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24話 男の娘が実験台になる話

「スイラン...ここはお前に頼るしかないんだ...!」


 緊迫感の漂う中、俺はメロウから通信機をかけてスイランの通信機のルーンをなぞった。

 ウォルターの奴はここであの杖の実験をしないと満足しなさそうだが、あれは三分の一の確率で失敗し、元の性別に戻れなくなるという代物。

 俺もダンケルも女として生きていくのはまっぴら御免。メロウが男になったままは俺たちが嫌だ。...何がなんでも、可憐な女の子のままでいてもらいたい。


 という訳で、別の人員を探そうと考えた時に出てきたのがスイランだった。

『男の娘』なんてのを自称していて、男とも女とも取れるような見た目と言動。最悪女になったまま三日過ごすことになっても、なんとかなるだろう。


 スイランを呼ぶために通信機を作動させているのだが...。


「出ねえ...」


 プルルルルという音が鳴り続け、一向に繋がる気配がしない。

 普段ならすぐに返事が聞こえてくるのだが、アイツ今何してるんだ...?


 約二分経過。流石に諦めて、一度通話をキャンセルした。


「ふむ。では仕方がないな?ここにいる三人の中からオレの被験者を一人...!」


 痺れを切らしたウォルターが下ろしていた杖を再び構える。

 まずい。このままだと『転生魔女』になってしまう。


「まあ待つがいい炎男。そのスイランとやらの娘男(むすめおとこ)が非常事態とも限るまい。しばらくしてからまたかけ直そうぞ。我は飯の時間だ」


 リオンがふんぞり返りながらウォルターに説明した。

 ウォルターは少し考えこんだが、最終的に杖を下ろし、傍にあった椅子に立て掛けた。


「いいだろう!飯にするか!」


 助かった...。


「一旦返す」


「どうも♪」


 メロウに通信機を返却した。

 とりあえず昼食後まで期限が延長。次は繋がることに賭けるしかない。


「...だが、ダンの家にある食材じゃ足りないんだよな?」


「そうだね。だからどこかに食べに行こうか」


「待たれいっ!!」


 どっかの役者みたいなポーズで俺たちを足止めした。

 なんだそのノリは。


「オレに任せよ!食材がなくともたらふく食える方法があるのだからな!」


「飢えを凌ぐ、我もまだ知らぬ品があるのか?」


 すぐにリオンが食いついた。

 そしてウォルターは熱の篭った目つきで腰の袋に手を伸ばす。


「これだ!」


 出てきたのは謎の箱。両手で抱えられる大きさで、銀色の光沢があり前面になんか扉がついていて、開け閉めできるようになっている。

 その箱を机の上に雑に置いてから、彼は眠たそうにしているダンケルを指さした。


「ダンケルよ、急いで食事を作れ。一人分で構わん」


「え、いきなり…?そんなこと言われたって」


「急げ。リオン嬢もオレも空腹だ」


「…」


「ダンケルさん。私も手伝います」


 理不尽な命令の連続で目が死んだダンケルに向かって、メロウが天使のように微笑みかける。

 そして天使の祝福を受けたダンケルはすぐに元気を取り戻した。


「仕方ないな~じゃあ待っててよー。いこっか、メロウちゃん」


「はい!」


 こうして、ダンケルはメロウを連れてキッチンへと消えていった。

 リビングには俺を含む三人が残された。


「なあ炎男よ。…アレ、二重人格に試さないか?」


「おお、あれか!ブレインには役立つかもしれんな!」


 二人での話が進み、ウォルターがまた変な発明品を出した。

 屈強そうな男の人形だった。




 人形。




 人形。しかも原寸大。




「…は?」


「これは魔術を使うことで感覚を共有し、遠隔の肉体として操作できる人形で———」


 もはや慣れてきたウォルターの商品紹介がしばらくの間続いたが、俺はもはやそれどころではなく、説明など全く頭に入ってこなかった。




 まさかとは思うが...




 俺のこの身体を作ったの…

 コ イ ツ な の か ?


