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もう一度仲間と始める冒険生活  作者: 四月一日
6/8

第6話対極

頭がぐるぐるする。

(私がいるから、こうなってしまった)

胸が苦しい。


私はイツキさんとアオイさんが必死にリュックを開いている中、ずっとその場で立ち尽くしていた。

(何か指示を聞いたほうがいいんだろうか)

「あの…」

小さく声をかけようとしてやめた。


(いや、この場静かにしていたほうがいい)

そうだ、自分なんかでは役に立たない。

イツキさんたちを困らせてしまうだけだ。


私は静かにその場で立っていた。

でも…

(自分だけ何もしないことは、迷惑なのでは…?)


私ができることは何だろう。

今この場にいる自分はお荷物でしかない。

イツキさんは言った、私がいるから、群れを倒せないと。


つまりイツキさんとホタルさんだけならあの群れを退治することができる…?

(そうだよね…こうなったのも私がこの場にいるせいなんだから)


なら、この場から離れれば…


しかしこの場から離れるにしてもあたりは雪道の斜面で歩きにくい、私では二人から遠く離れるのは無理だ。


「ひっ」

私は身をすくめた。

上を見上げたら白い雪道に黒い生き物の群れが列をなしてこちらに向かっていたからだ。


(あれが魔物の群れ…)

よく見ると私たちの跡を辿って一列に走ってきている。


(もうあんなに近くにいるなんて…)

心臓がバクバクと跳ね上がってきた。


恐怖で一歩足を後ろに引いた瞬間

「あっ」

私は背中から転んでしまった。


体が雪まみれになりながら雪の斜面を転がる。

しかしすぐにその勢いは止まった。


(びっくりした…そうか、背負ってるリュックが雪に引っかかって止まったんだ)

だが一つ分かったことがある。


(リュックを捨てれば、私一人でもこの雪道を下ることができる)

二人と距離が取れる。


(「人様に迷惑をかけるな」)

どこからか父親の声が聞こえた気がした。


今私は、ここに居るほうが迷惑?

それとも二人から離れたほうが迷惑?

どっちなんだろう…?


(「無理だ!あの数では君を守り切れない!」)

あの時のイツキさんの声が私の中で聞こえた。


(そう、だよね。私がいるから…)

