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【1万2千PV突破!】血塗の玉座  作者: 月 七見
1章 人間のセカイ編〜日常①〜
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04話 コウモリ一派 ― 黄昏の誓い

 ーーとある場所にある、一つのアジト。

 レンガ造りの壁は夜の底のように暗く、室内の空気はひんやりと重い。

 テーブルの中央に置かれたランタンが、唯一の光源。炎の揺れが黄色の輪を作り、その輪の外は影が濃く沈んでいた。


 その輪の中にいるのは、ブルースターが率いるコウモリ一派。純血の吸血鬼の“コウモリ”に付き従う、傷だらけの仲間たちだ。吸血鬼や身内に虐げられた者、運命に押し潰された者、売られた者。

 リーダーのコウモリ自身もまた、血の繋がった家族から嘲笑と暴力を受けて育った。

 彼はそんな吸血鬼のセカイに背を向け、父である長の命令を無視し、人間のセカイで仲間を集め今、復讐の牙を研いでいる。



「……アイツ、よく言ってたよ」

 炎に照らされた顔が、ふっと遠くを見た。


「何を?」


「“今の吸血鬼界が無ければ…長が混血嫌いじゃなければ、お前らは今、自由に生きてたんだろうな”って」


「あはは……兄さんなら、言いそう」

 笑みが一瞬だけ浮かび、すぐに俯く。鼻をすすり、震える肩。


「セッちゃ…泣いてるの?」

 スズランが首を傾け、覗き込む。


 セダムは無言で右手を伸ばし、彼の頭をそっと撫でた。

「……うん、ごめんね。スズ、ありがとう」


「セダム、コウのところに行くか?」

「……うん、そうしてくる」


 涙を隠すように立ち上がり、暗がりの奥へと歩いて行く。


「セッちゃ……」

「昔を思い出したんだろ。あいつは大丈夫だ」

「スズちゃーん!」


 壁の影からひょっこりと顔が出た。

「ん? どうしたのー?」


「兄さんが呼んでるよ。急用だって」

「え、兄さんが? 行ってくる!」


 スズランは弾む足取りで、奥の部屋へ駆けていった。



「……大丈夫だよ、セダム。君のご両親も、お姉さんも生きてるからさ」


 ランタンの光の下、コウモリの手がセダムの頭を撫でる。涙で滲む視界の向こうで、優しい笑みが揺れた。


「……うん、うん……!」


「顔を上げて」

 コウモリは机の引き出しを開け、レターセットとペン、そして一枚の紙を置いた。


「……兄さん、これは……」

「住所だよ。家族に手紙を書くといい」


 セダムの肩が小さく跳ねた。

「……生きてたんですね、俺の、家族……」

「俺は君を信じてるし、君にも信じてほしい。君は俺の“家族”なんだから」


 セダムは震える手でレターセットを取り、深く頭を下げた。

「っ……ありがとうございます、兄さん」


 彼が出て行くのを見届けた後――。


「人が悪いですよ、兄さん。あんな“嘘”をつくなんて」

 背後からルピナスの声。


「……何が言いたい?」

「セダムの家族は……もう亡くなってる。本当のことを言うべきじゃ?」

「本当にそう思う?」

「……だって、俺もあなたも、死体を見たはず……まさか、あの子の魔法を……!?」


 ルピナスの額に、冷や汗がにじむ。


「うん。使ったよ。コスモスの“死者蘇生”を」

「そんな……! 無闇に使えば、寿命が――!」

「彼女は知ってて使った。……それが彼女の魔法だからね」

「だけど、俺は……!」


「“俺だったら使わせない”……か」

 コウモリが、ふっと笑った。


 視線をドアへ向ける。

「スズ、そこにいるんだろ?」


「……はい」

 スズランがとぼとぼと入ってくる。


「どうしたの? 元気ないね」

「だって……だってね、兄さん……僕、コスちゃが死んじゃうの、やだよ……!」


 次の瞬間、泣き声が部屋を満たす。

 コウモリはすぐに立ち上がり、彼を強く抱きしめた。


「俺は仲間を死なせない。だから泣き止もう、スズ」


「僕……みんなに生きててほしい。おじいちゃんがね、そういう人だったから」

「うん、知ってるよ。彼は優しい人だったもんね」

「うん……だから……」


「スズ、そんな君に頼みがあるんだ」

「……頼み事?」


「忌々しい吸血鬼界から、俺たちを殺そうとしてる連中が来てる。……1人を除いて、全員殺してほしいんだ。カラスと一緒に」

「やだ! 僕、兄さんたちと一緒にいたい!」

「そうだよね、だからこそ頼みたい。引き受けてくれるかな?」


「……うん!」

 スズランは涙を拭い、笑みを取り戻した。


「じゃあ、にーちゃにも伝えてくる!」

 小走りで出て行く。


「……本当は君も行きたいんじゃないのかい? ジニア君、人間界にいるらしいよ」

「……ジニアって、誰ですか?」

「そっか……今の君には、分からないか、ごめんね、ルピ……」


 ランタンの光の中、ルピナスの瞳がふっと曇り、光を失っていた……まるで操られているかのように。

最後まで読んでいただき有難うございます。 


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