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19話 隊長と、その娘の話

 長時間に渡る激しい決闘の末、俺は右腕を大きく負傷するも、なんとかベクターに勝利した。

 現在、ベクターは腹から出血していて瀕死の重傷。そしてその隣で娘のフィーネが手枷で魔法を封じられる中必死に介抱している。


 そして、王の後ろから出てきた一人の男。

 王の補佐を事自称するこの男が、これから国家が進めんとする計画の説明をしてくれるようだ。


「まずは前置きからいたしましょう。…このタグナス国家において、現在は魔力回路が安定しており、ダンジョンから採取できる資源も豊富で治安も良好。国民が抱える不満といった類のものは今のところは何もありません。」


 …決めつけか。

 実際この街で資源不足なんて話は聞かないし、マスターのガーディスが生真面目なお陰で冒険者が治安を損ねるなんて事態もない。

 だが、お前らはそれを実際に見たのか?部下からの見聞でしか認識していないものを、当然の事実であるかのように捉えて話を勝手に進めるのは傲慢だろ。


 目の前でご高説を垂れる男への反感が高まるが、ノーブルはそれを全く意に介さずに話を続ける。


「ええ、下々の国民方は何一つ不自由なく日々を暮らしていることでしょう。ですが、我々王家はこの程度の水準で満足などしません!更に高いレベルの生活を提供するための素晴らしい発明品を用意しています!それがこちら」


 そう言ってノーブルが指をパチンと鳴らすと、おもむろに扉が開いて奥から使用人と思われる若い男が二人、謎の装置を持って入ってきた。

 二人は俺やベクターを通り過ぎると、玉座の手前に装置をゆっくりと置き、すぐに去っていった。


 …なんだこれは。

 見れば見るほどさっぱりわからない。ダンケルなら理解できるのだろうか。

 鋼の歯車が四つ組み合わさっていて、真ん中に何かを収める四角い穴が空いていて…結局わからない。


「これが王の許可の元推進される計画の要、『無限回路』の起動装置です」


 この謎の機械は大臣の小太りの男によって自慢げに紹介された。

 それに合わせて、ワーグナーと王も眉が動き得意げな表情になる。


「無限…回路…?」


「ほほ、野蛮人には到底理解の及ばない崇高な装置ですよ。その下等な野蛮人にでも理解できるよう、私が説明いたします」


 一々むかつく野郎だ。俺を煽り倒さないと気が済まないのか。

 本当はぶん殴りたいところだが、今の手負いの状態では王の目の前に控えているアイツに勝てない。


「この機械は内部に魔力を取り込んでから作動します。歯車が順に作動することで反応速度が増幅され、最終的に取り込まれた魔力を十倍量に増加させた状態で空気中に放つことを可能とします。」


 魔力の増幅だと?



 ...何度も聞いた話だ。

 そんなもの、数多の研究者が実現させようとして挫折した机上論に過ぎない。


 戦闘に限らず、生活にも魔法を多用する。

 着火、水源、奇術などその用途は多岐に渡る。

 そしてその魔法を行使する際に消費される魔力は、人間の体内に貯蔵されている魔力から昇華される。


 もちろん貯蔵できる量には個人差や限界があり、体内の魔力量が低下すると倦怠感を覚え限界を超えると気絶する。

 そして足りなくなった魔力は呼吸時に空気中のマナから補給される。


 だから空気中の魔力濃度が上昇すれば、補給効率が上がって誰でも頻繁に魔法を行使できるだろうという結論は昔からあった。

 そして魔力の複製を行う技術は既に確立されており、「魔力を創る魔法」なんてものが一時期流行った。


 理論上はその魔法を拡大すれば空気中の魔力濃度は向上するのだが、一つ大きな問題があり、それが解決できないから実現できていない。


「非生態的な物体からは魔力を複製する機能が発見されていない。だから大規模な魔力複製なんてのは机上論の域を出ない」


「…ええ、その通り。ですから持続的に魔力を増幅させる装置なんてものはまだ実現しておらず、人間やエルフの亡骸を使おうにも生体反応が止まった瞬間に機能停止。タグナスの精鋭研究者たちも行き詰っていたのです」


