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6話 三人で洞窟を進む話

 探検を始めてある程度の時間が経過。

 現在三階層。俺はここの構造を大体把握しているから、迷うことはない。


 そして、ここまでの道のりで四体の魔物に遭遇した。

 どれも強い魔物ではなく、戦闘の練習にちょうどいい敵のはずだった。

 …スイランが速攻で氷漬けにしなければな。


「ふふ~ん♪」


 ニコニコ笑顔で意気揚々と歩いている。

 実際強いし、倒すたびに「どうどう?ボク凄くない?」と聞いてくるものだから肯定せざるを得ない。そしてさらに増長し、次の魔物も氷で瞬殺してしまう展開。


 このダンジョン、氷耐性高い奴いたっけ?

 ミノタウロスはそこそこ耐性があるが、スイランの魔力だと相性無視して無理やり倒しかねないから微妙だな。


 スイランが撃ちまくっている魔法は『ジオレイズ』。氷耐性が低い魔物は大体一撃で仕留められるパワーがあるから、この辺の魔物相手ならまず押し負けない。


 元素魔法はそれぞれの分野ごとに、規模の大きさによって五段階に分かれており、昔のトップの魔導師たちが名前を決めてある。

 ジオレイズは氷魔法の五段階中、上から三番目。

 一番下は『フリード』、一番上は『アークティディオス』といい、アークティディオスは超強力な上範囲が絶大なため、使うタイミングを考えないと味方を巻き込む。俺は一発使うと魔力切れ寸前に陥るから基本的に使えない。


 魔法を使う際は、その人が体内に貯めている魔力を昇華させ、その時に発生する力を元素や強化などに変えることで効果を発動する。

 魔力は空気中のものを常に無意識の内に吸収し貯めているが、その貯められる魔力の最大値は人によって異なり、努力でもある程度補えるが才能の要素が強い。


 スイランが努力をしたのかどうかは知らないが、才能があるのは確かだ。

 凡才の駆け出しがジオレイズを連発していたら、確実に精神的な疲労が起きる。しかしスイランは今でもピンピンしている辺り、自分の限界を知っているし使い慣れているのだろう。『パパとダンジョンに行ったことがある』というのも恐らく本当。


 スイランが強いことははっきりわかった。

 だから、ひとまず力を抑えてもらって、俺たちの力を試させてほしいところなのだが...。


「~~♪」


 あの上機嫌な様子を無視して、「氷魔法使うのやめろ」と言うのは難しい。

 あと機嫌を損ねると何されるかわからないから怖い。

 素で人の夢の中に侵入するような奴だ。機嫌が悪くなったらどうなるか想像もつかない。


 となると...


「メロウ。次に敵を見つけたら、スイランに知らせるより先に俺に強化魔法をかけてくれ」


「わかりました」


 苦笑いをしながらも、うなずいてくれた。

 多分俺の思惑に気づいてくれているのだろう。

 スイランの妨害ができない以上、スイランより先に魔物を倒すしかない。


 信じてるぞ、メロウ。


 そう意気込んで進む俺たちだったが───

 誰とも遭遇せずに四階層への階段に到着。


「…下りるしかないか」


「そりゃそうだよね?なんで迷ってるの?」


 結局まだ俺の物理的なパワーわかってないからだよ。


 ここは四階層に入ると魔物が一段階強くなり、これまでみたいにあっさり勝てる相手はいなくなる。

 スイランの氷魔法は駆け出しの域を大幅に超えた強さがあり、メロウの肉体強化魔法も確実に強力なことがわかっている。

 魔物に出会って三人即死なんてことはないだろう。


 だが氷魔法で一撃とはいかなくなる。

 そして魔物は空気を読んでこちらの休憩を待ってはくれない。冒険者を見つけたらどんどん襲いかかってくる。

 その辺りの不安が拭いきれないが…。


「ささ、はやく行こ~」


 もう下りている。

 メロウと顔を見合わせ、階段を下りて行った。


 四階層に到着。

 ここからはより一層真剣に周りに気を配らないといけない。


 魔物が全体的に強いのもそうだが、このダンジョンの四階層以降に一体、強烈な不意打ちをかましてくる奴がいる。

 それを知らないまま突貫し、奴に蹂躙された冒険者は数知れず。


 二人には伝えておくか。

 ひとまず立ち止まった。


「ちょっと聞いてくれ」


「はい?」


「んー、どうしたの?」


 周りをチラチラと確認しながら、俺は話を始めた。


「四階層なんだが、一番注意すべきなのが———」


「シャドーマ族ですよね?」


「そう、そのシャドーマが…って知ってるのか」


「そりゃ知ってるよー。強い人がよく『アイツには注意しろ』って言うし」


「…ならいいか。」


 一瞬の沈黙の後、再び移動開始した。


 シャドーマ有名なのか…。なら警戒はしているだろうし注意喚起はいらないか。


 シャドーマというのは、物体の影に魔力が宿って自我を持ち動き出すようになった魔物だ。形が自在に変わる上、見た目真っ黒だから暗闇のダンジョンでは最強格と言われている。

