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32話 黒幕を追い詰める話

「どうしたの、兄さん?」


 イルミナは兄に連れられ、閑散とした通路の一角に立っていた。


 二人が立ち止まったのは会場内の通路の行き止まりへ続く道、出っ張った柱の陰。そこに誰かいると予想して近づかない限り、誰もがその存在を見過ごすであろう場所。

 そして彼女の兄———ライネスは振り返り、妹の姿を見てニコリと笑う。


「僕は避難している運営の人たちに報告してくる。心は痛むが、僕らも討伐に貢献したことにしてしまおう」


 少し眉をひそめ、ライネスは苦笑いした。


「わかった。…無理について行ってボロを出したくないから、兄さんに任せるわ」


「ああ。…それで、上手くいったか?」


 兄の質問に対し、イルミナは屈託のない笑顔を見せた。

 そこにアシュミーたちの前で見せた冷たさはなく、年相応の少女としての明るく可憐な姿だけがあった。


「うん!」


 その笑顔を見て、ライネスは安堵の息を漏らした。

 肩の荷が下りた彼は、心なしか表情が緩む。


「言っただろ、絶対に守るって。お前やアシュミーのためなら、僕は勇者にでも、悪魔にだってなるさ」


 ポンとイルミナの頭に左手を置いて、優しく撫でた。

 兄の温もりに触れた妹が顔を下に向けた。その頬にわずかな赤みが差す。


「…ありがとう」


「それじゃ、また後で。…AIコンビの再来に向けての一歩、踏み出そうな」


「…!兄さん、ちょっと待って!」


 はっとしたイルミナが、踵を返したライネスを呼び止めた。

 ライネスは首を傾げながら、顔だけを回して妹に向き直る。


「なんだ?」


「報告って言ったけど…どうするの?『魔王』の存在」


 それを聞いたライネスは、少し神妙な面持ちになった。

 そのまま静寂の時がしばらく流れる。


 今回の計画における最大のイレギュラー、それはとある男の存在だった。

 それは突然現れ、なぜか自分たちと共闘を始めてあの魔物をボコボコにした。


「もちろん伏せる。奴の介入が知れたら、騒ぎになって面倒だからな。最も、多少調べられたくらいで全てバレることはないと思うけど———」


「それなら、もう手遅れだ」


「「!?」」


 突然横から話しかけられ、兄妹は焦って声のする方を向いた。

 そこには、今まで気づかなかった人の姿が一つ。


「どうしてここに…」


「それはこっちの台詞だ。わざわざ人気を避けた場所で二人雑談、何もないと言い張るのは無理があるな?」


 先ほどまで意気揚々と語っていた二人の身体は、今や地盤を支える岩のように固まっていた。


 それもそのはず、ここに立っているのは見る者に恐怖を与える男。

 腰に装着してある双剣は、どれだけの魔物の血を浴びたかわからない代物。


 そしてこの会場に乱入し、共に強大な魔物と戦った謎の人物。




 ———転生魔王、レイブン・グルジオ。


 ☆


 追いついた。

 何か話し込んでいたようだが、俺には知ったことではない。


 あの戦闘に参加していないブレインだと上手くあしらわれて逃げられる可能性があったから、絶対に逃がさない姿———レイブンになった。脅しは好きじゃないが、真実は無理やりにでも暴かせてもらおう。


「俺は回りくどい話は好きじゃない、だから単刀直入に聞こう。

 ———ドレッドアーケアを召喚した魔獣商、お前らが雇ったな?」


 その瞬間、二人の身体がびくっと震えた。


「…な、何を言っているんですか?自分の身すら危なくなるような危険な魔物を、わざわざ呼び出すなんてことをする訳が…」


 ライネスが俺の推測を否定した。その手は震えたまま。完全に俺を危険な人間だと認識しているらしい。


 クロなのはほぼ間違いないが、一つずつ種を見破るとするか。


「…あのドレッドアーケアは、いくらなんでも弱すぎた。動きが単調な上に魔力弾の威力も低い、魔術商にそう調教された個体だったんだろう」


「「…」」


「リオンの防護障壁が強固だといっても、欠伸しながら片手で捌き切れるほどあの攻撃はヤワじゃない。ましてや俺が剣だけで防ぎきるなんて不可能。…全員がほぼ無傷で終わるなんて、普通はありえない」


