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49話 事件の終焉と確執の話

最近投稿時刻ぐっちゃぐちゃですが、まあ気にしません。

月曜日が終わるまでに間に合えばセーフです。

 世界を救う英雄なんて偶像は、案外存在しないものである。

 どれだけ力があろうと、人間性に優れていようと、一人の人間ができることには限りがある。当然の話だ。


 世界を救うなんて巨大な目標を達成できるとしたら、それは優秀な人間の集まり、組織、そして国だろう。


 俺に世界は守れない。

 ……それでも、せめて目の前にいる人々を救うことができたら。


「これで完了だ。」


「あ、ありがとう……。」


 小さな少年だった。

 俺とメロウの魔法で、なんとか回復に成功した。


「無理をしてはダメですよ?周りに注意して、お母さんを探してくださいね。」


「うん!」


 少年は元気よく走り去っていった。

 俺たちだけが取り残される。


「これで十人くらいか。これだけ冒険者がいれば、すぐに片付きそうだな。」


「そうですね。……他の冒険者の方々が、レイブンさんの魅力を無視することができれば、の話ですけど。」


「あまり笑えない冗談だ。」


 周囲を見渡して、俺はため息をついた。


 俺とメロウは注目の的になっている。

 救助に来た冒険者たちは皆揃って手が止まり、思考が停止したかのように俺たちを見ている。


「な、なあ。本物、だよな?」


「多分……あの女は何なんだ、一体?」


「助けに来たのか……?魔王なんて異名のアイツが?」


 好き放題言ってやがる。

 どうでもいいけど。


「やっぱり納得がいかないですね……!これを見てまだレイブンさんのことが信用できないのですか!」


「メロウたちが理解してくれれば、俺はそれでいい。次行くぞ。」


 もうここ一帯は片付いた。

 これ以上長居する理由はないし、俺がいることであいつらが行動できなくなるのなら、さっさと消えるのが正解なのだろう。




「ん、あそこにいるのはアシュミーか。」


 前の方に三人の冒険者。その付近に別の冒険者はいないようだ。

 既視感のある黒髪の少女、銀髪の男。で、もう一人の赤髪の少女は見覚えがないが……うん。ライネスにべったりくっついているから、見た目が違うけど誰なのかわかる。あっちも、外ではちゃんと変装していたんだな。


「これで大丈夫ですね。じゃあ僕は次の人の治療を……おや。」


 ライネスがこちらに気が付いた。

 少し表情を緩めて手を振っている。


 メロウがそれに応じて手を振った。ニコニコとした笑顔が愛らしい。


「え?アンタの知り合いでもいてえええええええええ!!?」


 アシュミー……いや、あれはアズミだったか。

 俺たちと目が合った瞬間に、わかりやすく声が裏返ったな。


「れ、れれれれれー」


「アシュミー、壊れたおもちゃみたいになっちゃった。」


 白目を剥いて固まってしまったアシュミーを、イルミナ(と思われる少女)が指でつんつんとつつく。

 ライネスが苦笑いでこちらに来た。


「はは、彼女のことは気にしないでください。」


「ああ。それより、どうだ?救助は順調か?」


「……そうですね。僕らの力で助けられる命は、全て拾ってきたつもりです。」


 ニヤリと口の端を釣り上げて応じるライネス。

 自信の現れを感じたから、俺は視線を隣にずらした。


「————」


「で、いつまでフリーズしているんだ?」


「あはは……ばっちり限界化していますね、これは。」


『げんかいか』?何だそれ。

 よくわからんが、体力とか精神力とか、魔力なんかが減少しているのか。


 だったら、


「これで回復するといい。」


 袋から菓子を一つ取り出して、手でつまむように持つ。

 あとは、固まったままのアシュミーの後頭部を支えて、開きっぱなしの口に……。


 ぱくり。


「な!?」


「あ。」


「おっと。」


「~~~~~!!??」


 さっきまで虚ろになっていたアシュミーの目がばっちり開き、俺と至近距離で目が合った。

 その顔は耳まで真っ赤に染まっている。


「あ、え、あ、れ、あ……」


「俺にはこれくらいしかできることがないが、続きをよろしく頼むアシュミー。」


 俺がそう言った瞬間、アシュミーの目が光り輝いた。


「え?あたしの変装を見破ってくれた?そ、そんな……嬉しい……!」


 瞳の輝きは潤みへと変わり、すぐに涙があふれ出す。

 感動のステージの終幕かのように、両手で顔をくしゃくしゃにして泣き出してしまった。


「ぐす、ぐすん……」


「え?」


 なぜ泣いてしまうんだ?

