってことは…まさか膝の上っ!
「ナイトさん!目が覚めたんですね!!」
「ごめんセリナさん…なんだか寝ちゃってたみたい。」
ホッと胸を撫で下ろすセリナさん。僕が光の粒に囲まれて倒れてから彼女が介抱してくれたのだろう。
「それより…本当にナイトさん…なんですよね?」
「?僕は正真正銘ナイトリーパですが?」
「そうですか!いや…先ほどとは姿が異なっていたものですから。とっても可愛いです!!」
すると彼女は手鏡を取り出してこちらに渡した。
自画自賛ではないがこのアバターの可愛さはキャラメイクの時に味わっている。
…現実の世界でも小柄で女の子みたい〜とか言われることが日常的にあるからままならない!
手鏡を自分に向けてどこが変わったのかを確認しようとする。少し光が反射してまぶしっ!角度を変えてと…
まあ…そこまで大きくは変わってないでしょ…うん?
そこに映ったのは黒い髪の毛の暗殺者の少女…ではなく。黒くて綺麗だった髪は、透き通るような艶のある銀色の髪の毛に。目は黄金色に輝き、そして背中からは…白くて美しい翼が生えて…翼!?翼が生えている!?
おそるおそる後ろを向くと鏡に映ったのと同じ白い翼がある。
「な…なんじゃこりゃぁぁぁぁーーー!!!!?!?」
悲痛な叫び声が教会内に響き渡る。セリナさんはすごい笑顔だ…。
『PN:ナイトリーパの種族の変化を完了しました!「人間」→「天使族」)』
セリアさんが言っていた天使になっちゃった。
ここに人間を辞めた天使少女が誕生したのだった。
お読み下さりありがとうございます!
こちらではこの作品に出てくる情報設定などをお伝えしていきたいと思います!
ビヨンド・ファンタズマではプレイヤーが人間から様々な種族になったりすることができる「種族変化」というものがあります。
例えば…角が生えた鬼になる場合もあれば、耳や尻尾が生えた獣人になったり…シンプルガイコツなど、モンスター生き物、ありとあらゆる種族が存在しています。
種族変化はプレイヤー誰もがすることのできるシステムであり、一般的に5つの種族とプレイヤー一人ひとりにもうひとつ特殊な種族に変化させることもできます。中には…世界で唯一の種族もあったりなかったり…。
種族によって覚えられる個々のスキルもあり…それぞれの種族強みが存在しています。
その他にクエスト進行中に種族変化することもあります。
今回のナイトリーパちゃんがなった「天使族」も…かなり激レアな種族かも…しれないですね…。