 恐らく、二人はアシュミーと同等程度の冒険者。

 銀クラス以上の冒険者と組んだりしなければ、ダンジョンの奥深くへと足を進めることもない。


 野生のドレッドアーケアを知らない人間は、本来の魔術弾の威力がわからない。そして、あれが全力だと思い込む。


 正直、ダンジョンで戦ったことが一度でもある人間なら、この違和感にはすぐ気づいただろう。生憎、その条件に合致するのは俺だけだったようだが。


「要は、あのドレッドアーケアはただの見掛け倒し———倒されることを前提とした魔物だったという訳だ。…この時点で、愉快犯やアシュミーを恨む人間の復讐の可能性が消える。」


「あ…」


 イルミナが両手で口元を押さえた。

 おもむろに後ずさりし、太い柱にその小さな背中を預ける。


「そして最後にお前らの行動だ。ライネスはライブ前の時間に過剰なほどに避難路や安全策を徹底し、イルミナはアイドルとして来たはずが、部屋の中でなぜか武具や戦闘道具を整理していた。…その理由、『この事態が初めからわかっていたから』以外で説明してもらおう」


 俺は二人の目を交互に見つめ、『トゥルスディーク』を起動。左目に青い炎を宿す。

 これは『俺に嘘は効かない』という通告のようなものだ。


 さて、ここまで追い詰めたが、どう出るか。


「…ど、どうしてどれを知って———」


「…そう、あれは僕の差し金です」


 吹っ切れたようにライネスが口の端を上げ、一歩前に出た。

 どうやら諦めたらしい。


「兄さん!?」


「もう無理だ。この人は全てお見通しらしい」


 案外あっさりと認めた。

 引き際を察したのか、それともまだ逃げ切る算段があるのか。


「あれは彼に依頼して、実際の戦闘力を限界まで抑えつつ周りに狂暴さを見せつけるよう仕込まれた作品。僕らとアシュミーの三人で倒す手筈だったのですが、存外助け船が多くてすぐに倒れてくれました。」


 怯えるように兄を見つめるイルミナに対し、ライネスは少し落ち着いた表情で淡々と語りだす。

 恐らく、この計画はライネスの発案だろう。起こりうる可能性を色々と想定し、円滑に緊急事態を起こして自分で鎮圧する計画を立てた。


「その顔は…もう僕の目的もわかっているようですね」


「戦闘の前と後で大きく変わったことを考えれば、想像はつく」


 俺は兄の後ろに隠れているイルミナの目を見つめた。


「いや…」


 彼女は俺を避けるように目を背けた。

 そして間にライネスが割り込み、視線を断ち切った。


「この一連の騒動は、アシュミーとイルミナが仲直りするための、壮大な自作自演。脚本家はライネス・レッド、お前だ」


「…その通り。全て僕が企てたことです」


 余裕そうに笑みを浮かべるが、その顔面には冷や汗が垂れていた。

 さっきと違い、俺とライネスは完全に敵対している状況。気にするなという方が無理な話か。


「イルミナもアシュミーも本心では謝りたいと思っている癖に、実際に会うと無駄な意地を張るせいでいつまで経っても関係を修復できない、過去を引きずるから超一流のアイドルになれない!だから団結せざるを得ない状況を作り、達成することで円満解決を図っただけだ!僕は間違っていない!!」


「に、兄さん…?」


 手振りが激しくなり、ヒステリックを引き起こしたかのように叫ぶライネス。

 それを見て、イルミナは恐れるように心配するように、兄の姿をじっと見つめた。


「お前、本気で言ってるのか?魔獣召喚してライブぶち壊すのが正解?アイドルの世界に片足突っ込んだ人間の言い分じゃねえだろ」


「他のアイドルのライブが中止にならないよう、アシュミーがその日の最後を飾る日を選んだ。観客に死者が出ないよう、魔獣商に力を限界まで弱めた魔獣を要請し、実際重症者は一人も出ていない。誰にも迷惑をかけなかったじゃないか!」


