04話 コウモリ一派 ― 黄昏の誓い
ーーとある場所にある、一つのアジト。
レンガ造りの壁は夜の底のように暗く、室内の空気はひんやりと重い。
テーブルの中央に置かれたランタンが、唯一の光源。炎の揺れが黄色の輪を作り、その輪の外は影が濃く沈んでいた。
その輪の中にいるのは、ブルースターが率いるコウモリ一派。純血の吸血鬼の“コウモリ”に付き従う、傷だらけの仲間たちだ。吸血鬼や身内に虐げられた者、運命に押し潰された者、売られた者。
リーダーのコウモリ自身もまた、血の繋がった家族から嘲笑と暴力を受けて育った。
彼はそんな吸血鬼のセカイに背を向け、父である長の命令を無視し、人間のセカイで仲間を集め今、復讐の牙を研いでいる。
◇
「……アイツ、よく言ってたよ」
炎に照らされた顔が、ふっと遠くを見た。
「何を?」
「“今の吸血鬼界が無ければ…長が混血嫌いじゃなければ、お前らは今、自由に生きてたんだろうな”って」
「あはは……兄さんなら、言いそう」
笑みが一瞬だけ浮かび、すぐに俯く。鼻をすすり、震える肩。
「セッちゃ…泣いてるの?」
スズランが首を傾け、覗き込む。
セダムは無言で右手を伸ばし、彼の頭をそっと撫でた。
「……うん、ごめんね。スズ、ありがとう」
「セダム、コウのところに行くか?」
「……うん、そうしてくる」
涙を隠すように立ち上がり、暗がりの奥へと歩いて行く。
「セッちゃ……」
「昔を思い出したんだろ。あいつは大丈夫だ」
「スズちゃーん!」
壁の影からひょっこりと顔が出た。
「ん? どうしたのー?」
「兄さんが呼んでるよ。急用だって」
「え、兄さんが? 行ってくる!」
スズランは弾む足取りで、奥の部屋へ駆けていった。
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「……大丈夫だよ、セダム。君のご両親も、お姉さんも生きてるからさ」
ランタンの光の下、コウモリの手がセダムの頭を撫でる。涙で滲む視界の向こうで、優しい笑みが揺れた。
「……うん、うん……!」
「顔を上げて」
コウモリは机の引き出しを開け、レターセットとペン、そして一枚の紙を置いた。
「……兄さん、これは……」
「住所だよ。家族に手紙を書くといい」
セダムの肩が小さく跳ねた。
「……生きてたんですね、俺の、家族……」
「俺は君を信じてるし、君にも信じてほしい。君は俺の“家族”なんだから」
セダムは震える手でレターセットを取り、深く頭を下げた。
「っ……ありがとうございます、兄さん」
彼が出て行くのを見届けた後――。
「人が悪いですよ、兄さん。あんな“嘘”をつくなんて」
背後からルピナスの声。
「……何が言いたい?」
「セダムの家族は……もう亡くなってる。本当のことを言うべきじゃ?」
「本当にそう思う?」
「……だって、俺もあなたも、死体を見たはず……まさか、あの子の魔法を……!?」
ルピナスの額に、冷や汗がにじむ。
「うん。使ったよ。コスモスの“死者蘇生”を」
「そんな……! 無闇に使えば、寿命が――!」
「彼女は知ってて使った。……それが彼女の魔法だからね」
「だけど、俺は……!」
「“俺だったら使わせない”……か」
コウモリが、ふっと笑った。
視線をドアへ向ける。
「スズ、そこにいるんだろ?」
「……はい」
スズランがとぼとぼと入ってくる。
「どうしたの? 元気ないね」
「だって……だってね、兄さん……僕、コスちゃが死んじゃうの、やだよ……!」
次の瞬間、泣き声が部屋を満たす。
コウモリはすぐに立ち上がり、彼を強く抱きしめた。
「俺は仲間を死なせない。だから泣き止もう、スズ」
「僕……みんなに生きててほしい。おじいちゃんがね、そういう人だったから」
「うん、知ってるよ。彼は優しい人だったもんね」
「うん……だから……」
「スズ、そんな君に頼みがあるんだ」
「……頼み事?」
「忌々しい吸血鬼界から、俺たちを殺そうとしてる連中が来てる。……1人を除いて、全員殺してほしいんだ。カラスと一緒に」
「やだ! 僕、兄さんたちと一緒にいたい!」
「そうだよね、だからこそ頼みたい。引き受けてくれるかな?」
「……うん!」
スズランは涙を拭い、笑みを取り戻した。
「じゃあ、にーちゃにも伝えてくる!」
小走りで出て行く。
「……本当は君も行きたいんじゃないのかい? ジニア君、人間界にいるらしいよ」
「……ジニアって、誰ですか?」
「そっか……今の君には、分からないか、ごめんね、ルピ……」
ランタンの光の中、ルピナスの瞳がふっと曇り、光を失っていた……まるで操られているかのように。
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