 悪いことをしたのか?菓子がまずかったか?だが『嬉しい』って言っていたし……。


「どうして泣いているのかわからない、って顔をしていますね。」


「……正解だ。」


「一つお尋ねします。これまでレイブンさんは、アズミに会ったことがありますか?」


「何を言っている?あるに決ま……あ。」


 ……そういえば、レイブンとアズミって接点がなかったような気がする。ブレインとしてなら、何度も会っているが。

 アシュミーからしたら、俺は初めて見ただけで彼女の正体を見破ったかのように映ったということか。


「理由はわからんが、アシュミーは俺を神格化して見ているようだから、そんな男が仮初めでない真の自分を見ているとわかったら……ってところか。」


「ようやく気が付きましたか。相変わらず女心を理解されていないようで。」


 コイツ煽ってくる。あの人を馬鹿にするような眼差し、単純にうぜえ。

 アシュミーもまだ泣いているんじゃねえよ。あの厳しい世界で戦い続ける強い子だろ。


「むすー。」


 後ろから機嫌の悪そうな声がして振り返ると、頬を膨らませたメロウがいた。

 また至近距離で美少女と目がばっちり合う。なんか恥ずかしい。


「…私も」


 ん?


「私もお腹がすきました。おやつが食べたいです。」


 どういう主張なんだそれは。


「もしかして、メロウも限界化したのか?」


「あの、レイブンさん。『限界化』の意味、わかってる?」


 いつのまにかライネスの手を握っていたイルミナが、ジト目でこちらを見ていた。


「詳しくは知らんが、死にそうなくらい疲れているってことじゃないのか?」


「「「……。」」」


 どうやら違うらしい。

 この頃、ようやくアシュミーが落ち着いてくれたのだが、『レイブン様のくれたお菓子なんて食べられない。口から出して永久に保存する』とかやべえことを口走っていた。メロウたち曰く、今のアシュミーのような状態を『限界化』というらしい。


 限界化、クソやべえな。




 ……と、この日の出来事はそれくらいだったか。

 手分けして被害者を一人ずつ解呪、治療していた。


 スイランやダンケル、おっさんたちとは最後まで会わなかった。恐らく俺たちとは別の範囲で頑張っていたのだろう。


 結果として、被害は最小限に抑えられた。呪殺された市民は二十人にも満たない。

 それでも死者はいて、それを悲しむ人がいた。


 あんな事件はもうごめんだ。

 できることなら、誰も傷つかない日々が欲しい。


 ☆


 地獄のような一日は終わりをつげ、朝日が昇って来た。


「おはようございます♪」


「おはよう。」


 いつも通りの日々の始まり。

 ソファに腰かけて、今日の新聞を開いた。メロウと一緒に。


「なあメロウ、気になるなら先に読んでいいぞ。」


「いえ、レイブンさんと一緒に読みますので。」


「なんというか、メロウが気になって集中できないんだが。」


「いきなり女の子にお菓子をあーんすることができる人が、隣に知り合いの少女がいるだけで恥ずかしがるはずがないと思うのですが。」


 ……諦めた。


 すぐに目につくのは勿論、昨日の事件だ。


『ワーグナー兵長が乱心!?市民すらを巻き込んだ、墓所での決戦

 ~そこには、転生魔王の姿も~』


 まあよくありそうな題名だ。

 中身は———


「へえ、今回は結構調べたんだな。露骨な虚飾もほとんどない。」


「当事者が多いだけに、適当なことは書けないと察したのでしょう。」


 ワーグナーが裏ルートの呪具を手にして、兵を傀儡に戦いを始めた。

 ベクター率いる対抗勢力が墓所にて集結し、大きな被害を受けるもなんとか撃退。

 ワーグナーの痕跡や死体が見つからなかったため、奴は行方不明と判定された。

 その対抗勢力や、被害者の救助活動の際にレイブン———俺の姿が確認できたとのこと。


 そして、何より不思議に感じたのが、


「俺へのアンチテーゼを全面に出した内容じゃない。内容をぼかして、わからなくしてある。」


「犯人が明らかで、レイブンさんが街を守るために奔走していたことを証明する、肯定派の意見が多かったんですね。」


 そんなところか。

 俺を全ての黒幕にするような記事ばかり書くこの新聞社からすれば、この内容でもかなり歩み寄ったのだろう。


「レイブンさん。少しずつだとしても、みんなに認められているんですよ、貴方のこと。」


 全てを包み込むような甘い声がする。

 甘えていいんだよという誘い。このまま流されたら、俺はダメになりそうな気がする。


「一度ついた悪印象は簡単には変わらないさ。」


「……。」


 またメロウが顔をしかめた。


「どうした?」


「レイブンさんのそういうところは、私あまり好きじゃないです。」


「……卑屈なところか?」


 ゆっくりと首を縦に振った。

 どうやら本気らしい。


「レイブンさんには、自分に自信を持って欲しいです。『俺は国を守った英雄だ、崇めやがれ』ってくらいに。」


 冗談交じりで愛想笑い。

 俺もなんとなく愛想笑いで返した。


「自信……か。」


「そうです。レイブンさんが人のために色々なことをしているのを、私は隣でずっと見てきたのに、いつも影での努力をなかったことのように済ませてしまいます。まるで、そこに自分はいなかったかのように。」


