41話 仲間を集める話
投稿が遅れたことをお詫び申し上げます。
原因は不明ですが、とある人物が執筆する予定の日に飲酒してそのまま眠ったとの供述が(以下略)
とある通話が始まり、そして終わった。
「何だってんだよ……。」
だが、あの様子は間違いなく本気だ。
冗談ではないことは通信機越しでもわかった。
険しい表情が戻らないまま、俺はメロウの待つリビングへ戻った。
「……何があったんですか?」
メロウが神妙な面持ちで姿勢を正してこちらを見ていた。
どうやら、部屋越しに聞こえた俺の声から何かを察したようだ。
「おっさんが言うには、またワーグナーの奴が俺を狙っているらしい。前回とは違って秘密裏に。」
「な……!」
この部屋の時が止まった。
メロウは口元を押さえて絶句している。
「アイツだけなら問題ないんだが、どうやら変な呪具で衛兵を操って戦うらしい。おっさんでも苦戦したようだ。」
「本当、許せませんね……!」
「だが何も考えず真っ向からぶっ殺すと、俺は犯罪者として捕まる。
おっさんたちの力を上手く活用して、アイツが間違っていることを証明しなければいけない。」
本当にクソみたいな話だ。
どうしてまた俺があの野郎と戦わねばならん。
「とりあえず、街中でばったり出くわさないよう外出は控える。できればメロウもそうしてほしい。顔を覚えられているからな。」
メロウは神妙な面持ちでゆっくりと首を縦に振る。
「お金は問題ないのですが、食べ物はどうしますか?長期戦になることを考慮すると、流石に足りませんよ。」
「安心しろ。俺にアテがある。」
☆
~次の日~
「はいどうも、ノクサー運輸です。」
「ご苦労様です。代金はこれで。」
「まいどあり……じゃなくてさ!!」
ダンケルは引きつった笑顔を崩しながら、即席で用意した緑の帽子を勢いよく床に叩きつけた。
ひとまずノリに乗ってくれたらしい。
「なんで僕なの!?普通に雇えばいいじゃん輸送を仕事にしてる人をさ!」
ヒステリックを起こしたかのような手振りで俺に詰め寄るダンケル。
こっちに突っかかってくるのをやめろ、肉が潰れる。
「まあまあ、落ち着けダン。」
とりあえず家の中に入れた。
メロウの家の前で騒がれると単純に迷惑だし。
「———という訳だ。ってか、通話で一度説明しただろうが。」
「……。」
「あはは……。」
ダンケルがジト目でミルクをすすっている。
俺をしっかりと見据え、『巻き込むな』の一言を体現するかのような視線が突き刺さる。
「まさかとは思うけど、これから毎日呼ぶつもり?」
「そのつもりだが、何か問題が?」
「単純にめんどくさい。」
ふてくされてため息を吐く。
コイツを運び屋にする作戦、一筋縄ではいかないようだ。
「いやさ、気持ちはわかるんだよ。あのクソ騎士はレイの変装を知っているらしいし、簡単に破れないイリューネスをずっと貼ったまま外に出るのは難しい。だから一旦籠城作戦を取るのは妥当な判断だよ。」
「そこまで理解しているのなら協力してくれ。ワーグナーの奴は無駄に執念深いから、適当に姿を見せるとどうなるかわからん。」
ダンケルは腕を組んで険しい表情になった。
何か思うところがあるらしい。
「……問題が二つある。僕が面倒だってのとは別にね。」
「……何でしょうか?」
「まず一つ。レイさ、前に言っていたよね。『ダンの姿で衛兵ボコって逃げた』って。」
ああ、そんなこと言ったな。
イリューネスでダンに変身したまま戦ったんだった。
「そうだな。それがどうかして———」
「んっ」
ダンケルがおもむろに自分を指さす。
ムッとした顔つきでこちらを睨み返した。
「僕がソイツに見つかったらどうするの?たまたま顔がそっくりな人間を、騎士があっさり見逃すと思う?」
「あっ」
メロウが何かに気づいたようだ。そして俺も。
「お前も誰かに変身すれば———」
「ここで話がループするよね。」
「———」
沈黙が訪れる。
重い空気の中、ダンケルが再び口を開く。
「そして二つ目。こっちは運び屋が僕じゃなくても発生する問題さ。」
「何だと?」
「何、簡単な話さ。
レイ、いつまで家に籠り続けるつもりだい?」
「そりゃ、アイツが諦めるまで……あ。」
「レイが言ったばかりだろ、『無駄に執念深い』って。もし適当な理由をつけられて、住宅地を全て洗われたらどこかで見つかるよ、絶対。」
……。
「じゃあ、私たちはどうすれば……。」
「僕から言わせてもらえば、戦う方がずっと早いと思うけどね。」
「どういうつもりだ、ダン。」
次は、得意げな表情で俺を指さした。
余裕たっぷりに笑みを浮かべている。
「もっとシンプルに考えなよ。真っ向から潰せばいいじゃん。絶対にレイの方が強いし、負けやしないよ。」
「それができりゃ苦労はしねえよ。何も考えずに俺が騎士を殺してみろ、後の展開は子供でもわかるだろ。」
「今回は仲間がいるじゃないか。それもあのクソ騎士以上に国民への影響力が高い人物が。」
「……ベクターさん。」
「そういうことかよ。」
俺たち二人を置いて、ダンケルは意気揚々と話を進める。
「降りかかる火の粉は払わねばならぬと、昔から言うだろ?権力を振りかざされて裏でコソコソ生きるのなんて、僕はうんざりだ。」
最後の言い方で、本気であることをひしひしと感じた。
昔からこういう奴だった。俗に言う実力主義という思想だ。
