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11話 冒険後の余興の話

 呪具の衝動に苦しむドラグリオンとの死闘を繰り広げ、なんとか呪具の破壊に成功した俺たちは、その竜を仲間に加え現在居酒屋の中にいる。

 四人用のテーブル席に座り、ダンケルが一言。


「それじゃ、今日一日お疲れさまってことで──かんぱーい!!」


「かんぱーい!」


「...乾杯」


「なんだそれは?」


 三人で酒の入ったグラスを合わせた。

 リオンは理解不能といった様子で首をかしげている。


「これは人間の間での風習みたいなもので…まあいいや、とりあえずリオンもグラス持ってほら」


 ダンケルがリオンに無理やりグラスを握らせ、自分のグラスを寄せてカランと美しい音色を響かせた。


「...これは楽しいのか?我にはわからぬ」


「雰囲気ってやつさ、じゃあ景気良く飲もうじゃないか!」


 ダンケルはグラップフルーツの香りがするカクテルを勢いよくごくごくと飲んでいく。

 昔から仲間との食事などの時はテンションが上がるタイプだったが、飲み会も例に漏れずそうなるようだ。


「おお!飲み比べか!?我も負けんぞ」


 リオンが対抗せんとばかりに、ジョッキに並々注がれたエールを口に流し込んでいる。

 大人の色気が漂う見た目で豪快なことをされるとギャップがすごい。だがこれはこれで男ウケは良さそうだ。最も、リオンは人間の男なんて意にも介さないだろうけれども。


「ぷはぁ!」


 空になったグラスをドンと机に置いた。

 それに続いてリオンもエールを飲み干す。


「メガネよ、まだまだいけるな?」


「そっちこそ」


 バチバチと熱い視線が飛び交う。

 二人は同時に手を上げた。

 気づいた若い女性の店員がメモを片手に近づいてきた。


「ご注文でしょうか?」


「エールをジョッキ五杯お願いします」


「我も五杯だ!」


「えっ!?…えっと、エールを十杯…ですか?」


 周りが少しざわつき始めた。


「おっと、飲み比べか?」


「綺麗な姉ちゃんじゃねえか。これは見ごたえがあるぞ」


「眼鏡のボウズが勝つにカクテル一杯。」


 飲み比べが始まると気づいて盛り上がる他の客たち。


 この店は飯がうまい分代金がやや割高だが、格式が高い訳ではないので多少の悪ふざけや宴会芸は許される。

 まあ、店を汚したら自力で掃除するか清掃費用を追加で支払うかの二択を迫られるが。


「おまたせしました~。エール十杯になります…」


 大量のジョッキがプレートに乗ってやってきた。

 店員が二人がかりで一つずつテーブルに乗せていく。

 机の上がエールだらけになった所で二人は一本ずつ手に取り、同時に口に流し込んだ。


「「「オオオオオオオ!!!」」」


 盛り上がる店内。猛スピードで透明になっていくグラス。

 もう収集がつかない状態にまでヒートアップしてしまったようだ。


 というか、過剰に注文するんじゃない。

 全部俺の金から払うんだぞ。...いや、ダンケルに関しては友の奢りだからこそふざけてる可能性まである。


 支払いのことを考えて気が重くなっていると、横にいるメロウにトントンと肩を叩かれた。

 振り向くと、軽いお酒の入ったグラスを持って苦笑いしている。


「私たちは、平和に飲みましょうね」


「...そうだな」


 蚊帳の外の二人は、静かにグラスを重ねた。

 この街では十六歳から飲酒が許可されるので、もちろん全員合法。

 後ろめたいことをするのは怖いしな。



 ~少し経過~



 結論から言うと、金銭面に関する俺の不安は杞憂に終わった。

 理由は簡単。飲み比べの勝負はあっさり決着が着いたからだ。


「おまえぇ~、その肉を我にもくわせろぉぉお」


 大人の女の皮を被った竜は現在顔を真っ赤にして足元がおぼつかないまま、別のテーブルの客たちからおつまみをねだっている。


「はっはっは!弱いのに無茶するからだ!!ほらよ」


 周りの人たちも面白がって自分の注文した料理をリオンに分け与えている。

 完全に餌付けの構図だ。


「まさか三杯で出来上がるとは思わなかったよ」


 ダンケルは既にカクテル一杯に加えてエールを四杯飲んでいるが、まだ正気を保てるくらいには平気らしい。昔からかなり強かったからなぁ。


 ふらつきながら戻ってきた。

 この状態ではもう竜の尊厳も何もなく、ただの酒好きにしか見えない。


「おお!ヒック、二重人格ううううう!!」


「お前は加減を考えて飲めわぷっ!?」


 笑いながら近づいてきたリオンは、そのまま俺に抱き着いてきた。

 俺が座っていてリオンが立っていることもあり、くっついている位置がまずい。

 そびえ立つ双丘が俺の頭部をがっちりホールドしている。

 しかも抱き着く力がやたら強いから息苦しいし離れない。


「人間の男ってのはこうすると喜ぶって聞いたんでなぁー!」


 状況を考えろ!

 どこのどいつだ変な入れ知恵した奴はあああああ!!


「もごもごもご!」


「おぉー何言ってるかわからんが、それは歓喜の声だな!!」


「そりゃそうさ。レイは女の子の免疫0なんだからイチコロさ!!」


 違うわ!

 息苦しいし見てくれが完全に変態だからさっさと離せ!


