第27話 共闘
もう日が沈みかかっている頃……
街の上空には、翼を持った数十もの魔物が押し寄せていた。
タカやワシ、洞窟に住むとされている油夜鷹やコウモリ……
街中で相手をするには厳しい敵だ。
俺はまず、コウモリの超音波を無効化するための白魔術を用いる。
これで最悪の事態は防げるはずだ。
その上で、俺は近くにいる冒険者たちに呼びかける。
「魔術師・飛び道具使いは上空に向けて攻撃! それ以外の者たちは上空からの攻撃に備えつつ、住民たちに建物への避難を呼びかけてくれ!」
「おうっ!」
冒険者達が勝手に攻撃を始めて混乱する前に、俺は指示を出した。
どうやらそれは功を奏したようで、今のところはみんな冷静に対処してくれている。
白兵戦を得意とする冒険者は、その瞬発力を利用して散り散りとなる。
一方の魔術師たちは上空を見据え、手を天高く掲げて黒魔術を放つ。
《弓兵》は上空に矢を放ち、飛び道具を得意とする冒険者はダガーや針を投げ始める。
落下物の心配はあるものの、今はそんなことを気にしていられる余裕はない。
「《水よ!》」
「《光よ!》」
《賢者》エレーヌと《聖女》ジャンヌは、上空に向けて魔術を放つ。
無数に放たれた氷の矢と光の矢が、鳥の魔物の翼を貫いていく。
撃ち落とされたタカやワシは、まだ死んでいない。
落下時のダメージを殺したあと、必死に立ち上がろうとしていた。
俺は猛禽類の集団に向けて、走り出す。
そして次々と聖剣で切り裂く。
「これが、聖剣──」
今まで使っていた剣とは、切れ味がまったく異なっていた。
魔物の骨すらも、バターのように切断してしまうのだ。
切れ味が良すぎて、斬りごたえがまったくないと感じてしまうレベルだ。
これではあまり、剣術の醍醐味が味わえない。
聖剣は緊急時以外、なるべく使わないでおこう。
「なんで《勇者》じゃないのに聖剣が使えるんだ!?」と絡まれたくない、という理由もある。
「はああああっ!」
一方のガブリエルも、落下した魔物たちを屠っていた。
猛禽類たちの首を一つ一つ刎ね飛ばし、確実に命を刈り取っている。
流石は最強を誇る《勇者》、普通の剣でもそれなりに戦えている様子だ。
「はあっ!」
一方の《聖騎士》レティシアさんは、魔物たちを挑発して誘いをかけているようだ。
彼女のもとに、高速で落下してくる猛禽類やコウモリ。
それを一体ずつ剣で打ち返し、叩き落としている。
他の冒険者達も協力して魔物退治に当たっている。
この調子で行けば、上空からの攻撃は大丈夫そうだ──
「うわああああああああっ! クモとトカゲだ!」
冒険者たちの叫び声が聞こえてきたので、周囲を見やる。
暗くて見えにくいが、数十体もの巨大なグモやトカゲの魔物が城壁に張り付いていた。
奴らのように壁伝いに移動できる魔物にとって、城壁を突破することなど屁でもないのだ。
──トカゲ……マズいッ!
魔術で視力を強化した上で城壁の方を見やると、屋上には人型の石像がいくつもあった。
トカゲの魔物の上位個体は《石化の魔眼》を持っているとされ、文字通り人を石に変えてしまうのだ。
恐らく屋上にいるのは、城壁を守る兵士たちだったのだろう。
彼らが石化した以上、街の防衛の要ともいえる城壁がいつ崩されてもおかしくはない。
だが、まず石化の魔眼を使えるトカゲの魔物を一掃するべきだ。
そうでなければ、被害が街全体に及ぶ危険性がある。
「魔術師や飛び道具使いは、城壁に張り付いているトカゲを倒してくれ! 奴らは石化の魔眼が使えるから、放置すれば街中の人々が石にされてしまう!」
「任せろ!」
俺の指示で、魔術師や《弓兵》たちが一斉に城壁に向けて攻撃する。
トカゲはその攻撃を受けて死に絶え、巨大グモも巻き添えとなっていく。
魔術に関しては、城壁を破壊しないような配慮がなされているのか、まったく壊れる気配はない。
「ジャンヌ、城壁に入るぞ! 石化の呪いを解きに行く!」
「はい!」
《回復術師》と《聖女》、呪いを解けるのはこの2つの天職だけだ。
城門の近くにいた俺とジャンヌは、城壁内部に通じる通路に向かって走り出す。
「待ってください、クロード!」
「俺も行く! 前衛は必要だろうが!」
「後方支援はわたしに任せて!」
レティシアさん・ガブリエル・エレーヌは呼び止める。
彼らがいれば、ひとまずは急場はしのげるはずだ。
「分かった! ガブリエルは前衛、俺・エレーヌ・ジャンヌは中衛、レティシアさんは後衛として背中を守ってください!」
臨時のパーティメンバーたちは「はい!」と返事する。
即席のチームワークでどこまで行けるかは分からないが、何もしないよりはマシだ!
まず、ガブリエルが城壁内部に侵入する。
彼の目の前に巨大グモが立ちはだかったが、それを剣で一閃する。
水平斬り、袈裟斬り、逆袈裟斬り、振り下ろし──
ガブリエルの剣技によって、巨大グモはバラバラになった。
だが天井に潜んでいた別のクモが、彼に向けて糸を吐いた。
吐き出されるスピードとガブリエルの様子を察するに、このままでは彼は糸に捕らえられてしまう。
「しまっ──」
「《火よ!》」
エレーヌの火属性魔術が、夜中の街に煌めく。
放たれた炎の矢はクモの糸とぶつかり、糸は跡形もなく消滅した。
ついでにその炎はクモをも焼き払った。
「エレーヌ、すまん!」
「気をつけて! まだまだ来るよ!」
ガブリエルの感謝と謝罪に対し、エレーヌはさらなる注意を促す。
俺たちは周囲の魔物たちに気を配りつつ、前方を進む。
「──はあっ!」
後ろからは、レティシアさんの声が聞こえてきた。
彼女は今、俺たちの後方から迫りくる敵を引きつけ、屠っているところだ。
今見ている限りでは、背中は任せても問題はなさそうだ。
ふと窓の外を見てみると、そこには猛スピードで近づいてくるタカの魔物がいた。
このままではエレーヌやジャンヌが危ない。
そう判断した俺は一旦立ち止まり、タカを迎え撃つ体制に入る。
タカは窓をすり抜け、猛スピードでジャンヌに迫りくる。
俺はタカとジャンヌの間に割り込み、そしてタカを一刀両断した。
「た、助かりました!」
「エレーヌは外への攻撃、ジャンヌはガブリエルの援護だ!」
「はい!」
俺たちは魔物たちを退けながら、城壁内部を駆け回る。
兵士たちにかけられた石化の呪いを解くために──
呪いを解けるのは《聖女》ジャンヌと、そして《回復術師》である俺だけだ。