「そりゃ、俺の存在が明るみになってもいいことがないだろ。一度世界に嫌われた男は、影でひっそり生きるのがお似合いなんだよ。」


「……。」


「それに、俺はもうレイブンとして生きることを強制されない。無理にイメージを変えようとしなくても、俺は平和に生活ができる。」


 見せるように紋章をなぞって、俺は変身した。

 金髪で、贔屓目に見なくても整った顔立ち、高身長。

 これ以上ないくらいの色男に見えると思うが……。


「……やっぱり私、嫌いです。」


 え?

 メロウの顔は晴れない。


「私、ブレインさんのことは好きになれません。」


「この見た目は好みじゃないか?」


 首を横に振った。


「ならどうしてだ?」


「だってブレインさんの目、ずっと笑っていないんですよ。」


 は?

 俺が笑っていない?


「俺の表情がないせいか?それは元の姿でも変わらんだろ。」


「その姿……気に入っているわけではないんでしょ?」


「……。」


「その姿は……レイブンさんが世間に絶望して、諦めた末に使わざるを得なくなった姿なんじゃないですか?」


「何だと?」


「レイブンさん、よくトレーニングしていますよね。それは楽しいから鍛えているんじゃなくて、『元と同じくらいの強さを取り戻さないといけない』という焦りが出ているんじゃないですか?」


「……。」


「私は、レイブンさんに自分自身を諦めて欲しくないです。偽物として生きていこうと準備するレイブンさん、楽しくなさそうなんですよ。」


 悲しそうに、目を軽く潤ませながらメロウが告げる。

 この姿は俺が自分を諦めた結果で、メロウはそんなこと望んでいないと。


「今回で、証明できたじゃないですか、まだ諦めるには早いって。レイブンさんがいい人だって知っている人、たくさんいるじゃないですか。もう一回、希望を持ってくださいよ!」


 ロマンチックな空気が流れた。

 今、彼女は俺のことを本気で考えてくれる。


 嗚呼、優しくて真摯に向き合ってくれるヒロインがいて———




 イライラする。


「……何がわかる。」


「え?」


「お前に何がわかる?」


 おもむろに立ち上がり、新聞を投げ捨てる。

 メロウの左肩を強く掴み、威圧するように顔を近づけた。


「わかるか、何もしていないのに罪を作られる気持ちが?白い目に囲まれて街にいられなくなって、一人で逃げた俺の気持ちが?もう一度希望を?甘いことばっか言うな!」


 感情をここまでむき出しにしてぶつけたの、いつぶりだろう。

 だが、これだけは俺も譲れなかった。世間に煙たがられてきた人生、その過去はもう変わりやしない。


 記憶の改ざんなんてできない。あの虚無、怒りを忘れることはない。


「もうレイブンさんは一人じゃありません!だって、だって……私がいるじゃないですか!?スイランさんだって、ダンケルさんだって、レイブンさんを信じています!!次は私がレイブンさんを助ける番なんです!!」


 涙を流しながら、心に直接問いかけるように言葉が突き刺さる。

 その純真な目が辛い。どこまでも純粋で、慈愛に満ちたその心が辛い。


 俺はそんな彼女を睨みつけるように眉をひそめた。


「お前が俺に耐性があるのは、先にブレインと会っていたからだ。この身体がなければ俺とメロウは接触することすらなかった。わざわざ助けに行くこともなかったんだよ!!」


「どうしてそんなこと言うんですか!?レイブンさんなら、見ず知らずの私でも助けてくれたはずです!!」


 メロウは一歩も引かない。

 目に涙を一杯ためたまま、それでも俺への視線を決して逸らさない。


「……頭冷やしてくる。」


 掴んでいた手を離し、何もない天井を見上げた。


「悪い。今のことは忘れてくれ。」


「……絶対に忘れません。レイブンさんの痛み、私も背負います。」


 ブレインの姿のまま俺はドアを開け、フラフラと外へ出た。

 どこへ向かうのかは、俺すらも知らない。


この気まぐれの権化みたいな話が、次回で50話ってマジすか?

50話と同時に短編(なお、この話との関連は皆無)を投稿できるよう、テキトーに準備します。

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