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53話 幼女の大冒険の話

二週間も投稿が遅れました……

原因は色々ありますが、リアルが若干いそがしくなったとか、モチベがやや落ちたとか、うちのライ〇シャワーとナリタタ〇シンとかそれは色々な理由が……。

 東洋には、『可愛い子には旅をさせよ』という言葉があるらしい。


 大切に育てている子には、時には親の庇護下を離れて頑張ることも必要だという意味だ。

 もちろん、責任逃れの育児放棄とは意味合いがまるっきり違う。


 だからこれは正しい選択、正しい行いなのだが———。


「武器は持ったか?食料は?煙玉と、魔力ポーションと不審者撃退用使い魔にパパを呼ぶ魔術式のストックと———」


「パパうるさい!!!」


 私、ベクターの娘フィーネがよそ行きの衣服に身を包む。

 淡い青色のワンピースが、彼女のなびく黄緑の髪とマッチし、あどけなさを醸し出している。


「フィーネはまだ九歳だぞ?街は危険に溢れているから、パパは心配で心配で———」


「市場で、野菜を買ってくるだけですよ?魔王城にでも向かわせるんですか?」


 隣で、妻のフィリアナが苦笑いしながら私の肩を揉んでくれる。


 今回の任務は『おつかい』。

 フィリアナが『あら、今日の夜に使う野菜が足りませんね。』と呟いたのが事の発端。フィーネが名乗りを上げ、じゃあお願いねとウインクをしたフィリアナ。私が異変に気付き駆けつけた頃には、全て決定された後。


「だが、年頃の女の子が一人で街に行くだなんて、父親としてそんな真似はさせな———」


「はいはい、一度止まりましょうねー。」


「今回ばかりは負ける訳にはいかなあばばあばばばば」


 一瞬で現れた電撃が直撃し、私はあっさり撃沈。

 筋肉質な巨漢が細身で華憐な女性に完敗を喫するシーンは、冒険者の世界なら割と起こる。


「ささ、フィーネ。ママがパパを抑えているうちに、いってらっしゃい。」


「うん!行ってきます!!」


 家のドアを開けて、フィーネが元気よく飛び立っていった。

 それを止める力は、今の私には残されていなかった。


「では……貴方、フィーネがおつかいに行っている間に、私たちは大人のひと時でも過ごしませんか?」


「何を企んでいる?」


 小悪魔のような笑顔で、フィリアナが微笑む。

 普段は天使のような慈愛を持っている彼女だが、時折お茶目な一面を見せて悪だくみをするから油断できない。


「……」


 部屋のど真ん中で倒れ伏す私を見下ろすように、冷たい視線が向けられた。

 長年一緒にいたからわかる。これは所謂、すねた状態だ。


「……知っていますか?旦那の愛が不足した妻は闇堕ちするんです。」


「ほう。」


「フィーネは若くて可愛いですもんね……貴方が大切に育てようとするのもわかりますけど、貴方が最初に愛してくれた女への気持ちが忘れ去られていくんですよ……!」


 なんというか、しっとりした空気が流れる。


「何を言うんだ?フィリアナもまだまだ若いじゃないか……エルフという事実に関係なく、私と同い年だし。」


「年齢の問題とは別に……寂しかったんです、私は。フィーネを取り戻すことに成功したあの日から、貴方はずっとフィーネを第一に考えていました。」


「う、うむ。」


 ようやく痺れが取れてきた。

 なんとか立ち上がると、すかさずフィリアナが細腕を私の首元に絡める。

 耳元に口を近づけて、艶やかに囁き始めた。


「今日だけは、私一人を見つめるベクターでいてください。昔みたいに、私だけを愛してください。」


 胸元を押し付けるように、私の背中にくっついた。

 普通の男、あるいは例の青年たちなら背中の感触に慌てふためくところだろうが、私は冷静そのものだった。

 というのも、


「フィリアナ、一つだけ聞いてもいいか?」


「どうかしましたか?」


「野菜が足りない状態、フィリアナの呟きをフィーネが聞き好奇心を爆発させる流れ、私に電撃を浴びせるほどにフィーネの味方をし、そして演劇の台本かのように完璧なお前の言動。」