 ぞんざいな前振りの後に、ノーブルがニヤリと笑った。

 ワーグナーや王も釣られるように表情が動く。

 ノーブルがゆっくりと右手を挙げ、人差し指である一点を示す。


「———そこの混血エルフ。それがなければ、の話ですがね」


「フィーネのことか」


「混血はその多くが異能持ち(ギフテッド)になる。診断した結果が…その異能、『魔力の自己複製』だったんですよ」


 魔力の自己複製…まあ文字通りの性能なのだろう。

 フィーネがまだ幼子であるにも関わらず、強靭な魔法を連発できたのはそういうことか。

 異能にも種類があるという話だが、俺は大して知らない。絶対数も少ないからな。


「つまり、異能がある限り魔力は自動で複製され続けます。だからこの装置はその異能を増強させるだけの機能で事足りるのです。」


 …異能か。そんな計画を立てていたとはな。

 そりゃ、逃げ出したフィーネを必死で捜索するし、ベクターのおっさんはそれを知らない訳だ。もし鉢合わせたらおっさんはフィーネを連れて逃げるかもしれないから。


「娘は…フィーネはどうなるのです…?」


 ベクターがヒューヒューと息をしながら尋ねた。

 もう立ち上がることすらできないくらいに弱っている。

 フィーネも涙ぐんでいた。


「心配はいりません。この装置の中で眠ってもらうだけですよ。


 —————永久に」


 ノーブルの一言で、辺りに戦慄が走った。

 さっきの言葉が何を意味するのか、理解するのに時間はかからない。

 そして当の本人は自分が計画達成の鍵として見られていることも知らず、健気に父親の介抱を続けていた。


「もうよいだろう、後に我輩が大衆に話すことだ。…もう彼奴は用済み。魔王よ、この国の未来のため、ベクターを殺害しその混血をこちらに引き渡せ。そうすればあの娘を解放し、どこへでも行くがよい」