「我はなぁ、嬉しかったんだぞヒック。お前たちが呪いを解いて自由の身にしてくれたんだからぁ」


「もごもご(わかったから離せ!)」


「な、ななな何やってるんですか!!」


 メロウが慌てて俺を引きはがそうと俺の頭を掴んだ。

 外部からの力でなんとか離れることができた。


 リオンは挙動が安定しないままニヤリと笑った。


「なんだぁむすめぇ?これは我にしかできない芸当だから嫉妬かぁ??」


「!? 何を馬鹿なことを!! 私にだってそれくらい…それくらい…」


 メロウは自分の胸元を見下ろし、尻すぼみに声が小さくなっていく。

 とある現実に直面し、目に涙を浮かべた。


「…あはは、レイブンさん。世の中って、不平等ですね…」


 ダメだ、完全に心を揺さぶられている。しれっと名前言っちゃったし。

 なんか訳のわからんことを言い出して感傷的になってる。


「おー何だ?修羅場に遭遇か?」


「おいパツキンの兄ちゃんよお、そんな可愛い子泣かすとか最低だぞー」


「そうだそうだー。女心全くわからないんならメロウちゃんの彼氏になる資格はないぞー」


 ちょっと黙ってろ外野。あと混ざって野次を飛ばすなダン。


 メロウは余っているエールを二本手に取り、片方を俺に差し出した。


「一緒に飲んでください。悲しみを背負った少女を助けると思って」


『悲しみを背負った少女』て。リオンが規格外なだけで、メロウも全くないわけじゃなかろうに。

 仕方がないので受け取った。


「それじゃ、二人のこれからの成長を信じてえ、乾杯!」


「「…乾杯 (です)」」


 ダンケルが勝手に仕切る中、俺とメロウはカランとジョッキの音を鳴らして、先ほどの二人のごとくエールを飲んだ。


 先にメロウが飲み干し、ジョッキをドンと机に置いた。


「ぷはぁ~。 どうして栄養は思う通りの場所に行かないのでしょう…」


 虚しい独り言と共に彼女は机に突っ伏した。


 少し後に俺も飲み終わり、空のジョッキをテーブルの奥に置いた。


 あー、やべえ。頭が痛いしクラクラする。

 予想はできたはずなのにこの結末を避けられなかった。


 そう、俺は死ぬほど酒に弱い。

 すぐに顔が赤くなるし、足元が不安定になるし眠くなる。

 リオンなんかとは比べ物にならないほど弱い。


「おー!すごいじゃんレイ! じゃ、これ」


 無慈悲にも次のエールが目の前に現れた。


「は?」


「少女の背負う悲しみが、エール一杯程度で収まるとでも?」


 周りのおじさんたちがうんうんと頷く。

 リオンは強調するかのように胸を張り、メロウはパチパチと拍手。

 店内全体にヒートアップした空気が侵食し、もはやこの状況を止めに入る人は誰もいない。


「…」


 もはや全てを諦めた俺は、そのエールを受け取り席から立ち上がった。


「ダン。明日覚悟しとけよ」


「レイは酔ったらどうせ今日のこと忘れるから問題ナシ」


 意地でも忘れてなるものか。

 周りの歓声に触発されたかのように、腰に手をあててジョッキを傾けた。

 すごい勢いで喉の奥に消えていくエール。


 全てを飲み終わったとき、自然と周りから拍手が起きた。

 そして席に着いた俺は案の定眠気に負け、視界が暗転した。


 …。





 目が覚めた俺はベッドの上。

