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8話 旧友に再会する話

 あの激闘から一夜明け、俺は温かいミルクを片手に読書に耽る優雅な朝を過ごしている。

 昨日の疲れはまだ残っていて、脚腰の筋肉痛が少し痛い。


 今読んでいるのは『探偵ホーマン』。

 探偵である主人公が持ち前の頭脳と洞察力を生かして難事件を解決する話だ。

 読者の俺には想像もつかないような仕掛けやトリックを用意してあって面白い。

 謎に立ち向かう探偵の凛々しさ、推理が始まるときの臨場感。

 戦闘とは違ったハラハラする気持ちが味わえる。


 あっという間に読み終わった。

 今日はのんびりしようと思っているし、次の一冊との出会いを。


「では、これはいかがですか?」


「ああ、ありがとう」


 メロウが別の本を手渡してくれた。

 状況を客観的に見ると俺が主人でメロウが使用人のように見えてしまう。

 常識的に考えるなら立場は逆であるべきだが…、彼女が笑顔で接してくれている以上、邪魔するのも違う気がする。


 一度「ここまでやらなくていい」と言ったところ、しょんぼりして「ご迷惑でしたか…すみません」という反応をされたので、結局のところ厚意をありがたく受け取るのが正解なんじゃないかとなんとなく思う。


 渡された本は…『夢喰いの怪物』

 ダークファンタジーというやつだろうか。


 とりあえず、ドス黒い異形が大きく描かれた表紙を開いた。

『これはある街に暗躍する、人の夢を無差別に喰らう一体の怪物と、夢を守るために戦う少年少女の話。』


 面白そうじゃないか。

 作者は…。



 著者 ダンケル・ノクサー



 …は?

 眼をこすってもう一度見た。




 著者 ダンケル・ノクサー




「…マジかよ」


「どうしました?」


 俺は天を仰ぎ見た。正確には家の天井を何の意味もなく眺めた。


 ダンケル・ノクサー。

 俺、レイブン・グルジオの数少ない友人であり、一緒に冒険することもよくあった。

 話によると夢想の羽(ドリーマー・フェザー)というアイテムを作成し、商品化までしているらしい。

 ここ数年会っていないが、その間に何があった?


 なぜ作家デビューまでしているんだ?

 冒険者仲間だったはずなんだが…。


「…」


 俺は前に向き直り、おもむろに立ち上がった。

 隣で別の本を読んでいたメロウがビクッと動いた。


「な、何かありましたか…?」


「気が変わった。ちょっと外出する」


 ☆


 ギルドハウスとは逆方向に十五分。

 まだ朝も早いので街もそこまで活気づいておらず、何人かとすれ違う程度。

 八百屋の店主はだみ声で野菜を宣伝し、買い物をする夫婦の姿。


 その商店が並ぶ市場の少し先、三軒並ぶ一軒家の真ん中。

 これがダンケルの家だ。

 正確には俺と絡んでいた頃住んでいた家だから、引っ越しをしてしまっている可能性もあるが、試す価値はあるだろうと思って到着した。


「ここにダンケルさんが…!」


 メロウもいる。

 赤いブラウスに藍色のロングスカート。昨日の魔法使いらしい衣服とはうって代わり、年頃の女の子らしさを全面に出している。最も、メロウの容姿ならどんな服を来ても似合いそうな気もするが。