 王から命令が下された。

 既に瀕死の隊長と、魔法を封じられている幼女が一人。俺は右手が動かないが、左手と足だけでも負けるはずがない。


「…」


 俺は重い足を引きずって、歩みを寄せた。

 衛兵隊の隊長であり、父親でもある男の背中が少しずつ大きくなる。


 剣が届くか届かないかといった距離まで来た時に、俺の前にフィーネが立ちふさがった。

 両手を大きく広げてベクターのおっさんをかばう体勢だ。


「…!」


「…。」


 少しの間、俺とフィーネが真正面でにらみ合う。

 …。


 俺はため息を吐いて、左手の剣を手放した。


「えっ…」


 驚くフィーネの横を通り、ベクターのすぐ傍まで移動。

 ポケットからアレを取り出した。


「お前さん…!」


「…フィーネの勇気に感謝しろよ」


 リビールの実を、口の中に押し込む。

 その瞬間にベクターの出血がぴたりと止まり、みるみるうちに顔色も回復していく。

 やっぱこれの威力は絶大だな。


「なぜだ!?なぜベクターなんかを!」


 先ほどまで勝ち誇るかのような表情を崩さなかったワーグナーが、急に声を荒げた。

 青筋がビキビキと立ち、怒りを隠すこともない。


 次は俺が嘲るような笑い声をあげてやった。


「俺は魔王だぜ?無益な殺生は好まないし、欲しいものはアンタらの許可なんかなくても力づくで奪い取るさ」


「「!!」」


 ワーグナーとノーブルの表情が苦痛に歪む。

 俺も満身創痍ではあるが、どこか胸がスッとした。


 王は貫禄を保ったまま、静かに語りかける。


「…ワーグナーよ。我輩の威信にかけて、あの魔王を討伐せよ」


「…承知」


 無表情になったワーグナーが剣を抜き、こちらに殺気を浴びせてくる。

 だが———


「『我輩の威信』?そんなものもう残ってないですよ?」


 俺は腰のベルトに刺してあったとある機械を手に取り、周りに見せつける。

 正真正銘、俺の魔術通信機だ。


「どうだ、成功か?」


『やっほー!ちゃんと聞こえてたよ!』


 スイランの声が聞こえてくる。

 敵の根城に突入することでフィーネの秘密を暴けるかもしれないと考えた俺は、途中から通信機をこっそり起動してスイランと通話を繋いだまま会話していた。

 そして、スイランにはあらかじめギルドハウスに行ってもらっている。これで中の冒険者たちに会話の内容が周知された。


「いつからそれを…」


 ノーブルが恐る恐る俺に聞いてきた。

 …自分が引き金だったとも知らずに。


「ノーブルさん、でしたっけ?アンタが出てきた辺りからの会話は全部、これを通じてギルドハウスに大音量で流れてたのさ」


「それがどうしたぁ!!王の計画は完璧だ。その露呈が早まっただけだろうが!!」


 怒りで我を忘れかけているワーグナーが吠え掛かる。

 あの時と違いすぎる。


 …ああ、コイツを見ていると一気に冷静になるな。

 そして、気づいていないのか。


「娘を装置の材料扱いし、用済みだからと処分しようとしたんだ。ベクターのおっさんの仲間はキレるだろうさ。」


「そんなものがギルドハウスにいるものかあああ!!!!ただの平民の成り上がり騎士に過ぎないあの男に仲間なんていないいいい!!」


「…アンタ、本当に何もわかってないんだな。どうして二番隊の兵より一番隊の方が優秀なのか、どうしてアンタじゃなくてベクターのおっさんが俺の討伐を進めたのか。———おっさんはな、人気者なんだよ」


 その瞬間、俺の通信機から地獄のような罵声が響いた。

 これまでの王やノーブルの発言に対する冒険者の怒りが爆発する。


『ベクターさんの娘を解放しろおおおおおおお!!!』


『子供の命を犠牲にした魔力なんていらねえんだよ!!』


『衛兵をなんだと思ってんだ馬鹿野郎が!!』


 そして、怒号の中に低く重量感のある声も聞こえてきた。

 この声は冒険者なら誰もが一度は聞いたことのある恐怖の象徴、


『王よ。今の計画、儂は即刻中止を求めるぞ』


 厳格で生真面目な武人。そしてこのタグナスのギルドマスター、ガーディスもその場にいるようだ。ここまでが俺の想定通り。

 その声を聞くだけで、主に二番隊の衛兵たちが震えあがる。


「ぐううううう!!!」


 ワーグナーが悔しそうに歯噛みする。

 元々やましい部分のあった計画だ。何も包み隠さず暴露したらこうなるのは必至。


 さあ、王はどう出る?


「…やむをえん。」


 王は立ち上がり、俺の手の上にある通信機に向かって話を始める。


「この計画は中止だ。装置を破壊せよ」


「…はい」


 隣のノーブルが使用人に指示を出し、剣で装置をバラバラにしてしまった。

 ワーグナーは無言で俺とベクターを恨めしそうに睨みつける。


『ほう、物分かりがいいではないか。———レイブン、その一件が終わったら儂と一度話をし』


 話の途中で、俺の通信機が急に青い炎を纏い、炎上した。

 慌てて手から離したところ、瞬くまに燃え尽きて真っ黒な炭の塊が残され、灰となって風に吹かれて散っていった。

 遠隔の炎魔法で燃やされたようだ。犯人は…


「僕を馬鹿にしたテメエらを許さない…!」


 ワーグナーの右手に魔法陣が残っていた。

 まあアイツだろう。あれ、結構高かったんだが。


「…ワーグナーよ。ベクターを殺害し、混血を回収しろ。まだまだ使い道はある。そして明日の広報はこうなるだろう、『狂気の魔王が王城を襲撃、一番隊ベクターが王をかばい名誉の戦死』とな。それで我輩の威厳も取り戻す」


「承知しました、王。」


 一度落ち着いたワーグナーは王の勅命に従い、長剣を構えたまま悠然と近づいてくる。

 ベクターのおっさんはリビールの実で回復しているが、あれを使用すると必要以上の激しい運動が一時的に禁忌となり、破れば即死しかねない。ワーグナーとの戦闘はまず不可能。

