第29話 ブリーフィング
夜のギルドホール。
通常ならば営業時間はとっくに終了しているが、今は多くの冒険者達で埋め尽くされている。
先程の魔物の大量出現について、ギルドからアナウンスがあるとのことだ。
俺とガブリエルはこれに先立ち、ダンジョンで何が起こったかをギルド側に報告している。
壇上には、筋骨隆々の中年の男が立っている。
彼はこの街のギルドマスターである。
「先程、ダンジョンなどから大量の魔物が街に押し寄せてきた。城壁を越えてやってきた魔物は、みんなの手ですでに討伐されている。城壁を越えられなかった魔物も、住処に帰っていったようだ」
ギルドマスターの状況報告により、冒険者たちは「うおおおおおおっ!」と湧き上がる。
だがマスターは身振り手振りで、冒険者を静かにさせる。
「ダンジョンは今現在、手薄だと思われる。さらなる攻撃を防ぐためにも、みんなには明日の朝から集団でダンジョン攻略を行ってもらいたい」
冒険者たちは一様に「マジかよ……」「ダンジョンにはグリムリーパーがいるらしいぞ……大丈夫なのか?」と、マスターの要請についてあまり良く思っていない様子だった。
だが俺は、《呪いの鎌》を持つグリムリーパーを倒すことができる。
その根拠は、先程追体験したガブリエルの戦闘経験だ。
「グリムリーパーへの対抗策はすでに用意してある──クロード、壇上に上がってくれ」
ギルドマスターの指示で俺は登壇し、マスターの隣に立つ。
彼とはすでに、色々と打ち合わせていたのだ。
「あれは……《回復術師》クロード!」
「あの回復ビジネスの子だわ!」
「マジかよ……あいつにグリムリーパーをやれるっていうのか……?」
「あいつ、確かに強かったけど……でもグリムリーパーは流石に……」
「いえ……彼は後方支援役として、傷ついたり呪いを受けたりした冒険者を癒す──そういうことでしょ?」
俺が壇上に上がったことで、冒険者が湧き上がる。
回復ビジネスが功を奏したのか、俺の名前を知らない者はほとんどいないほどの有名人となったようだ。
戦闘能力についてはまだまだ信じてもらえていなさそうだが、回復魔術に関しては信用されていると見て間違いない。
ギルドマスターは「静かに」と手を叩いて場を静まらせる。
そして説明を始めた。
「このクロードには、グリムリーパーに呪われた冒険者を完治させた、という実績がある」
マスターの言葉に、冒険者達がざわめき出す。
「あの呪いは絶対に解呪できないって、言い伝えられてたぞ!」
「不可能を可能にする男──そういうことか」
「やっぱりクロードは後方支援なのね」
そう、あの呪いは《聖女》ジャンヌですら癒せなかった。
走って逃げながらの魔術行使だったので、恐らく精神状態がアンバランスだったのだろう。
だが理由はどうあれ、不可能とされてきた解呪を俺がやってのけたのは事実だ。
マスターは説明を続ける。
「だがそれだけではない。クロードは聖剣に選ばれたのだ──いや、『選ばれてしまった』というべきか……」
「嘘……だろ……! 《勇者》だけが聖剣を使えるんじゃなかったのか!?」
「クロードは実は《勇者》だったってことか」
「いえ、《勇者》に魔術は使えないから、それはないと思うわ。彼は《回復術師》でありながら聖剣の担い手なのよ!」
「もしそれが本当ならすごいじゃん!」
「あいつは《回復術師》なのに、この俺を負かしたんだからな……確かに戦闘能力はピカイチだった……もしかしたらいけるかも!」
マスターも冒険者達も「信じられない」と言わんばかりの表情をしていた。
が、だんだんと好意的に見られるようになっていった。
まだ聖剣の力を限界まで解放していないので、どこまで使いこなせるかは不明だ。
だが不適格者が聖剣を握った場合、電流が流れてとても持っていられないという。
俺は先程聖剣を使って魔物を屠ることができたため、ある程度は使いこなせるはずだ。
「冒険者のみんなには、ダンジョンの深部まで攻略してもらう。そしてグリムリーパーをクロードに倒してもらう。そしてもし可能であれば、その先も攻略してもらいたい──いいな!」
「おう!」
「明日こそは完全攻略してやるぜ!」
「クロード、グリムリーパーのもとまで連れてってあげるから、頑張ってね!」
この後、マスターから作戦についてのブリーフィングが行われた後、ミーティングは終了した。
◇ ◇ ◇
「クロード、エレーヌ。今日は私の屋敷で泊まっていきませんか?」
ギルドホールから出た俺たち。
レティシアさんは俺とエレーヌに、素敵な提案をしてくれた。
明日は重要な仕事なので、快適な環境で寝られるのはありがたい。
それに今は夜なので、レティシアさん一人で帰らせるわけにもいかない。
俺がそう思う一方で、エレーヌはとても遠慮しがちにしている。
「い、いいんですか……!?」
「はい。夕食も用意してもらいますし、今日はゆっくりしていってください。明日は大仕事があるのですから、英気を養ってもらわないと……」
俺とエレーヌは「ありがとうございます!」と、レティシアさんに礼を言う。
レティシアさんはもてなす側ではあるが、とても嬉しそうにしていた。




