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27話 未知の世界へと踏み込む話

作者の事情で投稿が遅れたことをお詫び申し上げます

「ついに来ましたね…!」


「ふふふ、ボクたちの特訓の成果を見せてあげよう!」


 ギルドハウスから北におよそ三十分。馬車や魔術道具による移動はまあなくても問題ないくらい。微妙に開拓されていない更地を抜けた先に、それはそびえ立っている。


 タグナスのやや外れにある大きな建物。

 白を基調としたそれは華やかに装飾されており、見る者をどこか楽しい気分へと誘う。

 古風な建造物が立ち並ぶとされるこの街には珍しく、モダンな形式美。


 ここは俗に言う『イベント会場』というものらしい。

 見世物としての闘技大会だとか、魔術論文の発表なんかが行われるらしい。ダンケルやウォルターがここで研究成果を提出したことがあるとかないとか。


 そして今日は、アイドルと呼ばれる人たちによる『ライブ』なるものが行われるらしい。

 アシュミーに無理やり協力させられる形で、メロウとスイランが参加することになった。ついでに俺も裏方という役職が与えられるらしい。人使いが荒い。


 その本番の演技のために、二人はアシュミーの用意した映像を元に、昨夜全力で練習していた。その場にいた俺が引くレベルで本気だった。

 大勢の前で恥を晒したくないらしい。まあその熱意は賞賛に値するという話で片が付くのだが…。


「俺…寝ないと駄目なタイプなんだが…」


「ボクたちの姿を見たら眠気なんて吹き飛ぶさ!」


 ふらつく俺の隣で、スイランが高らかに笑う。


 彼女たちは、ほぼ夜通しで練習した。素人目だが、映像と比べても見劣りしないレベルまで上達していたんじゃないかと感じる。


 問題は、その練習の監督として俺が巻き込まれたことだ。

『観察眼鋭いし』とか、『レイブンさんが納得のいく演技でないと!』という勧告を受け、俺は映像のアシュミーと二人を見比べ、聞き比べて口を出す役割を任された。


 二人の熱意に感化されたのは否定しないし、手を貸すのもやぶさかではなかった。そこは後悔していないし、二人の努力に貢献できてよかったと思う。


 だが、昨夜の俺はろくに寝ていない。

 頭が重い、体がだるい、耳が若干遠い。


 どうしてメロウとスイランはピンピンしているんだ…。運動していた分俺より疲れたはずだろ?


「あ、いたいた。おーい!」


 スイランが何かを見つけたようだ。

 その目線の先には…


 ショートカットの黒髪、前髪で隠れ気味な目元。少しミステリアスな雰囲気を放つ彼女は、今日は素朴な蒼い衣服を身に着けている。


「やっと来たわね」


 どうやら、アシュミーは会場の前で待ってくれていたようだ。

 俺はどうやって入ればいいかわからないし、案内してもらえるのなら助かる。


「ん?ライネスとかいう男はいないのか?」


「ああ、ライネスは中で待ってるわ。アイツおっちょこちょいだから、人前であたしの横にいると不安なのよね」


 ああ、不憫なライネス君。

 もし仲良くなるきっかけがあったら、愚痴くらい聞いてやるか。


「それじゃ、あたしについてきて」


 そういうとアシュミーは踵を返し、すたすたと歩き出した。


「あ、待ってくださいー」


 まあまあ速足。癖だろうか。

 俺たちも、置いて行かれないように速足で彼女を追った。




「———というわけで、この二人をあたしのコーラスとバックダンサーに」


「いいわけないでしょ」


 開口一番、修羅場勃発。


 愛想笑いでこの場を乗り切ろうとしているアシュミーに対し、腕を組んだ状態でガツンとした一撃を食らわせるライネス。


 出演者の待合部屋の一室にて、俺たちを含めた五人が座っている。

 俺たちは放置され、あの二人が争っている。


「えーなんでよ!?盛り上がるからいいじゃん」


 アシュミーがライネスの肩をばしばしと叩き、同意を促す。

 だがライネスは一向に首を振らない。


「いいですか?このライブは規模が大きく、アズミ様の熱烈なファンが大勢いるのです。経験もろくにない素人を加えるのは間違っています」


「うぐ...」


 ...というか、アシュミーの奴、このことを昨夜のうちに説明していなかったのか?