 ワーグナーの前にフィーネが立ちふさがった。


「パパはフィーネが守る!」


「はぁ…そんなぬるい親子物語はいらないんですよ。ベクターは僕が最高の騎士になるための邪魔でしかない。…貴女を殺してはいけないんですが、抵抗する気が起きないくらいには痛めつけてもいいですよね?」


 ワーグナーが無表情で剣を振り上げる。

 フィーネは咄嗟に目を瞑った。

 まずい。だが俺はまだ右手が回復していなくて戦闘は厳しい。

 どうすれば———。


「…また邪魔ですか」


「娘が無闇に傷つく姿は見たくないという、父親のエゴさ」


 フィーネが目を開けると、目の前に大きな背中が見えた。

 次はベクターが前に立っている。


「まあ貴方の方から来てくれて好都合ですよ。衛兵隊の面汚し共の巣窟を作った貴方には多くの恨みがありますから」


「ふん、一番隊の隊員の半分が元冒険者や元ならず者なのが気に入らないだけだろうが。何も規律を破っていない以上、文句を言われる筋合いはないのだが」


「家柄も高潔さも何もない野蛮人が僕と同じ衛兵隊だなんて吐き気がするんですよ…!僕は衛兵であることに誇りを持っているのに、汚れた過去を持つ人間が隣にいるなんて許せるはずないでしょうが!?」


「だから私を殺せばスッキリするか?虚しい勝利だ」


「ええスッキリしますとも。そして一番隊と二番隊の名を入れ替えて、僕が頂点に立つ。…では、サヨナラ」


 ワーグナーは長剣を振り上げ、素早く振り下ろして切りつけた。


 ガキンッ!!


