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人生は、小説よりも  作者: 聖沢 雅
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復讐はモヒカンで

 兄や姉、といった呼称で表される生き物は基本的に死滅すべきであろう。兎にも角にも世界に害悪を(もたら)す存在であるはずだから。それは何故か、と言えば私自身が長男、つまり弟と妹にとっての「兄」なのだ。


 ただ幾年か先に生まれ、体躯や知識に勝るからというだけで、兄はクソみたいな理不尽を下の者に押し付ける。具体的には物を取って来させる、ゲームのレベル上げをやらす等の小間使い、金を借りる、幼い故の間違えや拙さを(ことごと)(あげつら)ってはバカにするなど。


 兄と呼ばれたものは、どこまでも邪悪であった。


 ある時など私の部屋の絨毯(カーペット)の裏側に「兄のデブクソチンゲパル」と書かれているのを発見した。鉛筆で力一杯に殴り書いた筆跡はひどく乱れており、底知れぬ憤怒を感じさせた。(ちな)みに「デブ」「クソ」「チンゲ」はお分かりかと思うのだけれども、「パル」というのは当時のテレビ番組「英語であそぼ」に出演していた間抜け顔の着ぐるみキャラクターである。我が家に()いて、パルは蔑称として用いられた。


 そんなデブクソチンゲパルの悪行は次々と積み重なっていく。ある時など、私も弟も野球をしていたので自発的に頭を丸刈りにしていたのだが、弟を丸刈りにしてやると言った私は調髪器具(バリカン)で頭頂部だけを残して放置、「モヒカンモヒカン、おまえ今日からモッヒン」などとチンゲパルな罵倒を続け、(しま)いに泣かしていた。


 さて。数年が経ち、弟は自身がゲームをプレイする際の名を「モヒカン」と設定するようになっていた。どんなゲームも主人公は全てモヒカン。私と遊ぶ際のオンラインゲームでも、それは変わらなかった。現実に弟がモヒカンだったことはただの一度もない。


 20代半ばで独り暮らしを始めてからというもの、私は弟の偉大さを思い知らされていた。実家の電球交換や諸々の修繕、トラブルの解決全般は、全て弟の力に依るものであった。自分では何も出来ない現実が襲ってくる度、私は過去数々の愚行を悔いた。それらは全て、自己の責任として、私自身が経験しておかなければならぬものだった。


 そして今年2021年の5月、弟は故郷の市が主催したゲームのリアルタイムアタック(RTA)に優勝した。地方自治体より正式に表彰される運びとなったのだ。


 モヒカンの名で。


 私はどんどん年をとっていく。4歳若い弟は、きっと私よりも元気でいるだろう。盛者必衰、今度は老いた私のほうがモヒカンに刈られる時が来るのかも知れない。それは永遠に消えぬ復讐なのだ。


 まあその時に私がハゲてたらこの話終わりやけど。




 基本、うちは仲良しきょうだいです。今はね。

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