 ダンケルの家に向かうことを説明すると「私も行きたい」と言われたので、まあ断る理由もないかということで一緒に来た。

 女の子がいるとなると男同士のディープな話ができないが、それでも話の種は大量にあるから問題ない。

 現在隣でわくわくしている。ダンケルとは初対面のはずだが、何を期待しているのだろうか。


「さて…今もいるのかどうか」


 緊張しながら戸の前の呼び鈴を鳴らした。

 チリンチリンという涼しげな音が響く。


 …別の人が出てきたらどうするか。

 一応ブレインは初対面で悪影響を与える見た目ではないが、その後の話は絶対続けられない。


 少しして、ギイと音を立ててドアが開いた。


「はい。…どちら様で?」


 けだるそうな声と共に出てきたのは若々しい男。

 燃え盛るような赤い髪、知的で大人びた見た目を連想させる黒い眼鏡。

 爽やかな雰囲気を醸し出す黄緑のストライプ模様のTシャツ。

 そしてほどほどに筋肉のついた引き締まった肉体。


 ダンケルだ。少し大人びているが、間違いない。


「えっとその、私たちはレイブンさんの」


「『俺たちは夢追い人』」


 その一言にダンケルの眉が反応した。

 メロウが首をかしげて「?」という目を向けてきた。まあ当たり前の反応だが。


 ダンケルがフッと笑った。


「…こちらへ」


 右手を差し出し、俺たちを家の中へと誘った。

 さっきのは合言葉というやつだ。小さい頃、もし見た目が変わってしまっても俺たちがわかるように二人の合言葉を決めておこうとダンケルが言い出した時に作ったものだが、本当に使う機会が来るとは思わなかった。


 この反応は通じたと見ていいだろう。

 俺の方は見た目がまるっきり別人だから少しホッとしている。


 家の中に案内され、リビングに通された。


「こんなものしか用意できないけど」


 俺とメロウを二人かけのソファに座らせ、キッチンに消えたダンケル。

 少しして、三人分の紅茶とクッキーが出てきた。

 いきなり来訪したのにちゃんともてなしてくれるんだな。


 そして自身も椅子に腰かけ、不敵な笑みを浮かべて口を開いた。


「さてと…久しぶりだね、レイ」


「そうだな、ダン」


「それで?その格好はどういうことだい?幻影魔法じゃないみたいだけど」


「ああ、それがだな」


 左手の紋章をなぞった。

 一瞬視界が真っ白になってから、見慣れたレイブン・グルジオが現れる。


「おお...!何が起きた!?」


 ダンケルが目を見開いていた。手も震えている。

 そりゃ初見じゃ無理もないか。俺も最初は混乱したし。


「三日前だったな。あの洞窟の中で———」


 ~三分後~


「…へぇ、そんなことが」


 謎の人形を見つけ、起動したら同化したところまでを話した。

 意外とあっさり信じてくれた。


「──、おっと、レイとの内輪話しかしてなかったね。このお嬢さんは?」


 メロウの方をちらりと見た。

 それを聞いてメロウは一瞬で固まってしまった。


「あ、あの…私はメロウ・アブリオと言いますごにょごにょ」


 何を緊張しているのか、声が小さい。

 かろうじて聞き取れたダンケルが落ち着いて話を続ける。


「なるほどメロウちゃんか。…レイのツレかい?」


「ふぇっ!?」


 一瞬で頬が紅潮した。

 緊張したり照れたり忙しいな。…ちょっと可愛い。


「違うぞ。いろいろあって家に入れてもらってるだけだ。一線は超えてない。」


 俺の発言でメロウが少し残念そうな顔をした。

 一方ダンケルは少し笑顔が崩れて眉がひくひくしている。


「へえ…レイ、そのイケメンな身体手に入れてすぐ女の子口説いたんだ…?こんな可愛くて優しそうな子と同居?ふーん」


 おい、それは勘違いだ。俺は昔も今も口説くような真似はしてない。

 というかできない。女の子の仲間を作るどころか、ダンとガーディスのおっさんくらいしか深く関わってた人いなかっただろ。


 そんなことを考えていた最中、メロウがニコニコしながら口を開いた。


「そうなんですよ♪見ず知らずの私が探していたアイテムをすぐに自分の手持ちから渡してくださって『君がこれ以上この洞窟をうろついて危険な目に遭うと、俺は嬉しくない』って…!本当に格好良かったです」


