表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/53

48話 悪夢の続きの話

これの投稿時には二十四時を回っているらしいですが、私の中ではまだ月曜日なのでセーフ理論でいきます。

細かいことは考えずに読むがいい(マジでごめんなさい)

「中央街へ向かおう。この騒動の被害を受けた民への援護が必要だ。」


 長い戦闘が幕を閉じ、しばらくの静寂が訪れていた。

 まるで時が止まったかのような沈黙の中、ベクターが口を開いた。


「呪具が破壊された以上、もう呪力が強まることはない。無事な冒険者が総出で浄化すれば、まだ拾える命がある。」


『……その様子で、どうやって浄化すると言うのだ?まず幇助を受けるべきは、貴様ら自身であろうに。』


 リオンが魔法で人の姿になり、気だるげに呟いた。


 あいつの言う通り、生存している俺たちは既に瀕死の状態だった。

 魔力はほとんど底をつき、俺とダンケル、そしてベクターの三人は先の戦闘で肉体もボロボロ。冷静に考えれば、即撤退するのが賢明だろう。


「竜様にはわからんかもしれんがな、人間というのは意地を張る生き物だ……。一度守ると決めたからには、自分の命を削ってでも守らねばならないものがある。」


『……。』


「さて、中央街はあっちか……ぐっ」


 街へ向けて歩こうとするが、すぐによろめき、体勢を崩した。

 とっさに剣と盾を離してバランスを取り戻す。


「貴方!!」


「はは、すまないな。」


 娘を抱えたフィリアナが近寄り、なけなしの魔力で体力を回復させている。

 助けを借りるベクターは、申し訳なさそうな作り笑いをしていた。


 俺も動きたいところだが、もう魔力がない。

 この状態で助けに行っても、ただ立ちつくすだけの木偶の棒。


 苦しまないよう、一思いに息の根を止めることしかできない。


「……スイランさんなら。」


 メロウがぼそりと何かを呟いた。

 よく聞き取れない。


「スイランさんなら、まだ消耗していない冒険者さんなら!!」


「「!!」」


 俺は、大きな思い上がりをしていたようだ。

『自分たちで全て解決しないといけない』という思い上がり。


 この非常事態のせいで、そんな単純なことにすら気が付かなかった。


「まずはギルドハウスに行って、ガーディスに話をつけ———」


「もうやってるみたいだよ。」


 左目を押さえて、ダンケルが淡々と話を始めた。


「今使い魔を飛ばして確認しているけど、冒険者たちが救助に向かっているみたいだ。そこにはギルドマスターも、スイランくんも、例のアイドルたちもいるよ。」


「…。」


「僕らが思ってるよりさ、世界は優しいんだよ、レイ。」


 どこか虚空を見つめるようにしながら、ダンケルはため息を吐いた。

 俺は心の重荷が降りたように、その場に座り込んだ。


「ならば、少し休んでいいのかもしれないな。」


「少年少女は少し休むといい。ここからは、私たち大人の領域だ。」

「お供しますよ。」


 フィリアナはそっと寄り添うようにベクターに囁き、自然に補給された魔力で旦那の傷を癒した。


「レイブン君。」


「…なんですか?」


「フィーネをお願いしますね。」


 抱えていた娘をその場にゆっくりと降ろした。

 フィーネはそのまま歩き、俺の元へ来る。


