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第83話 教皇のパレードと恋人繋ぎ

 1週間後、教皇のパレード当日。

 俺たちは迎賓館から少し離れた大広場にて、教皇の通過を待っている。


 沿道にはすでに、多くの人々が詰め寄せていた。

 首都の住民や聖地巡礼にやってきた信徒だけでなく、これから1週間後に行われる国際武闘会観戦のために前乗りした観光客もいる。


「それにしても、すごい人だね……ちょっと怖い……」

「大丈夫だ、俺がついている」

「ありがとう……」


 エレーヌは心細そうに呟くと、俺の右手をギュッと握りしめてきた。

 しかも、指を絡ませる恋人繋ぎで。

 指と手のひらの感触に耐えきれず、俺も反射的に恋人繋ぎをしてしまう。


 すると、それを見ていたレティシアが、甘えた声でこう言ってきた。


「クロード、私も人混みは苦手です。少しでも安心できるように、手を握ってくださいませんか?」

「レティシアちゃん、それ絶対に嘘だよね!?」

「そうよ、図々しいったらありゃしないわ!」

「まあまあ、みんな抑えてくれ」


 俺は今、激アツな視線──羨望の眼差しに晒されている。

 「こんなところで痴話喧嘩するなよ」「ハーレムとか羨ましすぎるだろ!」などと、言われてしまっているのだ。

 だからなんとしても、みんなの喧嘩を止めなければならない。


 なのだが──


「ルイーズ、あなたは羨ましくないのですか? 『怖いから』と言って、ナチュラルにクロードと手を繋ぎに行けるエレーヌが」

「ふ、ふんっ! 私、そんなに気弱じゃないから、羨ましくないわっ!」

「ふふ、本当ですか〜?」


 レティシアは少し屈み、ルイーズの顔を下から見上げている。

 下手したらキスしてしまうのではないか、そう思ってしまうくらいの距離感だ。

 ルイーズは少しだけ後ずさり、恥ずかしそうにしていた。


 だがレティシア、ナイス!

 君のおかげで、最適解が見つかった。


 レティシアはただ、俺と手を繋ぎたかっただけなんだ。


「レティシア、手を繋ごう」

「ありがとうございます……うふふ」


 俺の左横にやってきたレティシアに、俺は自分から手を繋ぎに行く。

 エレーヌの時にならって、指を絡ませた。


 ──自分から恋人繋ぎするのって、なんだか恥ずかしいな……

 エレーヌも、照れくさかったに違いない。


「──こんな時間が、長く続けばいいのに」

「──そうだよね、レティシアちゃん」


 レティシアとエレーヌは、溜息交じりに呟く。


 二人は俺と手を繋いで、恥ずかしくないのだろうか。

 それとも、ドキドキ感を味わっていたいのだろうか。


 やっぱり俺には、恋愛はよく分からない。

 まあ、戦闘時につきまとう死の危険と高揚感の関係に、少し似ているのかも知れないが……


「レ、レティシア! やっぱり代わって!」

「ふふっ……ではルイーズ、人混みが苦手な臆病者だと自分で認めるのですか?」

「うっ……そ、そんな事言ってないわよっ!」

「では他に、クロードと手を繋ぎたい理由があるというのですか?」

「そ、それは……」

「言えないのなら、認められませんね。だってあなたは強い女性ですから、男性にすがる必要なんてないのです。私と違って」

「あ、あんただって強いじゃない……!」


 レティシアは不敵な笑みを浮かべている。

 一方のルイーズは、悔しそうに唇を噛んでいた。


 だが突如、レティシアは真顔で、静かな口調で語り始めた。


「──ルイーズ、時には本音をさらけ出すことも大事ですよ?」

「えっ……?」

「私はクロードを感じていたいから、彼に手を握ってもらおうと色々仕掛けたのです。ですがあなたは、本当は手を握って欲しいのに強がりばかり言っています」

「そ、そんな事……」

「いいえ、あなたの顔は正直です。本当はクロードと手を繋ぎたいのでしょう? なら、素直にそう言えばいいのです」


 レティシアは今、ルイーズという恋敵に塩を送っている。

 恐らくそれは、今後の関係を円滑にするためなのだろう。

 俺たち四人の──


 確かにルイーズは、俺と二人っきりのときは素直に自分を出せていると思う。

 まだまだ若干照れは残しているが、俺で緊張してくれてむしろ嬉しく思う。

 だが人前、あるいはエレーヌやレティシアたちの前では、未だに強がってしまうのだ。


 レティシアはルイーズに、真剣な表情で言う。


「本音を言わないと、クロードには気づいてもらえませんよ?」

「レ、レティシア……その、クロードと手を繋ぎたいから、代わって……?」

「はい、いいですよ。どうぞ」


 レティシアは俺から手を離し、ルイーズに優しく笑いかける。


「──今日はお預けです……ふふ」


 レティシアは俺だけに聞こえるように、俺の耳元で囁く。

 俺はその甘い声を聞き、本当にお預けを食らった気分になり、少しだけ名残惜しく感じた。


 もしかしてレティシアは「押してダメなら引いてみろ」の精神で、ルイーズに譲ったのだろうか。

 もしそれが本当なら、なかなかの策士だ……!


