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31話 怪鳥を討伐する話

 最高だったはずのライブは、あの一瞬で地獄に変わった。




 レイブンがとある男を追い、召喚獣との戦闘をしていた時のこと。

 仲間がそんなことをしているとはいざ知らず、アシュミーたちは昨日と全く同じようにライブを続けていた。


 光り輝くステージから見える光景、観客たちの歓声。

 そんな歓声に囲まれて、三人の少女は天使のように舞う。


(…そろそろね。もうすぐ曲が終わって、それと同時に予めあたしとライネスが準備していた魔法が起動して花が咲き誇る。最高のサプライズを届けてみせる!)


 これからの光景を想像し、アシュミーは一人、口の端を釣り上げた。


 曲はもう終盤。激しい曲調に合わせて、三人のステップも大きく、優雅に様変わりする。

 ファンたちのペンライトを振る速度も上がり、盛り上がりは最高潮に達した。


「~~♪」


 歌詞が終わり、終演へと向かう最中、異変は始まった。


「なんだ、あれ?」


 アイドルと観客たちの席のちょうど間、床から大人三人分ほど上。何もなかった空間に、突如それは現れた。


 ギラギラと光る巨大な紅い魔法陣。おもむろにグルグルと回転を始め、魔力を周りに放ちながら魔術の起動を準備している。


「なるほど、あれがアシュミーの準備ってわけだね」


 アシュミーのすぐ隣で踊るスイランが、ひっそりと耳打ちした。

 自分が壮大な勘違いをしているとは夢にも思わず。


「…あたし、あんなの知らない」


 アシュミーは曲の途中にも関わらず完全にフリーズし、冷や汗をかいて固まっていた。

 両隣の二人が訝しげに感じながらもステップを踏んでいると、魔法陣の起動が完了。


 溢れんばかりの禍々しい魔力をまき散らしながら、およそこの場には相応しくない生命体を呼び出す。


「「「…」」」


 それの登場に、この空間の時が止まった。


 黒い肉体に赤黒いラインの入った姿、巨大で古代めいた直線的な翼。

 大人の男の五倍はあるであろう巨体は、見る者全てに恐怖の感情を植え付ける。


 怒りに血走ったかのような深紅の目が、自分を見つめる人間たちを睨み返す。


 名はドレッドアーケア。冒険者ならば誰もが知る、暴虐的な空の兵器。


「×××××――――」


 判読できない音を発しながら、ドレッドアーケアが羽を大きく広げる。

 無数にできた羽の隙間に、紫の異質な魔力が貯まり、肥大していく。


 そして完全に貯蔵された魔力の塊は、けたたましい音と共に射出された。


 無差別に放たれた塊は、ステージを破壊し、観客席にはクレーターができた。


「…ああああああああああああ!!」


 時間差で観客たちの表情が真っ青に染まり、我先にと出口に向かって走り出す。

 その時、アシュミーたちが起動した花が優雅に咲き誇っていたが、目に留める人は一人もいない。


 そして静寂に囚われた空間に、奴は再び攻撃を始める。


「×××」


 (くちばし)に炎が宿り、逃げ惑う一般人の集団へと吐き出す。

 全てを包み込み焼き払うように、赤い波動が襲い掛かる。


「弱き者に労力を割くなど、愚かなこととは思わないものか?…全てが古臭い老害には理解の及ばぬ話か」


 一人、前に出てきた女が結界を展開し、炎を真っ向からはじき返した。


「例の騎士共がいないせいで、我がこんな目に…」


 全ての民間人が避難したことを確認すると、その女は魔力を展開してその細身を宙に浮かべ、前方のステージへと移動した。


「リオンさん!」


「はあ…これも余興か、娘?」


 僅かに表情を緩めたメロウに対し、リオンは気だるげに目の前の魔物の姿を見つめた。

 メロウは目の前で固まるアシュミーの姿と、花とクレーターで狂乱に満ちた光景を確認し、ふるふると首を横に振った。


 巨大な翼を羽ばたかせてホバリングするその魔物は、目に見えるものが全て敵にしか見えないらしい。

 リオンは嘆息した。


「…生憎だが、この姿の我は攻撃手段に乏しい。竜に成り代わるにはこの空間は狭い。…つまり、我は守ることしかできん」


「うーん。あの攻撃から守ってくれるのはありがたい話だけど、それだといつかジリ貧だねえ。メロウもサポートメインだって考えると、ボクとアシュミーしか殴れる人がいない…」


