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プロローグ

 


 思わず伸びをしたくなるような太陽の光が、あまり差し込んでは来なかった。


 それは辺りが暗闇で何も見えないだとか、これから起こる良くない出来事を助長するものだとか、そういう類のものでは無い。


 むしろそれは、太陽が存在する天からの恩恵。


 頭上にある数々の葉が太陽の光を吸収し、茶色の地面を照らす場所を大幅に制限させている。所々木漏れ日は差すが、全身に浴びれる程の日光が差している場所なんてほとんど無い。そのため地面近くは陰気臭い雰囲気が流れている。

 ここ、コルの森はそんな場所。地に近い存在ほど、光という天からの恩恵を受けられず、その姿を醜く地味に晒すのだ。


 しかしそれを差し置いても、立派な森だ。その森に風が吹けば草の香りが運ばれ、また葉同士が擦れ合う音も立体音響で聞く者の耳へとお届けする。光が照らしていた地面も、葉が揺れることでその場所を変化させる。


 それはまるで一つの生命体。

コルの森は、急速に変わりゆく今と対照的に、その姿を猛々しく優雅に永久的に映していた。


 同時に、そこは木材の宝庫でもある。木材どころか、希少な薬草や鉱石など、数々の資源が眠る場所だ。人間達が欲しがらないわけがない。

 しかしコルの森は今もなお、人の手が加わったという様子を見せず、絶えず原始的で神秘的な印象を与え続けている。


 それは何故か。


 その問いに対する答えの手がかりが、そしてその少年の物語の始まりが、森の中を駆け抜けていた。


「はぁっ、はぁっ……」


 照らされてはまた木陰に、照らされてはまた木陰に。頭上の葉がその者をはっきりと視認出来るレベルの光を供給してくれず、またその者はそれを分かっているかのように、利用しているかのようにグングンと加速する。


 そして断続的に見えていた黒き塊は、徐々に頭上の葉の枚数と反比例して姿を現していく。


 その体のライン、そして全体的なシルエットの小ささや細さは女性のようなイメージを見る者に彷彿させ、また髪の毛の質感や肌の白さも女性らしさという概念に拍車をかける。されど骨格や走る姿は、その概念を否定するかのように荒々しくがむしゃらだった。


 その黒き塊の纏っている服、装備は地味というか地面の色と酷似しており、そのため日が当たっても注視しなければ、人間かどうかも見分けるのが難しい。


 それは知恵。


 一秒、一瞬を争う狩人にとって、保護色という存在は新人狩人の生存率を飛躍的に向上させた。


 狩人。

それは、狩る者。


 走っている間も極力声を出さないように、足音も立てないように、そして視線はその先の狩られる対象から逸らさない。真っ向な戦闘は避ける、それが狩るという行為。


 黒き塊は、右手に持っている鋭利物に意識を傾ける。

 素材は青銅、柄と剣身に分かれた両刃の短剣。獲物を殺すための武器、最低限の殺傷能力が保障されている、逆に言えばそれしか搭載されていないものだ。


 しかし何の問題も無い。


 標的に近づくにつれ、その黒き塊の黒い瞳はある一点へと吸い込まれる。


 狙うは心臓。

 生物の息の根を止めるのに、そこまでの武器はいらない。大事なのは、急所を確実に仕留められる殺傷能力のみ。


 己の感情が心臓を呼応させ、そして理性がそれを制御する。

 躊躇いはいらない。それは最も愚かな行為。

 その言葉は自身の歩みに一層力を漲らせ、そして次の言葉で半身の状態の体に溜めと勢いをつくるのだ。


 一撃必殺。必ず仕留める。


 「せあぁぁっ!」


 こだまする黒き塊、少年の言葉が森を呼び、それに答えた木々がざわめく。

 コルの森での生命のやり取りもまた、原始的で神秘的なものであった。




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