 中々に酷い見きり発車だな...。


 ライネスをため息をついてからこちらに向き直った。

 申し訳なさそうに頭を下げ、固い口を開いた。


「アズミ様の無茶な話に付き合っていただき、申し訳ありません。良ければ、僕が斡旋するので観客として今日のライブを楽しんでいただければ...」


 …仕方ない、ここは引き下がるしかないか。


「いやさあ…、ここで、はいそうですかと引き下がるわけにはいかないんだよねえ」


 スイラン?いきなり立ち上がり、ライネスとアシュミーの方を見つめた。

 普段の彼にしては珍しく、真摯な表情でライネスと対峙している。


「何か不満がおありですか?元々アズミ様の無理な要望だったのでしょう?」


 ライネスは座ったまま表情を崩さず、元凶の人物を一瞥してから真剣にスイランの方を見ている。

 なぜか、バチバチと燃え上がるような空気が出来上がっている。


「いやー、ボクとメロウはさ、昨日一夜明かして本気で練習してきたわけでさ。あの話を聞いて、協力する気満々だったんだ。昨夜の頑張りを、アンタの一言でなかったことにされるのは納得がいかない。だからブレイン、音楽を」


「ん?」


「早く!!」


「お、おう」


 剣幕に押され、俺は昨日使用した映像道具を取り出した。

 何の思惑だろうかわからないが、微弱な魔力を流し込み起動する。


 少しの静寂の後、ジジジという音が鳴りとある映像が部屋の壁に映し出される。

 そこには、輝くようなドレスを身に纏ってばっちり化粧を決めたアシュミーが、前にいる観客たちに向けて、ニコニコと手を振っている。


『みんなー、ありがとう!!それじゃ、いっくよーー』


 受け取ってからほんの一日しか経っていないというのに、もう何度聞いたかわからない台詞。

 ライネスとアシュミーは困惑している。…いや、アシュミーは少し恥ずかしそうだ。


「本人の前なのに…そんなにじっくり見られると…」


「…」


 映像の中の時間が少しずつ進み、ついに一曲目が始まった。

 軽快な音楽、ファンの人たちがリズムよく振り回している色とりどりの棒状の光、それに負けず劣らず光り輝く笑顔。


 勿論、俗世を離れるような形で長い時を過ごしていた俺には馴染みが…昨日できた。少なくとも二十回は見たシーン。


「メロウ!やるよ!」


 スイランがおもむろにメロウの手を取り、移動した。

 移動した先は、映像の目の前。平面上に映し出されるアシュミーの姿が歪み、メロウとスイランが光り輝いている。


「眩し…そんないきなり言われても私には無理———」


「ほら、もう始まるよ!」


「え、あっ!」


 メロウがあたふたしているまま、曲の歌詞が始まった。

 普段の喋り声の良さをそのままに活かした、アシュミーの可愛らしい歌声が部屋中に広がる。


『~~♪』


 慣れない状況、空気だとしても、体で覚えた成果というのは残っているらしい。


「「~~♪」」


 二人の少女が天使のように舞い、絆で結ばれた双子のように歌声をシンクロさせ、時が進めば絶世の美女へと変貌を遂げるであろう美貌を見せつける。


 ここはただの狭い一部屋にすぎず、彼女たちは極端に目立つ訳ではない私服姿で、観客はここにいる三人のみ。

 それでも汗を流しながら笑顔で演技をしている二人は、確かに『アイドル』そのものだった。


 華麗なステップで熱狂させ、美声で世の男を魅了し、たった一回のウインクで蛮族の頭さえも虜にせんとばかりに誘惑する。


 何度も見てきたはずの俺でさえ、二人の姿に釘付けになり、瞬きさえ憚られる。


「「~~♪ ありがとう(ございました)!!」」


 映像のファンたち、そして俺たち三人に惜しまれながら、音楽が静まり返った。

 示し合わしたわけでもなく、映像よりも先に俺たちの拍手音が響く。


 メロウが深々と一礼し、スイランがニコニコと笑いながら手を振っている。


「…もう結構です」