「これから見る光景がどんなものか、想像に難くない。八歳の子供が見るには早すぎる。」


 毅然とした態度で、ベクターが告げた。

 親としての、覚悟の表れというやつらしい。


「見せるべきではない環境を子供の目から隠し続けるのも、親の役目さ。」


「パパ……ママ……」


 ベクターは合図を出して、生き残った隊員を呼び寄せた。

 手持ちの薬草で無理やり体力を補ってから、背を向けて歩き出す。


「……行ってしまいましたね。」


「今向かったところで、拾える命の数に大差はなかろうに。いや、これが『意地』というやつか。我にはわからぬ。」


 リオンは腕を組んだまま、ベクターたちの背中を見つめている。

 座り込んだままの俺たちに、二つの人影が近づく。


「失礼します。マグエル様よりお話があるとのことです。」


 隣にリヴェットを侍らせて、マグエルが寄ってきた。

 初見の際の威厳はそこにはなく、精神的にも弱りきっていた。


 この二人は、さっきの部隊とは別行動か。


「なあお前ら。……やっぱりさ、こんなの間違ってると思わないか?」


「初めからわかりきっていたことじゃないか。何を今更。」


 明後日の方を向いたまま、悪態をつくダンケル。

 感情を爆発させることはなくとも、アイツなりに怒りを抱えているのだろう。


「間違っているから、俺の仲間になって革命という茶番に付き合えと、そう言いたいのか?王子様?」


 ダンケルに釣られたかのように、俺からも皮肉めいた言葉しか出てこない。

 こんな事態になって、気が動転していると言ってしまえばそれまで。だが、心の闇の一つを吐露するくらい許して欲しいと、そう思う。


「マグエル様になんて口の聞き方を……と言いたいところですが、この状況下ですので、規律違反は許可いたします。」


 凛とした態度を崩さない。


「何様だよ。メロウちゃんが咄嗟に助けてくれなきゃ、真っ二つに斬られて死んでいた命じゃないか。さらに言わせてもらうと、僕たちがあの騎士を殺したのは、どう考えても規律違反じゃないの?そこに突っ込まないのは、理論が成り立っていない。

 お前は人に規律を守らせたいんじゃない。『規律』って言葉に身を委ねて、安心したいだけだろ。」


「―――」


 ダンケルは顔色ひとつ変えずに冷たく語り続け、リヴェットを完全に押し黙らせた。

 彼女は顔色を少しずつ青く変え、両手が小刻みに震え出す。


「やめろ。リヴェットは俺の大切な仲間だ。これ以上侮辱するな。」


「フン。これだから城の奴らはいけ好かない。」


「喧嘩はダメだよ!」


 俺と手を繋いでいたフィーネが叫んだ。

 闇をまだ知らない、子供なりの気遣いなのかもしれない。


「悪いけど、こいつらと仲良くは絶対にできないよ。……もう傷も癒えたし、僕はもう行くよ。まだ救える命があるのなら、後悔の無い方を選ぶからさ。」


「我も行こう。傷だらけの貴様らをここまで駆り立てる、人間の意地とやらに興味がある。」


 リオンが再び巨大な竜の姿に変身し、ダンケルを乗せて飛び立った。

 姿が見えなくなるまで、どこまでも、ダンケルの表情が晴れることはなかった。


 普段なら、ダンがあそこまで機嫌を損ね、悪態ばかりつくことはまずない。

 ……あの怒りは何だ。


 ダンケルと衛兵、ひいては国家との間に、どんな確執が起きた?


