表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

86/95

第86話 国際武闘会の選手たち

 今日は国際武闘会初日だ。

 1日目には第1試合・準決勝、2日目には三位決定戦・決勝戦が行われる。


 俺達は今、会場である闘技場にいる。


 選手である俺とルイーズは、開会式のために闘技スペースに移動している。

 闘技スペースには大会委員と、そして各国から集められた戦士たちが集まっていた。


 大会に出場する選手は、合計8人。

 三強である王国・教国・帝国からそれぞれ2人ずつ。

 そしてたくさんの小国からなる「連合国」から、2人ずつ選出されている。


「いよいよ武闘会ね……がんばらなくっちゃ」

「ああ、そうだな」


 ルイーズは武者震いをしている様子だった。

 彼女は俺の姿を見て、世界最強の《勇者》になることを目標としたという。

 期待とプレッシャーでいっぱいなのだろう。


 一方の俺も、高揚感でいっぱいだ。

 なにせこの武闘会に優勝すれば、名実ともに世界最強の冒険者になれる。

 今まで俺をバカにしてきた人々を見返すばかりか、称えられることになるだろう。


「──クロードさん、ルイーズ王女。おはようございます」


 突如、俺は女性に声をかけられる。

 その女性の名前はシャルロット──教皇直属の《聖女》だ。


「おはようございます、シャルロットさん。決勝戦で会えるといいですね」

「絶対にあなたには負けないんだから……!」


 実はシャルロットさんは、この国際武闘会に「教皇枠」で参加することになっている。

 1ヶ月前くらいに王国の諜報機関から、そして1週間前に武闘会のパンフレットでそれは確認していた。

 トーナメント表によると、順当に行けば準決勝でルイーズと、決勝戦では俺と戦うことになる。


 俺とルイーズは、シャルロットさんに闘志を燃やす。

 一方のシャルロットさんは、眩いほどの笑顔で答える。


「おふたりとも、よろしくおねがいしますね? でも、勝つのはわたしです……えへへ」


 そう、シャルロットさんは強い。

 彼女の実力は、1週間前の教皇暗殺未遂事件で証明されている。


 複数の標的への正確無比な魔術射撃と、《聖女》とは思えないほどの槍術──

 剣術しか攻撃手段がない《回復術師》の俺としては、かなりの難敵だ。


「ふん、言ってくれるじゃない。そんな事言われたら、余計に負けられなくなってきたわね。ね、クロード?」

「そうだな──もし戦うことになったら、全力を尽くしましょう」

「はい。クロードさんとルイーズ王女のおふたりと戦える事を、楽しみにしています」


 ルイーズ・俺・シャルロットさんは、互いに握手をする。

 ともに戦う友として、この儀式はある意味重要だ。


「──あなたが、《回復術師》クロードかしら?」


 シャルロットさんと握手を済ませた直後、俺は18歳前後の女性に声をかけられる。

 スレンダーな体型で、金髪のミディアムボブに赤い眼が特徴的だ。

 少し張り詰めた表情をしているが、美人なのでそれもよく映えている。


「はい、俺はクロードです。あなたは?」

「私は連合国代表の《魔術騎士》エリーゼよ。あなたとは準決勝で戦うことになるわね」


 《魔術騎士》エリーゼといえば、教皇が警戒するように呼びかけていた選手だ。

 なんでも、教皇が40年ほど前に決闘した少女と、同一の魔力を保持しているらしい。

 魔力の質は人によって異なり、加齢によっても変化するものなので、「他の人物と同一の魔力を有する人物」というのはそういるものではない。


 ルイーズとシャルロットは、驚いている様子だった。

 俺も正直驚いているが、平静を装ってエリーゼさんに手を差し出す。


「準決勝ではよろしくおねがいします」

「ええ、こちらこそ」


 俺とエリーゼさんは握手をする。

 だが腕を軽く引っ張られ、キスしてしまうくらいの距離まで近寄られた。


「────ずっと、会いたかった」


 エリーゼさんは俺の耳元で、甘く囁いた。

 甘い香りも相まって、俺の心臓が軽く疼く。


 これは、どういうことだろうか。

 俺とエリーゼさんは初対面で、一度も会ったことがない。

 俺の王国内での活躍をある程度聞いていて、それで興味を持ってくれたのだろうか。


 エリーゼさんは俺から少し離れ、張り詰めた表情をしている。

 今さっき甘い声を出していた人物とは、とても思えない。


「エリーゼさん、あなたとは初対面です。『会いたかった』とはどういうことでしょうか?」

「クロード、あなたの噂はよく聞いていたわ。《回復術師》なのに聖剣が使えるとか、ドラゴンを倒したとか……憧れていたから、『会いたかった』って言ったのよ」

「そうですか……」


 それにしては、さっきの囁き声はとても甘かった。

 まるで「運命の人を見つけた」かのような声音だったように思えたが……


「エリーゼ、といったかしら。初対面なのに随分馴れ馴れしいじゃない」