「……。」


「なあフィリアナ……偶然にしちゃ、流れが完璧すぎるとは思わないか?」


「気のせいですよ~」


 声が急に感情を失った。

 フィーネが家を出た後どころか、この一件が発生するずっと前から悪だくみをしていたらしい。


「だが、私が妻への愛を疎かにしたのは事実。フィリアナよ、何をしてほしい?」


「やった♡」


 ☆


『上手くやっているか?』


「大丈夫だおっさん。」


『では引き続き任せたぞ、青年。』


 通信はここで途絶えた。

 現在、俺———レイブンは黒い眼鏡に灰色のコートを羽織ってシルクハットをかぶる。建物の影から様子をうかがうような形で、とある一人の少女の動向を確認している。


 ……色々と大丈夫じゃないんだが。知り合い以外の衛兵に見つかったらどうするんだ。


 急におっさんから連絡が来たかと思えば、『緊急任務にあたってくれ』の一言。


『フィーネの護衛を任せた。ただし彼女に気づかれないように、だ。』


 なんでも、ベクターのおっさんはこれから奥さんと大人な一日を過ごすとか過ごさないとか。後のことは想像したくない。

 そこで白羽の矢が立ったのが俺という訳だ。


 見つからないことが最優先らしいので、俺一人での単独行動。

 そしてなぜか変装して、とある少女……つまりはフィーネを尾行。


 この構図は、完全にストーカーというやつではないだろうか。

 フィーネの愛らしい様子も相まって、俺の姿を客観的に観測された時が恐ろしい。


「そんなに心配するほどのことでもないだろ……ただのおつかいだって話だし。」


 現在、フィーネは目的地に向かってゆっくりと進んでいる。

 ベクターが渡したらしい地図を見ながら、市場へと一直線。


「そもそもフィーネは異次元の魔法使う強い子なんだから、変な奴が来ても撃退できるだろ。」


 第一、こんな人通りのある中で女の子に声をかけるような勇気ある変態なんてどこにも———


「お兄さん、どうしたの?」


「やあ勇敢なる少女よ!!オレの研究を手伝ってくれないか??」


 いたわ。下心全くないけど純粋にヤバい奴。

 あれウォルターじゃねえか。


「はつ……めい?なにそれ?」


「オレがこのネックレスを装着した時、魔力の波動で魅力指数が上がった。その辺の少女にも効き目があるのか検証をぐはあっ」


 妖しい宝石の括り付けられたネックレスを、おもむろにフィーネの首元に近づけたウォルターの背中を蹴り飛ばした。


「何してんだよお前は。」


「だ、誰ですか?フィーネを攫うつもりなの?」


「え?」


 なぜか怯えるフィーネ。

 なんとか起き上がったウォルター。

 周りから俺に向けられる冷たい視線。


「あー、はい。この状況と服装だと、周りからは俺が悪役に映るのね。」


 この格好、完全に裏目に出たじゃねえか。

 メロウが『スパイってこんな感じなんですよ!』って言って変なコーディネートしたせいで……いや、でもあのキラキラした目に抗うのは無理だった。


「怖がらなくていい、フィーネ。俺だ。」


 ゆっくりと、防止とメガネを外して素顔(?)を見せる。

 見知った顔を見て、彼女も落ち着いてくれたようで。

 そのフィーネの様子を見て、俺が敵ではないことを察したギャラリーたちは一人、また一人と去っていった。


