第35話 金銀財宝と文化財
俺たちは慎重に、数百メートルもある橋を渡る。
向こう岸まで渡り終えたが、新たな敵が現れたりトラップにはめられたりすることはなかった。
俺たちの目の前には、黄金に輝く扉がある。
今までこのダンジョンを探索してきたが、このような扉を見るのは初めてだ。
「開けるぞ……」
俺は扉をゆっくりと開け、中に入る。
やや広めの部屋には、大量の麻袋に詰め込まれた金銀財宝があった。
「うおおおおおおおおおおっ!」
「これ、私達で山分けしたとしてもかなりの額になるんじゃない!?」
冒険者たちは湧き上がる。
俺も、彼らとは同じ気持ちだ。
だが俺は頭を落ち着かせ、罠感知の魔術を用いる。
「見たところ罠はなさそうだが、念の為に注意して調査するように」
「おうっ!」
冒険者たちは部屋の中で散り散りになる。
俺・エレーヌ・レティシアさんは部屋の奥の方へ進む。
そこにはやや大きめの本棚があり、大量の本が収納されていた。
俺はそのうちの一冊を取り出すが、古代文字で書かれているのか内容がさっぱり分からない。
「レティシアさん、これはどう思いますか?」
「魔術学の論文のようですね……学者に解読をお願いしましょう」
俺たちは書物を袋に詰める。
これをギルド経由で学者に提供することで、歴史的な発見が得られることだろう。
袋詰が終わった後、俺は細長い箱を見つける。
蓋を開けると、そこには黒いローブを着せられたミイラが入っていた。
これは死体が入った棺だったのだ。
エレーヌが俺に、何かを期待するような表情をしながら問うてきた。
「クロードくん、なにか見つかった?」
「ミイラだ。あまり見ないほうがいいぞ」
「う……そうだね」
エレーヌは冒険者だ。
当然魔物の死体などは見慣れているはずだ。
だがそれでも、死体を見て平然としていられるとは限らない。
「できれば見たくない」と思うほうが普通だと、俺は思っている。
だから俺はエレーヌに「見ないほうがいい」と忠告した。
彼女がそれを聞き入れてくれて、俺は少し安心している。
その後、俺たち冒険者は部屋の調査を終え、ギルドに持ち帰る品々を選定した。
持ちきれなかった分は、次回に来た時に運べばいい。
ちなみにこの部屋の先に、新たな道や階段はなかった。
ここが最奥部ということで間違いないだろう。
大量の金銀財宝や書物を持った冒険者を見据え、俺は指示する。
「よし、地上に戻ろう!」
「おうっ!」
俺たちは意気揚々と、来た道を引き返した。
◇ ◇ ◇
街に戻ってきたとき、すでに空は真っ暗だった。
今日は1日がかりでの攻略となったのだ。
城門をくぐり抜けると、そこには大勢の冒険者や街の住民がいた。
彼らは、俺たち20人の精鋭冒険者を出迎えてくれた。
「その荷物……その様子じゃダンジョンを完全に攻略したようだな!」
「おめでとうございます! そして魔物を倒してくれてありがとうございました!」
「手柄を取られて悔しいけど……でも俺は祝福するぜ!」
街には燭光と月光しか、周囲を照らすものはない。
だが街の人々の笑顔はとても眩しく、歓迎の声はとても嬉しかった。
俺たちは「ありがとう」と、手を振って声に応える。
その足でギルドホールに向かった。
ギルドホール前には大勢の職員たちが待ち受けていた。
その中には俺やエレーヌ、そして勇者パーティを担当してくれていた女性職員もいた。
彼女は俺たちのもとに駆け寄ってきた。
「クロードさん、それに皆さん! ダンジョン攻略をされたようですね! おめでとうございます!」
「ありがとうございます。おかげさまで完全攻略できました」
「代表者数人に来ていただいて、ギルドマスターに報告していただきたいのですが……お願いできませんでしょうか?」
代表者数人、か。