 そして奴の恐怖は、影と同化しながら壁や床なんかをつたって移動し、槍型になって背後から肉体を丸ごと貫くという必殺の不意打ちを放ってくる点にある。

 鎧なんかは基本的に貫通してくるので、対処としては避けるしかない。

 動きは単純なので存在に気づいてしまえばあっさり避けられるが、戦闘時以外はペラペラな影なので発見が難しい。


 という訳でシャドーマが発生するダンジョンは基本的に気が休まる時がないので、熟練冒険者には嫌われる傾向にある。

 俺もこの洞窟にいる間、四階層より下で寝たことは一度もない。


 …噂をすれば影が立つ、なんていう言葉がどこかにあったか。

 いるわ。シャドーマ。メロウの影に重なっている。

 うまく同化しているつもりかもしれんが、メロウの影がやたらでかいし歩いているメロウの姿と影がズレている。


「…」


 剣を逆手に持っておもむろにメロウの方に近寄る。


「え、どうしました?」


 メロウが動揺しているが、話している暇はない。


 俺は隙をみて一瞬でメロウのすぐ傍に突っ込み、影に剣を突き立てた。


「きゃあっ!?」


「グギギッ!?」


 メロウの悲鳴とシャドーマの絶叫が洞窟内に響く。

 シャドーマはそのまま消滅した。


 うまく処理できた。

 反射神経と瞬発的な剣技のパワーはレイブンとさほど変わらないみたいだ。

 それならば、敵とぶつかる一瞬に集中する戦い方を取ればなんとかなりそう。


「これがシャドーマの倒し方だ。わかったか?」



 ...返事がない。

 よくわからなかったのか?

 振り返るとメロウは青い顔をして腰を抜かしており、スイランはジト目でこちらを見ている。


「あわわ...」


 何があった?別の魔物か?

 辺りを見回すも、誰もいない。


「どうした?」


 メロウは黙ったままだ。


「いや、あのさ、ブレイン...。今のはさすがに怖いよ」


 スイランがため息をついてそう呟いた。


「怖い?」


「うん。だってさー、いきなり殺気マンマンの目で剣構えて突っ込んできたらボクだって怖い。ブレイン、顔が本気だったよ?」


 ...恐る恐るメロウの顔を見た。

 小さくコクコクと縦に首を振った。肯定していると見ていいだろう。


「ブレイン~、女心がわかってないなー。無闇に怖がらせるのはマイナスだぞ☆」


 スイランがニヤリと笑って煽ってくる。

 お前女じゃないだろ。


 だが、そういった点は考えていなかった。

 元々友好的ではない俺は自分から仲間を集めるようなことはせず、強くなるにつれて俺に近づく人はいなくなり、冒険の仲間、ましてや女の子の仲間などできるはずもなかった。

 その結果ダンジョンに潜る時は俺一人か、ダンケルと二人で行くことが多かったから自分が仲間を怖がらせるという感覚はあまりなかった。


 こういう杜撰な所や戦闘態勢の時の殺気というのも嫌われポイントなのだろうか。


 ブレインでも怖がられる辺り、完全に癖なのだろう。

 ブレイン・グルジオとして大成するためには、どこかで克服しておかないとな...。


「気をつけよう」


 少し待ってメロウに落ち着いてもらい、再度五階層への階段を目指して歩き始めた。


「すみません...ブレインさんがそんなことするはずないって、わかっているんですが...」


「別にいい。コイツも怖いと言ってるんだし、実際怖いんだろ」


 微妙に落ち込んでいるようだ。罪悪感に苛まれる...。

 俺とスイランが励ましながらしばらく歩いていると、


 ズシン、ズシンと足音が聞こえてきた。

 近づいてきている。

 ここで大型の魔物といえば...