「なーんだ、ブレインお兄さんじゃん。なんでこんな格好してるの?」


 うーん、至極真っ当な質問。

 正直に答えてもいいんだが、ベクターのおっさんに極秘任務とか言われているからなあ……適当にごまかそう。


「……俺のファッションだ。姿を隠すような服装が比較的好みで———」


「じー。」


「……。」


「じー。」


 フィーネは、俺の発言が出鱈目であることを瞬時に見抜いたらしい。あからさまに目を細めて、じっと睨んでくる。


「なんだブレインか。いきなり蹴りを入れてくるとは、このオレでも予想できなかったぞ。」


 ハハハと笑い飛ばして、バシバシと隣から俺の肩を叩くウォルター。

 割と力を込めた蹴りを入れたはずなのだが、ここまでピンピンしているとは。研究者の癖にやたらムキムキなその筋肉は伊達じゃないか。


「そちらの令嬢と知り合いだったのか。ならば、ここまでの傾向から察するに……ブレインはオレであることに気づかず、令嬢に近寄る変質者と間違えて攻撃をしてしまったと。そういうことだったのだな!!」


 微妙に違う。

 先ほど、俺は相手がウォルターであると理解した上で攻撃した。酷い言い方をすれば、『ウォルター=変質者』であるという認識のもとで動いた。


 その部分が、俺とアイツの間で決定的にズレている。

 だが、そんな俺の様子などいざ知らず、高笑いをしながら俺の肩をバシバシと力強く叩くコイツに対して言えるわけもなく。


「……おう。」


「お兄さん、ウソはめっ。フィーネには全てお見通しだよ。」


 フィーネの真っ当な指摘が突き刺さる。耳が痛い。

 この場に入ってしまったのは間違いだった気がする。


「フィーネ嬢と言ったな。その様子を見るに、何か目的があるのか?」


「えっとね、おつかい!!市場に行って、野菜を買ってくるの!!」


 布でできた空っぽの袋を振りながら、元気よく答えた。

 それを聞いて、ウォルターは不敵な笑みを浮かべる。


「ほう?それならばオレの発明が役に立つはずだ。この全自動おつかいマシンMk3———」


「わくわく♪」


「———ブレインバージョン!!」


 ウォルターがパチンと指を鳴らすと、目の前の地面に赤紫の魔法陣が登場した。

 そして、魔法陣を起点として地中から人型の何かが出て来る。


「ウィーン……ダン、オレモオマエトイッショニ、ウォルターサマのケンキュウヲテツダウゾ。」


 俺とよく似ているが、すこし角ばった肉体。

 俺とそっくりだが、かすれたというか、濁ったというか、人間としてはやや歪な音声。


「わー、かっこいい!!」


「フハハハ、そうだろうそうだろう!」


 二人は、どう考えても俺を模した魔動機を眺めて仲良くはしゃいでいる。


「ブレインよ、驚きすぎて声も出ないか。」


「……。」


「自立起動する魔術回路を埋め込んだ魔道機だ。前回ブレインから採取した魔術の残滓を埋め込むことで、ブレインの性格や行動を再現することを可能にした。……といっても、残滓の中でも角の切れ端を入れただけだから、完全に再現できたわけではないが。」


「いつの間にそんなことしてやがった。」


 つまり、あの機械は俺の分身のようなものか。


 ……ん?


 それ、上手く使えば便利なのでは?