 スイランは額に汗を浮かべ、魔物と対峙している。


 そして全員が、このままでは押し切られることを察していた。




 三人とも、今の格好は戦闘力が壊滅的だからだ。

 戦闘に向いているはずのないドレス姿。特に魔法による付加があるわけでもない。


 冒険者としての装備品の入った魔法袋は待機部屋に置いたまま。

 それを回収しないと、ろくにパワーの出ない魔法くらいしか使うことができない。


「あ、ああ…」


 そして、一人腰を抜かして動けない少女がそこにいた。


「早く立たんか」


「…どうして、どうしてこんなことに…」


 アシュミーの耳には何も入ってこない。

 ただ目の前の怪物に怯え、震えることしかできない。


「××―――」


 ドレッドアーケアは再び羽を広げ、魔力を貯めた。

 次は標的がここに集中している。さっきとは比べ物にならないパワーが迫ってくることは、誰の目にも明らかだった。


「…チッ」


 危険を察知したリオンが素早く魔術を起動し、四人をすっぽりと覆うように結界で包み込んだ。


 そこに紫の魔力が殺到。

 リオンの結界が揺らぐほどの力が外部から伝わってくる。


「ひっ!」


 アシュミーが怯え、メロウの腰にしがみつきガタガタと震えだす。

 スイランはその背中を強く叩いた。


「怯えてる場合じゃない。アイツ、倒さないといけないんだよ」


「無理よ…アレが何かわかってるの?武器もないあたしたちにできることなんて何も…」


 魔力の射出が終わり、攻撃が収まり魔物は魔力の補給を始めた。

 リオンはそれに合わせて結界を解除し、次の攻撃に備える。


「アシュミー!!」


「アシュミー様!」


 そこに、二人の人間が飛び込んできた。


 冒険者としての装備に身を包んだ二人は、震えるアシュミーをかばうように魔物との間に割って入った。


「ライネスさん!イルミナさんも!」


「…どうしてここに?」


 アシュミーの呟きに対し、二人は肩を叩いて優しく言う。


「わたしたち、仲間でしょ。…絶対に助ける」


「僕たちが守りますよ」


 ドレッドアーケアが二人に気づき、怒りの矛先を向けた。

 魔術によって大量の炎の塊が空中に出現し、踊るように二人に向かってくる。


「はあっ!」


 ライネスが両手で握る巨大な盾が炎を一つずつ受け止め、かき消していく。

 全ての炎が消滅したところに、イルミナがライネスの影から魔法を詠唱。


『ジオレイズ』による氷の塊が巨大な胴体に直撃し、一瞬よろめいた。


「効いてる!これなら———」


 気を抜いたイルミナが、ライネスの前に飛び出した。

 そこにドレッドアーケアが低空姿勢で突撃。その鋭利な嘴で華奢な細身を串刺しにしようと迫る。


「あ———」


「無茶をするな!」


 そこに割り込むようにライネスが前に出た。

 盾を構えるが、体勢の崩れた状態ではあの突撃をはじき返すことは叶わないだろう。