 ライネスの低い声に呼応して俺は魔力を遮断し、映像を停止させた。

 壁の中のアシュミーが綺麗さっぱり消滅し、メロウやスイランを輝かせていた明かりがなくなる。


「すごい…!」


 アシュミーは目を見開き、拍手を止めたその手は小刻みに震えていた。

 本業の人間が見ても納得のいく精度…か。


「どう?これでも、ボクらを『じゃあお帰り下さい』で片づけられる?」


「…」


 立場が逆転したようだ。

 ライネスは長考を始めた。


「アズミ様。本気なのですね?」


「ええ、あたしはトップになるためなら何でもする。イルミナのためにも、あたしは輝くの」


 ライネスはため息を吐き、そっと目を閉じた。

 アシュミーは勝ち誇るように笑い、二人の肩をばしばしと叩いた。


「じゃ、頑張りましょ!」


 どうやら上手くいったらしい。

 二人が輝くのなら、俺も人肌脱ぐしかない。


「正直なところ、引き立て役のつもりで誘ったつもりだったけど…まさかここまでとはね。アイドルとして生きていく気はないの?」


「ないよ」


「ないです」


「あれ?」


 即答で否定。

 アシュミーに肩透かしを食らわせた。


 雰囲気が良くなってきたところで、ライネスが重い腰を上げた。

 服についた埃を払って、髪を整えた。


「では、準備をしましょうか。メロウさんとスイランさん、でしたね?お二人はバックダンサーとして参加することにします。まあ、ステージが盛り上がれば、僕は文句を言うつもりはありません」


 ライネスは少し不満げに視線をそらした。


「それじゃ、二人とも衣装持ってる?着替えて行くよ!」


「おー!」


「本当にあれを着て人前に…、スカートがめくれそうです…」


 そう言いながらも、二人はドレスを取り出した。


「はい。それじゃあここは今から男子禁制、ライネスもブレインも出て行きなさい」


 言われるがままに俺とライネスはアシュミーに押され、部屋の外へと追い出される。

 そして、外と内を繋ぐ扉が勢いよく閉められた。


 廊下には、俺とライネスの男二人が残された。

 まだ寒い季節ではないが、この空間はやや冷え気味な気がする。


「ライネス、お前も大変だな。いつもああやってアシュミーの傍にいるのか?」


「はい。アズミ様はツンデレであり気分屋なので、いつも振り回されるばかりです。今日だって」


 凛とした佇まいのまま、ライネスは床を見下ろしている。

 物憂げなようにも感じられるし、どこか寂しそうにも見えた。


「ブレインさんは苦労しなさそうですね。従えている女性はどちらも従順そうで」


 どうして、どいつもこいつも間違った方面に解釈するんだ。

 俺が女の子を従えるなんてするわけないだろ。


「生憎、従えてるなんて関係じゃない。あくまで対等、仲間で友だちさ」


「ふふ、それは失敬。ところで、本命はメロウさんですか?スイランさんですか?」


「ノーコメントだ。そういうお前は、アシュミーのこと、どう思ってるんだ?」


「僕はマネージャーであり、アズミ様の補佐に過ぎません。あの方が望むような演技、活動ができるように斡旋するのみ。貴方が想像するようなことは思っていません」


 ほう。

 かなりさっぱりした性格をしているようだ。


 アシュミーは現在進行でアイドルをしているということもあり、容姿は抜群だ。ずっと近くにいたら、自然と想いを抱いてもおかしくないと思ったが。


 …それよりも、昨日からずっと気になっていたことが一つ。


「なあ…『アズミ様』ってのは、アシュミーのことか?」


「仮の姿のアシュミー様ですね。『アズミ・テノール』と、彼女が自身で命名しました!」


「そうか…」


 なんだか嬉しそうだった。

 あの魔道具は、ライネスが入手したものなのだろうか。かなりの手練れが製作したと見られる。


 それはそうとして、だ。

 自身を含めた、俺の周りの人間、全体的にネーミングセンスが低い気がするのは、気のせいだろうか?