 見た目と声をどうにかすれば、俺がもう一人いるのともはや同義。


 恐らく俺のことを疑っているであろう、アシュミーをなんとかできるのではないだろうか。

 知識と技術は天才的なのに、その才能の使い道が壊滅的な男。


「なあウォルター。」


「どうした、我が友よ?」


「それ、もっと俺に近い見た目と声にすることが———」


「ロボットのお兄さんも、メロウお姉さんのこと好き?」


「オレハメロウヲ、セカイノダレヨリモアイシテイルゾ。イマスグニデモカエッテ、ヨルノイトナミヲ———」


 一瞬の動きで機械を蹴り飛ばした。

 腕と脚が四方に飛び散り、中に貯蔵されていた魔力が四散する。要はぶっ壊れた。


「何をする!!?」


「あれは俺じゃない。俺はあんなこと言わない。」


 黒い煙をあげながら、震えるような歪な動きをする鉄の破片。

 ブレインロボを守るべくとっさに結界魔術を貼ってから、それを必死に拾い上げていくフィーネ。


「ぐすっ……!ひどいよ、お兄さん!このロボットさんも、同じブレインお兄さんなのに!!」


 ブレインロボ(だったもの)の欠片を手で掬っては、愛しそうに涙を溜めるフィーネ。

 小さく、健気な後ろ姿が俺の精神にダイレクトで突き刺さる。


「いや、フィーネ……それは俺じゃない。本物がここにいるじゃないか。」


「偽物だとしても、このロボットもお兄さんなんだもん!!皆仲良くしてほしいって、お兄さんいつも言ってるじゃん!!」


 純粋な瞳が、転生魔王と名高い最強の男を襲う。

 効果は抜群、急所に当たった。


「ブレインよ。こんな話を聞いたことはないか?屈強な魔王の一撃よりも、幼子の純真な誠意の方が、オレたちの受けるダメージは大きいと。」


「なんだ、お前にも常人みたいな心があったんだな。」


「研究者が皆変人だと思うのなら、それは間違いだっ!!」


「説得力が全くない。」


 精神的な苦痛を負う羽目にあった俺を鼻で笑った後、読んでいたと言わんばかりにフィーネの傍に寄り、身を屈めて彼女と同じ目線に立つ。


「安心するがいい。フィーネ嬢が守ってくれたおかげで、ここに魔力が残っている。」


 ウォルターは無の空間から何かを拾い上げ、魔法で可視化した。

 赤や青に発色する魔力。俺の持っていた魔力の欠片ってことか。


「……。」


「これがある限り、ブレインロボの中身は生きている。オレがもう一度機械を作れば、また会えるぞ。」


「そうなの!?」


「このオレを誰だと思っている。タグナスが誇る天才、ウォルター・カイニールだ!!ふははははははは」


 謎のドラマが巻き起こり、周りでこの異様な光景を見ていたギャラリーから謎の拍手。

 そして俺はこの英雄を蹴り飛ばし、女の子を泣かせた悪役として純白な白い目を向けられた。


「おいウォルター。」


「何かね、我が戦友よ。」


「お前確か、人の魔力の一部を使って作ると、若干性格がずれるとか言っていたよな。」


「うむ。」


「つまり、お前が手に持っているその魔力でまたロボを作ったら、同じ人格の俺もどきができあがるってことか?」


「察しがいいではないか、友よ。この魔力でもう一度ロボを作れば、フィーネ嬢が望む『さっきと同じブレインロボ』ができる。」


「ねーねーウォルターお兄さん。ロボットさん作るの、頑張ってね☆」


 満面の笑みを浮かべるフィーネを尻目に、俺はウォルターの肩を掴んで背を向ける。


「ウォルター。折り入って頼みがある。」


「聞こう。」


「魔道機械の核に使う魔力、もう一度俺から取り直してほしいんだが。」


「……淑女への熱い恋心を隠さない魂はお気に召さなかったか?」


 ああ、この言い方から察するに、こうなる結果を想定してなおこの魔力の欠片を採用したな。

 もう一度蹴り飛ばしたかったが、そろそろフィーネと周りが敵になりそうだったので諦めた。


「それより少女よ、おつかいはいいのか?」


「……あ、忘れてたあああああ!!お兄さんたちまたね!!」


 飛ぶように走り去っていった。


「危ない大人について行かないか心配だ。ウォルター、こっそり追うぞ。」


「承知。」


 珍しく意見が一致した。

 俺たちのやっていることは、わざわざ俺を派遣したクソ心配性の父親と大差ないのだが、この時の俺には気が付く由もなかった。


やや忙しいため、多分次話も隔週になります

メロウとフィーネの可愛さに免じて許してください()

メ 「ごめんなさい」

フィ「ごめんね(;_;)」

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