 頭が痛いし全体的に身体が重い。

 何年振りかの二日酔いだ。


「...。」


 確か、ダンケルぶっ飛ばすって意気込んでいたはずなんだが、事の詳細が思い出せない。

 ダメだ、酒を飲むとすぐ眠る上に記憶がなくなる体質は損でしかない。


 というか、俺はどうやって家まで帰ったんだ?


 気だるい体をなんとか持ち上げて、重い足を動かして移動する。

 リビングでメロウを見つけた。彼女も本調子ではないようだ。


「ああ、レイブンさん…おはようございます…」


「なあメロウ。俺はどうやって家まで戻ってきたんだ?自力で歩いたとは正直思えないんだが」


「ダンケルさんがレイブンさんを担いで家まで付いてきてくれたんですよ。『レイがこうなったのは僕のせいだし』って」


 やっぱりアイツのせいか。

 何かしらの策に嵌められて俺は酒を一気に飲んだのだろう。

 記憶はまるでないが、状況は想像に難くない。


「あの、レイブンさん…」


 少し悲しそうな表情で話しかけてきた。


「どうした?」


「その…私には女としての魅力はないかもしれませんが…見捨てないでくれますか?」


 上目遣いで懇願するように迫ってくるメロウ。


「は?」


 いきなり何だ??

 全然思い出せないが、メロウがいきなりこんなこと言い出す訳がないから確実に昨日何か起きたはずだ。


「見捨てる訳ないだろ。 というか、昨日何があったんだ? 全く記憶が残っていなくてな」


「えっ、覚えてない…?

 …今のは忘れて下さい」


 動揺したメロウは、慌てて後ろを向いてしまった。


 …。

 あの夜、一体何があったんだ。


 ☆


 二日酔いが完全に醒めていないので、ダンジョンに足を踏み入れる訳にはいかない。

 ということで、前に話していた『魔術通信機』なるものを買いに行くことにした。


 よそ行きの格好になり、二人で大きな商店街に来た。

 道具屋、武器屋、雑貨屋…。色々な店が立ち並んでいる。


「悪いな、俺が無知なせいでわざわざ来てもらって。」


「問題ないですよ♪ …その代わり、後で私の買い物にも付き合って下さいね」


「おう」


 メロウに教えてもらって、俺はモダンな雰囲気の漂う道具屋に足を踏み入れた。

 中は賑やかな様子で、親子連れか、俺と同年代くらいの客が多い。


 そして、大きなガラス張りの棚の中に魔術通信機と思われる道具がいくつか飾ってある。

 ちょうど手の平に収まるサイズで、楕円のような形状。蓋を押し上げると、宝箱のようにパカパカと動く仕組みだろうか。

 どうやら色が違うだけで形や大きさは同じようだが、性能に差はあるのだろうか。


「ブレインさん、どの色にしますか?」


「色によって何か差があるのか?」


「特にないですね。見た目の問題です。私は赤色のものを使っています」


「じゃあ俺も赤にしよう。わからない以上あれこれ考えるのは得策じゃない」


「ふふ、お揃いですね」


 メロウが自分の通信機を取り出してにこりと笑った。

 色も同じだと混ざった時にわからなくなるかもしれないが…まあいいや。メロウが喜んでいることだし赤にしよう。


 奥にいるカウンターに向かい、店員に声をかけた。


「魔術通信機の赤をお願いします」


「ワインレッドですね。少々お待ちください」


 わいんれっど?なんだそれ?

