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当代最強の責任  作者: 嵐山田
第一章
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第三十三話


「……さん、兄さん。」

 ん……うぅん。

 薄く開けた目に眩しい光が2つ見える気がした。

「……お兄ちゃん。朝だよ」

 少しのためらいを含みつつも久しぶりにお兄ちゃんと呼ばれた気がして目が覚める。

「おはよう。花凛」

「おはようございます。兄さん」

 おっと、お兄ちゃんと呼ばれた気がしたんだが、……夢だったか?


「兄さん、珍しいですね何度も呼ばないと起きないなんて」

 どこか問い詰めているような口調で花凛が言う。

「昨日は久しぶりの実家で落ち着けたから、最近あったことを整理していたら、つい遅くなってな……」

 俺がそう言うと花凛はなぜか疑いの目を向けてくる。

「花凛?」

「兄さん、昨日の夜誰かと電話していましたよね?しかも女の子と」

 !!?

 花凛は寝ていたはずだが……。

「悪い、うるさかったか?」

「やっぱり、していたんですね。私としたことが先に寝てしまうなんて……。いったい誰と電話していたんですか?」

 なるほど。実際に聞いていたのではなく、妹の、いや女の勘ってやつか……。

 まあ、そんなことはどうでもいい。

 問題は夏帆のことだ。

 夏帆は自分で直接話すと言っていた。ならばここで俺が伝えてしまうのは違うだろう。


「花凛、すまない。それについては言えないんだ」

「!どうしてですか?……いえ、兄さんがそのように言うということは事情がおありなのですね」

「ああ、すまない。でもすぐにわかるはずだから、ごめんな」

「いえ、私は重い妹ではありますが、厄介な妹にはなりたくありませんので」

 そう言って笑って見せる花凛は普段より少し子供っぽく見えた。

 花凛も久しぶりの実家でリラックスできているんだろう。

「そうか。でもどんなことがあったって、花凛お前が俺にとって厄介になることなんてないから気にしなくていいぞ」

「ふふっ、兄さん。朝からキザですね。そんな兄さんに免じて今回のことは見逃してあげます」

「ははっ、ありがとう。そういえば花凛、今日は何か予定はあるのか?」

 今日は土曜日。実家にいるのだから家事は使用人たちがやってくれるだろうし、暇なのではと思ってそう聞いた。


「私はお母さまとお買物へ行こうと思っています」

「そうか、じゃあ俺はどうしようかな」

「兄さんに予定が無いのでしたら、私のお願いを聞いていただけませんか?」

「いいぞ。なにかやってほしいことでもあるのか?」

「はい。今日は雪乃ちゃんに付き合ってあげてください」

 花凛がそう言ったとほぼ時を同じくして、俺の端末がメッセージを受信した。

「悪い、昨日の電話の後、音を切っていなかった」

「いえ、今のメッセージを確認してみてください」

 花凛はなんだか少しうれしそうだ。

 メッセージは雪乃からだった。


 雪乃 「龍仁さん、おはようございます。早朝からすみません。今日一日お時間をいただけないでしょうか?」


 いつの間に示し合わせたのやら……。

「花凛のお願いはこの雪乃の誘いに付き合うということでいいのか?」

「はい。雪乃ちゃんは他の二人と違って私に優しいですから、いつもの恩返しです」

「なるほど。確かに昔から雪乃と花凛は仲がいいよな」

「そうですね。仲がいいのは間違いないですが、夏葉さんと星さんと合わないというのもあるかもしれません」

「それは……。いや、これは野暮か」

 言いかけて、口ごもる。

 これは、俺の責任の問題だ。

「はい。兄さんのせいではありません」

「はは……お見通しか」

「もちろん、兄さんの隣に一番長くいたのは私ですから。それより兄さん、雪乃ちゃんにお返事をしてあげてください」

 ふわりと笑い、さらっと言ってのける花凛。

 やはり今日の花凛はいつもより落ち着いている。

「そうだね。じゃあ、俺は今日は雪乃に付き合ってくるよ」

 そう言って俺は雪乃に返信をした。


 龍仁 「おはよう。もちろんいいよ。どこに行こうか?」

 俺が返信すると即座に返事が返ってくる。

 雪乃 「本当ですか。ではお昼前に機関の演習場へ集合でいいでしょうか?」

 龍仁 「演習場?訓練か?」

 雪乃 「はい、この前また一緒に訓練しようと言ってくれましたし、対抗戦も近いですから調整がしたくて」

 龍仁 「そういうことなら、そうしようか」

 雪乃 「はい!」


「兄さん、予定は決まった?」

「おう、機関の演習場で訓練することになったよ」

「そっか、今日はちゃんと帰ってきてね。変なことしないでよ?」

「わかってるよ。夜までには帰るさ」

 もう、誰も泣かせたりしない。

「あ、でもあんまり早くだとまた不公平だから、夜ご飯は雪乃ちゃん連れてきて一緒に食べたらどう?」

「それは……どうなんだ?」

 実家に人を呼ぶことが滅多にないことや、母さんもいる状況で女の子を家に連れ帰ることへの若干の抵抗感、そう言ったもので複雑な心情になる。

「私が一緒じゃダメなの?」

 しかし、花凛はそうは思わなかったようだ。


「そういうことなら俺は構わないけど、雪乃がどう思うか……」

 俺がそう言うと花凛は自分の端末をこちらに見せつけ、こう言った。

「雪乃ちゃん、来たいって!」

「そうか……根回しが早いな花凛」

 今日の花凛はどうも俺より一枚上手なようだ。

「では、兄さん一日楽しんでね!」

 屈託のない笑顔の妹に俺は送り出された。

お読みいただきありがとうございます。


次回もよろしくお願いいたします!

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