「キメラ。だね?」


 そう、キメラと考えて間違いないだろう。

 それはそうとして、


「お前、まさか俺の心が読めるのか?」


「いや、読めないよ?そんな魔法が使えたら、ボクならもっと楽しい使い方をするさ」


 ならたまたま俺の心の声と話が噛み合っただけか。


 キメラは大型の獣タイプの魔物で、肉食獣の牙や爪で激しく攻撃する上、尻尾の蛇が硬直させる魔法を放つ。

 単純な戦闘力がかなり高く、真っ向から戦うとなると魔物全体で見ても強い部類に入る。

 だが巨大故に近くにいると足音や雄叫びが聞こえる上に戦闘時以外は動きが遅いため、慎重に動けば比較的楽に対面することなく抜けられる。そのため常に気を張る必要がない分、シャドーマほどの脅威にはならない。


 足音から察するに、最短ルートで階段に向かうと途中で見つかる可能性が高い。

 ここは迂回だな。


「キメラは他の魔物より段違いに強い。無駄に体力や魔力を使わないためにも、遠回りするぞ」


「えー、戦わないの?」


「なんでそんなほんわかした顔して発想が戦闘狂なんだ」


 キメラはジオレイズだけで押しきれる相手ではない。

 絶対勝てる保障がない敵にわざわざ突っ込むのは得策とは言えない。


 卑怯だろうと臆病だろうと、まず生き残ることが第一だというのが冒険者のモットーなのだが、わかってくれないか...。


「先ほどの不躾を挽回するには、ここで私が強化魔法で役に立つことを...!」


 メロウが拳を握りしめてこちらを見ている。

 嘘だろ...


「いやダメだ。ここは迂回するぞ」


 キッパリと言ってやった。

 二人はキメラの怖さを知らないから戦おうとしているだけ。

 それは勇気ではなく慢心に過ぎない。


「...わかったよ」


「はい」


 渋々うなずいてくれた。

 とりあえずこれで動ける。


 さっきより足音が大きくなっているから、近づいてきているのは間違いない。

 ひとまず後ろに下がってやり過ごすか。

 合図をして三人で静かに来た道を戻った。


 すると少しして、一体の魔物に遭遇した。

 荒い鼻息、筋骨粒々とした真紅の肉体、巨大な荒削りの斧。

 あの時メロウを襲ったアイツだ。


「ミノタウロスは逃げてもしつこく追ってくる。ここで殺るぞ」


「グモ?グオオオオオオオオオオ!!!」


 俺たちを発見するやいなや奴は鼻息を荒くして、斧を軽々振り回しながら突進してきた。


「チッ」


 少し斜め前に出て注意を引き付け、壁の前に誘導する。

 直撃する寸前で左に飛び込み、斧を交わして壁に激突させた。

 ズガンという音が響き渡り、壁に小さな穴が空いた。


「ゴオッ!?」


 そこにスイランのジオレイズが炸裂。

 冷たい柱が屈強な肉体を包み込む。

 力ずくで氷を砕いて脱出するも、少し焦りの色が見える。

 一撃では倒せずとも、効いてるな。

 俺がヘイトを集めてしまえばスイランがジオレイズを連射して仕留めてくれる。

 レイブンみたいに斧の隙間を抜けて首を狩りにいけないが、避けるだけなら奴に集中していれば造作もない。


 案の定目が血走っていて、俺しか見えていない。

 俺に迫って斧を振り回して襲ってくるも、動きが単調だから避けきれる。


 だが体力が少し心配だな...。チラリとスイランの方を流し見た。

 その瞬間俺は状況がまずいことを悟った。


 スイランは詠唱をしておらず、頭を抑えて苦しそうにしている。メロウが慌てて近寄って声をかけている。


「ううん...」


「大丈夫ですか!?」


「ああ、だいじょう...ぶさっ」


 平静を装っているが、汗をかいているし少しふらついている。


 魔力が切れかけてるのか。このタイミングはまずいな。

 だが俺がミノタウロスの相手を放棄するわけにはいかない。


 こうなったらメロウに頼るしかないな。

 俺は腰につけてある魔法袋を外して二人に向かって投げた。


「メロウ!袋の中にあるポーションをスイランに飲ませろ!」


「! はい!」


 メロウは急いで袋の中を漁り始めた。


 それでいい。

 あとは俺がもうしばらく時間を稼げば...


「ブモオオッ!!」


 袋を投げた際の隙で避けきれず、奴の斧が左肩を掠めた。


「ぐっ...!」


 一発食らっちまった。掠めるだけでも服は裂けて皮膚にも傷が入った。

 直撃したら即リビールの実を飲まないと助からないほどのパワーがあるから絶対に食らってはいけない。


 ジリ貧な戦い方なのはわかりきっているが、ブレインの筋力ではそろそろ限界が近い。

 もう周りを見ている余裕はない。自分のことで手一杯。

 メロウ、スイラン。任せた。


 次の突進に備えて膝を軽く曲げたその時、


「うおっ!」


 急激に全身に力が漲ってきた。

 この感触はメロウの強化魔法。


 …でもなぜ?俺がダメージを受けたのを見て血迷ったか?

