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第52話 国王との公開食事

「答えろ。レティシア、クロード。なぜ貴様たちが国王陛下と食事を共にしている!?」


 国王やルイーズ王女と昼食を取る段になって、リシャールが俺たちに近寄ってきた。

 王族による公開食事を見物していた貴族たちは、そんなリシャールの行為に驚きを隠せずにいる。

 そしてリシャールの取り巻きである女マリーもまた、彼の行為に困惑している様子だった。


 いきり立っているリシャールに対し、レティシアは着席しながら冷静に答える。


「私は公爵の娘ですから、説明は不要ですね──クロードとエレーヌについては、人柄と実力が認められたのですよ」


 レティシアは立ち上がってエレーヌの肩に手を置き、リシャールに指し示すようにして説明する。

 エレーヌは「そんなっ……」と謙遜し、伏し目がちとなった。


 今になって俺は、リシャールとエレーヌにはなんの接点もなかったことを思い出す。

 婚約を解消されたレティシアや剣を交えた俺とは違い、エレーヌは一切関わりを持っていないのだ。

 だからレティシアはリシャールに、エレーヌを紹介したのだろう。


「はあ? そのグズ女はレティシア、お前の取り巻きじゃなかったのか!? 陛下に認められたってどういうことだよ!」

「あなたが知る必要はありません。ですがあなたが思っている以上に、エレーヌは私にとって大切な人です。次に『グズ』や『取り巻き』などと口にしたら、容赦しませんからね?」

「ちっ……! ──シャルル伯父さん、レティシアが僕を脅してきます! 助けてください!」


 リシャールは慌てた様子で、椅子に座っているシャルル伯父さん──国王陛下に跪く。

 陛下はそんな彼を、鬱陶しそうに見ていた。


「我が甥だからっていい気にならないことだ。ただでさえ、レティシアとの婚約を身勝手な理由で破棄したのだ。貴様の評価は地に落ちていると知れ。これ以上恥を上塗りするような真似はするな」

「くそっ……!」


 国王陛下とその甥であるリシャールには、ピリついた雰囲気が漂っている。

 そんな彼らを見て、王族の公開食事を見に来た人々はざわつき始めた。

 そしてマリーはリシャールの腕を掴み、こう真剣な表情で言った。


「もう行きましょう。このままここに居続けても、周りのご迷惑になるだけです」

「くっ!」


 マリーは「お騒がせいたしました」と一礼し、リシャールを連れてダイニングルームを出る。

 俺は彼らが退散してくれて、正直ホッとしている。


 その直後、料理を持ったメイドが現れた。


「こちらは前菜、白身魚のマリネでございます」

「ありがとうございます」


 メイドたちによって、俺たちのもとに前菜が届けられる。


 彼女たちはパーラーメイドと呼ばれる使用人で、給仕・来客取次・接客を担当する。

 使用人の中で最も矢面に立つ存在と言っても過言ではなく、美人や美少女が選ばれるとレティシアから教えてもらった。


 その証拠に国王陛下は、メイドに対して鼻の下を伸ばしていた。

 やはり陛下も王である前に、一人の男であるということだろう。


「あっ、クロード。もしかしてメイドにデレデレしちゃった?」

「いえ、俺はあまりそういうのはよく分かりません」


 ルイーズ王女が冗談めかして質問してきたので、俺は冷静に返す。

 すると彼女はとても意外そうな表情をした。


「ふ、ふ~ん……なんか拍子抜けしちゃうわね。レティシアとかエレーヌとか侍らせてるから、てっきり女好きなのかと思った」

「そう思いますよね~。でもクロードは本当に鉄心を持っているといいますか、とにかく女性には見向きもしないんです~」

「は、はいっ! ──ガツガツしてなくていいとは思うんですが……でも、もうちょっと構ってほしいな……」


 ルイーズ王女の発言に対し、レティシアとエレーヌがいち早く反応する。


 レティシアは満面の笑みでルイーズ王女に答えた後、俺の顔をじっと見つめる。

 一方のエレーヌはボソボソと話しており、あまりよく聞こえなかった。


 俺はなんだか嫌な予感がしたので、国王陛下に目配せをする。

 陛下は察してくれたのか、高らかに笑った。


「ははは、結構結構。ではそろそろ食べようか」

「はい、いただきます!」


 俺は前菜である白身魚のマリネを食べる。

 ──うむ、レモンの酸味が効いていておいしい。


 ちなみに俺とエレーヌは、料理やテーブルマナーの知識について、レティシアやローラン公爵家の使用人からある程度教わっている。

 公爵家の別宅に住まわせてもらう話が決定してから、俺とエレーヌが教授をお願いしたのだ。

 なので、恥をかくことはないと思われる。


 エレーヌも、とてもおいしそうにマリネを食べていた。


「わあっ、お魚おいしいですね!」

「ありがとう──私が作ったわけじゃないんだけど、そういう反応はとても嬉しいわ」


 エレーヌの素直な感想を受けて、ルイーズ王女は微笑む。

 一方、レティシア・ルイーズ王女・国王陛下は、綺麗な所作で白身魚を食べていた。



◇ ◇ ◇



 その後俺たちは世間話をしながら、コース料理を堪能した。

 前菜のあとスープ・魚料理を食べ、口直しにオレンジのシャーベットを食べた。

 ちなみにシャーベットは、水属性魔術を得意とする宮廷魔術師が丹精込めて作ったものらしい。


 出された料理はどれもおいしく、流石は宮廷料理だと思い知らされた。

 確かにこれだけおいしくて豪華であれば臣下だけでなく、来客・国賓に対しても権威を示せるだろう。


 そしてついに、メインの肉料理──牛肉の赤ワイン煮込みが給仕される。

 俺はナイフとフォークを使い、それを口にする。


 やっぱりガッツリした肉料理はおいしい。

 それに肉が柔らかく、赤ワインの風味も感じられる。


 ルイーズ王女は俺たちが食べている様子を、まじまじと見ていた。


「それにしてもクロード、エレーヌ。さっきから思ってたんだけど、テーブルマナーがしっかりしているのね。誤解させてしまったら申し訳ないけど、あなた達はもともと平民だったんでしょう?」

