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26話 謎の因縁から決闘する話

 俺はいつしか『魔王』と呼ばれるようになり、人々からの畏怖の対象となった。

 その姿を衆目に晒せば辺りでひそひそ話が始まり、自動的に俺の周辺には距離ができる。


 ダンケルやガーディスのおっさんみたいな、元々接点のあった人物は俺の内実を知っているため、魔王とは大きく異なる性格であると理解しているが、この街の中であろうと、ほとんどの人はそんなことを知らない。


 そして俺はそういった噂に対抗できるようなコミュニケーション能力はなく、さらに拍車をかけるように噂に尾ひれがつき、『転生魔王』として街に居座ることすら難しくなった。


 それが嫌になった俺はダンジョンへと逃げ、周りとの関わりを遮断してきた。

 だから知り合い以外からの俺のイメージは『転生魔王』で定着しているものだと。勝手にそう思っていた。




「あたしは黒ライセンスまで上がって、レイブン様に近づくの!」


 目の前にいるあの女の子に会うまではな。


 ここはギルドハウスの地下にある簡易な部屋。

 主に戦闘訓練や冒険者同士の決闘に使われる。今回は受付の人に申請し、使用料を俺が払うことで使わせてもらっている。


「それで、ここまで聞いてなかったが、君は何者だ?」


「あたしに勝ったら教えてあげる。まあそんなことありえないから、謎の美少女Aとでも呼びなさい」


 彼女…謎の美少女Aはふふんと胸を張り、挑発するように笑っている。

 これまで会ったことのないタイプだ。これはこれで可愛いのかもしれないが、正直めんどくさい。


「もう一つ質問だ、謎の美少女A」


「本当にそう呼ぶのね…アンタ、プライドはないの?」


「本当の名前を聞き出すまでの間だけだ」


「はあ…銅ライセンスのあたしは強いのよ?偽物なんかに遅れは取らないわ」


「銅くらいじゃ、ブレインにはね…」


「スイランさん、聞こえますよ」


 銅ライセンスか。中々の実力者だな。

 ライセンスは階級がギルドとして決まっており、下から白、青、銅、銀、金、黒となっている。最初は例外なく白。レイブン・グルジオは一瞬だけ黒まで上がったが、魔王云々の騒動のせいですぐ金に降格させられた。確か当時は、この街に俺以外の黒はいなかった気がする。