「しかも、ベクターはレイに協力する姿勢なんだろう?ちょうどいいじゃないか。」
「あまり気が向かないな。できれば穏便に済ませたいものだが。」
「はあ……ホント、相変わらずレイは甘いままだ。人を殺せないのも変わっていない。
……まあ、そんなところも友達として尊敬しているけど。」
ミルクを飲み干してから、ダンケルは立ち上がり歩き出す。
そのまま出て行くつもりらしい。
「それじゃ、僕はこれで。
まあしばらくは運び屋やってあげるから、どうするか考えておいてよ。」
「ありがとうございます。」
「またね、メロウちゃん。」
ドアの向こうへと姿を消した。
普段は冗談みたいなノリが好きだが、ここぞという場面では真面目にやる奴だ。
色々言ってはきたが、結局俺のことを心配してくれているのだろう。
「……レイブンさん。」
不安げにメロウが肩を震わせた。
ずっとこんな顔させるのは……違うな。
「腹をくくるしかないか……。」
「え、それって……。」
「おっさんやダンケルたちに連絡を入れる。迎え撃つ準備、しねえとな。」
メロウがまた暗い表情になる。
「アイツを放置しておくと、何人の犠牲者がでるかわからん。殺すとまではいかなくても、自由にさせないくらいは必要だろう。」
「私たちで、勝てるでしょうか……。」
「俺を誰だと思っている?転生魔王レイブン・グルジオだ。」
「そうでしたね。」
にこりと笑った。
この笑顔を守るためにも、また戦うしかないらしい。
俺は早速通信機を取り出した。
すぐに反応してくれた。今朝の一戦の治癒で休んでいるのだろうか。
『どうかしたか青年?』
安心させてくれる、優しそうな声色。
それでいて力強さも感じる。
「もう決めた。俺は戦うことにしたよ。手を貸してくれ。」
『ほう……いいだろう。私の率いる元一番隊の兵力を総動員して、貴殿を援護しよう。』
「ありがとう。……なあおっさん、アイツの居場所ってわかるか?」
『心当たりはあるが、確信はない。……攻め込む算段か?』
「さっさと蹴りをつけないと何をするかわからないから。」
『フッ、お前さんらしい考えだ。覚悟は決まっているか?』
「人殺し……冒険者として生きる以上、いつかは突き当たる壁だ。偶然今だっただけのこと。」
『男の意地、しっかりと見届けさせてもらおう。決行はいつだ?』
「できるだけ早くだ。長い間ひきこもる訳にもいかない。」
『明日でよかろう、一番隊は私に任せろ。他に戦友はいるのか?』
「俺の仲間の冒険者が一人か二人……
それから、竜が一体」
『上出来といったところだな。お前さんの正義を示すぞ。』
「助かる。アンタが味方でよかったよ、おっさん。」
『フィーネを守ってくれたお前さんはずっと味方だ。頼りにしているぞ、お人好し魔王くん?』
「その呼び方はやめろ。単純にダサい。」
『ふん、まあよかろう。では明日。』
「ああ。頼んだぜ、ベクター。」
通話は終了した。
隣でハラハラしながら様子を見ていたメロウが、食い気味に尋ねてきた。
「ど、どうでしたか……?」
「おっさん、こういう時は頼りになる。一番隊引き連れて手を貸してくれるとさ。」
メロウの顔色がぱあっと明るくなった。
覚悟……か。
「人殺し……まだ実感湧かねえな。」
「レイブンさん……。」
……と、解決策を考えているのに暗い顔しても仕方がない。
もう一人連絡しておかない相手がいたな。
……。
『もしもし』
「俺だ。共に戦おう。」
驚いたかのような沈黙が少し続いた。
『本当にやるんだね?』
「ああ。だからお前も手を貸せ、ダン。」
『全く……仕方ないなあ。』
なんだかんだ乗り気なようだ。
「ベクターたちと共に早速明日乗り込むから、準備を頼む。」
『話が早いことで。じゃあ僕も一枚噛ませてもらおうかな。』
「頼む。
……リオン、いるか?」
『……代わるよ。』
通信機が机か何かの上に置かれる音がした。
そしてしばらくの静寂。
『……。』
声は聞こえないが、衣擦れのような音が聞こえる。
ダンケルからある程度事情を聴いて、言葉に詰まっているといったところか。
「お前も来てほしい。決着をつけよう。」
『……。』
「どうせぶっ倒さないといけない相手だ。リオンにどんな過去があったのか知らないが、訣別しよう。」
『……う……ぐぐ……!』
通信機越しでも、苦しむ声が聞こえる。
何があったんだよ、リオン……。
『んぐ……ああああああああああ!!!!!』
「おおっ……!」
耳鳴りがする。
隣のメロウにも声が聞こえたようだ。不思議そうにこちらを見ている。
『人間に何がわかる……!我は、我はあああああ』
『落ち着けリオン!マナが乱れているぞ!』
向こうでリオンとダンケルがもみ合っている。
ハラハラしながらも、表情一つ変えない機械を見つめることしか俺たちにはできない。
『はあ、はあ……やっと落ち着いたか?』
『うう……ぐぐぐ……。』
「リオンさん、大丈夫ですか?」
『……仕方あるまい。貴様らに協力してやろう。
別に信用したとかそういう訳ではない。』
少し恥ずかしそうな声だった。
まあいい。
「決まりだな。」
『フン。』
こうして通話は終了した。
決戦に向けて、今日は力を貯めよう。
「レイブンさんなら大丈夫ですよ。きっと勝てます。」
「メロウも、俺と共に来てくれるか?」
「はい!私もついて行かせてもらいます♪」
あの野郎をぶっ飛ばす。
そのために、俺は暴虐の道に手を染める。




