第33話 ドラゴン探索
「クロードくん、無事だったんだね!」
「皆さん、クロードが戻ってきましたよ!」
グリムリーパーを倒した直後に、ドラゴンと思われる咆哮を耳にした俺。
俺が冒険者たちのもとへ引き返すと、エレーヌとレティシアさんが早速出迎えてくれた。
良かった、みんなは無事みたいだ。
突如、エレーヌが涙を浮かべながら、勢いよく抱きついてきた。
甘い香りと体温を感じてしまうし、みんなの前だから恥ずかしいのだが……
「クロードくん! グリムリーパーは倒したの!?」
「倒したよ」
「よかったあ……無事に倒せたんだね……」
本当は思ったよりも苦戦してしまったのだが、俺はたった一言で済ませる。
余計な心配をかけたくないからだ。
──それにしても、エレーヌがなかなか離れてくれない。
今はドラゴンの鳴き声が聞こえてきたばかりで、緊急事態だ。
心細い気持ちで俺の帰りを待ってくれていたエレーヌを、俺は「よしよし……」と優しく撫でる。
そして彼女の両脇を掴み、「高い高い」の要領で持ち上げた後、少し離れた場所に優しく着地させた。
エレーヌが「むー……」と唸ってきて心苦しかったが、今は感動の再開を喜んでいる場合ではない。
「クロード、あの鳴き声は恐らくドラゴンです。いかがなさいますか?」
レティシアさんは恐れの表情を見せることなく、淡々と質問してきた。
ギルドマスターからの指示は、「グリムリーパーの討伐」と「ダンジョンの完全攻略」だ。
今のダンジョンは昨日の市街戦によってかなり手薄になっているが、この機会を逃せば魔物はいつの間にか大量繁殖していることだろう。
この先で待ち受けているであろうドラゴンは、戦闘能力や生命力が非常に高いとされている。
だが一方で、グリムリーパーほど特殊で厄介な逸話を持つ個体は、実はそれほどいない。
俺はレティシアさんと、そして冒険者達に呼びかける。
「このまま奥まで行きます」
「マ、マジかよ……でも、クロードがいるなら大丈夫だな!」
「だってグリムリーパーを一人で倒したんだし、聖剣も持ってるのよ!」
「それに、彼の回復魔術は一級品だ! これだけの冒険者が揃ってるんだ、絶対に勝てる!」
冒険者たちが俺の実力を認めてくれている。
《剣聖》である父親から剣術を学んだにもかかわらず、最弱職の《回復術師》に選ばれてバカにされてきた俺にとっては、とても嬉しいことだ。
だが、ここで慢心する俺ではない。
それに、冒険者たちの慢心を取り除くのも、俺の役目だ。
《回復術師》は後衛を務める天職。
参謀や指揮官として物事を俯瞰するのも仕事の内だ。
「みんな、油断は禁物だ。俺が引き返すように言ったら、絶対に引き返してくれ。逆に、勝手に逃げないで欲しい──俺が全体の指揮を執るから従ってくれ」
「わ、分かった……」
「よろしく頼むわ!」
俺たち冒険者はグリムリーパーの部屋を通り抜け、その奥にある階段を下る。
ここから先は地下5階、俺やガブリエルを含めて誰も到達したことがない場所だ。
長い階段を下る。
ここに来るまでに俺たちは何度か階段を下ってきたが、どの階段よりも長かった。
階段を完全に下り終わった後、魔術を使って前方を強く照らし出す。
そこはだだっ広い部屋で、天井が他の階層よりも比較的高い。
数百メートル先には黄金に輝く扉があり、それを隔てるかのように大きな湖があった。
湖には、幅が約5メートルの石橋がかかっており、このまま進むのは可能だが……
「よし、まずは俺が橋を渡る。みんなは岸で待機していてくれ」
俺の呼びかけに対し、冒険者たちは不安そうな表情をしながらも押し黙った。
俺は深呼吸をし、聖剣を構えながらゆっくり進む。
石橋に足を踏み入れる。
足音を極限まで小さくして、中に潜んでいるであろう魔物に感づかれないようにする。
水面を確認する。
不自然なほど、一切揺らいでいない。
橋を50メートル程度進んだあたりで、一度立ち止まる。
心臓の鼓動が鳴り止まない。
後ろを振り返る。
──よし、いざとなれば走って戻れる。
俺はポケットからダガーを取り出し、指を軽く切って血を塗りたくる。
血の匂いでいっぱいのダガーを、数十メートル先の水面に勢いよく投げ入れた。
「──ギシャアアアアアアアッ!」
ダガーが着水したと同時に、水面が荒れ狂った。
着水地点からは勢いよくドラゴンの首が現れ、俺をにらみつけてくる。
このドラゴンは胴が長く、全身を鱗で覆われている。
外見はウミヘビなどに似ており、ドラゴンの中でも水泳に特化したタイプだろう。
俺はドラゴンを視界に入れながら、全力で後ろに下がる。
ドラゴンは逃げる俺を見て、首を伸ばしてきた。
「ちっ!」
間一髪だった。
もう少し俺の足が遅ければ、右脚を食われていたに違いない。
俺はなんとか、冒険者のみんながいる岸まで逃げおおせた。
彼らは口々に「大丈夫か!?」「これからどうするんだ!?」などと、不安を口にしている。
「魔術師と弓使いは攻撃の準備! タイミングはこちらで指示する! 前衛職は岸辺で守りに徹してくれ!」
「おうっ!」
俺たち冒険者は、戦闘態勢に入った。