 それは置いておくとして…本物が相手なんだが。ここで紋章を起動したら、彼女はどうなるのだろうか。


「質問の続きだ。どうしてレイブンに憧れているんだ?それも同じ名前の人間が許せないほど熱心に」


 正直なところ、気になる。

 俺はこの子を知らない。間違いなく初対面のはずだ。


 少女Aは得意げになり、俺たちの方を指さした。


「アンタたちにはわからないでしょうけどね、あたしは知ってるの。レイブン様は、誰も殺してないし、迷惑もかけていない」


「!」


「しかもね!レイブン様は見た目もかっこいいし双剣なんてアグレッシブな戦い方で素敵だしでしゃばらずに淡々と依頼をこなしていく姿はもう最高で〇×△□…」


 自慢げに語る彼女を尻目に、俺たちは目を見開いて絶句していた。

 本気で調べたのだろうか。そうでもないと、『俺は一人も人間を殺していない』とは断言できない。

 それから話が長い。しかも俺の話だから、なんだかむずがゆい。


「…と、レイブン様の魅力が伝わった所で、アンタには改名してもらうわ。ついでにナンパの罰として、そこの女たちに醜態を晒しなさい」


 少女Aが背中に刺してある剣を抜き、俺の方に向けてきた。

 見た目こそ違えど、さっき賞賛しまくっていたレイブン・グルジオに。


 俺は一度引き下がり、メロウとスイランの元へと歩いた。


「なあ…俺はどうするべきなんだ?」


 俺は小声で二人に尋ねた。

 改名程度なら正直構わないと俺は思っている。

 少女の熱意を尊重するのなら、わざと負けるのも間違いではないかもしれない。


「相手はレイブンさんのファンみたいですし、敬意を持ってボコボコにしましょう」


 ニコニコとしながら拳を握り、なにやら物騒なことを話すメロウ。

 駆け出し扱いの冒険者で目の敵にされている俺が彼女を蹂躙したら、心をポッキリ折ってしまう可能性があるんだが。


「レイブンのこれまでの葛藤や苦悩を傍で見てきていない癖に、分かった気になっているのはなんかムカつくよね」


 …スイランもか。普段は見ないような表情をしている。

 どうやら、俺に八百長という選択肢はないらしい。


 やるしかないか。


「遅い!レディを待たせるなんて、どうかしてるわ!!」


 発言が一々鼻につく。

 あの容姿だ。幼い頃からそれはそれは甘やかされてきたのだろう。


 俺は腰の袋に手を伸ばし、緑色のバンドを二つ取り出した。

 そしてその片方を少女Aに向かって放り投げる。


「? ...これって」


 俺が今投げたのは、防護魔術が付与されているバンド、通称『セーフティブレス』。手首に巻くことで起動する。

 効果は、瀕死のダメージを受けた際に自動で魔法が発動し、使用者が白色の光に包まれて一時的に無敵状態になるというもの。これを着けていればまず死なないという安全性から、今みたいに決闘をする時、冒険者が初めてダンジョンに潜る際の安全策などに使われる。

 通信機の約四倍の値段がする高級品のため、これも普段使いには向かない。それに一度装着してから長時間経過すると、魔力が霧散して効果時間が短くなる。


「これからやるのはただの決闘。俺は死にたくないし、人殺しになりたくもない」


「別にあたしはこんなもの着けなくても...」


「なら、死んでも文句言うなよ?」


 俺はすぐに、突き刺すような視線を少女に向けた。

 こちらが白ライセンスとはいえ、あまりにも油断しすぎだ。楽観視をしすぎると、ダンジョンで不意の一撃で死にかねない。何人も見てきた。


「うっ..,仕方ないわね。弁償しないわよ?」


 俺の威圧感に一瞬たじろぎ、渋々セーフティブレスを右手首に装着した。

 弁償などしなくていい。なにせ、そのブレスは正常に起動し、役目を全うするのだから。


「さて、始めるか」


 メロウとスイランが見守る中、俺は手招きで挑発した。

 開始の合図だ。


 互いにセーフティブレスを装備している以上、決着の判定は用意。先に起動した方が負けだ。


「!」


 少女は大きめの剣を両手で握り、一歩ずつこちらに寄ってくる。

 俺はじっとその動きを見て、相手の挙動を待とう。


 相手がしかけてきた。


「はああっ!」


 正面からの一太刀。

 それに対して俺は、剣を沿わせるようにして受け流す。

 少女の剣が地面にぶち当たり、鈍い音と砂埃が起きる。


 振り返り際に俺の方から軽く横薙ぎの一撃。


「くっ」


 間合いに剣を滑り込まされた。

 剣の重みに弾かれて衝撃が殺される。一度距離を置いた。


 その後も何度か打ち合うが、互いに有効な一撃は与えられない。


「しぶといじゃない…!」


「…」


 間合いを保って打ち合いながら隙を伺い、相手の攻撃を察知したらすぐに距離を取る。ヒットアンドアウェイが彼女の戦闘スタイルのようだ。


 あの性格とは打って変わって、剣士としての戦い方は正統派。

 …良くも悪くも。


「だったら…」


 少女は詠唱を始めた。

 さて、どう出るか。


 幻影や精神異常が来るとまずいので、こちらは心眼を起動しておこう。


 俺が心眼を起動して準備していると、少女の剣に異変が起きた。


「これで斬る!」


「なるほど、付与型か」


 現在、あの剣には炎魔法が付与され、轟々と燃え盛っている。

 一薙ぎで草原は焼け野原となり、皮膚をえぐられたら全身が焼失するだろう。刀身には深紅に染まった強力な業火が宿っている。


 つまり、あの子は剣に魔法を付与することで能力を追加し、場合に応じた剣種で戦う魔法剣士というわけだ。

 魔法を使い分けることでかなり臨機応変に立ち回れる器用な剣士。一撃毎に魔法を入れ替えてくる超器用な奴だと、相手にするのが面倒なタイプだ。まあそんなことができるのはガーディスのおっさんくらいの手練れだけだが。