 造形のセンスなどを考えると若干疑問が残るが、人形であること、そして機能に共通点がありすぎている。全く関係のない別物だと思う方が難しいレベルだ。


 俺は目を見開いたまま、目の前の男を見つめた。

 そんな状態の俺には目もくれず、延々と発明品のPRを続けるウォルター。


「~~というわけで…どうした、ブレイン?」


「んあ?…いや、何でもない」


 流石に不審に感じたのか、ウォルターが説明を止めて俺に話しかけてきた。

 咄嗟に答えてしまったが、まあこれでいいか。


 ウォルターは説明を再開し、しばらくして俺もリオンも飽きてきた頃に、ダンケルとメロウが戻ってきた。


「できたよー」


 皿の上にはいつかのパスタが乗っていた。

 旬のキノコを混ぜ合わせた一品。空腹なこともあり、美味そうな香りが漂ってくる。


「おお!では、オレの発明品の出番だな…」


 一旦人形を袋に仕舞い、さっきの箱の扉を開いた。扉の奥は何もない黒い空間だった。

 あの人形がかなり気になるところだが、ひとまず俺も食事がしたい。


「それでは、このダンケルとメロウ嬢が料理したパスタをこの『無限複製レンジ君』にぶち込む」


 そう言いながら皿ごと料理を箱の中に入れ、扉を勢いよく閉めてしまった。

 折角メロウ(あとダンケル)が作ってくれた料理が闇の中に消えた。


「そうしたら、このスイッチを押すだけ!そうすれば…」


 …。


「わっ!?」


「きゃっ!?」


 突然、箱が白く発光し始めた。

 なんか、人形の発光と似ている気がする。


 ダンケルにあの人形の話、しないとな…。

 そんなことを考えていると、発光が収まった。


 そして、見ると…。


「僕のパスタ、なんで移動してるの?」


 そう、箱の上には、正真正銘、さっきのパスタが乗っていた。

 確実に中に入っていたはずだし、誰かが扉を開けた訳でもなさそうだ。


「どうなって…あ?」


 俺はおもむろに手を伸ばし、箱の扉を開いた。

 すると、その中には確かにパスタが残っている。


 しかし、箱の上のパスタも本物。


「レンジに入るものなら何でも増やすことができるぞ!」


「凄いぞ炎男!!酒が飲み放題ではないか!!」


「…なあダン、コイツ何者なんだ?」


「…研究者仲間。雲の上の存在の、ね」


 この世に、『物体を複製する魔法』というものは存在するが、かなり高位の魔法であり並の魔術師は一度使えばその日は魔法を行使できなくなるような代物。

 それを、魔力を消費することなくスイッチを押すだけで成立させる発明品だ。普及すれば世界の常識が変わる。


「ウォルターさん、これも市販するんですか?すごく売れそうですよ!」


「いや、これは売らん」


「なぜだ?」


「これが出回ると、宝石やオリハルコン、そしてオレの他の発明品があっさり複製されて価値が下がるだろ?市場を荒らすのは好まん」


 意外としっかり考えていた。

 確かに、ダイヤモンドがスイッチ一つで無限に増やせるとなれば、その価値は一瞬で急落。市場は大荒れになるだろう。


「それらを踏まえ、現金の複製はできないように調節してある。オレは正々堂々と、自らの素晴らしい発明で大金を手にしてやる!!」


 …簡単に言っているが、『現金だけ弾く調節』ってそんな簡単なことじゃないだろ。お前、天才であり馬鹿だな。


「どうだ、オレの発明の数々は!? タグナスで最も優れた研究者となる日も近いだろう?」


「なあ炎男…もう食っていいか?絶対に冷めておるぞ、そのパスタ」


「あ」


「…ウォルター。このレンジ、食べ物を温める機能もあるよね?」


「そんなものはない!複製だけだ!」


「じゃあなんでレンジって命名したんだよ…」


「あはは…」


 この後レンジでパスタを五人分複製し、メロウの炎魔法(弱火)で温めて食べた。レプリカでありながらも、見た目や風味、質量の劣化は特になし。前にダンケルの家で食べたあの味だった。