「リオンのお陰でな」


「…あの銀髪の女性ですか。別にあの人がいなかろうと、あれしきの攻撃じゃ民間人にも大した影響ありませんでしたよ」


 この男はもう周りが何も見えなくなったらしい。———この空間の隅にぺたりと尻餅をつき、目に涙を浮かべる妹の姿さえ。


「あの会場、床が抉れたよな。対魔術は何も付与していない建築ではあるが、地形にヒビが入る攻撃を食らった人間が、本当に無事でいられると思うのか?」


「…それでもだ。それでも、イルミナを守るためにはこうするしかなかった。僕は妹の平和を守るためならなんだって———」


「もう黙れよ」


「!!」


 俺の冷たい一言に焦ったライネスは、急激に悪寒を感じたかのように固まった。


 …最悪な気分だ。俺は知ってはいけないことに気づいてしまった。

 だが、アシュミーやイルミナ…そして目の前で狂い始めているこの男のためにも、放置する訳にはいかない。


「『トゥルスディーク』が反応した。


 ———お前はイルミナを助ける方法を他にも思いついていたはずだ。だが、これを選んだ理由が別にあったんだろ?全部吐けよ」


「ぐううっ!!」


 あからさまに表情を歪め、強く歯ぎしりした。

 昨日の温和な笑顔はそこにはない。あるのは、綿密な計画が最後で破綻しそうになっていることに対する焦りと、現在進行形で思惑を破壊しようとしている俺への憎悪。


「俺は冗長な駆け引きは苦手だ。力づくで聞き出す。兄が殴られる姿は不快だろうが、悪く思うなよ、イルミナ」


「…」


 イルミナの方を一瞥して、一歩ずつライネスの方へと歩く。両手を双剣に添えて。


「…った」


「何だ?」


「イルミナには、タグナスのトップに立つアイドルになってもらう必要があった。…ライブに乱入してきた強力な魔物を討伐したとなれば、一気にその知名度と人気は高まる。そのままAIコンビ復活となれば、このタグナスで一番のアイドルに大きく近づける。そう思いませんか?」


 観念したらしく、ライネスが語り始めた。

 全く共感できない、コイツだけが内側に隠し続けた目的を。


「『必要があった』?お前、何が目的だ」


 ライネスはさっきまでの憔悴から一変、不敵に笑った。

 その表情の奥底に、どす黒い怨念のようなものを感じる。


「…復讐、ですよ。」


 ライネスはおもむろに服の中から赤紫の小さな水晶を取り出した。

 妖しく光り輝くそれを、口元へと近づけていく。


「兄さん!?それは駄目———」


 妹の制止を気にも留めず、兄は水晶を口の中に放り込みガリガリと音を立ててかみ砕く。


「…変だとは思いませんでしたか?僕はライネス・レッドで妹はイルミナ・レッド。———二人とも銀髪なのに」


 口の中のそれを全て飲み込んだライネスが、静かに口を開いた。

 その目はもはや焦点がどこを向いているのかわからない。


「…レッド家という三流貴族の家系があります。その当主が冒険者の娘と恋に落ち、できた子が僕とイルミナという訳です。生まれつき赤髪でなかった母や僕らは親族からレッド家の恥だと冷たい仕打ちを受け続けたが、父親の力と厚意でなんとか生活ができました。だが六年前の疫病で父が死んだ後、当主となった叔父は母親を追放し僕らは家を追い出された。母は僕とイルミナが食べていけるよう冒険者業に専念した結果、ダンジョンで魔物に貫かれてこの世を去りました。」


「兄さん、その話はもう…」


「二人で前を向こうと言い、イルミナは偶然知り合ったアシュミーと共にアイドルになり、僕はそのサポートを務めることにしました。アイドルとしてトップに立てば、レッドを姓に持つ人間の中で一番この国への影響力を持つ人間は銀髪になる。あの家の奴らからすれば最高の屈辱に違いないと思いませんか?」