「もう小手先の防御はさせない!男なら正々堂々と来なさい!」


 熱に覆われた切っ先が俺に向けられる。

 炎魔法のせいか、彼女も熱くなっているようだ。


 あまり良くない。

 周りを冷静に見ることができないと、咄嗟の不意打ちに対応できない。


 もう心眼はいらないな。


 あの炎のせいで、のんびり受け流していると俺の剣が持たないかもしれない。

 邪道な搦め手で早期決着といくか。


「正々堂々?生憎だが、俺は楽に利益を得られる方法があるのなら、迷いなく邪道を選ぶさ」


 口の端を釣り上げて挑発した。

 まあこれまでの様子を見るに、乗ってくるだろう。


「っ!!」


 予想的中。

 真っすぐこちらに向かって来た。


 頭に血が上った状態の斬撃は読みやすい。

 受け流すまでもなく、一つずつ避ければ問題ない。


 七回ほど避けた。

 彼女に疲れの色が見え始め、動きもやや鈍くなってきた。


 ここだ。

 今なら絶対に決まる。


 俺は少し距離を取っている彼女に対して剣を振りかぶり、勢いよくぶん投げる。

 狙うはあの燃え盛る大剣。回転しながら一直線に突っ込み、直撃した。


「!?」


 俺の奇行に彼女は驚くことしかできず、細腕を守るように急いで割り込ませた剣は手元を離れ、俺の剣もろとも後方へと飛ばされた。


 あとは一瞬で近寄り、丸腰で慌てる彼女に足払いをして体勢を崩すだけ。


「きゃっ!?」


 仰向けになる彼女に向けて掌を突き出し、いつでも攻撃できる体勢。

 まあ決着だろう。


「…これで終わりだ」


「…どうして止めるの?やればいいじゃない。あたしもバンドをつけてるんだから、死なないわよ」


 悔しそうに歯噛みしているが、抵抗の意志はないようだ。


「やるって、何をだ?」


「決闘の間は何をしても許される。…あたしの友達は、何人も無理やり決闘をさせられて辱められてきた…。傷つけてこないってことは、アンタもそうするつもりなんでしょ?」




 しない。




 絶対にしない。


 メロウとスイランの前だぞ。目の前で初対面の女の子に手をだそうものなら、命の危機が真っ先に到来だ。


 というか、決闘にそんなクソみたいな風潮ができていたのかよ。

 冒険者がならず者と同列に扱われる火種を残しやがったのはどこのどいつだ。


「…興味ない」


「なによ…あたしには魅力がないっての?」


「別にそんなことはないが…」


「あはは…あたしはあの人に会うどころか、偽物にすら無様に負けて、女としての魅力もなくて…うう…うえええええええええええん!!!」


 声が少しずつ小さくかすれていき、目尻を雫が伝う。

 嗚咽が漏れて、目元を押さえてすすり泣く声が地下室に木霊した。


「え、ちょっと待て!俺はそんなつもりじゃ」


「ぐす、ぐす…」


 俺は一度離れて距離を取った。

 だが、彼女が起きあがることはなく、仰向けのまま鼻をすすっている。


 どうしよう。

 こういう時にはどうすればいいんだ!?