「ふあああ…我は眠くなった。寝室で眠ろう…覗くでないぞ?」


 結局パスタを三人前食べたリオンは、欠伸をしながら歩き出し、俺たちを指さした。


「りょうかーい」


「風呂でもないのに、覗かねえだろ…」


 そしてリオンが俺の視界から消えた後、


「…では、スイランなる人物を呼び出してもらおうか…!」


 ウォルターがさっきの杖を構えてどっしりと座っていた。

 もう逃げられない。


「…メロウ、頼んだ」


「はい…」


 メロウは気難しそうな表情のまま、通信機を取り出した。

 もしかして、こんな実験につき合わせることに罪悪感を感じているのだろうか。


 だとしたら胸が痛む。

 スイランが巻き込まれたとしたら、完全に俺のせいなのだから。


『はーい、スイランでーす!』


 繋がったようだ。今回はすぐに出た。

 特に周りが騒がしいこともなさそうだ。何をしていたのだろうか。


「スイランさん!」


『どうしたの、メロウ?』


「悪いなスイラン。ちょっと手伝ってほしいことがあってな」


『なあに?』


「実はだな、———」




『ほうほうほう。二人とも仕方ないな~、じゃ、そっち行くよ』


「助かる。今どこにいる?」


『わ…ボクはね、ギルドハウスだよー』


「だったら出口を出てから真っすぐ進んで、三つ目の分かれ道を…」


 ~しばらく後~


「そして、並んでいる住宅の内、赤い屋根の家だ」


『えっと…これか!オッケー』


 到着したか。

 じゃあ後は迎え入れるだけだな。


 家の呼び鈴がチリンと鳴った。

 まあスイランだろう。


「それじゃ、僕が出てくるよ」


 ダンケルが立ち上がった。

 いや、でもお前じゃダメだろ。なにせ...


「いやダン、お前スイランの顔知らないだろ。俺も行くぞ」


「...あ、ああ!そうだったそうだった。頼むよレイ」


 思い出したかのように反応して、愛想笑いを浮かべた。

 全く...おっちょこちょいな奴だ。


 そして二人で玄関の方へと向かい、ダンケルががちゃりと扉を開けた。

 その先には、見知った顔があった。


「やっほー」


「どうもスイラン君。僕はレイの友達、まあ上がってくれ」


 無邪気に手を振るスイランと、紳士的にお辞儀をするダンケル。対照的な光景が広がっていた。

 そして誘われるままにスイランが家の中へと進む。


「君がスイランか...!確かに男にも女性にも見えるな!はっはっはっは」


 現れた男の娘の姿を見て、ウォルターは笑い出した。

 スイランもそれに応えるかのように体をくねらせてポーズを取り、悪戯っぽくウインク。


「ミステリアスでカッコいいだろ?...それで、ボクにやってほしい発明品ってのはどれ?」


「これだ!」


 ウォルターが例の杖を手に取り、桃色の方の先端をスイランに向けた。

 スイランは特に動じることはなく、興味ありげに杖を眺めている。


「へえー。これで突くと性別が入れ替わるの?」


「そういうことだ。生身の人間ではまだ実験していないのでな、試させてもらうぞ!」


「それは別にいいけど...それ、三分の一の確率で戻れなくなるんだよね?」


 そう言って、チラリと俺の方を見た。

 何だ?


「もしボクが女の子になって戻れなくなったら、ブレイン。...責任、取ってくれる?」


 微かに顔を赤らめながら、小悪魔のように笑った。


「は?」


 責任取れと言われても、俺は何をすればいいんだ?

 元に戻れるようになんか偉大な魔術師に連絡するのか?

 それともそこのウォルターをぶん殴ってストレス発散を手伝うのか?