 だが、俺は気分を切り替える。


 ルイーズが俺の左横に立ったので、俺は自分から恋人繋ぎをしに行った。

 彼女はとてもぎこちなく、俺の手を握り返してくれたが、それはとても嬉しかった。


「あ、ありがとう……クロード」

「ああ……」

「それに、レティシアもありがとう……あなたのおかげよ」

「いえ、私は何もしていません。ルイーズ、あなたが本音を出せるようにしてあげただけですから」

「それでもよ。ありがとう……」


 俺とルイーズ、そしてルイーズとレティシアの間には、少しだけいい雰囲気が漂っている気がする。

 エレーヌもまた、俺とともに静かに見守っていた。



◇ ◇ ◇



 それからしばらく時間が経ち……


「──うおおおおおおっ!」

「──来たああああああああっ!」

「──教皇さまあああああああっ!」


 教皇を乗せたチャリオットが、どうやらこちらに近づいてきたようだ。

 少し離れた位置にいる群衆が、大声を上げ始める。


 沿道にて先頭に立っている俺たちはついに、数十メートル先にいる教皇の姿をその目で捉えた。


 1匹の白馬に牽引されているチャリオットの上に、教皇は立っている。

 チャリオットとは戦闘用の馬車で、「戦車」とも言われている。

 箱型の馬車とは違い、教皇の姿がはっきりと見える。


 そのチャリオットの周囲には、数十人もの騎士や魔術師たちがいる。

 ある者は騎乗しており、ある者は徒歩で移動している。

 気配遮断をしている護衛の《アサシン》も、数名いる様子だ。

 俺にはごくわずかな気配が感じられる。


 そして教皇のすぐ傍では、《聖女》シャルロットさんが歩いていた。

 シャルロットさんは装飾華美な杖を持っているが、彼女の背丈より少し長い。

 また、聖職者が持つ杖にしては、先端の金属部分が槍のように鋭かった。


「クロードくん、あのチャリオットに乗ってる人が教皇さま? この前挨拶しに行ったんだよね?」

「ああ、あの人が教皇だ」

「そうなんだ……それにしても、教皇さまの近くにいる女の人、かわいいなあ……」

「エレーヌ、君も可愛いよ。身体も顔も表情も、そして性格も」

「あうっ……! も、もう……クロードくんってば……」


 エレーヌは顔を真っ赤にしながら、うつむき加減になってもじもじし始める。


 ──しまった、余計なことを言ってしまったようだ。

 つい無意識に口が動いてしまったのだ。


「クロード、私はどうですか? 可愛いですか?」

「い、一番可愛いのは私よねっ!?」


 レティシアは笑顔で、ルイーズは焦った様子で俺に迫る。


「レティシアは綺麗で笑顔が可愛い。ルイーズも綺麗で、焦ってるところとかが可愛いな」

「ありがとうございます……ふふ」

「ふ、ふんっ! そういうことにしといてあげるわっ!」


 ──という会話をしているうちに、教皇を乗せたチャリオットが近づいてきた。

 距離にして、およそ10メートル程度。


 俺たちの周囲にいる群衆が、一斉に湧き上がる。


「教皇さまああああああっ!」

「うおおおおおおおっ!」

「教皇聖下、万歳!」

「シャルロット様、可愛いです!」


 教皇は群衆の声に耳を傾け、微笑しながら手のひらを沿道に向ける。

 一方のシャルロットさんは、弾ける笑顔をして大きく手を振った。


 ──が、突如としてシャルロットさんの雰囲気が変わった。

 杖を槍のように構えて半身になり、教皇を守るようにして構える。


 その直後、俺は感じた。

 《アサシン》と思われる10人もの男たち──恐らく教皇側とは別口──が気配遮断を解き、教皇に躍りかかろうとする気配を。


 どうして今まで、別口の《アサシン》の存在を感知できなかったのか。


「ちっ──!」


 俺は教皇とシャルロットさんを守るべく、剣を抜いて道路に出た。



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【新作短編】
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