 ルイーズが突如、眉をひそめ腕を組みながらエリーゼさんに詰問する。

 だがエリーゼさんは臆することなく、冷静に頭を下げた。


「あなたは《勇者》の天職を持つ、ルイーズ王女ですね──少しおふざけが過ぎました。気分を害されたのであれば、申し訳ありません」

「ふん、まあいいわ──お互い優勝目指してがんばりましょう?」

「はい、もちろんです」


 ルイーズとエリーゼさんは、お互い張り詰めた表情をしながら握手を交わす。

 それをシャルロットさんと俺は、黙って見ていた。


『──只今より、国際武闘会の開会式を開催します!』

「うおおおおおおおおおおおっ!」


 突如、風属性によって増幅されたアナウンスが、場内に鳴り響いた。

 それとともに、観客たちが一斉に湧き上がる。


 俺たち選手は整列し、国王陛下や教皇を含む来賓から激励のお言葉を頂戴した。



◇ ◇ ◇



 開会式が終わり、俺たちは観客席に向かう。

 国王陛下と、そしてエレーヌ・レティシアに挨拶をしておきたい。


 ちなみにこの観客席だが、国籍ごとにしっかりと分けられている。

 そして選手とその従者・国家元首とその護衛には、特別な区画が用意されていた。


 俺とルイーズは、ひときわ豪華な椅子に座っている国王陛下と相対する。


「クロード、ルイーズ。今日の国際武闘会では、ただの一度も負けるな。すべての対戦相手に勝利し、決勝戦で雌雄を決するのだ」

「はい」

「かしこまりました、父上」


 俺とルイーズは、順当に勝ち進めば決勝戦で当たる事となる。

 もしそうなれば、王国勢で二冠を独占できる。

 それにルイーズは俺に、王国武闘会での雪辱を果たす事ができるので、とても詩的でドラマチックだ。


 国王陛下が熱を込めて激励するのは、当然だ。


「クロードくん、がんばってね……応援してるから!」

「絶対に優勝して、世界最強の冒険者になってくださいね」


 国王陛下の近くに侍っていたエレーヌとレティシアが、真剣な表情で俺を励ましてくれている。


 そう、俺は「世界最強の冒険者になる」という夢を果たした後でしか、彼女たちと結婚する気にはなれない。

 一応、大人の事情で「国際武闘会終了後に婚約」ということになった。

 だがそれでも、俺は世界最強への渇望を優先したい。


 後腐れなくみんなと結婚するためにも、俺は絶対に優勝しなければならない。

 ──いや、優勝してやる。


 今日は朝早くからレティシアにキスされ、気合が入っている。

 そんな俺が、負けるはずなどない。


 ルイーズはエレーヌたちに対し、「ふーん」と鼻を鳴らす。


「私のことは応援してくれないわけ? 一応王女様なんだけど」

「わたし、クロードくんの幼馴染ですから……えへへ」

「私はクロードのパトロンです。実家のローラン公爵家の名誉のために、彼には全力を尽くしてもらうだけですよ……うふふ」


 エレーヌとレティシアが笑いかけると、ルイーズは咳払いをした。


 ちなみにエレーヌたちが敬語を使っている理由は、国王陛下の御前だからだ。

 その国王陛下は、エレーヌたちの言動に少し複雑な表情をしていた。


「まあいいわ。あなた達、クロードの事が大好きで仕方がないものね──とりあえずクロード、決勝戦で倒してあげるから絶対に勝ちなさいよ?」

「決勝戦で会いましょう」


 俺はルイーズと固い握手を交わす。

 一応国王陛下の御前なので、ルイーズとは敬語でやり取りをしている。


「クロード、初戦の対戦相手は帝国出身の《アサシン》ヴォルフだ。彼の実力は計り知れぬ」


 国王陛下によると、ヴォルフ選手は世界中を渡り歩いてきたとのことだ。

 その放浪の目的は、法で裁けない悪を裁くためだという。


 世界中の国々の王侯貴族と契約を結び、敵を駆逐してきたらしい。

 国王陛下も、ヴォルフを都合よく利用していたという。


「気をつけよ、クロード。ヴォルフの戦法は、あまりにも残虐で卑劣極まりない」

「分かりました。ありがとうございます」


 俺は国王陛下に一礼し、闘技スペースへ向かう。

 総勢8人のトーナメント戦の第1回戦・第1試合は、俺とヴォルフ選手だからだ。


 相手がどんなに優れた戦士であっても、敵である以上は打ち倒す。

 俺は武者震いを感じていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新作短編】
☆6000の王子さま ~読者にざまぁされたランキング作家は、幼馴染で義妹の美少女から勧められた『星の王子さま』を読んで「大切なこと」に気づいたようです~
https://ncode.syosetu.com/n8598gw/

小説家になろう 勝手にランキング

cont_access.php?citi_cont_id=947360718&s

script?guid=on
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