第7話冒険者の町
雪山を下り平野を歩く俺達、雪山と違い魔物とほとんど出くわすことはなかった。
というのもスーデンの町が近くにあり、ここら一帯の魔物を退治して生計を立てている冒険者が多いためである。
「着いたー!」
ホタルが嬉しそうにスーデンの町の門をくぐった。
「すごい…!」
アオイも周りを見渡し目を輝かしている。
「久々に来たがやっぱり人多いな…」
俺は人だかりを見て少しうんざりとした表情を浮かべた。
通りには露店が並び、鎧を着た人や魔術師のローブを来た人などであふれかえっていたお祭り騒ぎの様子だった。
ここに居る人は近くの村から来た冒険者達だ。
スーデンの町は冒険者の町と呼ばれており、多くの冒険者志望の人が訪れるため常ににぎわっている。
実をいうと俺が初めてこの世界に来た時に一番最初に訪れた町である。
「あの時から何も変わってないな…」
俺はあたりを見渡しそう呟いた。
「イツキ!私久々に串肉食べたい!」
ホタルが目を輝かして俺のところへ来た。
「はいはい」
俺はポケットから金貨を渡した。
「アオイちゃん、行こう」
「は、はい」
ホタルはアオイと手をつなぎ露店へ向かった。
その様子は本当の姉妹のようだった。
「俺もなんか見て回るか」
俺は一人で路地裏へと入った。
人通りの少ない裏路地をしばらく歩くと覚えのある店を見つけた。
「お、まだやってんだ」
俺は久々にその店に入った。
中央に大きな焚き火が置いてあり、それを囲むように椅子が並べてある。
「いらっしゃい」
入ってきた俺のすぐ横のカウンターで、悪人顔のおっさんが無愛想に言葉をかけた。
「久しぶりだな」
俺は軽く挨拶をした。
「はい…?ん?あれ?」
おっさんは俺の顔をまじまじ見ながら声を上げる。
「忘れたか、俺だイツキだ」
「ああ!坊主か久しぶりだな」
「ああ、たまたま寄ったんで来てみたんだ」
俺は目の前にある椅子に座った。
「最近お前さんの活躍を聞いてないから、死んじまったと思ったぞ」
「俺にもいろいろあったんだ」
「しかしえらく懐かしいな、あの泥棒娘はどうした」
「ホタルなら買い物に出かけてる」
まだこのおっさんは、ホタルがこの店に泥棒したことを根に持っているのか。
あの時の金貨はちゃんと返したのに。
「そうかい、元気でやってるか?」
「まぁ、なんとか」
そう言ってあたりを見回した。
悪趣味な魔物の置物や、なんだか呪われそうな絵画が飾られている。
誰もこんな店に来たがらないだろうに。
「この店に金貨500枚もする商品が置いてあるなんて思わないよな」
「うちは客を選ぶ店だからな」
店員が客を選ぶのかよ…
「それで何の用だ?」
「用っていうか…まぁ暇だから来たって感じかな」
別にこの店に欲しいものはないし、ぶっちゃけ外が寒いから暖を取りたかっただけだし。
「冷やかしなら帰れ」
「冷たいな、なんか買うからしばらくいさせてくれ」
するとおっさんはにやりと笑った。
「しょうがねぇな、じゃあ何にしようかな」
おっさんはカウンターの中を物色し始めた。
「普通俺が買う商品を決めるんじゃないのか」
なんか俺に買わせようと品を選んでるんだがこのおっさん。
「なんでも買うって言ったろ」
「言ってないんだよな…」
なんか買うと言ったが、そんなニュアンスで言ったつもりはない。
まぁいいか。
暫く焚き火にあたりうたた寝していた。
この世界に来て心ときめかしていたあの頃の夢。
初めて目にする世界は色鮮やかで何もかも新鮮だった。
きっとあの時の高揚感は、もう二度と手に入らないだろう。
すると扉の開く音が聞こえた、おずおずと中に入ってきたのは何とアオイだった。
「あれ、アオイどうしたんだ?」
目を擦りあくび混じりに声をかける。
