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第19話 トラップ解除

 俺・エレーヌ・レティシアさんの三人は、ダンジョンの地下1階を探索している。

 といっても、勇者パーティ時代に何度も訪れた場所なので、いかに道が複雑であっても迷わず階段を見つけられるのだが。


 レティシアさんは階段をじっと見つめていた。


「ここを下れば、地下2階なのですね……」

「そうですね。出現する魔物はそれほど変わらないので、心配には及びません」


 レティシアさんは今日始めてダンジョンに潜ったのだ。

 新しい場所への興味と、そして恐怖が混在しているのだろう。


 俺たちは階段を降り、地下2階に到達した。

 そこは地下1階と雰囲気は変わらない。


「ギャーッ!」

「──来ました! 鳥が3体です!」


 前衛のレティシアさんは、後衛たる俺とエレーヌに呼びかける。

 油夜鷹(アブラヨタカ)の魔物が3体、こちらに向かって飛んでくる。


 油夜鷹は主に、洞窟に生息する鳥類だ。

 基本的に夜行性で、日中は洞窟やダンジョンで休息を取っている。


 猛スピードで迫りくる3体の鳥は、レティシアさんの横をすり抜ける。

 このままではエレーヌが危ない。


「《闇よ、重力で彼の者を押し潰せ》」

「ギャッ!」


 俺が詠唱するやいなや、油夜鷹たちは床に勢いよく叩きつけられた。

 重力制御魔術により、飛行できなくなっているのだ。


 レティシアさんはその隙に駆け寄り、3体の鳥を両手剣で叩き潰した。

 これで戦闘は終了だ。


 油夜鷹からくちばしや羽などを採取し、やるべきことは完了した。


「レティシアさん、ありがとうございました」

「いえ、クロードの魔術のおかげです──また、助けられてしまいましたね……」

「レティシアさんは仲間なんですから、助けるのは当然です」

「そう……ですよね。やはりいいですね、仲間は──」


 レティシアさんは何故か碧眼を潤ませ、感慨深そうにしている。

 一方、エレーヌが何故かジト目でこう言った。


「あのー、イイ感じのところ悪いんですけど、そろそろ行きましょー?」

「ああ、そうだな──エレーヌ、次はよろしく頼む。魔物が出てきたら魔術で吹き飛ばしてやってくれ」

「えっ……うん、ありがとう。わたし、がんばるね! えへへ……」


 エレーヌは先ほどと打って変わり、満面の笑顔で答えた。

 表情がコロコロ変わってとても可愛い。


 俺たちは気を取り直し、先を進んだ。



◇ ◇ ◇



 もうすでに冒険者たちによってマッピングされている場所であるため、行軍はスムーズにいった。

 人工の罠は全て非活性化されており、安全に進めるようになっている。


「シャーッ!」

「なっ!?」


 だが、魔物だけは例外だ。

 突如として目の前に巨大グモが3体が現れ、それぞれが糸を吐き出した。


 クモの奇襲により、レティシアさんも俺も対応しきれない。


「《火よ!》」


 だがエレーヌは魔術で炎の壁を作り、糸を全て燃やし尽くす。

 そしてその壁を前方に押し出すようにして、クモを焼き払う。


「ギャアアアアッ!」

「アアアアアアッ!」

「キシャーッ!」


 3体のうちの2体は焼死したが、うち1体は生き残っていた。

 おそらく耐火性に優れる外皮でもまとっていたのだろう。


 クモはカサカサと音を立てながら、レティシアさんに向かって突進してくる。


 だがレティシアさんは冷静に、剣を水平に一閃する。

 クモの前足は切断され、慣性によって勢いよく壁に叩きつけられる。


「ギャアアアアッ!」


 レティシアさんは剣で、クモを刺し穿った。

 彼女は「ふう……」と一息つき、クモを解体して素材を回収した。


 ──あれ? 俺、活躍できてないな。

 ま、まあ……俺の天職は《回復術師》だから、怪我人が発生しなければ仕事は自ずと少なくなる。

 そして怪我人が出ないことは、なによりも喜ぶべきことだ。


 思案していた俺を見て、エレーヌは唇に指を当てて首をかしげていた。


「クロードくん、どうしたの?」

「いや、なんでもないよ。あんまり活躍できなかったな……って思ってただけだ」


 さも気にしていないかのように、俺は笑顔で答える。

 するとエレーヌやレティシアさんは「なんだ、そういうこと……」と呟いた。


「今のところは大丈夫だよ。敵もそんなに強くないしね。それに、クロードくんは戦う人じゃなくて『癒す人』なんだよ?」

「そうです。私達が傷ついたとき、回復してくださればいいのです。適材適所、ですよ?」

「エレーヌ、レティシアさん……気遣ってくれてありがとうございます」


 俺はとても嬉しかった。


 俺を追放した《勇者》ガブリエルや他の冒険者なら、「一人で戦えないザコ」と罵っただろう。