 どちらにせよ確認する暇はない。


 強化魔法があればレイブン並の筋力が発揮できる。

 予定とは違うがぶっ倒す。


 少し距離を置いたこの位置関係。

 俺からは何も仕掛けない以上、ミノタウロスが取れる選択肢は——

 ———突進一択。


 突進と振り回ししか選択肢がない脳筋で助かる。

 倒し方もパターンが決まっているからな。


 予想通り突進。

 これまでと同じく寸前で避けながら壁に誘導。


「グググモモオオオオオオオ!!!」


 壁を背にした状態で奴を待ち、斧を振り上げるのを見計らってジャンプ。

 俺がいた地面が斧の衝撃で音をたてて崩れた。


 血走った目を俺の方へ向けてくるが、もう斧を持ち上げるのは間に合わないからこれで終わり。

 そのまま落下のスピードを利用してミノタウロスの硬い脳天を剣で貫いた。


「ゴアアアアアアアアア…」


 ミノタウロスはそのまま膝から崩れ落ち、頭に剣が刺さったまま壁にもたれかかるように倒れて消滅した。


「ふぅ…」


 強化魔法が切れて倦怠感がする。

 見ると、二人も疲弊しているようだ。

 だが聞かなければならないことが一つ。


「メロウ。俺に強化魔法をかけたのはなぜだ?」


 どういう判断なのかわからない以上、確かめる必要がある。

 もし俺の強さを過信しているのなら、その認識は正さないといけない。


 メロウは少しうつむいて口ごもった。

 何か言えない事情があったのだろうか。


「えっと…その…」


「変にかばおうとしなくていいよ。ボクが言ったんだ、『ポーション探すよりブレインに強化魔法かけた方がいい』って」


 スイランが笑いながらメロウの手を握った。


 俺の怪訝そうな表情を見ても笑顔を崩さずに弁明を始めた。


「だってさ…探索していて思ったんだけど、ブレインは状況の読みが凄いからね。力があんまり強くないみたいだけど、それならメロウの強化魔法との相性抜群じゃん?」


「…」


 スイラン、お前は何者なんだよ。

 なんだその観察眼は。お前本当に冒険者なりたてなのか?


「お前、本当に何か秘密を隠しているんじゃないのか?」


 俺の問いかけに対し、スイランは不敵な笑みを浮かべた。


「う~ん、ボクの秘密を知りたいのならブレインも秘密を教えてくれないとなぁ…。例えば———

 ———その顔、実は素顔じゃないとか」


「!!」


 なんだと!?

 まさか人形のことに気づいて…


「だってさ、格好よすぎるじゃんもう! 魔法で作り替えたんじゃないの?ボク男なのに惚れちゃいそうだよぉ」


 地団太を踏んで悔しがっている。

 事情を知らずに見たら微笑ましい光景なのだろうが、一人の男(?)が他人の容姿を羨んでいるだけだと思うと呆れる他ない。


「…」


 もういいや。

 妙に勘がいい所があるが、特に深く考えていないだけだろう。


「…話は変わるが、わかったろ?俺たちは安易にキメラに挑んではいけない」


「「…うん(はい)」」


 この実体験は活きる。

 ギリギリの戦いによる恐怖は慎重な立ち回りを心掛けるきっかけになる。


 幸いさっきのキメラは俺たちに気づかず遠くに消えたようだ。

 スイランはポーションで魔力を回復、俺も自分に回復魔法を唱えてひとまず呼吸を整えた。


 あと一階層。気を引き締めないとな。


「…」


 ズドンと壁に向かって剣を突き立てた。

 隠れていたシャドーマが絶叫して消滅。

 さっきから壁をつたって来ていたのはわかっていた。


 今回は殺気が溢れないように普段通りを意識したが…


「今のは『怖い』より『格好いい』ですよ」


 メロウが純粋な愛らしい笑顔を向けてくれた。

 なるほど、シャドーマを急いで仕留めるときはこんな表情をすればいいのか…。


「笑顔で壁に剣を刺すのはちょっと…呪われておかしくなったのかと…」


 引いてるんじゃねえ。

 素で女装してるお前の方がよっぽどヤバいだろ。


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