 赤色にもさらに分類があるのか…。


 一度店の奥に消えた店員は、少ししてから通信機を持って戻ってきた。

 反射した光が眩しい、新品の機械だ。


「この色で、間違いないでしょうか?」


「はい」


 これを使うと、『通話』なるものができるのか。

 同じタイミングに互いに起動して会話する魔術と違って、いつでもどこでも会話できるという優れものらしい。楽しみだ。


「では、一万四千ウェリルになります」


 結構高いな。まあ精密な道具みたいだし、仕方ない。

 俺は財布を取り出し、中身を確認した。

 …うん、ギリギリ足りるな。問題ない。





 …ん?なぜギリギリなんだ?

 この二倍くらいのお金を入れていたはずなんだが…。


 横に立っている少女をチラリと見た。

 いや、そんなわけない。もしメロウがこっそり俺の金に手を出していたら泣く。


 俺の不審な態度を見て何かに気づいたらしく、メロウは苦笑いした。


「あ…覚えてないかもしれませんが、昨日の食事の代金、ダンケルさんがブレインさんの財布を取り出して支払ったので、お金が減っているのはそのせいかと…」


 原因発覚。

 クソみたいな理由だった。


「…やっぱりアイツ殴る」


「あはは…」


 自然と拳に力が入る。お金を強く握りしめた。


「あの…お支払いの方を…」


「…すいません」


 クシャクシャになった紙幣と微妙に温かくなった硬貨を手渡して、魔術通信機を獲得した。




「助かった。これで大丈夫だ。」


「どういたしまして」


 使い方がよくわからんが、家に帰ったら教えてもらうとしよう。

 そして、今からは


「じゃあ、メロウの買い物だな。」


「うふふ、私をエスコートしてくださいね」


 満面の笑みを見せてくれる。

 だが、果たして俺にエスコートができるのだろうか。自信は全くない。


「こっちです」


 メロウに連れられて、着いた先は———


「本屋か」


 街で一番大きい書店だ。多くの種類の本が並ぶことで有名な所。

 エスコートも何もないんじゃないか、ここ?