「レティシアさまに優しく教えてもらったんです──レティシアさま、ありがとうございます」

「いえいえ、そう言っていただけて嬉しいです」


 エレーヌは嬉しそうにルイーズ王女に返事した後、レティシアに向けて感謝の意を表する。

 するとレティシアもまた、嬉しそうに笑みをたたえていた。

 ちなみにエレーヌがレティシアに敬語を使う理由は、この公開食事が公式の場だからである。


 国王陛下は安堵の表情を浮かべつつ、こう言った。


「ふむ……これなら王国武闘会の後のパーティでも、恥をかくことはないだろう」

「パーティ……ですか」

「ああ。ベスト16の選手とその従者、そして王侯貴族が集うパーティだ。もちろん私も出席する予定だ」


 大会の後のパーティか……

 選手たちは対戦相手だった人たちと話せる機会を得られる、ということだろう。

 そして貴族たちにも、選手を引き抜いたり取引を持ちかけたりする、という狙いがあると思われる。


 なかなか面白そうではあると、国王陛下の説明を聞いて俺は思った。


「ルイーズとクロードは武闘会に出場するそうだが、レティシアはどうなのだ?」

「私は出場します。打倒リシャール様、そして打倒クロードを目標にしています」


 レティシアの発言を聞いたら、リシャール本人が激怒しそうだなと俺は思った。

 俺が勝負を挑んだ時、リシャールは「絶対に後悔させてやる!」とすごい剣幕で怒鳴っていたので、間違いない。


 ちなみに俺は、レティシアに名指しされても怒りは感じない。

 むしろ「俺を目標にしてくれて嬉しい」とさえ思えるほどだ。


 国王陛下はレティシアの言葉を受け、少しばかり複雑な表情をした。


「そうか──いや、本当に頑張ってほしい。つい最近まで負けなしだったリシャールには、挫折が必要だ──エレーヌは出場するのか?」

「えっと……わたしはみんなのことを応援します……わたし、クロードくんやレティシアさまと戦うのは少し抵抗があって……」

「うむ、その選択もありだな。どうか、仲間を気遣うその気持ちを忘れないで欲しい」

「は、はいっ! ありがとうございますっ……!」


 国王陛下の言葉に、エレーヌはおどおどしつつも感謝の意を表明する。

 そして気恥ずかしさを紛らわせるためか、ナイフを必死に前後させて肉を切り、一口頬張って「おいしい……」と感想を漏らしていた。


 俺はエレーヌの様子を見て、少し微笑ましく思った。



◇ ◇ ◇



「ごちそうさまでした」


 そしてしばらく会話は続き、メインディッシュのみならずデザートも食べ終えた。

 これにて、王族による公開食事はお開きだ。


 国王陛下は立ち上がり、ダイニングルームにいる貴族や騎士たちに宣言した。


「皆。クロードとエレーヌは、ローラン公爵とその娘たるレティシアが、特に目をかけている騎士だ。そして国王たる私や王女ルイーズもまた、彼らを気にかけている。ゆめ、そのことを忘れるな!」

「はっ、かしこまりました!」

「ルイーズ・レティシア・クロードの三名は、次の王国武闘会に出場する。クロードは《剣聖》と《聖女》の息子にして、ルイーズの剣術師範。レティシアは公爵の娘にして、クロードのパトロン。王女ルイーズは言うに及ばず──次回の武闘会は間違いなく、過去最高の激戦となることだろう。刮目して見るがいい!」

「はっ!」


 貴族たちは国王陛下の言葉を受け、一斉に頭を下げる。

 俺としては陛下や貴族たちの言動には少し驚いているが、王族に気にかけてもらえたのはとても嬉しかった。


 国王陛下とルイーズ王女は改まった表情をして、俺たちに伝える。


「ではレティシア・クロード・エレーヌ。これからの活躍に期待している」

「みんな、がんばってね──特にクロード、武闘会では絶対に勝ってやるんだから!」

「はい、俺もルイーズ王女との真剣勝負を楽しみにしています」

「本日はありがとうございました!」


 俺・エレーヌ・レティシアは、国王陛下とルイーズ王女に頭を下げる。

 そして貴族やメイドたちに見送られながら、ダイニングルームを後にした。



◇ ◇ ◇



 そしてそれから約3週間後……

 ついに俺たちが待ち望んだ、王国武闘会の予選当日となった。


 俺は王国最強の冒険者に、そしていつしか世界最強に至るため。

 レティシアは、元婚約者への雪辱を果たすため。

 ルイーズ王女は、今まで後塵を拝していた《剣聖》を倒すため。

 そしてエレーヌは、そんな俺たちをサポートするため。


 俺たちはそれぞれの思いを胸に、予選会場である平原に集結していた。


いつも応援してくださりありがとうございます。

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◇ ◇ ◇



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