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51話 演技する魔王の話

投稿が一日遅れた馬鹿はこちらです。

個人的には平和なネタ回が好きです。

「グラジア……ボクの剣として戦ってくれないかい?」


 学園と呼ばれる建物の中、俺は少女たちに囲まれ、迫られていた。

 猫をなでるような甘い声が耳を通り抜け、スイランが俺の手を引く。


「違いますよ!グラジアさんは私の剣、この私と共に学園の頂点への道を上るのです!!」


 もう一方の手を取り、強めの語気で叫ぶのはメロウ。

 早くも美少女二人に挟まれ、板挟み状態になった俺。


 そこに、もう一人の美少女がやってくる。

 ぎゅっと胸の前に手を当て、心に直接語りかけるように———


「ぐ、ぐぐ、グラジア様、は……このあたしのつ、つ、つが、つがあああああ」


「止めろ。」


 黒く覆われたメガネをかけたリオンが、即席の椅子に座ったまま原稿の束を手で叩いた。

 今の状況に納得していないらしく、ため息を吐いた。


「おいアイドル女。貴様はこの程度の台詞も覚えられんのか。」


「セリフは覚えてるわよ!!

 でもだって、緊張するじゃない……レイブン様の目の前だし、あたしのセリフがこんな……。」


 何だよこの状況。

 何をさせられているんだ俺たちは。


 ☆


 ~少し前~


 メロウとのちょっとした確執から喧嘩、仲直りという展開を経験してしばらく経ったある日。


「この『激写ムービー君』を使ってみたいぞ!!」


 黒くて四角い箱のような物体。変な魔動機を肩に携えて、えらく上機嫌なリオンが来た。

 しかも謎の魔法で家のドアをすり抜けて侵入。


「そ、それは何ですか?」


「そこまで楽しそうな様子を見る限り、十中八九それはウォルターの発明品だろ。」


「ほう?二重人格よ、貴様にもわかってしまうのかあ?炎男に新作を是非使ってくれと言われてなあ!」


 うぜえ……。酒飲んでないだろうな?