「ちゃんと、私の傍にいてくださいね?官能小説を読みに行ったりしたらダメですよ?」


 悪戯っぽく笑うメロウ。

『行かない』で即決の話ではあるが、たまにはこっちもからかってやろう。


「んー、迷うな。メロウだけじゃ満足できなくなったらどうしようか」


 それを聞いてもメロウは笑顔を崩さない。笑顔のままで付け加えるように言った。


「大声で『レイブンさんっ!!!』って叫びますよ?」


「絶対行かないので安心してください」


 ダメだ、メロウの方が圧倒的に上手だった。

 手綱を握られたような気分になりながら、二人で店に入った。


 やはり中は広く、様々な本が置いてある。

 ずらりと並べられた書物の山は、一生かけても読み切れるか怪しいレベルと推測。


「まずはあの本からです」


 迷うことなく進んでいく。俺はそれについて行った。


「これですこれ!新刊ありましたぁ」


 嬉々として一冊の本を手に取った。なんでも、シリーズ物の恋愛小説の最新エピソードらしい。

 ダンケルのあの謎の発明は、こういった物語にインスパイアされた結果か。影響されやすい奴だ。

 そしてダンケルの書いた本も置いてあるのだろうか。『夢喰いの怪物』は恐らくあるだろうが、俺は他の本は全く知らない。


「じゃあ次はこっちですね。」


 次に手に取ったのは料理本。新しいレシピをこれで身に着けるらしい。

 新しい飯が食べられるとなると、俺も冒険者としての仕事に精が出る。


「こっちです」


 冒険物の小説を取った。勇者なるものが魔王を討伐する話らしい。

 …同じ魔王として、俺はこんな結末にならないよう用心せねば。


「こっちです」


 俗に言う魔導書。昔の大成した魔術師が記した本で、魔法の知識や扱うコツ、魔力を高める瞑想なんかを教えてくれる。


「こっちです」


 歴史本。昔の神話から、六年前の疫病まで幅広く記述されている。


 ミステリー小説、自己啓発本、女性誌……



「あの…メロウさん?何冊買うおつもりで?」


 メロウの手の上には大量の本が乗っている。

 もはや、メロウの愛らしい顔は紙に邪魔されて全く見えない。


「これで全部です!」


 いくらなんでも多いだろ。持って帰れないだろこの量。

 そのままメロウは全ての本を購入した。結構な値段になったはずだが、あっさり払った。


「もしかしてメロウも上流階層なのか?」


「いいえ? 私は本以外にほとんどお金を使わないだけです。」


 なるほど。典型的な本の虫というやつか。

 そして購入を済ませ、再びメロウは本を全て抱えた。

 こちらの方を向いて一言。


「重いです。助けてください♪」


「…」


「付き合って下さい」ってのはこういうことか。

 周りの視線が痛い。


「女子にあんなに持たせて、自分は手ぶらってのはねぇ…」


「坊や、女の子は大切にしてあげるんだよ」


「男ってのは、顔がいいとそれだけで増長するから駄目だ」


 …。

 俺は無言で本を全て強奪した。


 自分の価値をよくわかっている女の子というのは怖い。

 俺は前がほとんど見えないという恐怖と戦いながら、なんとか帰宅できた。


 ☆


 本を全て家の机の上に乗せた。

 重くはないが、バランスを取るのが難しかった。途中落としそうになったし。


「レイブンさん、ありがとうございます。一人だとこの量を買って帰ることはできないのでつい」


 メロウはぺろっと舌を出した。

 彼女は時折こうしてあざといことをするのだが、普段がいい子すぎるからこれくらいは余裕で許してしまう。


「まあいいさ。 それで、通信機の使い方を教えてくれないか?」


「はい!」


 俺は買ったばかりの通信機を取り出し、蓋のようなものを押し上げた。

 開くと、ガラスのようなものが貼ってある面と、ツルツルした白い面の二つが現れた。どちらにも魔術付加がされているようだ。


「こっちの面に、相手の通信機の固有のルーンを描くと、通信の魔法を飛ばすことができます。それに気づいて通信機を起動してもらうと、会話が始まります。」


 …言いたいことはなんとなくわかった。

 だが、ルーンが必要となるとどうすればいいのか?