私はリュックを降ろし雪道を滑るように下った。




真っ白な雪原に黒い毛皮がそこら中にばらまかれていた。

全てシュネードウルフのドロップアイテムだ。


ホタルのブレイドダンスでシュネードウルフの群れはすべて倒すことができた。


そして、置いてあった荷物と、ばらまいた食料を集めるため俺は1人で回収に向かい戻ってきた。


「やれやれ、ようやくひと段落着いた」

イツキはリュックを置きながら二人に話しかけた。


「おつかれー」

ホタルが笑顔で俺を迎える。

「まったく、氷の短剣持ってるなら早く言えよ」


何のために必死に逃げたんだか、俺はあきれ顔でホタルに話しかける。

「逆になんで持ってないって思ったの?」

「いや、最初にお金がないって言ってたじゃん」


最初にあった時ホタルは確かにそういった。

「だからもう売ったと思ったんだよ」

氷の短剣なら、かなりレアアイテムなのでおそらくは、数年は遊んで暮らせる額のお金が手に入るはずだ。


するとホタルは怒った様子で

「そんなことするわけないじゃん、大事な思い出なんだよ!」

と言った。


「大事な思い出…」

「みんなで必死に取りに冒険したじゃん」

「ああ…」

そういえばそうだった。


俺は頭の中であの時の冒険を思い出した。

正直憶えているのはめちゃくちゃ寒い中何時間も歩かされたことだけだった。


「だから絶対にこれだけは売らないって決めてたんだから」


そうか、ホタルにとってはあの冒険も大事な思い出なのか。


それからホタルにリュックを渡し移動を再開した。


しばらく歩くと雪がだいぶ少なくなり、緑の草や地面がちらほら見え始めた。

俺は先頭に歩いていたが、アオイの隣まで歩くペースを落とし話をする。


「アオイ」

すると声をかけられたアオイは少しおびえた様子でこちらを見た。

「はい…」


「一応言っておこうと思うけど、今度からは俺たちの元から離れないでくれ」

「はい…でも…」

「どうかしたんだ?」


「でも…迷惑では…?」

少し悩んだ様子でアオイは話した。

「大丈夫だ、むしろどうして迷惑だなんて思ったんだ?」


「私がいるから…戦えないって…その…」

「ああ、あれか」

確かそんなこと言った気がする。


「確かに君がいるから、戦いはなるべく避けたかったのは事実だ」

「だったら、やっぱり私が離れれば…」

「でも、それじゃ君を守れないじゃないか」


するとアオイが不思議そうな顔をした。

「私を守る…?」

「え?そういう依頼だろ?」


そんな不思議そうな顔されても…


俺は助けを求めてホタルのほうを見た。

するとホタルは様子に気づいたようで俺に説明した。

「そうなんだけど…ちょっと複雑で、なんていうかアオイちゃん私と同じスラム出身なんだよ」


「そうなのか」

「ほら、スラムの掟って昔話したじゃん」

話したっけ?何も覚えていない。


「人様に迷惑をかけるな…」

するとアオイはそう呟いた。


「なんだそれ?」

「それが習わしなんだよ、前の村はセントラルのとことかいっぱいあって、そこから食べ物とか服とか捨てて、それを拾って生きてるからセントラルの人の、邪魔にならないようにしなさいってよく言われてて、それで…」

「まった」


ホタルにストップをかけた。

俺は頭の中でホタルの言ったことを翻訳を開始する。


ええと、前の村っていうのは恐らく前にホタルが住んでいた村のことのはずだ。


で、セントラルはこの世界で一番発達した街、というか国って言ってもいい所だ。


だからそこの通り道には沢山の町が周囲に広がっている。


その中には、食べ物や服などを大量に捨てたゴミ山がありそこで暮らす村通称スラムが存在するっと。


そういえばそんな話も、昔聞いたような気がする。思い出しながらさらに翻訳を続ける。


そこでの暮らしはセントラルに住む人や他の町の人に迷惑をかけてはいけないという習わしがあると。


翻訳終了。


「それで、その話がこの子とどうつながるんだ?」

ここまで聞いても理解できない。

この依頼はアオイを安全に届ける依頼なら、アオイがどこに住んでいようが守らねばならないはずだ。


「だから、なんていえばいいんだろう…私やアオイちゃんとイツキはなんか違うっていうか…」


「人様、なんです」

アオイがホタルの言葉に続いた。

「人様?」


「そう!それが言いたかった」

「どういうこと?」


俺が聞き返すもホタルは納得した様子だ。

「人様なんだよ、セントラルに住む人と同じ、だから迷惑をかけたくないんだよねアオイちゃん」

「それが昔からの掟なんです」


「昔からの掟…」

言いたいことはなんとなくわかった。

詰まるとこ文化の違いなのだろう。


スラムに行ったことはないが、そこに住む人々は自分よりセントラルに住む人のことを優先するらしい。


俺もそのセントラルの住人と同じ人種だと、だから自分より俺の邪魔にならない、言い換えると自分のことより俺のことを最優先に考えている。


だから、群れに襲われた時もアオイは俺に迷惑をかけないように離れたのか。


そう言われてふとホタルと初めて会った時のことを思い出した。


そういえばホタルも、最初にあった時はかなり腰が低かった。

俺も初対面の時は敬語で話していたが、だんだん打ち解けてきてもホタルはずっと腰が低いままだった。


だからやめてくれと、仲間なのだからわがままでいてくれと頼んだ。


それからしばらくはぎこちない会話だったが、だんだんとホタルの本来の性格で話すようになった。


「人様に迷惑をかけたくない、か」


それはかつて自分の勝手な都合で、仲間を抜けた時の自分とは対極の考え方だった。


いつから俺は仲間より自分のことしか考えなくなったんだろうか。

読んでいただきありがとうございました。

もしよろしければレビューと感想をお待ちしております。

ブックマークだけでもしていただけたら、今後の作品作りのモチベーションになりますのでどうかお願いします。

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