 頬を押さえて笑顔を絶やさないメロウと、静かな怒りがこみ上がっているダンケルとの温度差が尋常じゃない。


「……これはダメだね。親友だと思っていたけど、実は敵だったのかな…?」


 そうじゃない。あれは口説きでもなんでもない。

 俺の性格がわからないお前じゃないだろ。見た目が変わったくらいじゃ中身は変わらん。


「ちょっと待て。それは違うだろ」


「もう何を言っても無駄さ。今回連れてきたのも僕に自慢するためなんじゃないの?」


「冗談なのはわかってるが、その皮肉は辛い」


 あとメロウは俺が無理やり連れてきたんじゃない。

 メロウが来たいと言って…。


「そうでした。レイブンさんとの惚気話だけで終わるところでした。」


 何かを思い出したメロウがごそごそと自分の袋の中を漁り、一冊の本を取り出した。

 その本こそ俺がここに来た理由であり、目の前の男が作者である作品『夢喰いの怪物』だ。


 メロウはダンケルに向けて本を差し出し、深々と頭を下げた。


「あの、私実は『夢喰いの怪物』大好きで、その…ファンなんですっ!サイン下さい!!」


 …。

 俺もダンケルも絶句している。

 眼を見開いて驚いたままのダンケルはしばらくして平常心を取り戻し、本を受け取った。


 そして懐からペンを一本取り出して、表紙にでかでかとサインを書いた。


「これでいいかい?」


「はい!ありがとうございます!」


 サイン入りの本を受け取ったメロウは嬉しそうに抱きしめた。

 ダンケルは心の底から満足そうな笑みを浮かべて、俺の方を見た。


「まさか僕の小説にファンが…しかもこんな可愛らしい…。」


 そしてグッと左手の親指を立てた。


「レイ……ナイスだ」


 一瞬の掌返し。もはや鮮やかにさえ見える。


「まあ、お前らしいな」


 この後、会わなくなってからのお互いの経緯の話が続いた。


「なあダン。『男の娘』って概念知ってるか?」


「聞いたことはあるけど見たことはない。物語の中だけの存在じゃないの?」


「実はだな、今パーティー組んでる仲間の一人がその『男の娘』ってやつで、なんだかんだ強いんだが他の部分で色々大変な目に」


「へー。今度僕にも会わせてよ。次の作品を書くヒントになるかも」


「スイランさんは凄い方ですよ?いい刺激になるかもです」


「それは楽しみだなぁ」


 メロウの緊張はいつのまにかほぐれていた。


「それと、なんか『夢想の羽(ドリーマー・フェザー)』って道具があるらしいんだが、お前が作ったという話を聞いたぞ?」


「あー。うん、僕が製作・販売してるやつだそれ」


 ダンケルは一度自室と思われる部屋に消え、少ししてから見覚えのある羽を持って戻ってきた。

 これで確かめたかった事実が一つ、真であることが判明。


「それ、何を思って作ったんだ?スイランが俺の夢の中に勝手に侵入してきて寝覚めが最悪だったんだが」


「そうなんだよ。イタズラに使われて悪質だって苦情がきて困ってる。僕はね、そんな目的のために作ったんじゃないのに!」


「…なら、どういう場合を想定して作られたのですか?」


「…街の一角にて、深く愛し合っているのに家柄の問題で公に会えない男女。切なくて愛しいあの人にどうしても会えない悲劇のヒロインのために、この羽がある!どれだけ両親の反対を受けようとも、夢の中まで妨害することはできない。夢の中で、誰にも邪魔されることなく彼女は会いに行くことができる…!そして濃密な二人きりの時間を———」