 俺とメロウは若干引き気味で対応する他ない。


 とりあえず家に入れた。


「———ということでな、これを使うと、現実の風景を動く写像として残すことができるのだ!!」


「写像って何だよ。」


 興奮したまま、早口でリオンがまくしたてる。

 要約すると、これはある視点からの風景を保存し、後から確認できる代物らしい。


 すごいことはわかる。そんなもの今までなかったし、俺は考えたことすらない。


「なるほど……大体わかりました。ですが、どうしてここに来たのですか?」


「ふははは……このためだ!」


 さながら魔王のような不敵な笑みを浮かべて、リオンが紙束のようなものを取り出した。

 何やら字がびっしり。物語の原稿らしい。


「メガネの創作物語だ。まだ未完成らしいがな。」


 アイツ、次の話も作っていたのか。

 ダンの文才、まあまあ高いから羨ましい限りだ。


「『くらいまっくす』とやらが思いつかないそうでなあ。だから直前の原稿を再現して、これで保存してからメガネに持って行ってやろうという訳だ!!」


「すまん。さっぱりわからん。」


 俺の貧弱な思考力じゃ、何を言っているのかわからない。

 ひらめいたらしいメロウが、俺の肩をつついた。


「つまり、ダンケルさんの小説の一部を、私たちが演技してみようってことですよ。」


「流石は茶娘、理解が早い。」


「……は?」


 意図は読めたが、理解したくなかった。

 どう考えても、リオンは役者を集めに来たということになるから———


「まさか、俺も演技しろってことか?」


「当然であろう。不愛想で女慣れしていない男が必要なのだ。」


 どんな配役だよ。いや確かに俺と合致しているけど。


「私はどうしたらいいですか?」


 メロウ、なんで少し乗り気なんだよ。

 演技とか好きなのか?恥ずかしくなったりとか……この子アイドルの経験してたわ。


「ふむ……お前を含めて女が三人必要だ。娘男とアイドル娘をここに連れてこい。」


「スイランさんと……アシュミーさんですか!?」


「そいつだ。」


 メロウが顔から冷や汗を垂らし、目線を逸らした。

 何かやましいことがある、彼女自身が全身でそれを証明している。

 予想はつく。なにせアシュミーは、この国で人気のアイドルなのだから。


「リオン、それは無理だ。スイランはともかく、アシュミーはアイドルの仕事で忙しいはずだろ。思いつき一つでここに呼べるほど暇じゃない。」


「そ、そそそそうですよ!連絡だって取れません———」


 最後まで言い切る前に、メロウの身体がびくんと震えた。

 さっきから様子がおかしい。


「……それか。」


 おもむろにリオンがメロウの服に手をのばし、ポケットから通信機を取り出した。

 誰かから着信が来ている反応だ。


 リオンが勝手にパカっと蓋を開けると、


『メロウ!!今度こそ教えてもらうわよ、レイブン様とアンタの関係を!!!』


 大声が部屋中に響く。

 その声色は、最近聞きなれたものだった。


「あっ……。」


『あれ、メロウ?ちょっと、黙ってないで何か言いなさいよ。』


「我だ。茶娘と二重人格はここにいるが。」


 リオンが勝手に話を始めた。

 迷惑な竜だ。


『その声、どこかで聞き覚えが……どちら様だったっけ?』


「我が何者かなど、どうでもいい。お前、演技には自信があるな?」


『はい?え?……そりゃ、あたしはアイドルだし、演技には一応自信あるけど……。』


「よし、お前は今から役者だ。ここまで来い。」


『はあ!?あたし、今仕事の打ち合わせで忙しいんだけど?どうしてそんなこと———』


「二重じん……レイブンに会わせてやる。お前とレイブンが手を繋ぐ展開を用意しよう。」


『すぐに行きます場所を教えてください。』


 おい待てこら。

 とんでもない約束取り付けるんじゃねえ。


「変装とやらをして、ギルドハウスの中で待っていろ。スイランを向かわせよう。」


『仰せのままに。』


 プツン。


「次は娘男だ。ルーンを起動しろ。」


 全てを諦めたかのように、メロウは通信機を受け取りルーンをなぞった。

 しばらくしてスイランに繋がる。会話できることを確認してから、リオンに手招きされるがままに差し出した。


『あれ、どうしたの?』


「我だ。役者として———」


 さっきと同じ流れ。

 今の間に俺は、隣でため息を吐くメロウを問い詰めてみた。


「あの様子だと、アシュミーからの着信はこれが初めてじゃないな?」


「……はい。」


「いつからだ?」


「救助活動でアシュミーさんたちに会った次の日からです。」


 あの時か。


「アンタとレイブン様が一緒にいたのはどうしてだって通話が一日に何度も……。毎回ごまかしているんですが、しばらくしたらそんな訳ないって着信がまた……。」


 悲壮感が漂っている。

 俺の知らない所でそんなことが……。


「私の家にレイブンさんがいる状況……。アシュミーさんを納得させられる理由が思いつきません(泣)」


 涙目で俺の袖を掴むメロウ。

 可哀そうだが、なんというか、すごく可愛いからこのまま放置しよう。


「レイブンさん何とか言ってくださいよ~~~」


「ふはははは、これで人間は揃った。我の劇場が開幕だ!!」




「二人ともおひさ~~」


「レイブン様、今日もかっこいい……!」


 二名追加。

 満足気にリオンが原稿をパラパラとめくる。


「では、早速始めるか。」


 リオンが指をくるっと回すだけで、魔法が起動。

 撮影用魔動機が空中に固定され、謎の椅子が出現し、部屋の風景が勝手に変化した。


「おい、何だこれは。」


「心配せんでもいい。後で戻す。」


 最近じゃフィーネが出鱈目魔法を連発するから意識が薄れていたが、この竜も魔法の化け物だったわ。


「へえ、これが『学園』ってやつなのか。」


「タグナスにはまだないけど、本で読むとあこがれちゃうわね。」


 学園。何やら、同世代の子供が同じ建物に集結し、魔法だとか戦闘だとか、文化だとかを共に学ぶ場所らしい。

 タグナスにはまだそんな制度が存在しないから、俺たちは誰も経験がない。


 本でたまに読むことがあるくらい。

『せいふく』と呼ばれる同じ衣装を身に纏い、『せいしゅん』というものを過ごすとか。


「ダンケルさんの物語は、学園内でのラブコメという設定らしいですね。」


「この演技の中でなら……本当にあたしがレイブン様と手を……!も、もう一回手を洗ってくるっ!!」


 アシュミーが弾かれるように飛びだして風呂場へ向かった。

 これで十回目。もはや、何かの病を疑うレベルだが……。


「制服ってやつ、なんだか動きにくいなあ。」


「アイドルの時と比べると、露出度はひかえめですが、なんだか可愛らしいですね。」


 三人は『セーラー服』と呼ばれる服を身に纏っている。ここに来る前に、リオンが魔法で即席のものを作成していたようだ。

 なんでも、せいふくの一種らしい。


 紺色を基調としたフォーマルな服。スカートの丈は膝が隠れる程度と、比較的長め。

 メロウの言う通り、アイドルの衣装と比べて刺激的な要素は少ないが、これはこれで魅力を感じる。


 俺も『がくらん』と呼ばれる黒い服を身に着け、『ねくたい』という首飾りを締めた。

 首がこすれて違和感がする。学生とやらは毎日こんなものを装備して生活するのか?こんなものが何の役に立つのだか、理解に苦しむ。


「ははは、メガネの参考資料とやらを持って来たからな。完璧な劇画を再現するためなら努力は惜しまん!!」


 本当に楽しそうだな、リオン。

 酒入ってないだろうな?