「スイランやダンケルと話すには、どうすればいいんだ?」


「本当はお二方の通信機のルーンを確認するために一度会う必要があるのですが…」


 そう言いながらメロウは自分の通信機を取り出し、自慢げに前に突き出した。


「既に私はお二方のルーンを知っています!なので、今からやってみましょう」


「おお!」


 いつの間にそんなことを。ありがたい話だ。


「このルーンをなぞってください」


 メロウの通信機に謎の模様が浮かび上がった。

 言われた通りになぞってみると、ピロリンと音が鳴った。


 音が鳴り始めてから少しして、


『もしもーし』


 通信機からスイランの声が聞こえてきた。


「どうも、メロウです」


『メロウじゃん!通話してくれたんだ!』


「すごいな!どんな原理なんだ!?」


『そこにいるのはレイブン…あれ、この声はブレイン?どっちだ?』


 そうか、姿は見えないのか。確かに声だけだと判別は難しいかもしれない。

 今はブレイン。買い物から帰ってきてそのまま。


「ブレインだ。」


『おーそうなのか。ブレインも通信機持ってる?持ってるなら、次冒険するときにボクとルーン交換しようねー!』


「おう」


 画期的な発明だな。

 会う必要がなく、通話したいと思えばいつでも会話できる。素晴らしい道具だ。


『…本当に一緒に住んでるんだねぇ。二人きりの夜、本当に何もないの?』


「ないですね。レイブンさんは硬派な方なので」


「メロウの優しさで入れてもらってる身だからな。その辺りの節度は守る」


『そんなこと言ってさ、本当はしたいんじゃないの?メロウ可愛いし、スタイルもいいし普通の男なら性癖ドンピシャじゃん』


 コイツ、この場にいないからって好き放題言いやがって。

 俺はどんな反応すればいいんだ。


「…いつかは」


 メロウがボソリと呟いた。よく聞き取れなかった。


「ん?なんだって?」


「いや、何でもないですよ!??」


 取り繕うように笑顔を作った。


『ヒューヒュー、熱いねえ。 じゃ、ボクはちょっと用事があるからこの辺で。また通話しようね~』


 その会話を最後に、プツンと音がして何も聞こえなくなった。


「通話が終了するとこうなります」


 なるほど。使い方は大体わかった。

 俺の通信機にスイランのルーンとやらを登録すれば、次回以降はちゃんとできそうだ。


「次はダンケルにかけてみたい。」


「じゃあ、これですね」


 メロウが慣れた手つきで操作すると、さっきとは別のルーンが現れた。もう一度なぞる。


『はい、もしもし』


「ダン、俺だ」


『なんだレイか。メロウちゃんの通信機からかかってきたんだけど…』


「はい!私もいます」


『やっほーメロウちゃん』


 なんだこの反応の差は。友に適当に扱われるのはちょっと悲しいぞ。


『二重人格と娘の声がするぞ!?どこだ?この魔道具からか!』


 なんかダンケルと別の声も聞こえた。

 家まで連れ帰ったのか。研究とやらには協力してくれるのだろうか?リオンは気ままな性格だし厳しいかもしれない。


「リオンさーん、もう酔いは大丈夫ですか?」


『心配するでない、我は万全だ!恐れるものなどない!!』


『昨夜は大変だったんだよ?ずっとくっついて離れないから着替えられないし、そのまま寝るしかなかったし』


『フン、知らん。我が覚えていないのだからメガネの戯言だ。』


「あの姿のリオンが抱き着いて離れないって、お前からしたらご褒美みたいな状況だろうが。なに苦労した風を装ってるんだよ」


『あはは…まあね』


 通信機の向こうで、ダンケルが鼻の下を伸ばしている様子が容易に想像できる。


「…ダンケルさんは、胸の大きな女性の方が好きなんですね…?」


 おっと、静かな怒りを感じる。

 地雷を踏んだな?ダン。


『あれ、メロウちゃん?』


『メガネ、娘の心を想像することだ。我のようにグラマラスでないから、二重人格を胸で誘惑したりできんのが悔しいのだ。察してやれ』


 隣でメロウが震えている。

 目が全く笑っておらず、通信機を持つ右手に力がこもっている。


『ねえレイ…今、ヤバい?』


 恐る恐る、ダンケルがこちらの状況を聞いてきた。


「自業自得だ。 それよりダン、俺が潰れて寝ている間に、俺の財布を抜き取って会計を済ませたという話を聞いたんだが…?」


『……』


『二重人格が奢ると言ったのだろう?煩わしいから寝ている間に済ませただけだ。何も問題は———』


 プツン。

 ダンケルが通話を強制的に終了させたようだ。


「「…。」」


 しばしの静寂が訪れた。


「…メロウ。次会ったら、アイツらぶっとばそうな」


「…暴力は好きではないなのですが、これには賛成します」


 力強い握手を交わした。



 ~日々のトレーニング記録 その三、四~

 ・エトラの森の冒険(魔物はほぼ全部ダンが狩った)

 ・竜との戦闘(仲間に加えた)


 ・ランニング

 ・双剣として戦う練習

 ・素振り


 備考

 やはりダンは強い。そしてメロウの強化魔法は超一流になりうる才能。

 体力や筋力は多少上がっているが、ブレインが双剣で戦えるのはまだ先になりそう。

 次会ったらダンはぶっ飛ばす。





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