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プアシング月曜日

「poor thing……。」

 月曜日を迎えていた。オレも、よりかかっている廃品回収ケースも。月が魔女の鼻なみの角度で、あれはもはや輝いているのかすらよくわからない黄金だった。多分、太陽のおこぼれはやめたんだろう。地毛で行くことに決めたんだろう。周囲で煌めく星々も同じくだ。燃えることを止めてしまっている。今まで見せていた輝きというのは、やめようと思えばやめれたんだ。すごい。タバコみたいだ。

 かわいそうにって、アイツ、オレのことを指さして言っていた。オレの何がかわいそうなのか、句点の種類からして日本人だ。そんな咄嗟に英語が出るもんかね。絶賛英語学習者だとしてもだね。でも分かるよ。オレもオレを見たとしたら日本語では何も言えないよ。なぜなら日本語は美しいから、普段からオレは美しい言葉しか発していない。汚かったり侮辱したりは英語の役目だ。気の毒なんてものじゃなかった。だからオレも言い返した。

「poor thing!」

 ヤツはいなかった。


 熱いシャワーを浴び、浴室中に水蒸気が充満する。火災訓練みたいだ。いや、訓練なら煙の出る幕はないだろう。

「何、煙幕?」。

 今のしょうもない声は誰だよ。返答はない。隅に目をやるとシャンプーがボトルの先から溢れ出ていた。とぷとぷ、ゆっくりと、だが確実に。手に出さない状態でみると、うちのシャンプーはこんな色をしていたのか……。髪をかき上げ、髪が同じ水色に染まっていることを確認する……確認するってオレはいつ髪を水色に染めたっていうんだ。思い出そうとするが、ダメだ。髪に関する記憶がすべて抹消されている。クソ、近日発売のインディーゲームのことならいくらでも思い出せるのに。自分のこととなるとオレの頭はまったく意味を成さなくなる。はっきりいってゴミだ。四六時中、ゴミで埋まる感覚だけがしているんだ。シャワーを浴びているときくらい爽快でいさせてくれよ……。ゴミ色をした涙が漏れる。そのまま寝付いてしまうまでオレは泣きじゃくった。赤ん坊ならぶっちぎり一等賞、サイアクの寝つきだった。


 シーツをメレンゲか何かだと思って、手足をフルで使ってこねまくっている。寝転がったお前を見下ろせばバレエでもやっているみたいだ。動く手足の後をだらしない皺が追いかけていく。お前の手は失ったお前の記憶を追いかけて、どこまでもベッドの上に収まりつづけている。うるせえ監督が夢の中でわめいている。

「もともと表現はお前の痕跡であるはずなのに、さらにシーツが痕跡となって二重なんだよ! てめえの表現には無駄がある。」

 ああ、監督は怖い。夢でも現実でも。だからお前は従うしかない。必死に、無駄を省こうと意識しながらバレエを踊った。でも無駄なんか省けるわけがない。なぜならお前はベッドの上を動けないからだ。夢遊病でも習得するつもりか。この監督との一夢のために。こうしている間にも一刻と、お前の集中力は減少の一途を辿っている。踊りながら滑った視線が捉えた。監督のポロシャツがアロハになりかけている。あれは女の合図だ。監督お抱えの、期待の新人女優が現場にあらわれる。

「彼ったら何をしているの。」

「バレエをさせているんだが、アイツはダメだ。」

 そんなことをヒソヒソ。これが夢の映像の左側、右側にバレエを踊るオレを見下ろした画。マルチタスクの成れの果てだよこれが。そうだろうipad baby。この二つの映像が夢の中心点に集合し、混ざり合ったら何が起きると思う。なんてことない。強烈なエネルギーを浴びてただ目が覚めるだけだ。まだ夢の続きみたいに、二日酔いの疑いを受ける眼球をして起きるだけだ。誰も得しない月曜日だった。月曜日とはそういうものだった。

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