「……ダンケルと言ったか。俺たちに恨みがあるのか?何か知らないのか、レイブン。」


「知らん。理由はわからんが、ダンはいつからかこの国が、世界が嫌いになったらしい。『僕が世界を変える』と、それが口癖になっている。」


「それは俺たちに協力すると、そういう意志が……あるわけないか、あの様子じゃ。」


 マグエルが寂しそうな表情で呟いた。


「私は……私は……」


「しっかりしろ、リヴェット。お前は規律を遵守してきただけだ、気にするな。」


「ま、マグエル様……。」


 固まってしまったリヴェットを、マグエルが頭を摩って慰めていた。

 その姿には、民衆を導く王子の一端が垣間見えたような、そんな気がした。


「お兄さん。」


「……どうした、フィーネ。」


「フィーネも、パパたちの所に連れて行って。」


 フィーネが俺の袖を引いた。

 俺が見たその顔には、生半可ではない意志が宿っていた。


 だが、ベクターからの頼みでは———


「フィーネの力は、役に立つんだよね?ここで待っているだけは嫌だよ。」


「……。」


「お兄さんたちだってわかるよね?フィーネの力があれば、困ってる人たちを助けられるよね?」


 俺の袖を引く力がさらに強くなる。

 だが、俺は動かない。


 子供を見せるべきでない光景から守ることも、親の役目だと言っていた。

 ならば、俺がすべきことは。


「……お兄さんが疲れているのなら、仕方がないね。

 フィーネ一人で行くよ。」


「!?」


 ぱっと離したその手を、俺は急いで捕まえた。

 フィーネは本気だ。目がそう語っている。


「離してよ!フィーネ一人じゃ危ないって言うのなら、お兄さんがついてきてよ!!」


「フィーネちゃん……、ここは待ちましょう。ベクターさんたちなら、きっとうまくやりますよ。」


「嫌だ!!!この力は人を助けるために使うんだって、パパが言っていたのに!!!」


 声の限り、フィーネが叫んだ。

 耳鳴りがする。


 だが、それ以上に、心に何かが突き刺さるような衝撃を感じた。


「……どうやら、嫌われる覚悟が必要らしいな。」


「マグエル様……?」


 マグエルがリヴェットを置いて立ち上がり、フィーネの方をじっと見た。

 フィーネは感情に身を任せ、睨みつけるようにじっと、俺とマグエルを交互に見ていた。


「タグナス国第一王子、マグエル・タグナスの元に命じる。レイブン・グルジオ、及びその仲間よ。この少女を連れて、被害を受けた一般市民の救援に当たれ。」


「な———」


 毅然とした態度で、力強く命令を下した。

 命令が終わると、頭を押さえて大きなため息を吐いた。


「はあ……後でベクターに何と言われることか。もう一度ベクターと、笑いながら酒が飲みたかったよ。」


「王子、アンタ———」


「何を固まっている、さっさと行け。王子の命令に刃向かうか?自分が単なる反逆者ではないと、ここで証明しろ。」


「!」


 今の発言は、ただ命令を促しているだけではなかった。

 俺を反逆者だと見ていない、ただの一人の冒険者と捉えている。そういうことか?


「『人の内面を見ようとしろ』。確かそう言ったな、お前。王子様が平民の意見を聞き入れることなど滅多にないからな。」


「男同士の友情、かっこいいね。」


「……なんか恥ずかしくなってきたわ。ほら、フィーネと彼女連れてさっさと行け。」


 うつむいて、追い払うように手を振った。


 少し気が抜けたような気がする。

 メロウを手招きして、フィーネと共に歩き出した。


「王子は来ないのか?」


「俺はこの事件の後処理をしなければならない。ワーグナーと裏で繋がっていた呪具使いの野郎……絶対に表舞台に引きずり出してやる。」


 ☆


「パパ!ママ!」


「フィーネ!?どうしてここに!?」


 広場内の某所で、ベクターたちを見つけた。

 隊員たちが個々で動き周り、浄化魔法や回復用の道具、薬などで懸命に治療していた。


「レイブン!!どうして娘を連れて来た?私は言ったはずだぞ!!」


 ベクターが激昂し、俺に詰め寄ってくる。

 この人がここまで感情任せに動くの、初めて見たわ。


「元々来るつもりはなかった。俺はただの付き添いだ。」


「どういうことだ!?娘が行くと言ったのか?そんなはずが———」


「それは、フィーネちゃん本人に聞いてください。」


 メロウがそっとフィーネを前に出した。

 フィーネは父親に相対し、純真な眼差しを向ける。


「フィーネの力は役に立つんでしょ。だから来たの。」


「なんだと……。

 ああ、確かにそうだ。フィーネの力があれば魔力を増大し、多くの人を救えるさ。私自身が、そんな奇跡を何度も見てきた。」


「だったらパパはどうして———」


「こんな場所を、見せたくなかった……人間の闇が生んだ悲劇を具現化したような、この光景を。」


 周りをもう一度見渡した。


 言う通り、絶望が広がっていた。


 二番隊の隊員の残骸。呪力に取り込まれて変形した市民。

 被害に巻き込まれた家族を嘆く人。

 呪いの余波で植えられた木は腐り、水は濁り、空気は邪悪な澱みを残す。


「この光景を見る恐怖は、おぞましい魔物と対峙するのとは違う。命が奪われる様子、不幸や復讐の連鎖を間近で見ることになる。嬢ちゃんにも、できれば来ないでもらいたかったよ。」