 少しずつ目が赤く光り始めた。

 さっき食った水晶、汚染か何かで性能が狂ったマナが込められていたようだ。


「恥だと罵って捨てた子供が、気づけば自分たちよりはるか上の立場から見下している。そして新聞記者に全てを話し、あの赤い呪いに侵された家系を破壊する。…そうして僕の復讐は完成するんです。そのためには、イルミナとアシュミーが上り詰めるしかない。話題性がいる」


 だんだんと、四肢に赤いラインが浮かび上がってきた。

 身に纏う私服は首元から光の粒として消えていき、肩や腕に棘のついた赤黒い鎧に変わっていく。


「ちょうどいい。口封じのついでに世にも有名な『転生魔王』を殺すことができたら、僕は魔王殺しの英雄———勇者になれる!全てがハッピーエンドじゃないですか!!」


 腰の袋から取り出した盾は、手に持った瞬間漆黒に変色した。

 そしてその中心には先ほどかみ砕いた水晶と同じ見た目の球体が埋め込まれており、禍々しい光を放っている。


「…お前、自分の復讐のためにイルミナも、アシュミーも利用したっていうのか?」


「ええ。イルミナだってあんな家に怒りを覚えないはずがない。アイドルだって、アシュミーの夢を利用して有名になりたいだけですよ」


「ち、違う…わたしはそんなことない…」


「いや、違わない。僕は復讐のためだけに、楽しくもない活動を続けてきたのだから」


 …俺が黙っていれば、好き放題言ってくれたな。

 ボロボロと涙をこぼすイルミナの姿に、この男は何も感じないのか?


 いや、そんな訳ない。


「妹を傷つける嘘なんてやめろ。『復讐のためだけ』?『楽しくもない活動』?トゥルスディークがガンガンに疼いてめまいがする」


「…僕の復讐はもうすぐ成る。そうしたら僕もイルミナもこんなライブ会場なんて抜けて二人でひっそりと暮らすんですよ。」


「そんなの嫌…わたしはずっとアシュミーと一緒にいたいよ、兄さん…」


 あの水晶の内部のマナに意識を乗っ取られつつあるな。

 汚染された魔力のせいで、ライネスの心の中にあった小さな憎悪が暴走している。


 引き金は…俺か。全て見破ってしまったせいで、アイツの胸中に焦りと隙を生み出した。そこに邪悪な魔力が付け込んだ。


「俺を殺す…か。復讐しか頭にない今のお前を、誰が勇者と呼ぶ?」


「魔王を殺すために、悪魔の力を受け取った悲劇の英雄。話題性は抜群だと思いませんか?」


「そのイカれた水晶はあの野郎か…!」


 ドレッドアーケアを勝手に召喚した挙句、ライネスの憎悪に呼応して暴走する魔具まで置いて行ったのか!ふざけんじゃねえ!


「…助けて」


 振り向くと、イルミナが座ったまま手を合わせ、涙ながらに俺の方を見ていた。

 何かを訴えようと必死な様子。


「兄さんは…復讐のために人を殺すなんて言わない。いつもわたしやアシュミーのために色々考えてくれたのに、あの水晶のせいでおかしくなった…。




 レイブンさん。兄さんを…兄さんを助けて!!!」


「!」


 嘘偽りのない、心の奥底からの叫び。

 …俺は、こくりと首を縦に振った。


「イルミナ…酷いじゃないか。兄を裏切るなんて…お仕置きが必要だね?」


 ライネスが鈍い音を立てながらイルミナに迫る。

 棘のついた盾を、妹に向かって振り上げた。


「ひっ、やめ———」


 ガキンッ!!