 吹き飛ばされることを覚悟したライネス。その目の前に、再び赤紫の半透明な壁ができあがる。


 その壁と嘴が激突し、結界にはヒビが入ったものの、魔物の勢いは完全に止まった。

 不服そうにドレッドアーケアが距離を取り、人間の集団を睨みつける。


「そこの盾男。お前は一旦離脱し、娘共の装備を回収せよ」


「…え?いや、僕はアシュミー様をお守りする必要が———」


「そこの女一人も満足に守れぬ男が何を言う。さっさと行け、娘共の安全は我に任せろ」


 リオンの剣幕、鋭い視線に押され、ライネスは戦線を離脱。

 急いで奥の待機部屋へと走り去った。


「さて、茶娘よ。今は守りに専念だ、我へ魔力の補給を頼んだ」


 メロウを見つめ、リオンが命令した。


「はい!」


 メロウは力強く頷き、左手を擬人化した竜の方へと向ける。

 その手からは魔力が流れだし、リオンの結界を増強させた。


 ドレッドアーケアは激しく攻撃を繰り返すが、全てをリオンが結界で弾く。メロウの魔力補給とイルミナの妨害のお陰もあり、防御において不安な要素はない。


「…どうしてよ」


 なんとか立ち上がったアシュミーが、四人を見て苦しそうに叫んだ。


「どうして平気でいられるの!?あんなの相手に、勝ち目もないのに!?」


 頭を抱え、表情を歪め、涙を流すアシュミー。

 最初に応えたのはイルミナだった。


「…別に。そこのリオンって人が強いし、わたしとアシュミーが協力すればきっと大丈夫」


 何の根拠もない話ではあったが、イルミナの口調に迷いや澱みはなかった。


「…ねえメロウ、スイラン。どうして?あの化け物を倒せる方法でもあるの?」


「ありますよ」


 メロウが顔だけアシュミーの方を向けて、ニコリとほほ笑んだ。

 スイランも笑顔を崩さないまま、アシュミーの背中をそっと撫でる。


「きっともうすぐさ。ライネスが装備を持ってくるのと、どっちが先かなあ?」


「…何言ってるのよ…アレは凄腕の冒険者が集まってやっと倒せる敵なのに」


「はあ、攻撃は単調で張り合いがない。まだ来んのか?」


 ドレッドアーケアは何度目かの魔術弾幕。リオンが結界を起動する。

 余裕そうに結界が現れるが、その時事件が起きる。


「きゃっ!?」


 魔力の流れ弾に驚いたアシュミーが大きく飛び退いた。

 そしてその瞬間にリオンの結界が成立。———アシュミーは外に取り残された。


「まずい!」


「アシュミーさん!」


 中からメロウとスイランが呼びかけるが、行動を起こすことはできない。


「嫌、嫌!!」


 結界をこじ開けようとイルミナが叩くが、微動だにしない。

 リオンは一人、目を瞑った。


(もう間に合わん。我は一人の娘を見殺しにするしかない。それが気に食わんなら、助けに来い!!)


「あ…」


 アシュミーとドレッドアーケアの目が合った。

 結界には目もくれず、アシュミーただ一人に向かって魔力が牙を向く。


(ごめんね、みんな…)