 泣かせた原因が完全に俺だから、変に行動を起こせない。

 とはいえ放置するのも男として最低な訳で…。



 助 け て く れ



 後ろの二人に合図した。

 一部始終をずっと見ていた二人がこちらに歩いてきてくれた。


「助けてくれ。俺は女の子を泣かせてしまった後の対処法を知らない」


「「…」」


 二人の時が止まった。

 俺、そんなおかしいことを言ったのだろうか。


「慰めの口説き文句とか、レパートリーないの?」


「あるわけないだろ。お前やメロウにも言ったことないってのに」


「癪ではありますが…頭を撫でてあげるとか」


「なるほど。じゃあそうしよう———」


「もういいわよ」


 いつのまにか、俺の後方にいた少女Aは立ち上がっていた。

 目がひどく腫れているが、ひとまず涙は収まってくれたようだ。


 歩いて剣を回収し、俺の分を返してくれた。


「いきなり剣を投げるなんてどうかしてるわ」


 捨て台詞のように突き刺す一言。

 よほど想像を絶する行動だったのだろう。


「不意打ちとしては十分だ。君みたいな真っすぐな人ほど、搦め手に弱い。俺や本物のレイブンと戦うつもりなら、卑怯な手段もとりあえず学んでおくことだ」


「…ぷい。レイブン様は正々堂々と戦って強いもん」


 真面目に諭したつもりなのだが気に入らないらしく、そっぽを向かれた。

 どうやら、『俺は正々堂々としている上に超強い』という幻想を持たれているらしい。


 本当にそうなら俺は魔王にならないだろ。不意打ち上等卑怯上等の戦闘スタイルだからいいイメージを持たれなかったってカラクリなんだが。


 …おいメロウ。小声で『その通りです』って言うのをやめてくれ。

 気恥ずかしい。あとスイランが悪ノリしかねない。


「…今回はあたしの負け。だから教えてあげる。あたしの名前は———」


「悪い。気が変わった。」


 話を遮り、俺は少女Aへと近寄った。

 困惑しており、咄嗟に胸元を手で覆った。


「何…やっぱりあたしの身体を!」


 完全に無視を決め込んで、彼女の左手を取った。

 俺の目的は、あれだ。


「えっ」


「俺は、本名や身体にはさして興味がない。興味があるのは…必死に隠してる素顔さ」


 左手に付けてあるリングに手をかけ、力づくで外した。


 リングが腕から離れた瞬間、その魔法の効力がなくなる。

 パンクな衣装に身を包んでいたその姿が少しずつ歪み、その形、色彩全てが違った形で再構成されていく。


 …完全に素顔が明らかになった。


 ショートカットになっている髪は黒ではなく、鮮やかな金髪。

 前髪は軽く流していて、綺麗な目元がぱっちりと見えている。ブラウンの純真な瞳は見る者全てを引きつけるような魅力がある。

 パンクな衣装や青いキャップは変わっていないが、姿が違うだけで印象は大きく変わって見える。


「…アシュミー」


 スイランがぽつりと呟いた。

 何て言った?


「アシュミー・アルト。ちょっとした有名人で、今人気のアイドルだよ」


「冒険者もやっていたんですね。知りませんでした。」


 なるほど。素顔を隠していたのはそういうことか。

 まあ俺は全く知らないんだが。


「あああ…見つかった…ライネスに怒られる…!」


 俺の周りをぴょんぴょんと跳んで、俺からリングを奪い取ろうとしているが、身長差であっさり持ちこたえている。


 …あ、また涙目になった。

 可哀そうだから返すか。


 リングを受け取ったアシュミーはすぐに着け直し、また黒髪の美少女に変身した。

 落ち着きを取り戻し、黒髪をかき上げて優雅にほほ笑んだ。


「そう、あたしはアシュミー・アルト。言わずと知れた売れっ子アイドルの———」


「悪い、知らん」


「…。」


 いや、新聞で見たことがあるような気もする。

 なんだっけ、『別れることで成功した二人の新星』みたいな題名で、一人がそんな名前だったような。


「…ま、アンタみたいに他の女はべらせてる男なら、あたしのこと知らなくても仕方な…くないわよ!」


 ぷんすかと怒りながら俺の方を指さして凝視してきた。

 感情の忙しい子だ。


「あたしの知名度をもっと上げるには…。!!」


 アシュミーは俺の左にいる二人に目を向け、なめまわすようにじっくり観察した後、何かを思いついたようだ。


「アンタたち、名前は何て言うの?」


「え、私はメロウ・アブリオです」


「ボクはスイランさ」


「へえ…メロウにスイランね」


 ぺろりと舌なめずりをした。

 悪だくみの予感がする。


「ど、どうしました?」


「ふふ、ボクも負けず劣らず魅力的でしょ?」


「そうね…アンタたちも、あたしには負けるけど見栄えポイント高いわね…!」


 そこは意地を張るのか。

 アシュミーは自分の袋を漁り、何かを取り出した。


 服だ。

 白を基調としたドレスのような衣装で、白いフリフリがこれでもかと散りばめられており、それこそ見目麗しい天使がその純真な身に纏っていそうな可愛さがあふれ出している。


「何だこれは?アイドルの衣装か?」


 その衣装はメロウに無理やり手渡され、色違いの青いドレスがスイランに渡された。

 メロウはそのドレスを手に持ったままポカンとしている。


「明日はタグナス北のホールでライブがあるんだけど、出演者が少なくて困ってたのよね…」


 そこまで言うと、アシュミーはニヤリと笑った。

 あ、まさか…。


「貴方たち二人。ゲストとしてあたしのライブに参加しなさい!」


 地下室にて、いきなりの宣告。

 俺を差し置いて、少女三人(約一名怪しいが)のユニット結成話が始まった。


「え、えっと…。いきなりそんなこと言われましても…」


 メロウは困惑しきった様子でアシュミーにドレスを返そうとするも、あちら側に受け取る意志はなさそう。

 ちらりと俺の方を見て、助けを求めるような視線を向けてくる。


「ブレインさん…私は無理です…」


「そうだな。無理にやらせるのは間違ってるだろ」


「えーいいじゃん!やろうよ!」


 乗り気なのかよスイラン…。

 そのフリフリの衣装着て、大勢の前で歌って踊るんだろ?