今回の攻略で貢献したのは誰かを、俺は冷静に検討する。
聖剣の担い手たる俺は今回の任務において、ギルドマスターから主戦力扱いされていたため、出席する義務が生じるだろう。
エレーヌは俺のアシスト込みではあるが、ダンジョン最奥部のドラゴンを消し飛ばした。
レティシアさんはそのエレーヌをドラゴンの攻撃から守ってくれたため、作戦にはかなり寄与している。
ガブリエルは道中で《勇者》としての戦闘能力を遺憾なく発揮し、ジャンヌも《聖女》として俺とともに冒険者を癒してきた。
よし、決めた。
俺はエレーヌ・レティシア・ガブリエル・ジャンヌの4名を呼び寄せた。
「ク、クロード……本当に俺たちも行っていいのか……?」
「ガブリエルさんならともかく、私は戦闘にはほとんど参加できていなかったのですが……」
ガブリエルやジャンヌはとても意外そうな表情をしていた。
一人でグリムリーパーを倒した俺や、強力な魔術でドラゴンを倒したエレーヌと比べれば、そういう反応をするのも無理はないかもしれないが……
「謙遜する必要はない。君たちは本当によくやってくれた。ガブリエルは前衛として魔物を倒してくれたし、ジャンヌがいなければ回復も追いつかなかったと思う──ありがとう」
「わ、分かったよ……そういうことにしといてやる!」
「こちらこそ……ありがとうございますっ!」
俺は今までともに協力してくれた冒険者たちに「行ってくる」と声をかける。
彼らからは「いってらっしゃい!」「がんばってね!」「俺の勇姿もちゃんと報告しといてくれよな!」との返事をいただいた。
◇ ◇ ◇
「──以上、報告を終わります」
ギルドマスターの執務室にて……
俺たち5人は今日のダンジョン攻略について報告を終えた。
グリムリーパーやダンジョン最奥部に潜んでいたドラゴンの討伐。
ダンジョン内の金銀財宝や書物等の文化財の回収。
それらをかいつまんで説明した。
「『グリムリーパーを倒してこい』と言ったが、まさかソロで仕留めるとは……長年冒険者をやってきたが、伝承に出てくるような魔物を一人で倒す奴は初めてだ」
筋骨隆々のギルドマスターは俺の功績について、とても驚いている様子だった。
「よし、クロード! ソロでのグリムリーパー討伐と、全体の指揮を執ったということで、貢献度Aとしておこう。報酬は弾ませてもらう」
「ありがとうございます」
ギルドマスターは高らかに宣言してくれた。
報酬については、ダンジョンから持ち帰った多数の品々をギルド側が鑑定しているところなので、明日にでも支払われるそうだ。
その後、ギルドマスターは各人に貢献度を伝える。
ドラゴンに止めを刺したエレーヌはA、エレーヌを守ったレティシアさんはB。
道中で活躍したガブリエル・ジャンヌはB。
その他の冒険者については、最終的に離脱した階層によってC〜Eと認定されるそうだ。
「──報酬の分配については以上だ。で、クロードに話があるんだが……明日の朝、教会に行って大司教と話をしてくるように。お前を高位の聖職者として迎え入れたいとのことだ」
「大司教……」
ギルドマスターの言葉に、俺は驚きを隠せない。
大司教──それは聖職者の中でも特に位が高い職階だ。
なにせ、レティシアさんの父親が治める公爵領に存在する、すべての教会を統治しているのだから。
大都市から小さな村まで、大司教区に内包されるありとあらゆる教会に影響力を及ぼす。
それが大司教というものだ。
まさかそのような身分の人間に、名指しで呼び出されるとは……
「先に言っておくが、この呼び出しに関しては拒否権はない」
「分かりました。明日の朝、教会に伺います」
大司教の狙いは不明だが、まずは話を聞くべきだ。
俺はギルドマスターに返事をし、執務室から立ち去った。
エレーヌとレティシアさんとともに……