 アシュミーは死期を悟り、目を閉じた。






「…」


 アシュミーは目をそっと開けた。

 自分は傷一つついていない。


 確かにあたしは結界の外に出ていたはず。そしてあの魔物もそれを知って自分を狙ってきた。

 じゃあどうして…。


「…この場に不釣り合いな輩には退場してもらおう」


 誰かいる。

 少しずつ目線を上げていった先に、彼がいた。


 軽装の黒い鎧。片手に一本ずつ握りしめられた双剣の戦闘スタイル。

 筋肉質な体躯に、誰もが知るその顔立ち。




「ここからは俺に任せろ」


 ☆


 かなり危険な賭けだとは予想していた。

 観客は避難したものの、アシュミーの前に姿を晒すのだから。


 そして実際に来てみれば、なぜかイルミナもいた。


 だが、それよりも三人の安全を優先すべきだと、そんな衝動に駆られた。

 俺は気づけば紋章をなぞって元の姿に戻り、ステージに突っ込んでいた。


 不慮の事故で無防備に晒されていたアシュミーの前に飛び込み、魔術反射を付与した双剣でエネルギー弾をなんとか捌き切り、今に至る。


 ブレインにはこんな芸当が不可能である以上、守るという意味では最適解を選べたようだ。


「…」


 結界が解け、俺たちと守られていた少女たちが対面。


 イルミナとアシュミーは絶句している。

 こんな所に俺がいるなんて、夢にも思わなかったのだろう。


「はい!持ってきまし———」


 ちょうどその時、魔法袋を三つ抱えたライネスが舞台裏から出てきた。

 彼は俺の姿を見るや否や硬直し、手に持っていた袋が全てぽとりと落ちた。


 俺を見る目が完全に魔物を見る目と同じ。

 悲しい話だが、今はそれよりアイツだ。


「×××××!!」


 常に何かに対して八つ当たりしているような気質の鳥だ。

 敵が増えたことに怒るような、喜ぶような雄叫びを上げた。


「我が時間を稼ぐ。お前らは武具を身に纏え」


「はい!」


「りょーかいっ」


 メロウとスイランが動き、ライネスが落とした袋を地面から拾い上げる。

 メロウは両手に二つ持ち、腰を抜かしたままのアシュミーに一つ手渡した。


「どうぞ。一緒に戦いましょ」


「…でも、あたしじゃ何の役にも」


 渋々受け取ったが、アシュミーは完全に戦意喪失していた。

 仕方ないっちゃ仕方ないが、ここで折れるようなら本気で冒険者には向いてない。


「…ドレッドアーケアの弱点は氷、それも物理攻撃の方が効く」


 わざとらしく、俺は呟いた。


「…え?」


「わかるか?アイツは、俺が一人で倒しても意味がない」


「…」


「アレも、そして俺にも人を笑顔にする才能はない。自分の輝ける場所を守るために、お前は、この転生魔王と共闘するんだ。」


「!」


 俺は魔物に背を向け、そっとアシュミーの手を取った。

 そして袋から彼女の剣を勝手に取り出し、俺の魔力で氷を付加。


 凍てつく冷気を放つ大剣が、アシュミーの手に握られている。


「…二重人格、もう済んだか?守り続けるのも面倒だ」


 さっきまで結界で俺たちを守ってくれていたリオンは気だるげに悪態をつく。


『はい』と答える代わりに俺はアシュミーの上体を持ち上げ、二人で魔物に対峙した。

 隣にはスイランとイルミナとライネス、後ろでメロウとリオンが常に援護してくれるこの状況。


 ———負ける訳がねえ。


「じゃ、ボクから」


 スイランが軽くその場でジャンプすると勢いよく前方に飛び込み、ジグザグに進みながらドレッドアーケアの寸前に迫る。


「×××」


 相手はそんな少女を焼き払おうと炎を放つ。

 取り囲むように熱の塊が舞い、襲い掛かる。


「甘いよねえ」


 スイランは炎と炎の間を上手くすり抜け、的確に魔力の宿る翼をレイピアで貫く。


 そして傷口を狙ってイルミナがジオレイズを詠唱。抉るように氷の棘を刺しこむ。


「僕が守る!」


「我に任せよ」


 リオンが結界を貼り、ライネスが盾と共に前に出て的確に攻撃から味方を守る。

 どれだけ攻撃が激しかろうと、二人の盾が全てはじき返す。


「では、やって下さい」


 その間にメロウは肉体強化の魔法をかけてくれていた。

 今の俺とアシュミーは常人の比にならない火力と瞬発力がある。