 そんなことでき…コイツ歌上手かったわ。


「心配いらないわ。あたしが軽く仕込めば、人前でやっても大丈夫よ。それに、アイドルはビジュアルが大切で、二人とも十分だからね」


 そんな思考でいいのかアイドル代表。

 少しずつメロウが丸め込まれそうになっていく。


「いや、でも、私は…」


「じれったいわねえもう。」


 攻め方に困ったアシュミーは、俺の方へと手を出してきた。


「ねえブレイン…メロウが恥じらいながらあの衣装を着て、ステージで懸命に歌う姿。興味あるでしょ?」


 俺の耳元で、甘く誘うように囁くアシュミー。

 こういった演技のような真似も上手いのか。思わず頷きそうになった。




 だが…興味がないと言えば、嘘になる。

 明かりの灯るステージでメロウはあの純白のドレス。観客に向けて汗水を垂らしながら笑顔で歌っていて、満面の笑みでファンサービス。


 全てが終わった後は、俺だけに微笑んでくれて…


 ———今の私は、ただのメロウ。貴方のメロウですよ———




「…………」


「…ブレインさん?」


 はっ。

 俺は何を考えていたんだ?


「今の顔、見たでしょ?」


「…」


 メロウが首を縦に振る。

 その顔は羞恥に赤く染まっていた。


 俺、さっきの妄想の間にどんな表情をしていたのだろうか?


 ☆


 俺が最後に恥を晒したところで、俺たちは地上に戻ってきた。

 掲示板のある一階にて。


「あ、いた!アズミ様!」


 誰かがこちらに走ってきた。

 目的はアシュミーか。


「どこに行っていたんですかもう!探したんですよ」


 銀髪で細身の男。マネージャーという奴だろうか。

 アシュミーの姿を見つけてほっとした様子だ。


「あたしは大丈夫よライネス。ちょっとこの人たちと喋ってただけだし」


「失礼ですが、そちらの方たちは?」


 こちらを睨みつけるように見てきた。

 怪しい集団にでも見えているのだろうか。


「…ブレイン・グルジオ」


「メロウ・アブリオです」


「スイラン・レスコンだよー♪明日はよろしくね」


「ライネス・レッドと申しま…明日というのは?」


「ああ、それね。この三人はあたしを知ってるの」


「!?」


 ライネスが急に慌てふためき出した。


「何をしているんですか!?冒険者の時は注意しろと、あれほど口を酸っぱくして言っていたと言うのに」


「あーうるさい。今騒ぐ方がまずいからやめてちょうだい」


 アシュミーは耳を塞いで面倒くさいアピール。

 ライネスはそれを見てため息をつき、頭を押さえた。


「それじゃ、これ」


 アシュミーが二人に何かを手渡した。


「魔法で起動すると、あたしの曲が流れるわ。ま、一回だけ見といてねー。あとは動きを調節する魔法でちょちょいとやれば、キュートな三人組の出来上がりってことで」


「その魔法、僕がやるのですが…」


 ライネス、アンタ苦労人だな…。

 というか、そんなに雑だと怒られないのか…?


「じゃ、明日の朝にホール前で」


 そう言うとアシュミーはライネスを連れて消えて行った。

 あの二人、依頼全くやってないけど大丈夫なのだろうか。


「今日、どうする?」


 スイランの質問に対し、メロウが、


「…やると決めたからには、本気でやります。」


「…例の魔鉄鋼の依頼、結局俺が貰ったから、あれを終わらせて稼ぐだけにするか」


「じゃあ二人で練習しよう、メロウ!」


 ということで、俺たちは家に帰った。

 この後、メロウとスイランは引くほど全力で歌と踊りを練習するのだが、それはまた別の話。




 ~日々のトレーニング記録 その六~


 ・アシュミーと戦闘

 ・ランニング+素振り

 ・双剣持ちの練習(まだ重い)


 備考

 ・アシュミーという少女と謎の戦闘。天邪鬼な性格とは打って変わり、戦い方は正統派の剣士。もし俺の真似だというのなら、失敗もいい所だが…。

 ・明日はメロウとスイランがフリフリのドレスで歌って踊る。密かに楽しみにしているが、二人には内緒だ。また変な妄想するとドン引きされかねない。


※作者はアイドルの概念をよくわかっていないため、偏見が混ざっている場合があります。乏しめる意志はございません。

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