 そうこう話していると、アシュミーがゆっくりと帰って来た。

 その手は洗いすぎで、肌荒れ一歩手前に見える。もっと自分の身体大切にしろよ……。


「では、まずはここだ。原稿を見るがいい。」


 リオンが原稿のうち二、三枚を広げてこちらに向けた。

 ダンケルが書いた文章を四人で確認する。


「……。」


 要約すると、一人の男を三人の少女が取り合う展開。

 ボーイッシュ系クール少女と、儚い様子を見せる学園でも人気の少女、そして昔から男と繋がりのある幼馴染。


「なあ、三人はそれぞれどの役になるんだ。」


「我はどうなろうと構わん。お前たちで好きに決めるがいい。」


 リオンは一人で魔動機の調節を始めたようだ。


「へえ、あたしのライブを映像にする時の魔動機と似てるわね。すぐに使えるなんて便利なものじゃない。あたしも欲しいくらいよ。」


 アシュミーがウォルターの発明に感心した後、俺抜きで三人がコソコソ話を始める。


「ま、ボクはこのレナかな。なぜかボクの性格と似ているみたいだし、いたずらっ子は楽しいよね♪」


「あたしはリリカ!!演技の中くらい、レイブン様の幼馴染になりたい!!!」


「じゃあ私はシャロンですね。うふふ、演技ができなくなるくらい、レイブンさんを誘惑しちゃいますよ。」


 どうやら、特に揉めることなく決まったようだ。


 俺は……悩む余地はないか。

 グラジアという男。不愛想で無口だが、熱い闘志と慈愛を持っていて他人のピンチにはいち早く駆けつける……。


「こんな男、現実にいるか?」


「あれ、私の近くにいると思うのですが。」


「ここまでロマンチックではないけどね。」


「レイブン様が演じたら、かっこよすぎて不愛想じゃなくなっちゃう……!」


 俺は考えることをやめた。


「では始めるぞ。準備を始めろ。」


 リオンが魔動機をセットして、起動を始めた。

 ウイイインと音を立てて、記録とやらがスタートしたらしい。


 ちゃちな椅子に腰かけ、変なメガネをかけたリオンがふんぞり返る。

 そして原稿を丸めた束を叩き、俺たちへ指図する。


「よういいいい、アクション!!!」


 これが演技を始める合図らしい。

 俺と、メロウスイランが魔動機の射程ないに立つ。


「ここにいればいいんだな?」


「うむ。早く始めんか。」


 という訳で。




「……どうした、シャロンにレナ。学年の中でも人気者のお二人が、一人がお似合いの男に何か用か?」


「もう、そんなことを言って。私はずっと貴方のことを見ていたんですよ。」


「クラスで騒動が起きたとき、裏で解決のために走っていたよね。あんな姿見せられたら、ね?」


 二人の美少女が少しずつにじり寄ってくる。

 俺は引き下がるが、教室の端に追いやられてしまった。


「お、おい……何のつもりだよ。」


「知っていますよね?これから二週間後に、男女ペアでの魔術武闘大会があることを。」


「……知っているさ。出たい奴だけ出ればいいと思っている。俺は大して興味ないが。」


「「……グラジア(さん)。」」


 二つの熱っぽい視線が俺へと一直線に向けられる。

 ま、まさかな。


「私と———」


「ボクと———」


 二人が同時に俺へと手を伸ばし———


「ちょっと待ったあああああああああああ!!!!!」


 後方のドアが勢いよく開けられ、誰かが飛び出してくる。

 息を切らしながらやってきたその少女は。


「あれ、リリカじゃん。」


 リリカ(アシュミー)は緊張か何かで顔を真っ赤にしている。

 目がグルグル巻きになった状態で、指がめちゃくちゃな方向を向いている。


「ぜえ、ぜえ……あ、ああああ、ああああたしが、レイブン様———じゃなくてグルジオ様ああああそれも違う」


「カットだ。」


 見かねたリオンが原稿を叩いて音を鳴らし、演技を中断させた。

 原因は言うまでもない。


「もー!アシュミーさ、緊張しすぎだって。もっと気楽にやればいいんだよ。」


「無理よ無理!!だってあたし、ここから『グラジアはあたしとペアを組むの!』って言ってからレイブン様と両手を握るだなんて……恥ずかしすぎて死んじゃう……。」


「ファンの方と握手するのは平気なのに、レイブンさんだと急に……気持ちはわからなくもないんですが。」


「なあ、俺の演技はどうだった?」


 グダグダになったが、リオンが回収した魔動機を確認した。


「ふむ。一度確認しようか。」


 機械を調節すると、ガラス面から光が放たれる。

 その光は部屋の壁を照らして、そこにはさっきの俺たちが———。


『よういいいい、アクション!!!』


 リオンの声。

 そして、光の中に俺が入ってきた。


『ここにいればいいんだな?』


『うむ、早く始めんか。』


 そして、さっきの俺たちの演技がもう一度映像として再現された。




「……俺、こんなにカッコつけてたのかよ。」


「ボクは想像してた通りだねー。」


「ミステリアスな乙女……ですか?」


「こんなに顔赤くして固まった女があたしなわけないじゃない!!!」


 先は長そうだ。


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