「「…。」」


 ダンケルの熱弁と無駄に気合の入った演技はしばらく続いた。


「———、という状況を考えて作ったんだけど」


「恋愛小説の読みすぎだ」


「女の私としては憧れるシチュエーションなのですが…。これはちょっと…」


「僕の感性が理解してもらえなくて残念。…と、僕の話も聞いてくれ。僕の方は冒険者を続けながら道具作ったり小説書いたりして、まあまあ儲けたんだよ」


 ほう。そういえば家の内装が前より豪華に見える。

 結構な金持ちになったようだ。


「でもね、お金があるだけじゃ彼女はできないんだよ…。———レイみたいにイケメンで強くないとダメらしいねぇ?」


 まだそれ根に持ってるのか。

 しかもブレインは力弱いし。メロウの強化魔法がないとミノタウロスに勝てないレベルだし。


「他にも、夢に関する研究をしていたら研究者仲間ができていろんな話を聞けて研究のモチベーションも上がってる」


 研究か。ダンは魔物の生態とかよく調べていたし、そういうことに興味を持つのも必然か。


「夢に関する研究ってなんだ?」


「そうだねー、例えば夢の中の食べ物を実際に食べられるようにする研究をしてる人がいたり、自分の想像通りの見た目に固定する魔法の研究があるとか」


 …仲間の思考回路がそれなら、ダンケルもあんな物開発するわけだ。

 子供の願望みたいな目標に全力で立ち向かってどうする。


「この辺りはレベルの高い研究者が多いからね。ちなみに僕は『夢や思念体の実体化』を目指してる」


「研究のレベル以前にテーマ決めに問題があるんじゃないか?…それで、お前の実体化とやらは何が目的なんだ?」


「実体化させて『夢そのもの』に行動させることで、夢の実現を近づける。あと上手く設定をいじることができたら、家事とかを任せられて便利なんじゃないかと」


 ダメだついていけない。

『夢に行動させる』ってどういうことだ??