「…俺はこういった場は慣れていない。裏方というのは、何をすればいいんだ?」


「ああ、それは———」


「さあ、とっとと行くわよ!!」


「ぐああっ」


 話の途中で、変身の解けた元のアシュミーの、威勢のよい掛け声と共に勢いよくドアが開かれた。

 締め出された時から少し移動していたせいで、外開きの戸にライネスがぶち当たる。


 絶叫が響き、前に立っていたメロウとスイランも咄嗟にドアの方を見た。


「…」


 恐る恐る、アシュミーがドアを戻していくと、


「…」


 衝撃で衣服が乱れ、髪が崩れ、軽い全身打撲となったライネスの姿。

 さっきまでの爽やかな雰囲気が台無しになっていた。


「ご、ごめんね…」


「ドアは静かに開けて下さい…今回は痛いだけで済みましたが」


 苦笑いで両手を顔の前で合わせるアシュミー。

 対するは、乱れた姿のまま腕を組んで静かに諭すライネス。


「に、似合ってますか?」


「ボクだっていいでしょ?」


 向き直ると、メロウとスイランの姿が。

 白を基調としたフリフリのドレスで、それぞれメロウには黄色、スイランは青、アシュミーには赤の花柄の模様が刺繍されている。

 スカートは膝上のかなり攻めたラインまで短くなっていて、なるほど、男の欲情を誘っている。メロウが恥ずかしがるのも納得だが、その仕草がまた可愛い。


「ああ、二人ともよく似合ってる」


「…えへへ」


「ボクだから当然さ」


 俺は見とれて思考が停止するのをなんとか避けながら、二人の衣装姿を褒めた。

 隣では、アシュミーがライネスの服装をその手で整えていた。


 なんだかんだ、あの二人も仲は良さそうだ。


 ☆


 時間が近づいてきたので、俺たちは五人で会場の中心、ライブの会場裏へと向かった。

 その途中で、俺はライネスから具体的な行動を教えてもらった。


「———以上です。おわかりいただけましたか?」


「ああ。助かる」


 具体的には、主にアイドルの体力や精神のサポート、音楽を操る魔術の調節、観客間での暴動の阻止を俺とライネスでやるらしい。

 俺が一番向いているのは、どう考えても三つ目だ。


 音楽の調節なんて全くわからないし、そこはライネスに任せよう。


 それからは談笑しながら歩いていると、角を曲がった先にて。


「あ…イルミナ」


「…」


 とある少女に出会った。


 混じりけのない銀をそのまま溶かしたかのような純粋な銀髪を、後ろでツインテールに纏めている。

 深淵のような黒い瞳は、ややつり目。多少目つきが悪いようにも感じられるが、整った顔立ちが相まって、可愛らしいイメージになる。

 そして、こちらの女性陣と同年代だが、三人と比較すると胸部の装甲は大きく膨らんでいるようだ。これで年上だったらダンケルは一瞬で飛びついただろうな。


 こちらのドレスとは打って変わり、黒いシックな衣装に身を包んでいた。

 この子も出演者なのだろうか。


「アシュミー…、また他の人を誘うの?」


 イルミナと呼ばれた少女はメロウとスイランを一瞥し、目つきそのままにアシュミーを睨みつけた。

 何かが気に入らないらしく、ムスッとした表情から動かない。


「そうよ。この二人は今日のライブの仲間。イルミナとは上手く合わなかっただけで、あたしはソロでしか活動しないわけじゃない」


 アシュミーが少しほほ笑んでそう言った。

 イルミナは更に表情を険しくし、声が低くなる。


「そう…わたしを捨てたこと、せいぜい後悔しないでよね」


 それだけ告げて、イルミナはくるりと俺たちに背を向けて去っていった。

 彼女も演技前だろうか。


「アシュミーさん、あの方は…」


「ええ。イルミナ…元チームメイトのね」


 そういえばそうだったな。

 四日ほど前、『別れることで成功した二人の新星』なんて題名の記事があった。その二人が、ここにいるアシュミーとさっきのイルミナという子だったような。


「AIコンビって名前だったよね?どうして解散しちゃったの?」


 スイランが首を傾げる。

『AIコンビ』というのは、風の噂で聞いたことがある。


 なんでも、二人組の売れっ子アイドルだったはずだが。


「…」


「解散自体は二か月ほど前だったでしょうか…。喧嘩をしてしまったんです。元々、アシュミー様とイルミナは歌唱も踊りも、ベクトルが大きく違います。それを統一したかったアシュミー様と、個々の良さを活かしたライブがしたかったイルミナの間で大きく対立してしまい、この結果に落ち着いたのです…」