 わからない。


「!!」


 すると、急にメロウが俺とスイランの間に割り込んだ。

 頬をぷくっと膨らませて、スイランを威嚇するかのようなポーズ。


「あはは!冗談さ冗談。...さ、実験始めてよ」


「ふっ、このオレの頭脳を持ってしても解明できるかわからない『愛の力』...とても興味深いが、今はオレの傑作の力を振るう時。......いくぞ!!」


 ウォルターは手に持った杖の先端で、スイランの腹部を突いた。


 ...めっちゃ優しく。


 スイラン、痛くもなんともなさそうだ。

 てっきり胴体を貫くくらいに全力で突き刺すんじゃないかと不安になったが...この熱血男、根は超優男の紳士らしい。まあ言葉遣いもなんだかんだ丁寧だった気がする。


「? 一体何が起き──!?」


 一瞬の間を置いて、スイランの身体に異変が生じた。

 スイランの肉体が、足先から小さな光の粒となって消えていく。


「おいウォルター!お前スイランに何をした?」


「まあ落ち着け。肉体を再構成するために一度分解されるだけだ、すぐ戻る」


 みるみるうちにスイランが消えていき、ついにその場には粒子だけが残され、人の影は跡形も残っていない。


「...」


 すると、その粒子たちが強く発光し、また合体を始めた。

 眩しくてもう見えない。


 奇跡の結晶のような目映い光が溢れだし、その光が終わるとそこには。


「...ん?どうなったの?」


 スイランがいた。

 普段はショートカットにしてある水色の髪が、肩の下まで伸びている。

 …だが、他には見た目に違いはない。スラっとした肢体も、中性的な顔立ちも、やや低めな身長もそのまま。極端にグラマラスになった訳でもない。


「「「…」」」


 これは成功と呼んでいいのだろうか?


「…ねえスイラン君。本当に女の子になった?」


 ダンケルの呼びかけに応じて、スイランは自分のズボンを前方に引っ張り、中を確認した。


「…あ、なくなってる」


 気の抜けた一言が部屋の中で木霊した。

 そして、ウォルターの身体がわなわなと震えだす。


「お、おおおお…成功だあああああああああああああああああああああ!!!」


 天に向かって拳を突き上げた。

 自分の研究が成功した喜びを全身で噛みしめている。


「凄い!髪が伸びてるしお肌もきれい!」


 スイランはぺたんと床に座り、女に生まれ変わった自分の身体を触って楽しんでいる。

 なんというか、二人とも無邪気だった。


 上手くいった後の反応が子供のようだ。


「見たかオレを馬鹿にしたアリシアめ…。と、問題はここからだな」


 ひとしきり喜んでから、ウォルターはまた杖を構えた。


 そう、性別が変わるだけなら成功してもなんらおかしくない。

 問題は次。『元に戻れるのかどうか』だ。


「では……いくぞ」


 深く息を吐いて、ウォルターが杖の青い方の先端を座ったままのスイランに向けた。


「んー。このままでも楽しそうなんだけど…まあやってみて」


 先端がスイランの胸元に優しく当たった。

 さっきと同様にスイランの身体が光になっていか———ない。


 何も起きない。


「あれ?」


「む、もう一度だ!!」


 ウォルターがさっきより強くつついた。


「いてっ」


 しかし何も起こらない。


「もう一度!!」


「いたいよ!?」


 しかし何も起こらない。


「この野郎があ!!」


「か弱い乙女になにするんだ!?」


 しかし(以下略)