「邪魔しないで下さいよ。これは僕ら兄妹の問題です」


「俺の前で無益な喧嘩は許さない」


 二本の剣と一枚の盾が激しく押し合う。

 剣を滑らせて力を外に逃がし、イルミナの横を通るように受け流した。


 棘が地面に突き刺さり、石でできた床をえぐり取った。


「さっさと目ェ覚ませよライネス!!お前は妹の幸せよりも自分の復讐が大事か!?」


「イルミナだって復讐を望んでいるんです。僕の復讐は、イルミナの幸せと同義です」


 もう全く話が通じない。

 ダメージを与えて、あの負の感情を増幅させているマナを放出させるしかない。


 双剣で打ち合ってはいるが、盾が強固すぎる。

 ベクターのおっさんと違って盾しか装備してないからこそ、自分から攻めることは決してなく、全ての攻撃を守ってくる。


「ほら、死ねよ!!」


 ライネスが盾を地面に突き立てた。

 その中心にある水晶から一筋の赤い光が漏れ、強烈な熱戦として飛んできた。


「くっ」


 左にステップを踏んで躱したが、当たったら間違いなく黒焦げになっていた。

 通路に黒い線が走り、煙が沸き上がる。


「圧倒的な力!家族を失った怒り!僕こそが英雄にふさわしい!」


 …ああ、本当にあの水晶のせいでおかしくなったんだな。


 俺、お前には『お互い苦労人だな』って親近感を感じていたんだ。

 アシュミーのライブを成功させるために本気でサポートして、その合間にイルミナもフォローしていた。暴力だけでは成し遂げられない、そんな世界の片隅に俺を入れてくれたじゃねえか。


 そしてあんなやり方にはなってしまったが、仲違いした二人をもう一度元に戻してあげたいという気持ちは本物だった。


 ———だが、心の奥深くに残っていた過去への恨みが全てを狂わせてしまった。

 そして今のあれは、何もかもを破壊する獣。昔の俺と同じ、暴力でしか解決できない怪物。


「その小さな怒りは、この魔王が鎮めてやる」


 俺は再びライネスに剣を向けた。


 ☆


 ~七日前~


「…そんなことがあったのですか」


「…ええ。だから僕は、せめてこの国で上手く生きていくことができたら、両親も笑ってくれると思うんです」


「本当にそれでよろしいのですか?」


「それは、どういう意味でしょう?」


「そのままの意味ですよ。貴方は親族に迫害され続けて苦労しているのに、その彼らは家の財力に頼って裕福に生活している。それも、髪の色なんて些末な事象の差異だけで」


「…」


「私は貴方や妹さんが不憫でなりません。本当に、そんな人たちを放っておいていいのですか?」


「別に、僕は今楽しく生活していますので…」


「こちらはサービスです。魔物の料金だけで結構ですよ」


「何ですか、これは?」


「何か強大な敵に立ち向かう時、あるいはどうしても許せない相手が出た時にご使用下さい。潜在する魔力を覚醒させ、人智を超えた力を解放してくれます」


「…ありがとうございます」


(なんというか、不気味な水晶だ…。じっと見ていると吸い込まれてしまうような…)


(あれは試作品ですが、ちょうどいい実験ですね。濁った魔力が少しずつ流入し、限界を迎えた彼の負の感情が暴走した時にどうなるか、しっかり研究させてもらいましょう)


「それでは、召喚する魔獣を選びましょう。見栄えを重視するのであれば———」




 そうして、僕はあの魔獣商と契約を締結した。

 思えば、この水晶を身体の傍に保管するようにした時からかもしれない。奥深くに閉じ込めていたあの家の人間への怒りが込み上げてきたのは。

 そして、イルミナが僕を不安げな表情で見つめるようになったのも。


 それでも僕は、アシュミーとイルミナがまた仲良くやり直すことができるように、この方法を選んだ。それに、この計画が上手くいけば、イルミナとアシュミーが一気に有名になれる。上を目指す彼女たちの役に立つのなら、それでいい。

 ドレッドアーケアがとても危険な魔物ということは知っていたが、あの人が力を制限していると言っていたし、問題なさそうだ。当初の予定よりかなり大掛かりになってしまったけど。


 二人が別れてからよそよそしい態度になってしまっていたが、『アシュミー様』なんて正直息苦しい。早く三人のあの日々に戻して、『アシュミー』と呼べる関係を復活させたかった。


 彼女とはマネージャーとアイドルなんて仕事上だけの関係じゃない。ギルドで偶然出会って仲良くなった、同年代の友達だ。

 家族や友達を守るためなら、僕は外道にだってなる。




 嗚呼…レッド家を許さない。


 あれ?

 …どうして、僕は唐突に昔のことなんて思い出したんだ?


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