03話 吸血鬼のセカイと人間のセカイ、その境界を越えて
「…………いいだろう」
長の声は低く、湿った刃のようだった。
「それが、お前らの望みなら、“すぐに”でも叶えてやろう」
ぶつぶつと呟く。呪文のような、耳障りな響き。
言葉が途切れた瞬間、リオたちの足元がまばゆく光を放ち始めた。
「私の息子を潰してくれることに、感謝する」
「誰がそんなこと言ったよ! クソ長が!!!」
ジニアが食ってかかるが、長は一瞥もせず、言葉を繋ぐ。
「……お前らに、使命を与える」
「使命?」リオの眉がわずかに動く。
「あぁ、使命だ。これからお前らを人間のセカイへと転移させる」
短く、切るような声。
「グロリオサに連絡は済ませてある。学校への編入手続きもな」
淡々とした口調が、かえって不気味に響く。
「その学校で学業と、“その世界の魔法”を学べ。そして……ブルースター率いるコウモリ一派を始末しろ」
バッ、と長が両手を広げる。
その動きに呼応するように、足元の光がさらに強くなり、視界が白で塗りつぶされていく。
彼らのすぐそばには、3つのキャリーケースが置かれていた。
次の瞬間、世界が反転する感覚。
重力が一瞬消え、心臓が強く締め付けられる。
◇
《2065年、レルファンシエルに転送しました》