 だがエレーヌやレティシアさんはそうではなく、《回復術師》という俺の天職をちゃんと理解してくれていたのだ。


 俺たちは気を取り直し、ダンジョンを進んだ。



◇ ◇ ◇



「いよいよ地下3階だね……」

「そうだな。ここから先は、まだ完全には攻略されていないエリアだ」

「そうなのですね……気を引き締めていかないと、ですね」


 俺たちは下へと続く階段を下りながら、そんな事を話していた。


 エレーヌは緊張し身震いしている様子で、レティシアさんは初めて行く場所に武者震いしている様子だ。

 一方の俺は、この三人でどこまで行けるか楽しみだという気持ちと、生きて帰りたいという気持ちが入り混じっている。


 階段を降りたあと、俺たちはしばらく歩く。

 そうしているうちに、今まで等間隔に設置されていた松明が、ある地点から途切れていることに気づいた。

 松明は冒険者ギルドなどによって設置されている。

 すなわち、ここから先は未開拓のエリアだということだ。


 エレーヌはこの光景を見て、ポツリとつぶやく。


「真っ暗だね……」

「そうですね──エレーヌは、暗いのは苦手ですか?」

「はい……そうなんです……怖くて怖くて……」

「大丈夫ですよ。私とクロードさんがいますから」

「そう……ですね。ありがとうございます。よろしくおねがいしますね……えへへ」


 エレーヌとレティシアさんのやりとりは、とても和やかに感じる。

 もう少し観察したいところではあったが、俺は魔術を用いて光源を発生させる。


 エレーヌはホッとしたのか溜息をついた。


「あ……明るくなった……クロードくん、ありがとう……」

「これで安心して進められそうですね。ありがとうございます」

「どういたしまして」


 エレーヌは目を潤ませながら、心底安心している様子だった。

 一方、レティシアさんは笑顔で礼を言ってくれた。


 視界を確保できた俺たちは、慎重に先へ進む。


 この先は未開拓地帯であり、どんな罠が仕掛けられているか分からない。

 なのでここは、ダンジョン初心者であるレティシアさんに代わり、俺が前衛となった。


 床を逐一確認し、スイッチや落とし穴が紛れ込んでいないかを確認する。

 天井を仰ぎ見、吊り天井やギロチンがないかをチェックする。


 当然チェックすべき項目はこれだけではない。

 これが、ダンジョン攻略の危険性だ。


「──っと……」


 石の床に、不自然に盛り上がっている部分があった。

 その部分の面積はかなり広く、避けて通ることはできない。


 立ち止まった俺に、レティシアさんは問う。


「なにかありましたか?」

「はい、スイッチです。近くに罠があるかもしれませんので、今から解除しますね」


 俺は白魔術を用い、スイッチやその周囲の構造を読み取る。

 スイッチからは魔術的なラインが流れており、その先には吊り天井が接続されていた。


 スイッチに魔力を注ぎ込み、ラインを切断する。

 試しに足で軽くスイッチを踏むが、何も起きなかった。


 やるべきことを終えた俺は、エレーヌとレティシアさんに呼びかける。


「さあ、行きましょう」

「さすがは《回復術師》……トラップ解除の白魔術も使いこなせるのですね……」

「《賢者》のわたしでも一応できますけど、クロードくんはやっぱり上手ですよ。勇者パーティにいたときも頼りにしていたんです」

「そうだったのですね……エレーヌがそういうのなら、本当にそうなのでしょう」

「えへへ……」


 後ろからは、仲の良さを感じられる会話が聞こえてくる。

 だが俺はひたすら、罠の探索と警戒を続けた。


 そしてしばらく歩き、曲がり角に差し掛かろうとしたとき──


「グラアッ!」


 曲がり角から突如、一体のゴブリンが飛び出してきた。

 ゴブリンは緑色の体をした、人形の魔物だ。


「ギャアアアアアアッ!」


 だが俺は冷静に、両手剣を振り払う。

 その斬撃はゴブリンの胴を真っ二つに斬り裂いた。


 俺はさらなる増援を予期し、エレーヌとレティシアさんに呼びかける。


「ゴブリンです! まだまだ出てきますよ!」

「はい!」


 ゴブリンは身体が小さく戦闘能力も低い。

 だが数が多いうえに狡猾であるため、チームワークを発揮して冒険者を追い詰めてくるはずだ。

 一体一体は大したことはないが、集団戦に持ち込まれればかなりの難敵である。


 大量に潜んでいるであろうゴブリンをどう処理するか。

 俺は必死に頭を働かせていた。


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【新作短編】
☆6000の王子さま ~読者にざまぁされたランキング作家は、幼馴染で義妹の美少女から勧められた『星の王子さま』を読んで「大切なこと」に気づいたようです~
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