 …。


「ぜえ…ぜえ…」


「痛い…」


 二人ともボロボロになっていた。

 その様子を、俺とメロウとダンケルは白い目で見ていた。


「…で、結果はどうなった?」


「「…」」


 ウォルターとスイランが、よろけながら両腕で『×』のポーズ。


 三分の一をしっかり引いたらしい。


「危ねえ…」


「スイランさん…大丈夫ですか?」


 安堵の息を漏らす俺とダンケルを尻目に、メロウが一目散にスイランの元に寄って心配していた。


「あは、大丈夫さ…ちょっと痛いけど」


 にこりと笑いかけるスイラン(乙女の姿)と、背中をさすっているメロウ。


 こういう状況において、人間性の差がありありと出ているのかもしれない。

 俺たちは遠目に二人の姿を見て、同時に嘆息した。


「なあダン…」


「多分僕も同じこと考えてる」


「「メロウ(ちゃん)は優しすぎる…」」


 ☆


「ということは、スイランは三日間このままなのか?」


「うむ」


「清々しい表情で実験失敗を宣言するのやめろ」


 スイランは普段の騎士のような格好から、フリフリの青いドレスを着ている。

 なんでも、本気で女装するときの勝負衣装らしい。


 本当に女になったことによる長髪も相まって、かなり可愛らしい。

 普段が男なだけに、そういう目で見ることは難しいが…。


「んーまあ大丈夫さ。…折角女になったんだ、しっかり男たちを誘惑していかないとねえ?」


 背中を向けたまま顔だけ振り返って、俺たちに投げキッス。

 年頃の女の子の可愛らしさ全開だ。


「ふむ。女性の魅力指数というのを研究するのもありかもしれんな!」


 約一名、変な方向に反応していた。

 そして別に一名、対抗心を燃やしている人が。


「…」


 横にメロウが立った。

 彼女もまた背中を向けてから、ゆっくりと頭部だけ回してちらりと流し見。


 顔を赤くしながらもぱちりとウインクしてくれた。


「…わ、私だってアピールできます…!」


「「かわいい」」


「この勝負を数値化して、ゆくゆくはアイドルの魅力を計算で測定できる機械を…!」


 突如始まった謎のミスコン(観客は二人+ベクトルのズレた男一人)。

 優劣がつけがたい可愛らしさをどちらも振りまいていたが、普段一緒にいる補正で俺はメロウの勝ち判定だ。




「では、オレは帰って研究の続きだ!!また会おう、さらば!!」


 ひとしきり済んで満足したウォルターは、一瞬で発明品を全て仕舞ってから、再び家の扉をすり抜けて嵐のように消えて行った。


「そういえば気になっていたんだが、アイツの壁抜けはどうやってるんだ?」


「なんか上手くすり抜ける道具を発明したらしいよ。ただ、注意しないと床をすり抜けて地中に埋まっちゃうから、市販する気はないらしい」


「本当にぶっとんだ奴だな」


「面白い人だねーボクは気に入った」


 おやつを食べながら、スイランはくつろいでいた。

 性別が変わったまま三日間戻らないというのに、意外と余裕そうだ。


「それで、レイたちはこれからどうするの?」


「…まあ帰るか」


「そうですね。ひとまず落ち着きましたし」


「スイラン君…いやスイランちゃんは?」


「んー、このまま帰ってもいいんだけど…」


 何かを察したダンケルとスイランは互いに顔を見合わせ、ニヤリと笑った。

 何か悪いことを企んでいそうだ。


「メロウちゃんの家に泊めてあげたら?」


「は?」


「女の子の一人暮らしは怖いよー、ブレインメロウ助けてー」


 嘘泣き、つぶらな瞳、健気に見える体勢。

 自分が可愛いことをしっかりわかっている行動だ。


「…」


「…レイブンさんを誘惑しようとしたら、すぐに追い出しますよ」


 メロウは下唇を噛んでいた。

 どうやら憐れむ気持ちがギリギリ勝ったようだ。


「んじゃ、そういうことで」


「ちょっとトイレ借りるよー」


「あ、僕も」


 二人ともこの場から消えた。

 そして俺とメロウが二人。


「メロウ、いいのか?俺たち、何されるかわからないんだが…」


「仕方ありません…。か弱い女性を一人で帰すのはかわいそうです」


 やっぱり優しい。というか、メロウは俺やダンケルよりよっぽど紳士なのではなかろうか。


「…それと、あのスイランさんは、私とあまり大きさが変わらないのでセーフです…。大きかったらすぐに追い出すのですが…」


 そこ気にしてたのか。

 確かにスイランは女になり、確かメロウと同い年の十七歳らしいが、胸はほとんど変わっていなかった。さっきスイランに対抗していたのも、その部分に差がなくて勝ち目があると判断したからだろうか。


「おまたせー。いやー、女の子になるって大変だねえ。トイレが…」


 スイランが戻ってきた。

 年頃の乙女がそんなことを言うんじゃない。…あれ、元は男か?


「ダンはどうした?」


「なんか長いから先帰っといてってさ」


「なんだそれ」


「仕方ないですよ。ダンケルさんにはまた会えますし、邪魔をしないうちに帰りましょう」


「よーし、レイブンとメロウの家にしゅっぱーつ!!」


 こうして俺たちは家に帰った。

 女体化したスイランを連れて。


 帰る途中、周りの人(主に男)からの視線が割と痛かった。

 原因は両隣にいるメロウとスイランという美少女の存在。


 両手に花…か。

 メロウはほんとうに花のような存在だが、スイランは…まあ可愛いのは否定しない。


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