「あ、イツキさん。よかったここに居たんですね」
安心した様子でアオイはこちらに駆け寄ってきた。
「ホタルは?」
「それが…どうやらお金を使いすぎてしまったらしくて…」
「まさか」
ここにきてまたやらかしたのか。
「はい、お金が足りなかったみたいなんです」
「はぁ…あいつ…」
「あの、イツキさんの分を買ったら足りなくて…」
なら返して来いよ。
「返そうにも怒らせてしまって…」
「あーそうだった」
この異世界は俺の暮らしていた日本と価値観が違うことが多い。
この世界の常識では客より店員の立場が大きい。
払えないなら衛兵に突き出したり、無理やり客の身ぐるみはがそうとしてくる店もある。
「それで、イツキさんにお願いしようと…」
「なるほどね」
ホタルがその場に残りアオイが俺を探しに行った。
それで俺がいそうな場所としてここに来たのか。
「よく、俺がここに居るってわかったな」
「ホタルさんが多分ここじゃないかって」
まぁ、確かにこの店以外俺が行きそうなところなんてないしな。
俺が立ち上がると、奥で商品を漁っていたおっさんが戻ってきた。
「なんだ、この子は」
「あー、まぁ仲間みたいなもん」
おっさんは両手に抱えた箱をカウンターの前まで持ってきた。
「よし、こんなとこかな」
「まさか、全部買えって言わないよな」
にやりと笑うおっさん、悪人顔がよく映える。
「まさかな、多く買ってくれたらその分居させてやるだけさ」
「買わせる気満々じゃん」
俺は箱の中を覗くどれも高価な品ばかりだ。
「悪いけど、もう行かないといけなくなったんだ」
「そうか、ならさっさと買うもの決めな」
商魂たくましいなこのおっさん。
「じゃあ、そうだな…」
色々物色していく中で俺は一つの宝石を手に取った。
「これは、魔法石か」
この世界では魔法が存在する。MPを消費し呪文を唱えれば火を出したり、姿を消したりなどできる。
しかしMPは生まれた時ある程度決まる。
MPを増やすことは基本的には不可能である。
魔法石はMPを使わずに魔法が使えるアイテムだ。
ただし使用回数が限られていて使い切ったら壊れてしまう。
「これは何の魔法が入ってるんだ?」
「そいつは、中に炎の渦が入ってるやつだな」
炎の渦、かなり強力な魔法だ。
「なんでこんなものが売ってあるんだよ」
「あと一回しか使えんからな」
粗悪品じゃねぇか。
前の使用者は使い切る前に売りやがったのか、まぁ確かに魔法が強力な分一回でもそれなりの値打ちはするか。
「これにする」
「そうか、金貨25枚な」
一回しか使えない魔法石に、未使用の魔法石と同じ値段とは驚いた。
なんでこのおっさんの店つぶれないんだ?
「はいよ」
俺は値段交渉するのは面倒くさいので言われた額の金貨を払った。
「よくつぶれないなこの店」
「うちは客を選ぶ店だからな」
おっさんはニヒルに笑って受け取った。
店の外に出た俺は魔法石をアオイに手渡した。
「これは?」
「危なくなったら投げろ、それで発動するから」
アオイの性格上持たせておいたほうがいいと判断して俺は魔法石を買った。
(これからの旅のことを考えると、多分アオイは無茶をしそうだし。)
これからの旅…か。
「そういえば、なんでその神殿に向かってるんだ?」
「へ?」
アオイはきょとんとした顔で俺を見た。
そういえば、具体的に何故アオイを神殿まで送らなければいけないのかの詳細を聞いていなかった。
「神殿にはミネルヴァ様が祀られているんです」
「ミネルヴァ様?」
初めて聞く名前の神様だ。
「はい、そのミネルヴァ様のもとへ向かうように私は言われました」
「なんで、アオイはそんなとこに行くことになったんだ?」
するとアオイは自分の生い立ちを語った。