02話 カルディの望んだセカイ
「当たり前だろ? 俺たちは友達なんだから」
「ははっ、それもそうだな!」
コトッとテーブルの上にベーコンハムエッグが乗った皿を3つ置いたエリカは、にこりと笑みを浮かべ、「さっ朝ごはんよ? 2人とも」とそう言った。
「一旦その話は終わり。今は朝ごはんを食べて、その後これからどうするか考えましょう?」
「そうだな」
「またこれかよーエリカが朝飯当番のときは毎回これだよな」
「文句があるならジニアちゃんが朝ご飯当番のとき、別のにすればいいじゃない、毎日毎日同じメニューなんだもの」
「だってめんどくせーじゃん」
「まあ、たまにはパスタとかそっち系も食べたいよな」
ピピッ……
3人が会話してる途中で、急に脳内に突如、念話の効果音が入り込む。
「あ、あー、聞こえているか? 純血と、混血共」
「お前は……!」
「……ふふ、これからお前らに“簡単な”仕事を渡そうと思っていてな、それで念話を通したんだ」
「………………仕事?」
「俺に息子がいるのは知っているな?」
「……」
「息子……ブルースターが俺の許可無しに勝手に人間のセカイに赴いた。重大な規約違反だ」
「だからなんだよ」
「その重大な規約違反をしたブルースターを始末しろ、それがお前らに課された、“簡単な”仕事だ」
ブルースターの、自身の息子のことを悪く言っている長に対し、ぴくっと肩を鳴らしたジニア。
「……おい、自分の息子が“勝手に人間界に行ったから始末しろ”。だと!? お前、何訳わからないこと言ってんだ!! 道を外れた息子をどうにかして説得するのが父親の! お前の務めじゃねぇのかよ!!!!」
「……」
「貴様ァ! カルディ様が造った吸血鬼界の長になんて口を!! 混血が! 身の程をわきまえろ!!!!」
「……カルディ様のことを……」
「リオ、ちゃん?」
「カルディ様のことを、お前らのような純血が! 何も知らないお前らが!! 気安く彼女の名を口にするな!!!」
急に声を荒げたリオに、ジニアとエリカはびくっと肩を鳴らし、驚いた表情をリオに向けていた。
「フッ……お前は確か、カルディ様を祀っている、カルディ様の一部を貰った唯一の一族だったな? ん? リオ・カルディ」
「……だったらなんだよ。お前のような自分の息子を、俺たちに手をかけさせるような男には! 俺らは絶対に成り下がらない!」
「子供を持ったことのないお前に、俺の気持ちは分からない」
「ハッ、分かりたくもないね。むしろ、子供がいようがいまいが、お前にはブルースターを殺すことは絶っっ対に、出来ない」
「……」
リオの言葉に対し、言葉を一瞬詰まらせた長。
「図星かよ、お前だって分かってんだろ? このセカイは、カルディ様が望んだセカイじゃねぇ。ってさ。カルディ様はな、純血と混血が共存出来るセカイ、異種族が望んで、進んでこのセカイに来て、彼らたちと共存が出来るセカイを望んでた。今のこのセカイはなんだよ、カルディ様が見たら絶対悲しむんだよ、そんな簡単なことが、なんでお前には分からねぇんだ!!」
長はリオの言葉に何か思うことがあるようで、そのまま口を開く。
「これが、カルディ様の望んだセカイじゃない? はぁ? お前、急に何言ってるんだ? 実際にはもう、カルディ様は死んでいる」
「……」
「死者から言葉を直接聞いているわけでもないのに、よくもまあ、そんな戯言を」
「戯言? カルディ様の言葉の全ては、俺の家に全部ある! 本として! 魔書として!! そこに全部記されてんだよ! 図書館にもある有名な書物だ!! カルディ様の考えを全く知らないお前がよく! のうのうと長の座に座れたもんだな!!!」
「……純血と人間が混ざり合った者、それが混血だ。混血は、人間の血を色濃く受け継いでいる。だから俺たちが扱える特権が、全く扱えないんだ」
「「…………」」
「は? だからなんだよ。お前の言ってることは全部絵空事だ、空想なんだよ。お前も一度行ってみればいいんだよ、図書館――」
「あーもういい、分かった。お前と話していることの全てが、完ッッ全に、時間の無駄だということがな」
長はリオのその言葉に苛立ちを覚え、そのまま言葉を遮った。
「早く決めてくれないか? 私の息子、ブルースターを始末するために人間界に行くか、行かないかを」
「もし仮にお前の息子を始末した場合、報酬はあんだろうな?」
「何!?」
「そうね、タダ働きっていうのも困ってしまうわよ」
「お前らに渡す報酬なんてものは無い。……忌々しい混血共が。ブルースターの「結晶」の特権で、とっとと死んでしまえばいいんだ」
長とこのまま言い争いをしても埒が明かない。ということで3人は面倒くさいながらも、人間のセカイへと行くことを決めた。
「てめえと話ししてても埒が明かないからな、仕方ねぇから人間界に行ってやるよ。……ブルースターも可哀想だよなあ〜こォんな最低最悪の父親の元に生まれてさ」
ジニアは両手を繋ぎ首後ろに持っていきながら嫌味を溢す。
「子は親を選べぬ。ということ。これが奴の運命だったんだ。リオ・カルディ。貴様は」
「うるせぇんだよ、俺の大切な友達を愚弄して、今滅茶苦茶気分が悪いんだわ。さっさと転移しろよ、人間界にさ」