 テーマはでたらめの癖に研究としてのレベルは高そうなのが腹立つ。


「す、すごいですね…!みんなの夢を叶える第一歩になる偉大な研究ですよ!」


 メロウがきらきらした目でダンケルを見つめている。

 そしてさも当然という風にうなずくダンケル。俺抜きで話が勝手に進んでいく。


「わかってくれるよね!?僕がおかしいんじゃないよね?メロウちゃんにも夢があるのかい?」


「恥ずかしいのでここでは言えませんが…ダンケルさんの夢はこれの完成ですか?」


「僕の夢は昔からずっと『世界を変える』なんだけど…まあこれも世界変えるだろうし…ね?」


「世界変わりますよ!!それは夢の中のファクターの魔術要素に関わる———(以下略)」


「実はね、この残留思念を昇華させるために必要な魔力量を摘出する器具が———(以下略)」


 議論が二人の間で白熱している。俺にはさっぱりわからん。

 なんでメロウ詳しいんだ…?それとも俺の教養が足りないのだろうか。

 これまでの状況と打って変わって、俺が疎外感感じてるんだが。


「ぜえ、ぜえ、...ねえレイ…メロウちゃんちょうだい」


 熱い話し合いが終わった後、ダンケルは息を切らしながらとんでもないことを言い出した。現在の様子のせいでより一層変態のヤバい奴に見える。


「とりあえず落ち着け。」


 俺の声に反応して、二人は同時にテーブルの紅茶をぐっと飲み干した。


「「…ふぅ」」


「少しは落ち着いたか?」


 二人ともこくりとうなずいた。

 ひとまず熱い話し合いは一段落したようで、静かなティータイムが始まった。


 しばらくして、二杯目の紅茶を味わっていたダンケルがカップを置いて話を切り出した。


「そういえば、最近『エトラの森』で竜種の大型魔物が目撃されたって噂があるんだけど、知ってる?」


「いや、知らないな。信憑性あるのか?」


「目撃者が五組くらいいるってさ。しかもその五組、バラバラの時間帯に見たって」


 ならそこそこ当てになる情報か。

 だが竜がエトラの森で?そこがよくわからん。

 エトラの森は昨日行った洞窟と違ってかなり初心者向けのダンジョンで、強い魔物の情報は全くと言っていいほどない。ドラゴンなんてもっての外だ。


「という訳で、レイ。久しぶりにさ…一狩りどうだい?冒険者なりたての竜種討伐は箔が着くんじゃない?」


 なるほど。そういう提案か。

 まあダンと冒険するのも悪くない。だが目的がちょっとな…。いるかどうかもはっきりしない竜を探すほどの価値があの森にあるかどうか。特に受理している依頼も今はないし。


 返答をためらっていると、ダンケルが俺の隣を指さした。


「レイは迷ってるみたいだけど、お隣のお嬢さんは行きたそうだよ?」


 振り向くと、メロウは心なしか落ち着きがないようだ。そわそわしている。


「…行きたいのか?」


「…レイブンさんとダンケルさんの、相性抜群のコンビネーションを一度見てみたいです」


 それは過大評価だ。

 ダンとの相性が抜群な訳じゃない。俺は誰とでもある程度の連携は取れる。ただ他の奴と組む機会がほとんどなかっただけだ。


「メロウちゃんの彼氏と憧れの作家の二人のカッコいいところ、存分に見せてあげようじゃないかい?」


「勝手に彼氏にするな。 …見つけたとしても、勝ち目が薄かったら退避するぞ」


 結局承諾した俺を見て、ダンケルはしてやったり顔でフフッと笑った。


「あははは、そうこなくっちゃね! …これで竜から膨大な魔力を回収できれば研究の続きが」


「研究の続きがなんだって?」


「いや?何も言ってないよ?」


 こういうところは相変わらずだ。ある意味安心する。


「じゃあ、ごはんだけ食べて早速行こうか」


「は?まさか今日このまま行くのか?」


「そうだけど?善は急げって言うし、わざわざ僕の家まで来たってことは今日は予定ないんでしょ?」


 間違ってはいない。だが流石に明日とかの話だと思っていた。

 そういえば、ダンはどちらかというとせっかちだったな。


「レイブンさん、スイランさんも誘いますか?」


「んー、会えたらでいいんじゃないか?居場所がわからないし、俺はアイツの家知らん」


「はっ、そういえばそうですね。次お会いした時のために、魔術通信機を購入しませんか?」


「なんだそれ」


「「えっ」」


 二人は絶句した。

 いきなりこの部屋の中に静寂が訪れる。

 …なんだ、この空気。


「レイ…通信機知らないのか…。半年前に発明されて、知らない人なんかほとんどいないのに…」


 半年前なら無理だ。俺は半年以上街に帰ることなくダンジョンを転々としていた。


「で、それがあると何ができるんだ?」


「特殊な魔術を使って、離れた場所にいても会話ができるんです。使用者は軽く魔力を使うだけなのですごく便利なんですよ」


「すごいな、それ…!画期的な発明じゃないか!」


「う~ん、リアクションが半年遅いんだよなぁ」


 そんな発明品があるのか。世の中には色々な分野において凄い人がいるものだ。

 ダンもそういう便利な道具の発明をしようという発想にはならないのだろうか。…まあ研究者の考えというのは戦闘一筋の俺にはわかりやしないか。


 昼飯は、ダンケルがきのこパスタを作ってくれた。

 結構味付けが本格的でうまかった。

 かなり多才なんだよな、コイツ。


「レイはね、少し薄めに味付けするのが好みだよ。あとグラップフルーツが大好物で、持っていけば大抵の頼みは聞いてくれる」


「なるほど。参考になります」


「嘘を混ぜるな。俺はグラップフルーツが苦手だ、酸っぱくて食えん」


「メロウちゃんが真心こめて取ってきてくれたものでも?」


「…調理法による」


「僕が取ってきたフルーツは?」


「お前の口に押し込む」


「うわーひどーい。差別だ差別~」


「うふふ、お二人はとても仲がいいんですね」


 ダンと会話するとそれだけで疲れるが、まあ楽しいかどうかと聞かれたら楽しい。


 そして昼食後すぐに出発。

 目的地はダンケルの家から比較的近い場所にあるから、さして時間はかからない。

 幸か不幸か、スイランとは会わなかった。


 まだ昼だというのに、木々の影で薄暗い森。

 道はあるが、曲がりくねっていて先が良く見えない。

 不気味さの観点なら間違いなく上位に入るであろうダンジョン、『エトラの森』。


「噂されている竜以外に注意する点は正直ないが、油断するなよ、ダン。」


「油断しても、レイが全滅させてくれるよね?」


 ちなみに、ダンケルはさっきのTシャツから、防護の魔法を付加した斥候職の紺色の衣服に着替えてフードを被っている。ダンの戦闘装束というやつだ。


「今の俺はブレイン・グルジオだ。並の冒険者より筋力が弱いぞ」


「私がサポートしますから、大丈夫ですよ。レイブンさんは強いです!」


 メロウもまた冒険用の紫のローブに着替えている。個人的には初めて会ったときのあの純白の衣服が好みだったので、またどこかで着てほしいと思っている。

 無論、そんなこと口に出せるはずもないが。


「はぁ~、僕もメロウちゃんみたいに可愛くて優しくて強化魔法も使える彼女が欲しい人生だった」


「御託はいい。準備はいいな?」


「「ああ(はい)!」」


 俺たち三人は、不気味な森林へ足を踏み入れた。


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