「俺に憧れるのなら…ここで決めろ」


「は…はい!!」


 俺はアシュミーの前から動き、距離を詰める。そして追随するようにアシュミーも剣を構えて走り出す。


 狙うは二人が作ってくれた傷口。

 ここならダメージが入る。


「×××~~!」


 狙いに気づいたドレッドアーケアは攻撃をやめ、高く飛び上がった。

 スイランとイルミナは一度下がり、リオンの元に戻る。


「レイブン様、これじゃ攻撃ができません!」


「メロウの強化魔法をなめるな!」


 俺はそのまま壁に向かって走り、壁を無理やり走って駆け上がる。

 アシュミーも驚いたまま壁に向かい、一緒についてくる。


 流石は銅クラス。これくらいなら余裕か。


 ドレッドアーケアのいる高さまで無理やり駆け上がり、壁を蹴って奴へ一直線。


「×××!?」


 慌てたように羽ばたき、炎で応戦してくる。

 だが、その場しのぎの炎程度俺には効かん。


 二本の双剣で一つずつ切り裂き、視界が晴れる。

 無防備な奴の間抜けな顔もばっちり見える。


「おらあ!!」


 嘴に向かって一薙ぎ。営利な嘴も急激な横薙ぎには耐えきれず、骨格が曲がるほどの一撃が決まった。


「はああああああああ!!!」


 魔力は尽き、自慢の嘴は折れ、もう反撃手段の残っていないドレッドアーケア。

 そこに迫る氷の刃。


 アシュミーは大きく振りかぶり、右の翼の付け根を狙って大きく切りつける。

 そこは、スイランとイルミナが傷を抉っていた、今のアイツの弱点。


「ガ、×〇ガガ~~!!」


 大きくダメージを受けた翼からどす黒い血液が噴出し、魔力が漏れ出す。

 魔力も翼も損傷した魔物は飛ぶ機能が弱まり、地上に落ちてくる。


「あ、わ、きゃ———」


 同じくバランスを崩して落ちてきたアシュミーは俺がキャッチした。

 着地までは無理だったか。まあ初めてなら仕方ない。


「…もう勝ちだね」


 バタバタともがき苦しむドレッドアーケア。

 もはや生存本能が諧謔性(かいぎゃくせい)を上回り、俺たちは眼中になく逃げることしか考えられないようだ。


「ふう。他愛もないな」


 アシュミーが氷の刃を脳天に突き立て、即死するように絶命した。

 ライブステージを荒らしに荒らした怪鳥は、暴虐の限りを果たした後、ステージを守るアイドルとその仲間たちによって倒され消滅。


 激しい攻防で穴だらけになったステージと観客席での死闘はようやく終わった。


「…」


 落ち着いてしまうとこの状況がまずくなる。

 俺がメロウたちと普通に話していると怪しすぎるから、さっさと退散せねば。




 ———その前に一つやることがあるが。


 俺はメロウたちに目で合図してから、出口へと向かった。


「…どうして、あたしたちを助けてくれたんですか?」


 後ろから呼び止められた。


「ライブの邪魔をされたから。ゆっくり楽しませてほしかったんだが」


「えっ…」


 俺は背を向けたままだが、アシュミーの驚いた顔が目に浮かぶな。

 たまにはカッコつけて去るか。


「いつか、俺が『転生魔王』ではなくただのレイブン・グルジオになったら、また会おう。

 ———次は観客として、な」


 そのまま俺は皆の視界から外れた。

 後のことはメロウたちに任せる。


「…」


「グギッ」


 さっきから周りを飛んでいた虫型の使い魔を握り潰した。

 大方、騒ぎを聞きつけた新聞記者が召喚した奴だろう。

 この記録を元に記事を作るのだろう。…使い魔を通して得られた俺の写像だけ本物で、文章は出鱈目のものを。


 正直気に入らないが、もうこの身体は非常事態にしか使わないと決めている。

 メロウやダンケルたちが理解してくれるのなら、それでいい。


 …もう可愛らしいライブも、血なまぐさい暴力も終演だ。

 輝かしいアイドルたちのステージに、暴力しか取り柄のない男はいらない。

 だから俺は紋章をなぞり、金髪で貧弱、アイドルの場にいてもおかしくない男に変身した。


 ☆


「レイブン様…かっこよかった…」


「zzz…」


「これはどういう状況だ?」


 少し遅れて部屋に入った俺は、そこで異様な状況を目にした。