 だが剣はベクターには届かず、別のものに弾かれた。

 二人は至近距離でにらみ合う。


「…何のつもりです?」


「隊長は死なせねえよ…」


 男が一人、上の観戦席から飛び降りて一瞬の隙に二人の間に割り込んだ。

 熱く燃え盛るかのような橙色の髪、そして彼の身の丈ほどもある巨大な槍。

 乱入してきたその男は、名をカインといった。


 ワーグナーは一度引き下がり、体勢を整える。

 カインは槍を振りかざして攻勢の構え。


「貴方如きで僕の相手が務まるとでも?」


「いいからかかってこいよ」


 カインは手をこまねいて挑発した。

 ワーグナーはその挑発に乗ったとばかりに、カインとの打ち合いに持ち込んだ。


「煩わしい...」


 ワーグナーの剣技が炸裂する。

 一撃一撃をギリギリで受け流し、反撃の機会を伺っているカイン。

 だが、槍の重量では素早く機転を効かせた動きは難しく、徐々に押し込まれていく。


 カインが劣勢であることは俺に限らず、誰の目にも明らかだ。

 そして、戦局の変化はすぐに訪れる。


「が、はっ...」


 ワーグナーの突きがカインの腹を貫き、刃が背中から露出しポタポタと鮮血が滴る。

 当然といった様子で、表情を変えずにワーグナーは剣を引き抜いた。

 風穴の空いた腹部からさっきよりも激しく赤黒い血液が噴出、俺が来る前は優美さも感じられた部屋が一転してグロテスクに染まる。


「王の御前では手を緩めるとでも考えました? 笑止。勝ち目のない戦闘に命を賭けるなど愚かでしかありません」


 軽蔑するような白い目が腹を抑えているカインに向けられた。

 だがカインは、口の端からたらりと血を流しながらも強気に笑う。


「...アンタは成り上がるためならなんでもする人だ。手加減などせずに俺を殺しにかかることなんて...想定済みさ...」


「負け犬の遠吠えですか。 どうせベクターもこの後死ぬので、地獄で会えるといいですね」


 もう勝利を確信した男は皮肉混じりに嘲笑う。

 ...だが、カインの目はまだ諦めていない。間違いなくアイツには何か策がある。


「ああ、その通り...この勝負は俺の負け...」


 肩で息をしながら、カインは自分の鎧の中に手を突っ込んで何かを手探りで漁り、そして取り出した。

 現れたのは鉄の鎖で編まれた首飾り。中央にある小さな宝石が紫色に激しく発光した。


「───そしてアンタも負けだ」


「「「!」」」


 その場にいる全ての人間がその首飾りに注目し、絶句した。

 あれはどれだけ魔術に疎い人間でも知っている、至上最恐と称される呪具だ。


「ああ…それは…」


 ワーグナーの顔が急に青ざめ、体ががくがくと震える。


 あの呪具に付与されている呪いは『道連れ』。

 その文字通り、持ち主の生命活動が停止した時に呪具が破壊されることで一度だけ作動し、範囲内にいる生物の内一体の生命反応を強制的に停止させる。


 防ぐ方法はない。この呪いは対象になった瞬間逃げ切るのは不可能。

 確実に殺すことができるからこそ、最恐と謳われる。


「…俺の親父は有名な呪術師でさ…これはその忘れ形見だ。…さあ、共に地獄まで堕ちてもらおうか…!」


 カインの強い覇気に気圧され、慌てたワーグナーは上の観客席を見上げた。

 声を荒げて二番隊の兵たちに命令する。


「二番隊に告ぐ!!この男を一刻も早く始末しなさい!!」


 呪詛の対象は持ち主を殺害した人物が最優先。

 別の人間がとどめを刺せば、道連れの対象も変化する。

 解決策を見つけ、一安心したワーグナー。


 ———だが。


「…なぜ?なぜ誰も動かない…?」


 二番隊の兵は誰一人としてその場から動かず、仲間同士でひそひそ話しあっている。

 愚かな兵長なり。


「…当然だ。…アンタは常に自分本位で、他人を気にかけたりしなかった…。アンタのために命張れる男なんかいやしない…ざまあみろ」


 カインが舌を出して中指を立てた。

 ワーグナーの顔が絶望に染まる。


「嘘だ………嘘だ嘘だうそだうそだあああああああああああ」


「カイン…なぜだ…なぜ私をかばった…」


 ベクターが悲しそうな目でカインに語りかけた。

 彼は隊長に向かってニッと歯を出して笑う。


「まあ…なんというか、そこの娘さん見てたら…自分がダサく見えてきたんでね。…これでも、盗賊として荒れていた俺を拾ってくれたこと、感謝してるんすよ…」


「…」


「まあ、一つだけ心残りがあるとすれば…可愛い女の子に治療してもらえないことが残念なくらい…ですかね?」


 もう虫の息だ。

 放っておいてもこと切れるのは時間の問題だろう。


 俺にはリビールの実のストックがまだある。その気になれば助けることができる。

 だが、それが正しいのかはわからん。


 正直、今のこの状況で確実にあの男を止められる手段はあの呪具に限られる。

 そしてカイン自身もそれを遂行するつもりでいるようだ。

 俺は…。


「さあ、これで終わ…ん」


 瀕死のカインの身体が少しづつ軽くなり、血行が良くなった。

 医術魔法の行使だ。カインは目を見開いて驚いている。


「散らせないぞ、カイン」


 いつのまにか、カインの隣にアルドが立っていた。

 体力の回復したカインは激昂してアルドの胸倉を掴んだ。


「おい、何してやがる!!このままじゃ隊長が」


「心配いらねーよ」


 もうカインとベクター、フィーネの周りには一番隊の衛兵が大勢集まっていた。

 ある者は笑い、ある者は頭をかきながらも、想いは皆同じ。


「全くよお…いつもは女女言ってるカインが、こんなところで男気出すんだから面白いよなあ」


「ベクター隊長への信頼はぼくたちも本物だからね」


「お前ら…」


 アルドがポンと肩を叩いた。

 比較的表情の機微が少ない奴だと思っていたが、今は笑っているようにも見えた。


「何も一人で抱えることはない。…全員生きて、明日を迎えるぞ」


「…ああ。ベクター隊長を好き勝手しやがった国への、反撃の時間だ!」


「「「応!!!」」」



 …俺の出る幕はなさそうだ。


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