 ベクターは娘を優しく抱きしめたまま、メロウの方へ眼をやった。

 だが、メロウは平静を崩さない。


「申し訳ありませんが、私は平気なんですよ。だって、六年前の疫病をしっかりと覚えていますから。」


「……。」


「人って本当に脆いですよ……簡単に死んでしまいました、私の両親。」


 ベクターは呆然と、メロウを見上げたまま。

 彼女の目は、どこまでも暗かった。


「だから、こんな思いをする人が増えないためにも、助けたいんです。一つでも多くの命が助かるためなら、私は力を尽くします。フィーネちゃんも、きっと同じ気持ちですよ。」


 ベクターの胸の中で、フィーネがこくりと首を縦に振った。


「……。」


「貴方に付き添って、協力してもらいましょうよ。フィーネは、私たちが思う以上に成長していること、認めないといけないようです。」


「パパ、フィーネも頑張るよ。」


 ベクターはフィーネを離し、その目をじっと見つめる。

 互いに見つめあうまま、ベクターはしばらく悩んでいた。


「……何かあったら、すぐにパパに言いなさい。」


「うん!!」


 子連れの家族はひと段落したらしい。

 次の被害者を守るべく、歩みを始めた。


「青年。君にも手伝ってほしい。」


「ああ。ここまで来たついでだ。」






「ど、どどうして、転生魔王がこんなところに……!?」


 誰かが俺の姿を見た。

 そして騒ぎ出した。この結果がこれか。


「僕たちを殺しに来たんじゃ……。」


「もう逃げられないし、死を受け入れる時か。」


 ああ、そうだった。今の俺、元の姿のままだったわ。

 さっきから色々ありすぎたせいで、気にも留めていなかった。


 俺は何もしていない。

 剣を抜いてすらいない。


 嗚呼、久しぶりだよ、この感覚。

 最近じゃ、レイブンとして出会う人は限られていたから。


「心配はいりません。私たちは助けに来ました。」


 メロウが先陣を切り、説得に動いてくれた。

 俺本人では限界があるから、このアシストは助かる。


「う、うるせえよ。そいつの仲間の言うことなんて、信用できるかよ!」


 男は涙を流したまま、嘆きとも怒りとも取れる叫びが辺りに響く。

 その男の傍らには、兄弟と思われる亡骸があった。もう蘇生は叶わない。


「なあ、魔王なんだろ?俺を殺して、楽にしてくれよ。こんなのは夢なんだと、目を覚まさせてくれよ。」


「俺は名ばかりの魔王だ。人殺しの趣味はない。」


 全てを意に介せず、倒れている人の元に移動した。

 中年の女。冒険者ではないようだ。

 まだ命に別状はないが、放置するとまずい。


「メロウ。解呪魔法の補助を頼む。」


「わかりました。」


 周りの生存者が訝し気に覗く中、俺とメロウで治療を始めた。

 メロウが魔法で呪いを不安定化。完全に消すことはできないが、これで十分。


 あとは、不安定になっている間に、宿主に眠っている呪力の核を探して、握りつぶす。


「!?」


 女性の身体が大きく痙攣し、振動を始める。

 呪力が少しずつ抜けていき、顔色が明るく戻ってきた。


「……ん、う、ああ」


「お、おい、目覚めたぞ!?」


「本当に助けに来たのか!?」


 周りが何か言っているが、気にしない。

 最後にリビールの実を口に入れて、体力を補えば終了。


「メロウ、次に行くぞ。」


「はい、ついて行きます!」


 メロウのその笑顔だけが、俺の心の支えだ。

 周りの反応なんか、もうどうだっていい。


 ベクターたちの意地に協力するため、そしてメロウの笑顔を守るためだけに、俺は市民を救う。それだけだ。


 他の冒険者たちの姿を尻目に、俺とメロウは次の被害者を探した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