 アシュミーは女の子座りで部屋の隅に座り、窓の外、虚空を見つめて何やらロマンチックめいたことを呟いている。


「…アシュミー、わたしはどうだった?」


 その隣にイルミナが座り、夢心地に浸るアシュミーの肩をつついては寂しげに呼びかけている。


 あと、リオンが疲れたのか部屋の真ん中で堂々と眠っている。

 何だこれ。


「そりゃ、ブレインのせいさ」


 スイランとメロウが出迎えてくれた。

 そしてスイランはジト目でこちらを睨みつけている。


「メロウがいながら、新しいヒロインにも手を出したじゃん?完全に落ちてるよ、アシュミー」


「ん?別にそんなつもりは微塵も…ないとは言えないか、あれじゃ」


 否定しきれなかった。

 …どうせならカッコつけようとか考えたわ、俺。


「…別に私は気にしませんヨー。そりゃ、ブレインさんと関わりを持つ女性が何人いようが関係ありませんし?」


「…どうしたら許してくれる、メロウ?」


「明日、()()姿()()、私と二人きりでダンジョン行きましょ♪」


 あ、それでいいんだ。


「全く熱いねえ———あ」


 談笑していると、スイランの身体が淡く光り出した。

 まさか、さっきのドレッドアーケアに変な魔法を押し付けられたんじゃ…


「ごめん、ブレイン、メロウ、そしてアシュミー。ボクはここまでみたいだ」


 はにかんだ笑顔でぺろっと舌を出し、周りに向かって謝るように手を合わせた。


「おい、何が起きた?」


「スイランさん!?」


「ちょっと、何よ!?」


 皆が見守る中、スイランの身体が淡く光り出す。

 最後に屈託のない笑顔を向けてくれた。


「あのね、もう限界でさ———




 ウォルターの発明品、時間切れっぽい」


「…は?」


 一度スイランの肉体が崩れ、光の粒子となって消滅する。

 そして少ししてから再構成され、もう一度スイランがそこに現れた。


 髪がショートカットで、細身だが胸元は完全に平らになっている。

 姫よりも騎士が似合うような佇まいをしており、アイドルとは少し方向性が違うように感じられる。


 ———要は、元の男の娘に戻ったらしい。


「…ねえスイラン」


「どうしたの、アシュミー?」


「アンタ、妙に男みたいな仕草してることあるよなーって思ってたのよ」


「はいはい」


「…ブレインが出て行ったら、今ここでズボン脱げる?」


「…」


 スイランは愛想笑いでごまかした。

 アシュミーは過去を思い出して少しずつ顔が紅潮していく。


「アシュミーの下着を男が覗くなんで許せないわね…わたしが裁く」


「イルミナ落ち着いて、殴っちゃ駄目」


「むー」


 イルミナは頬を膨らませてとびかかろうとするが、アシュミーに頭を撫でてもらってなんとか落ち着いている。

 初めて見た時はこんな様子じゃなかったが、本心は甘えたがりなのだろうか。


「イルミナ、一度こちらへ」


 扉が開き、私服姿のライネスが姿を見せた。

 何やら、イルミナを呼んでいるらしい。


「…わかった。今行くよ、兄さん」


 急に平静を取り戻し、イルミナは兄の元へと歩いて行った。

 そのまま扉を出て、どこかに行ってしまった。


「イルミナ、急に昔みたいになってびっくりしたわ。…一緒に戦って、スッキリしたのかしら」


 不思議そうに感じながらも、アシュミーは嬉しそうだった。

 仲違いしたままは辛かっただろうし、あの戦いもそういう意味では無駄ではなかっ———。


「…やっぱそういうことか」


「どうかしましたか?」


「少し席を外す。アシュミーが暴走しないように押さえておいてくれ」


 魔術商の『依頼』ってのはこういうことか。

 最低限でも、真実くらいは確かめさせてもらおう。メロウたちを危険な目に遭わせて、タダで帰すのは納得がいかない。


 俺は部屋を後にして、さっき消えた人間たちの後を追った。



年の瀬になってリアルがひと段落し、作者は時間に多少の余裕ができましたので(クリぼっち?知らない子ですね)、この作品とは別に一話完結の短編作品を何か書こうと考えています。もし投稿しましたら、ご一読いただけると幸いです。

※この作品の毎週投稿は変更しません。

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