 アシュミーは悲しそうに下を向き、ライネスが変わりに説明してくれた。

 この様子だとさっきのように、偶然再会した時もろくに口を聞いていないのだろう。


「ライネスさんは元々お二人のマネージャーだったけど、アシュミーさんについたんですか?」


「ええ。イルミナの方にも時々行くようにはしていますが、兄妹でアイドルとマネージャーというのは、世間体やイルミナの人気に響きますので」


 兄妹…。

 そういうことか。

 よく見たら、髪の色なんかそっくりだった。


 アイドルの世界というのは面倒らしい。まあ、冒険者も強さだけが正義じゃないことを考えると、似たようなものか。


「…あたしが悪い、それはわかってる。ユニットでなくなったとしても、あたしはイルミナと仲良くしたいんだけど…」


「…」


 重苦しい空気が流れる。

 当事者ではない俺たちにも、何が起きたのか、想像に難くなかった。


「…はぁー」


 この雰囲気に耐えかねたのか、スイランが大きく息を吐いた。


「そう思ってるんなら、仲直りすればいいじゃん。まずは、『自分は今も頑張ってる』ってこと、見せつけてやりなよ」


 そっと近寄り、スイランは下を向くアシュミーの頭をそっと撫でた。

 アシュミーは驚きと羞恥により、飛び退くように距離を取った。


「!? べ、別にアンタたちに心配されなくたって、あたしはアイドルなんだから平気よ!」


「うふふ、今みたいに明るく振る舞う方が、お客さんは喜んでくれますよ」


「うるさーい!」


 顔は赤いが、元気は取り戻したようだ。


 スイラン…、俺たちはよく調子を崩されるが、実際はよく人のことを見ているし、気遣いもしてくれる。

 ここまでくると、普段の様子の方が虚構にさえ思えるかもしれない。なんというか、ダンケルと似た波長を感じる。


「アシュミー様には、今のような安らぎが必要だったのかもしれません…」


 ライネスが小声で呟いた。

 その表情は、楽しそうに話す少女三人とは対照的に、安堵するような穏やかなものだった。


「俺たちはアイドルでも何でもない。だからお前らの苦悩なんてわからん。…逆に言えば、わからないからこそ、できることもあるってだけだ」


 隣に立っている男は、表情を軽く崩してフッと笑った。


「僕は元々反対の立場でしたが、貴方たちを誘ったアシュミー様の判断は賢明だったのかもしれません。今日のライブ、楽しみにしています」


「二人の努力は俺が保障する。…お前も普段からそうやって笑っていた方が、アシュミーのためになるんじゃないか?」


「随分と達観されていらっしゃる。あのお二人が懐いているのもわかる気がしますよ。」


 まあ、『本物』だからな。

 ここでは言えやしないけど。




 ステージ裏にて。

 暗い空間にて、俺たちは静かに出番を待っていた。


「うう…緊張しますね」


「大丈夫よ、あたしがついてるんだし」


「そのあたし、ボクが慰めていなかったらどうなっていたかな?」


「うるさいわね…。…ありがと」


 その時、奥の方から嵐のような拍手が轟いた。

 前のグループの曲が終わったようだ。

『ありがとうございました!』と叫ぶ女の子の声がこちらにまで聞こえてくる。


 ということは、


「さ、行くわよ」


 アシュミーが一足先に前へと足を進めた。

 追随するように、メロウとスイランも立ち上がる。


「では、行ってきます」


「ボクらに見とれて、仕事サボっちゃ駄目だよ?」


 ドレス姿の二人の笑顔は、確かに輝いていた。

 いつもの調子、テンションのはず。

 それでも、二人がどこか遠くに行ってしまうような、そんな感情が働いた。


「…ああ」


 それだけ伝えて、後ろを向いた。

 彼女たちが表で活躍するのなら、俺はそれが邪魔されないように裏で工作するのがちょうどいい。


「ライネス、音楽のことはお前に任せた。暴動の鎮圧は俺がやる」


「わかりました。起きてしまったら、止めるのは大変ですよ?」


「アイドルの裏事情はさっぱりだが、暴力なら自信がある」


「信頼しますよ、ブレインさん。…と言っても、アシュミー様を打ち破って泣かせた方なので、問題ないとは思います」


 知ってるのかよ。…そりゃそうか。


 俺はライネスをこの場に残して裏を離れ、観客席の方へと歩いた。


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