表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人生は、小説よりも  作者: 聖沢 雅
39/53

初めて人を全力で殴った時の話

 幼少から決して温厚というわけでもなく、しばしば暴力を用いることがあった。とは言っても何ら鍛えていない素人の粗末な暴力である。成人してからは長いこと格闘技をしていたので、その頃には常に人間やその他を全力で殴っていた。


 けれども、生涯で初めて全力で人を殴った時のことは、今も脳裏に焼き付いている。




 タケシという奴は私の小学校からの友達で、彼は高校生になるくらいまで重度の肥満だった。タケシのおかげで、鈍い私はいつも駆けっこのビリから二番目でいられたものだ。頭が良いわけではないが人懐っこい奴で、どちらかと言えばいじめられる側の人間だった。


 何度となく私とタケシは同じクラスになった。中学の修学旅行もクラスどころではなく、寝泊まりは同じ部屋。誰のことが好きか言い合ったり卑猥な話をしたり、正しく十代という感じの数時間を過ごした。ちなみにそこで好きな女の子をただ一人発表した男気のあるケンタロウは即、本人にまでバラされ頭を抱えることになる。


 部屋のテレビを観ながら自由時間、どの班から風呂に入るか、などとぐだぐだやっていた。私はうつ伏せに寝転び、首を持ち上げて画面をぼんやり眺めていた。


 そこで突如、背中に凄まじい重さを感じ、私の胸郭は押し潰された。まったく呼吸が出来ない。時間にすれば数秒ほどだったろうか、しかし私の視界は暗転する。初めて味わう、死の恐怖であった。


 やっと何かが背中から離れ、私は激しい呼吸と共に意識を取り戻した。刹那、体を反転させ、私は背中にあったものを見上げる。


 そこに居たのはタケシだった。悪戯っぽい笑みを浮かべながら、私を見下ろしていた。


 あ、こいつが私を踏んでいたのか。


 それが理解出来たと同時、私の視界は完全に白けた。私はタケシを殴った。殴るどころの話ではなく、おそらくは数発、数十発、蹴ってもいたと思う。ここで曖昧な表現をするのは、その瞬間の記憶が無いからである。


 しばらくして、私の視界は元に戻る。何のことはなく、そこは修学旅行の部屋だった。ふと足元を見下ろすと、タケシが(うずくま)りながら、涙を溜め、如何にも恨めしいといった表情で私を見ていた。


 (こぶし)も足も痛かった。その事実をもって(ようや)く、タケシが倒れているのは私が殴ったからだ、という想像力を働かせることが出来た。


 当時「ストリートファイター」という格闘ゲームがあり、瞬獄殺(しゅんごくさつ)という必殺技があったのだけど、本当にあれと同じだった。視界が白け、次の瞬間に相手はもう倒れている。


 ちなみにタケシは当時、体重80kgを超えており柔道で黒帯を巻くほどに鍛えていたため、特にケガなどは無かったようだ。しかし、生物というのは生命が脅かされると凶暴になる、ということを思い知った一日であった。自分が怖かった。


 あとタケシは今なぜか知らんけど痩せてる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